ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
大神ミオ
白上フブキ


第3節
少年は知らない


「フブキ先輩にゲームで勝ちたいです」

「はい?」

 

 とある昼下がり。半ドンの授業が終わった放課後。

 すこん部の部室の中で、俺はミオ先輩へそう切り出した。

 俺の言葉に、本から顔を上げたミオ先輩は、不思議そうに首を傾げる。急にどうしたと言わんばかりの態度。

 

「急にどうしたの?」

 

 口でも言われた。

 

「いえ。そろそろ一回位勝ってみたいなーと思いまして。センスも練習量も、フブキ先輩の足下にも及ばないのは自覚しているんですけど」

 

 それでも、オンライン対戦で勝ちこせるようになり、勝利の味という物を覚えてきたからか、負けても楽しいだけではなくなってきていた。ぐぬぬと、そんな事を思ってしまう。

 そんな俺の言葉に、栞を挟み、本を置いたミオ先輩は、腕を組む。

 

「まあ、最近実力もついているし、ワンチャンくらいはあると思うけど」

「それでもワンチャンなんですね」

 

 嘆くべきか喜ぶべきか。

 

「どうやったらそのワンチャンを拾えますかね?」

「フブキがミスをしたり、虚をついたりかな」

「成程」

 

 俺の操作キャラですら、俺より詳しいフブキ先輩である。出来る出来ないを問わなければ、技の引き出しはフブキ先輩の方が多いだろうし、それに対する策だって当然知っているだろう。

 以前対戦中に、三轍程して覚えた必殺のハメ技も、通用したのは最初の1回だけで、その後は初動を潰されてボコボコだった。

 何時の間に覚えたのー、とにこにこ顔で驚かれたが、勝ち星にはならずである。あれと同じことが出来ればもしかしたら今度は勝てるかもしれないが、あれ以降、初見技を見せても対応されるようになったから、無理かもしれない。

 

「かくなる上は対戦中に妨害するとか」

「どんなことするの?」

「……話しかけるとか?」

「今更じゃない?」

「……そうっすね」

 

 何なら向こうから話しかけてくる。

 

「やっぱりより一層の練習をするしかないですかね」

「勿論、それが一番いいけど……まあ、一回だけなら、絶対にフブキの虚を付ける魔法の言葉ならあるよ?」

「へ?」

 

 思いがけない言葉に、呆けた声が口から漏れる。

 そんな魔法のような言葉があるのかと、驚く俺に、ミオ先輩がその魔法の言葉を口にする。

 その内容に、俺は「おお」と納得するしかなかった。

 

「それは確かに。驚きそうですね」

「……反応薄くない?」

「……そ、そんな方法が⁉」

「そっちじゃないんだけどなー」

 

 私が間違えているのだろうかという反応を見せるミオ先輩に、はて、と首を傾げる俺。

 そんな俺の態度のせいか、ミオ先輩は溜息を漏らした。

 

「うーん……とりあえず、いいや。使うかどうかは任せるね」

「早速今日使います」

「……本当に言っているの?」

「はい」

 

 とりあえず勝ちたかった俺は、素直に首を縦に振る。

 すると、ミオ先輩はそそくさと荷物を纏め始めた。

 

「じゃあ、うち、帰るね」

「え?」

「フブキには、うちは急用が出来たって伝えておいて」

 

 纏めた荷物を手に、小走りに部室を後にするミオ先輩。

 

「お疲れさまでした」

 

 見えなくなった背にとりあえず声をかける。急にどうしたのだろうか。

 

 ***

 

「お疲れー……あれ? ミオは?」

「お疲れ様です、フブキ先輩。ミオ先輩は急用が出来たとのことです」

「そうなの?」

 

 ミオ先輩が立ち去って10分程経ってから、フブキ先輩は部室へと入ってきた。

 ゲームをしていた手を止め、フブキ先輩に頭を下げる。

 フブキ先輩は、ひらひらと手を振りながら、そのままいつもの席へ腰を下ろすと、鞄を開け、中から漫画を数冊取り出した。

 

「はいこれ。言っていたやつね」

「ありがとうございます」

 

 そのまま差し出された漫画を受け取る。

 最近アニメ化した作品の原作だ。フブキ先輩に勧められ、昨晩動画サイトで見てハマった口である。

 面白かったですと感想を送った所、今日原作を貸してくれる事と相成った。

 

「……」

 

 漫画をジッと見降ろす。

 早く読みたい。数冊あるし、1冊くらい、読んでもいいだろうか。

 いやでも。今日の目標は1勝である。ミオ先輩に教わった作戦を使うのなら、数戦こなしてフブキ先輩が油断しているタイミングがいい。

 俺の葛藤に気が付いたらしく、フブキ先輩が口を開く。

 

「読んでもいいよ? 私、他の事してるし」

「……いえ。漫画は家でも読めますから。フブキ先輩とゲームは……家でも出来ますね」

 

 オンライン対応は偉大だ。体力的な都合とか、やる事があったりで毎晩とはいかないが、それでも週の半分位は、フブキ先輩と通話しながらゲームはしている。

 

「でも、今はゲームがしたいです。お相手、願えますか?」

「そう。なら、いっちょ揉んであげようかな」

「今日は勝ちます。秘策もありますよ」

「そうなの? じゃあ、楽しみにしてようかな」

 

 あまり期待しないで欲しい所だ。

 俺は席を立ち、コントローラーの1つをフブキ先輩へ渡す。

 オーソドックスな対戦ゲーム。アイテム無し、段差無し、残機3つ。

 カウントダウンの後、対戦が始まる。

 開始直後、無言での戦い。カチャカチャとボタンを押す音とスティックを倒す音が響く。

 フブキ先輩が来るまでゲームをして手を温めていたにもかかわらず、態勢不利。気づけばコンボを受け、俺の残機が1つ減る。何とか、フブキ先輩の残機を減らすが、返しで俺の残機も減らされ。

 そのまま俺は残りの残機も削られ、1敗。

 

「ぐぬぬ」

「ふふーん。あれ? 秘策はどうするの?」

「これからですよ」

 

 2戦目、3戦目と、同条件での勝負が続き、その度に負けていく。

 やっているうちに警戒心が薄れてきたのか、フブキ先輩の口数が増えていく。

 

「そういえば、最近新しいゲーム買ったんだよ」

「そうなんですか? どんなゲームなんですか?」

 

 聞いた俺に、フブキ先輩は最近良く聞くゲームタイトルを言った。

 配信サイト等でも、良く実況されているのを見かける。

 

「最近よく聞きますね。配信も少し見ましたけど、凄く難しそうでした。良く死んでいましたし」

「難易度高いから、試行錯誤したり何度も死んだりして覚えたりするゲームだからね。君も結構好きだと思うよ」

「成程……」

 

 フブキ先輩の所感は良く当たるので、俺は好きになるだろう。ちょっとワクワクする。

 

「今度遊びに行ってもいいですか?」

「いいよ。次の休みとかでいい?」

「はい」

 

 そんな会話をしながら、上手くコンボを決め、フブキ先輩の操作キャラを撃墜する。

 

「おっと」

 

 無意識だったのだろう。そんな声が、フブキ先輩の口から漏れるのが聞こえ。

 お互い最後の残機というシチュエーションを前に、ゲームへ意識が向いたらしく、視界の隅で、フブキ先輩がやや前のめりになるのが見える。

 ダメージ的にはやや不利だが、畳みかけるならここか。

 ミオ先輩の教わった切り札を、此処で切る事に決めた。

 

「そういえば、フブキ先輩」

「何?」

「俺、彼女出来たんですよ」

 

 途端、顔の向きを変えられた。

 フブキ先輩と目が合う。

 

「誰?」

 

 興味本位のそれでは無かった。

 必死さの伝わる顔。感情が高ぶっているのか、瞳が潤んでいるのが分かる。

 その表情に、俺は言葉を失う。

 ──否。俺の言葉に驚いて、フブキ先輩が手を止めた隙に勝つ算段であり。

 勝ってから、冗談でしたと、それですませる腹積もりであったから、そもそも失う言葉等無いのだが。

 

「誰なの?」

 

 よもや、こんな顔を向けられるとは思っていなかった俺は、冗談ですと、それだけの言葉すら、口に出来ない。

 

「私の知っている子? シオンちゃんとかスバルちゃんとか」

 

 ちょっと考えれば、自分が彼女達とそういう関係になる事等、ありえないと分かりそうなものだが。

 予期せぬ俺の言葉に、頭が回っていないらしいフブキ先輩は、百鬼や天音先輩など、共通の知人の名前も挙げていき。

 やがて。

 

「ミオ……とか?」

 

 その名を口にした。

 思わず反応したのは、断じてそのような関係だからという訳では無く、俺に入れ知恵したのがその人だったから。

 ただ、俺の反応に気づいたフブキ先輩は目を丸くして、驚いて見せる。

 

「嘘……」

 

 呆然と一言呟き。その後は、何かを言おうとしているようだが、声になっていない。

 やがて、目を伏せたフブキ先輩の手から、力が抜ける。

 俺の顔を滑るように落ちる手を、俺は落ちきる寸前で、顔と挟むように止め、握った。

『GAME SET』と、軽快な声がモニターの方から聞こえてくる。

 

「すみません、嘘です。だから、泣かないで下さい」

「──うぇ?」

 

 ***

 

「ホント! 信じられない!」

「ごめんなさい」

 

 帰り道。俺は、自分とフブキ先輩の荷物を手に、フブキ先輩に怒られながら帰路についていた。

 俺の少し前をずんずん歩くフブキ先輩は、ぷんすかという擬音が似合いそうな位にお冠で、狐耳と尻尾をピンと立たせている。

 

「勝ちたいのは分かるけど、盤外戦術に頼るのは駄目だよ!」

「はい。もうしません」

「あたりまえだから! あと、私は泣いて無いからね!」

「はい。勘違いでした」

 

 瞳は潤んでいたが、涙を流していた訳ではない。

 何で泣いていると思ったのだろうか。我ながら謎である。

「それで?」と、振り返りながらフブキ先輩。

 

「入れ知恵した犯人は?」

「いません」

「そう? まあ、ミオの名前に反応した辺り、察しはつくけど」

「……」

 

 バレてる。

 

「何でもしますので、どうかここだけのお話にしてください」

「ん? 今何でもって」

「はい」

「お、おう」

 

 頷く俺に、後ろ向きに歩くフブキ先輩がたじろぐ。

 その後、誤魔化す様に咳ばらいを一つ。

 

「まあ、黒幕に関しては不問にしとくよ。実行犯の君には、その内何かして貰おうかな」

「分かりました」

「……ちなみに、その何でもってどれ位?」

「え? まあ、命に関わらない限りは特に。流石に全財産寄こせとか言われたら困っちゃいますけど」

「いや、流石に言わないけどね」

 

 そう言うと、フブキ先輩はやや言い淀んだ後。

 

「し、生涯年収の半分とか?」

 

 やや照れ顔をしながら、冗談混じりにそう言った。

 その言葉に、少し悩んでから言葉を返す。

 

「えーと……俺、バイトは不定期なので、年収と言われても。……分かりました。とりあえず、明日貯金の半分を下ろしてきますね。それで、今後のバイト代は折半すればいいですかね」

「ごめん。今のは私が悪かった」

 

 下ろさなくていいからと、フブキ先輩。

 僅かばかり赤らんだ顔をぱたぱたと仰ぎながら、フブキ先輩は再び振り返り、俺に背を向けながら話を続ける。

 

「次、遊びに来た時、ご飯でも作って? 食べたいものは、考えておくからさ」

「いつもやってますけど」

 

 俺がフブキ先輩の家に遊びに行ったら、いつもしている事だ。ミオ先輩に教えられがてらに作ることもあれば、ミオ先輩に用事があって出かけている時は、復習がてらに俺が食材を持って行き、作っている。俺の料理の目標はミオ先輩で、そんなミオ先輩の料理を一番食べているのはフブキ先輩だから、腕試しというのが近いか。

 俺の言葉に、フブキ先輩は、暫し無言。再度腕組み、悩み。振り返って、苦笑い。

 

「お願い事、考えとくね」

「お願いします」

 

 そんな話をしている内に、十字路へと差し掛かる。

 俺の家へは、此処で左折。フブキ先輩は直進なので、分かれ道だ。

 

「それじゃあ、後でね」

 

 部室でも散々したというのに。

 三度の飯よりゲームが好きな先輩は、今晩のオンラインプレイの約束を確認してくる。

 

「はい」

 

 元より断る意思も無く。頷き返せば、満足そうにフブキ先輩は頷き、踵を返し、小走りに駆けていく。

 その背を暫く見て、俺は歩いて帰ろうとした時、スマホが震え、着信を知らせた。

 取り出し、中身を見る。メッセンジャーアプリに、通知が一件。フブキ先輩からだった。

 

『駆け足』

「……」

 

 スマホから顔を上げ、フブキ先輩が走っていった方を見る。暫く行った所で足を止め、こちらを振り返っているフブキ先輩が居た。

 その場でリズミカルに足踏みしながら、笑顔で俺へ手を振る先輩へ、俺は手を振り返すと。

 スマホはポケットにしまい、軽く手足の運動を済ませて、言われた通りに走り出した。

 




*話挿入箇所変更の為、再投稿になります。

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