ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
紫咲シオン
角巻わため


朝の風景

 すいちゃんとの約束から一夜明け。

 カーテンの隙間から差し込んだ朝日が、真っ直ぐシオンの顔を照らしている。

 眩しさで起きないものかと思うが、その気配は無く。シオンは寝顔という名のあほ面を晒しながら、すやすや夢の中であった。

 そんな様子を見下ろしながら俺はフライパンとお玉を構えた。

 

「シオーン。朝だぞ、起きろー」

 

 かんかんかんと、お玉をフライパンにぶつける。

 暫く続けると、シオンは「むー」と少し唸り、俺に背中を向けた。起きる気配はない。

 フライパンとお玉も痛むし、俺は早々に金属音スタイルを辞め、フライパンとお玉を机の上に置き、シオンの身体に手を掛けた。

 

「シオーン。シーオーンー」

「……ん~」

 

 そのまま体を揺すると、シオンは愚図りながら、掛け布団を頭の上まで持ち上げ隠れる。

 

「起きろって。朝飯出来ているぞー」

「……あと5時間」

「せめて分刻みにしてくれ」

「あと300分……」

「起きているだろお前」

 

 布団の山の中から、ふがふがとシオンの声。

 少しして、規則正しい寝息が聞こえてくる。

 暫く様子を見たが、そこから変化は無く。俺は起こすのを諦め、フライパンとお玉を手に部屋を出た。

 リビングへ戻ると、テーブルでは既に起きているわためが、お行儀良く座って待っている。お願いしておいた通り、朝食もテーブルに並べられていた。

 

「シオンちゃん、起きた?」

「起きない。食べちゃおう」

「うん」

 

 フライパンとお玉をキッチンへ戻し、俺は定位置の椅子へと腰を下ろす。

 俺が座った事を確認し、わためは両手を合わせる。同じく俺も手を合わせ、「「いただきます」」と挨拶。

 俺は箸、わためはフォークを手に、朝食を食べ始める。

 

「美味しい!」

「ありがと、わため」

 

 褒めて貰えるとやはり嬉しいものだ。嬉しくてつい、自分の分の卵焼きを渡してしまう。

 渡されたそれを、パクパクと嬉しそうに食べるわために癒されていると、「そういえば」と、わため。

 

「今日って用事ある?」

「用事? えっと……いや。特に無いぞ。午前中は家の事をするつもりだけど」

 

 明日予定が入ったから、今日は家の事をこなすつもりだった。

 いい加減シオンの使っている布団の洗濯やら、部屋の掃除がしたい。それに、常備菜の作り置きもしたい。夕飯は言わずもがな、週二か三位のペースで、ちゃんと朝に起きたシオンが食べるかもしれないから、少し多めに作らないといけない。

 

「そっか。午後は空いている?」

「買い物行こうかなって思っていた位だし、大丈夫だよ」

 

 その言葉に、わためはパッっと、顔を明るくさせる。

 

「それなら! 久しぶりにわための歌、聞きに来て!」

「ああ、是非。楽しみにしている」

 

 俺が頷き返すと、わためが笑う。

 

「約束だよ? 破ったら藁千本飲ませるからね?」

「絶妙に重いか軽いか分からない罰来たな」

 

 いや、流石に重いか。

 

「大丈夫。絶対に行くから、安心してくれ。駅前でいいか?」

「うん。待っているね」

 

 そう言うと、わためは手早く残りの朝食をかきこみ、「ごちそうさま!」と元気に挨拶すると、食器をキッチンへ持っていく。

 

「洗い物はしておくよ」

「本当! ありがとう、じゃあ出かけるね!」

「いってらっしゃい」

「いってきまーす!」

 

 歌う前に、探検するのだろう。ぱたぱたと小走りにわためは移動し、間もなく、扉を開けて出ていく音が聞こえた。

 間もなく扉の閉まる音。それを聞いてから、俺は朝食を再開した。

 最後の卵焼きを口元まで運びながら、今日は楽しみだなと思っていると。

 

 ──はて? 

 

 思わず箸を止めた。

 

「そういえば、初めてだな。わために誘われるの」

 

 わためのステージ自体は、いつも使うスーパーが駅近だから、買い物ついでに見に行っていた。

 ただ、これは俺が勝手に行っていただけで、わために誘われたのは、まだわためがこちらに慣れていない頃を除けば、初めてだ。

 誘われて嬉しくない筈無いが、疑問が浮かばない訳でも無い。

 

「んー……、まあいいか」

 

 だが、特に悩まず、考えを放棄する。

 相手によっては、何を考えているのかと頭を抱えるだろうが、わためである。

 有責の際に、「わためは悪くないよねー」と言って誤魔化そうとする事はあっても、誰かを陥れたりはしない。

 普段は買い物帰り、終わり際少し見る程度だから、偶にはちゃんと見て欲しいとか、そんなところだろうと。

 俺は、そう考え食事に戻った。

 

 ***

 

 それからしばらく、家の事をする。

 常備菜を作り、家の掃除。そろそろ洗濯機を回して干さないと、乾かないかもなとぼんやり思い始めた頃、ネグリジェ姿のシオンが、目を擦りながらリビングへ入ってきた。

 

「おはよ」

「ん~」

 

 がくんがくんと歩みに合わせ、頭部が揺れる。目も殆ど閉じていて、正直起きているのかも定かではない。

 

「珈琲飲む?」

「ん~」

「ん。朝飯は?」

「ん~」

 

 飲むし、食べるようだ。一先ず先に珈琲を淹れ、椅子に座りうとうとしているシオンの前へ置く。

 珈琲の香りが鼻を擽ったのか、シオンは手探りにマグカップを探ると、それを持ち上げ、冷ましてから口を付ける。

 大丈夫そうなのを確認してから、俺は朝食を温めなおし、シオンの前に並べた。

 

「食べ終わったら、洗っといてくれ」

「あーい」

 

 トーストを持ち上げ、もぐもぐと食べだす。

 その間に俺はシオンの部屋に行き、軽く掃除機をかけてから、ベッドから毛布やらシーツを回収。

 それを脱衣所にある洗濯機へ入れ、電源を入れる。

 少し操作し、動き出した事を確認する。

 

「──ねぇ」

「ん」

 

 洗濯をしている間に何をしようかなと思う俺に、シオンの声がかかる。

 視線を向ければ、朝食を終えたらしいシオンが、脱衣所に居た。

 

「今日の予定は?」

「見に来てってわために誘われている。シオンも行くか?」

「ん~……」

 

 俺の言葉に、シオンは唸る。

 少しして、「夕飯が外食なら付いてく」とそう言った。

 

「残念だが、今日の夕飯も俺の手料理だよ」

「ならいいかな。家で実験でもしている。アンタの部屋、借りるわね」

「別にいいけど、俺の部屋で実験するなら、片付けまでしっかりやってくれ」

 

 以前部屋を貸した結果、数日悪臭が部屋から取れず、リビングで寝る事になったことを思い出して、俺はシオンにそう告げた。

 

「はーい」

 

 俺の言葉へ、シオンからは片言の返事。不安は残るが、信じるしかないか。

 

「何しよう……あのピンバッチの耐久テストでもしようかしら」

 

 ぼそりと、そんな言葉が聞こえてきた。

 

「人の思い出の品、勝手に実験に使おうとするなよ」

「ならちょっと削って粉末だけでも」

「嫌だよ。何、怖い。昨日の晩、あれだけ警戒していただろ」

 

 仕舞っておいた方がいいとか、捨てる気になったら言ってとか。

 そんな事を言っていたはずだ。

 

「でも、一晩経ったら好奇心が勝っちゃって。減るもんじゃないでしょ?」

「削ったら減るだろ……いや、そういう問題じゃない」

 

 何か良く分からなくなってきた。

 

「兎に角辞めてくれ。大事な品なんだ」

「忘れていた癖に」

「……仕舞っておいただけだし。忘れていないし」

 

 いまいち自信は無かった。

 

「いいから辞めてくれ。頼むから」

「はーい」

 

 届く生返事に、俺は一抹の不安を覚える。

 ──大したサイズじゃないし、一応、持ち歩くか。

 そんな事を思いながら、俺は近くに置いてあるタンスから、バスタオルを1枚取り出し、シオンに投げ渡した。

 

「洗濯物、干しといてくれ」

「今日はそんな気分じゃなーい」

「おい──」

 

 シオンの発言に苦言を呈そうとする俺に先んじて、シオンはネグリジェを脱ぎだす。

 そんな事をされれば流石に居座って会話を続ける訳にもいかず、俺は慌てて視線を逸らし、脱衣所を脱出した。

 後ろ手に脱衣所の戸を閉め、溜息。

 気分じゃないと言った以上、洗濯物を干す事はしないだろう。

 流石に洗濯機に洗濯物を入れたままでわための元に向かう気にはならず、俺は大人しく洗濯終了まで待つ事に決め、俺は自室へ戻った。

 

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