ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
???


置いてけぼり

 自室で身支度を整えた。バッジは少し悩んで、まあ久しぶりだからと身に着ける。

 落ちないようにしっかり固定。そのほか、持っていく物などを決めてから、俺はリビングに戻り、時間を確認した。

 経過時間は30分程度。流石に洗濯は終わっていない。何なら、シオンの入浴も怪しい。

 素直に待つかと、俺はソファーに腰を下ろした。

 テレビから流れてくるニュースを聞き流しながら、スマホを手に取り、ソシャゲを起動する。

 データのロードを経て、起動。ログボ回収などのルーティンをこなす。難しい操作も無いし、すっかり慣れた。

 さくさくとゲームプレイ用のポイントを消費していると、テレビから、聞きなれた声。

 

『すいちゃんはー……今日もかわいいー!』

「かわいいー」

 

 もはや条件反射で言いながら、顔を上げる。

 朝の情報番組。記憶では生放送であるその番組に、すいちゃんが映っていた。

 その手には見覚えのないジャケットのCD。どうやらそれの宣伝の為に、出演しているらしい。

 昨日の晩、割と遅くまで起きていたのに元気だなと感心したが、よく見ればVTRであり、録画映像のようだった。

 はきはきとインタビュアーの言葉に答えるすいちゃん。サイコパス要素抜いたら、本当にただのスーパーアイドルだなと、そんな事を考えていると、スマホが鳴った。

 

「……」

 

 クエストを中断されたことに、やや絶望感を覚えながら、スマホへ視線を落とす。

 ちゃんとテレビを見ているかという、すいちゃんからの圧かと思ったが、そんな事は無く。ディスプレイには見覚えのない電話番号が表示されていた。

 覚えのある番号の方が少ないのだが、それは兎も角。暫し悩んで、まあいざとなれば切ればいいかと、画面をタップし電話を繋ぐ。

 

「もしもし?」

『……』

 

 返事が無い。

 はて、と思い、もう一度「もしもし」と声をかける。

 

『──!』

 

 無言だった先程と違い、電話越しに音が聞こえてきた。揉めているような、そんな様子。

 そんな音の中に、聞き覚えのあるその声が混じっていた。まさかなーと思うのは、携帯の番号を教えた記憶が無いからである。

 まあでも、当時から秘密結社を名乗っていたし、これくらい出来る物なのだろうか。

 そんな事を思っていると、女の子の声が聞こえてきた。

 

『もしもし?』

「……はい?」

 

 予想に反し、知らない子の声が聞こえてきた。

 遠くから聞こえてくる、『あ゛ー!』という声の方は覚えがあるので、恐らく争奪戦に負けたのだろう。

 

『こちら秘密結社holoXでーす』

「存じております」

『さかまたはインターンで掃除屋やっています』

「そうなんですか」

 

 電話越しの知らない人は、さかまたさんというらしい。俺がお世話になっていた頃は3人しかいなかったから、増員したのだろう。

 とはいえインターンは確か見習い的な意味だった筈だから、お試し期間的な感じか。掃除屋は……何だろう。清掃代行? 出張サービスでも始めたのだろうか。

 

『最近お困りのことは無いですか?』

「はい?」

 

 考え事をしていた俺の耳に、さかまたさんの声が届く。

 

『最近お困りのことは無いですか?』

「えっと」

 

 再度、同じ事を聞かれ、戸惑う俺に、さかまたさんは再三『最近お困りのことは無いですか?』と尋ねてきた。

 直ぐに思いつかないから、「……特に無いですけど」と返す。

 

『分かりました~』

 

 応答直後、つー、つーっと、電子音。画面を見れば、通話終了の文字。切られたらしい。

 

「えー……」

 

 何だろうこれ。折り返した方がいいだろうか。

 正直掛けた所で、話進まなそうだけど。

 ……うん。

 

「別にいっか」

 

 何かあればまたかかって来るだろうと思い、ソシャゲを再起動する。

 やはりというか、クエスト失敗になっていたので、再度始める。

 

「――お待たせー」

 

 再びの連絡は無く。ソシャゲを進めていた俺の耳に、シオンの声が届き、俺は振り返る。

 長い髪をタオルで拭きながら、シオンがリビングに入ってくる。

 着替えを済ませている俺を見て、シオンは小首を傾げた。

 

「もう出るの?」

「そのつもり。因みに洗濯物は?」

「干してなーい」

 

 知っていた。

 

 ***

 

 洗濯物を干し終え、シオンに声をかけてから、とりあえず家を出て駅前まで来たが……やはりというか、わための姿は無い。

 時間を確認すれば、14時を回った辺り。流石に早かったか。

 ライブ前に街を探検したり、フレアさんと遊んだりしているわためは、警察による駅前巡回の時間次第だが、大体いつも16時頃に演奏を始める。

 とはいえ今日は土曜日だしわためから誘ってきたのだからと、早めに来たのだけど。勇み足だったようだ。

 

「どうしようか」

 

 食材の買い物に行ってもいいが、それを持ってわためのライブを聞くのはしんどいし、家に持って帰ってもう一度駅前に来る、というのは正直手間だ。

 ……適当に何処かで時間を潰すしかないだろう。此処からだったら、以前スバルと行った喫茶店が近いだろうか。

 そこで暫く時間を潰して、それから改めて駅前に戻ってくればいい。一応立ち去る前に改めて周囲を見渡す。わためが居ない事を確認し、歩き出す。

 駅前の広場を抜け、裏路地に入りふらふら。

 一度来た事があるとはいえ、あの時はスバルに連れられていたから、場所がちょっと怪しい。裏路地は入り組んでいるから尚更だ。

 まあ、時間はあるしのんびり探せばいいかと思う俺の視界に、あまりに場違いなピンクのもこもこが目に入った。

 ウェーブの掛かったピンク髪に、きらりと輝く王冠。あどけなさの残す顔はやや歪み、組まれた腕も相まって困った様子だ。

 そんな彼女を包むのは不思議の国からでも迷い出てきたようなフリルのついたピンクのドレス一式。

 全身から、非日常感が漂っている。

 

「うーん、困ったのらー」

 

 腕を組み、顔をしかめ、首を傾げる様は、困っているように見えなく無いが、その割に焦りのようなものは感じず、どことなく業とらしい。

 経験から言って、ああいう態度の相手に関わっても間違いなく碌な事にならない。フブキ先輩とか天音先輩とかが似たような事をしている時は、大体自分のやりたくない事を俺に押し付けてくる時とか、何かしらに俺を巻き込もうという時だ。

 今回はほぼ間違いなく後者だろう。声を掛けたが最後、また色々やらされる挙句、フブキ先輩やミオ先輩に謝ったり、シオンに小言を貰う事になるかもしれない。

 

 ──やだなぁ。

 

 この後はわためとの約束もあるし、巻き込まれるのは正直ごめんだ。わためと怪しい少女なら、当然わための方が優先順位は高い。

 

 ──よし、見なかった事にしよう。

 

 決心し、回れ右。

 全力で立ち去ろうとする俺の視界に、フレアさんの姿が映る。

 その表情は少女よりもよほど焦燥感に満ちていて。その手に弓矢を携え、今にも射貫かんと弦が引かれている状態。

 鏃は俺の方を向いていた。

 holoXは多分この人に電話を掛けるべきだと思う。

 

『──もし。もし? 人の子よ、聞こえていますか?』

 

 突然脳内に声が響く。フレアさんの物だった。いつかの様に、俺へ念話を飛ばしてきたらしい。

 今、まさに俺のことを処そうとしているとは思えないほど、芝居がかった穏やかな声に最初別人を疑ったが、残念ながら聞き間違いではないらしい。

 俺が胡乱な顔をしたのが見えたのだろう。伝わっていると判断したらしく、言葉が続く。

 

『──人の子よ。今すぐ振り返って、そこにいる少女に話しかけ、助けて差し上げるのです。そうすれば、貴方に幸運が舞い込む事でしょう』

 

 そんな物いらないから、この場を立ち去らせてほしいものである。

 ただ左右に体を揺らすと、それに合わせてフレアさんの狙いも動く。逃がす気は無い様だ。

 どうにかしてくれないかなと、フレアさんの傍にいるきんつばやノエルさんに視線を向ける。

 

「「……」」

 

 無言のまま、そっと逸らされた。泣きそう。

 

『──人の子よ。耳を澄ませるのです。そうすれば、貴方に助けを求める声が届くことでしょう』

「えーん。えーん。困ったのらー」

 

 フレアさんの言葉の直後、狙ったかのように棒読みの泣き言が後ろから聞こえてきた。

 振り返らずとも、噓泣きと分かる。

 それに、耳を澄まさずとも、助けを求める声は脳内に直接響いていた。

 

『──人の子よ。本当にお願いだから。数時間相手してくれるだけでいいからさ。ね? わための演奏までちょっと町の案内をして、後はわための演奏一緒に聞いてくれているだけでいいからさ。お願い!』

 

 必死だ。ノエルさんも両手を合わせて拝み倒してくる。

 誰なんだあの子。

 

「……」

 

 溢しそうになった溜息を飲み込み、振り返る。

 嘘泣きはもう終えて、後ろに手を組んだ少女が、ニコニコ顔で俺を見ていた。

 せめて困っているという体裁は維持していて欲しかった。

 恐る恐る、近づく。

 

「別に取って食べはしないのらよ」

「取って食べる奴は皆そう言うものだと思っています」

「ルーナ、怪獣か何かだと思われている?」

 

 怪獣の方が、絶対に近づかないって決め打ち出来る分、まだマシかもしれない。

 流石にフレアさんやノエルさんの関係者だろうから、警戒しすぎな気もするのだが……。

 

「……? なんなのら?」

「いや」

 

 なんだろう、この感覚。権威、とでもいえばいいのか。

 何となく、逆らえないと感じるこの感覚は、そらさんと直接会った時のそれと近く思えた。

 人間としてのレベルが違うというか、なんというか。

 

「それで、えっと、何をお困りなのでしょうか?」

 

 思わず敬語になった俺に、慣れているのか、少女は特に気にした様子も無く返してくる。

 

「お散歩したいのら」

「散歩?」

 

 それは……すればいいのでは。

 

「でも、疲れたから歩きたくないのら」

「……」

 

 成程。

 

『──人の子よ、人の子よ』

 

 やかましい。

 

「じゃあ、えっと、歩けるようになるまで休みましょうか。何か飲み物とか買ってきますよ」

「肩車」

「……はい?」

「肩車してほしいのらー」

「……」

 

 振り返る。目を逸らされる。

 

『──人の子よ……』

 

 それはもういい。

 視線を戻す。こちらに両手を伸ばす少女。

 権威に負けず、ビシッっと一言、断ってやろうと息を吸い。

 

「どーぞ」

「わーい」

 

 気が付けば背中を向けて膝をついていた。

 頭に手が添えられ、両肩に何かが乗る感覚。

 

「いいのらよー」

「はーい」

 

 少女の膝のあたりを抑えながら、俺は立ち上がった。

 見た目相応に軽い。これなら当分肩車していても問題無さそうだ。

 

『くーん』

 

 定位置の肩に足を乗せられてしまったタロが、俺の胸元にしがみついていた。

 顔には困惑が浮かんでいる。多分、俺も似たような顔をしていると思う。

 

「進むのらー」

「はーい」

 

 ぺしぺしと頭を叩かれ、俺は歩き出す。

 まあ、10分もすれば、解放されるだろうと、俺はそんな風に考えていた。

 




次回8月7日0時

文章の構成はどちらがいいですか

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