自室のベッドに寝転がりながら、大空スバルは唸っていた。
見上げる先にスマホ。そこに映っているのは、ゲーム画面。
フォークに刺さったソーセージ同士をぶつけあい、先に相手を砕くネット対戦可能なソーシャルゲームである。
そのゲームに、スバルは少し前から嵌っていた。
始まりこそ何となく題材が面白かったから程度だが、操作自体はタップするだけのシンプルな物なのに対し、ソーセージの育成やガチャ要素、相手との駆け引き等、奥深さもあるゲームに気づけば熱中し、空き時間などはそれに講じていたのだが。
暫く遊んでいると、誰かと一緒に遊びたいという欲が出て来る。勿論、ネット対戦可能だから、画面の向こうの誰かと遊ぶことは出来るのだが、出来れば近くにいる知人友人とワイワイやりたい。そう思い、スバルは何人かの友人にお勧めしてみた。しかし、ソシャゲ自体を嗜んでいない人が多く、良い返事がもらえない。
次に、入部している総合格闘技部やe-sports部の面々が思い浮かんだ。彼らなら多分二つ返事でゲームをしてくれるとは思ったが、マネージャーという立場上、彼らの練習を妨げるような事はしたくない。
他に誰か。ソシャゲでなくともゲームをしていて、それでいて暇そうな人。
「……」
スマホを操作し、メッセンジャーアプリから名前を呼び出す。
暇人に一人、心当たりがあった。基本的に忙しそうなイメージは無く、またゲームを嗜んでいるから誘えばやってくれそうだ。
ただ、学園祭がもう目と鼻の先。部活に所属しているし、生徒会の手伝いもしている彼は、もしかしたら忙しく、迷惑をかけるかもしれない。
──Prr
「うわっ──たぁ⁉」
悩んでいると着信音が響いた。驚いたスバルは手を滑らせ、落下したスマホはスバルの顔を打った。額を抑え、悶える。
『──じょぶかー? おーい』
スマホから、微かに声が聞こえてくる。落とした拍子に、通話がつながったようだ。
スバルは額を抑えたまま周囲を探り、自分のスマホを見つけた。
「もしもーし」
『あ、出た。大丈夫?』
「……だいじょーぶ」
『そう?』
声の主は、今まさに悩みの種となっていた男だった。あっけらかんとしたその声色に、スバルはそこはかとない怒りを覚えながらも、それを飲み込む。
「それより、どうかした?」
『えっと……これ、友達の話なんだけどさ』
「その前振りを使っている人、初めて見たわ」
ほぼ確実に自分の事のやつである。
そして、こういう前振りの時は恋愛相談系の悩み事が多い気がする。
もしかして恋バナだろうかと、ちょっとだけワクワクしながら、スバルは話を促した。
『その友達の家に、今Sって人が住んでいるんだけど』
「住んでいるって……親戚とか?」
『ホームステイみたいな』
「へぇ」
異文化交流にスバルが羨ましさを覚える中、相談者の言葉が続く。
『そんで今日、急にSちゃんっていう最近再会した幼馴染が遊びに来て』
「……え? Sって2人いる?」
『うん。SとSちゃん』
分かりづらいなと思いながら、もしかして、とスバル。
「その2人が急に仲良くなっちゃって、寂しいとか?」
『いや。その2人が今、めっちゃメンチを切りあっているんだって。表情がもう、極道とマフィアみたい』
「修羅場じゃねぇか!」
想像と真逆の事態に理解が追い付かないスバルを余所に、『どうしよう』と、内容とは裏腹に落ち着いた声が電話越しに響く。
『俺の為に争わないでとか言ってみる? あ、間違えた。言わせてみる?』
「余裕か! 一触即発でしょ⁉」
『まだ慌てるような時間じゃないから。手が出てないし』
「そこまで行きかねないなら、もう少し焦れ!」
どう考えても恋バナという感じではない。
どうしようどうしようとスバルが慌てる中、電話の向こうからは扉を閉める音と、こぽこぽという音が聞こえてくる。
「……何しているの?」
『キッチンに隠れつつ、喉が渇いたから水を飲んでいる──うまい』
「いや、くつろぎ過ぎな」
『手は出ないでしょ。もし出たとしたら、それは多分、俺に対してだし』
「……」
──なら、何故こいつは落ち着いているのだろうか。
最早友達の話という前提を気にする様子も無い相談者が、水を飲んでいるらしく喉がなる音が聞こえる。
疑問は尽きなかったが、本人がこの状態なのに、自分が慌てるのもおかしい話。
肩透かしを受けながら、そういう事ならと、スバルは話を変える事に決めた。
「ところで『──あ』」
「え?」
そんな声が、電話口越しに聞こえてきた。
「どうかし──」
『いや待て。落ち着いて考えよう? なんか知らんけど、家主仮の俺を差し置いて縄張り争いを始めたのはお前らだろ? その間、暇を持て余した俺が、誰と電話していたって怒られる筋合い無いんですけど? ──買い物? いや、流石にいがみ合っている2人を家に置いて、外出られないだろ。常識的に──待って! スマホ持って行かないで! 口答えしてごめ──』
ぶつりと、通話が途切れた。まもなく、メッセージが届く。
『ごめん。電話切れちゃって。こっちは大丈夫だから、気にしないで』
「いや無理だろ!」
スバルは慌てて、ベッドから飛び起きた。
***
折りたたまれスマホになってしまう事態を何とか回避し、俺はスマホに不調が出ていないか確認してから、ポケットへと仕舞う。
スバルにはどこまで聞こえていただろうか。画面を見た時は通話終了状態だったし、一応気にするなと連絡はしたが。
まあ、後で電話しようと思いながら、俺はSとSちゃんこと、シオンとすいちゃんに視線を向けた。
俺がスバルと話している間に、縄張りを共有することに決めたようで、今はシオンがすいちゃんに魔法の実演をしていた──あれ?
「え?」
「ん? 何?」
「シオン、何で普通にすいちゃんに魔法を見せているの? 消さなきゃしなくていいの?」
「何その物騒なワード」
「今更でしょ? わためにも会って直ぐに見せているし」
「……それはまあ、そうなんだけど」
わために関しては、生活に必要だったから特例みたいな所はあるし、少なくとも俺やミオ先輩に魔法バレした時は、とりあえず消さなきゃから入ったのに、すいちゃんには直ぐに見せるというのは、何と言うか──。
モヤモヤを抱えながら、俺はすいちゃんを見る。
「……向けられたことが無い感情を向けられるの楽しい」
「歪んでない?」
すいちゃんが俺を見て、にやにやと笑っているのが見えて、つい手が出た。
「いふぁくない」
頬を引くのだが、相手は昔馴染みであり推し。双方共に痛がるのを見たくない感情が勝り、全然力が入らない。顔が歪んでいるのは見ている分には面白いから、暫し変顔をさせることで復讐とする。
「そんな気になるなら、とりあえず一回消しておいてもいいわよ?」
シオンがそう言った。視線を移せばすいちゃんと同じく、にやにやと笑っている。
それを見て、俺はすいちゃんから手を放し、シオンの頬を摘まんだ。
「いふぁいいふぁいいふぁい!」
そのまま思い切り引っ張る。ばちばちと、シオンに手を叩かれ、最終的にはテレポートで逃げられた。
ダイニングデスク脇に逃げ、頬を抑えながらシオンが睨んでくる。ぱちぱちと、恐らくは転送に対する疎らな拍手が、横から聞こえた。
「魔法使い差別反対! 魔法使いにも優しく!」
「安心しろ。こんな事をするの、お前位だぞ」
「紫咲シオン差別反対!」
聞き流しながら、勝手にキッチンに入っているすいちゃんへ声を掛けた。
すいちゃんは、さっきまで俺が使っていたコップに、出したままだったミネラルウォーターを注ぎ、ひとしきり飲んでから。
「ん?」
言葉を返してきた。
「いや、マイペースか」
「次からはリンゴジュースを備蓄しておいてよね」
この銘柄ね、と、スマホの画面を向けられた。
俺は自分のスマホに、映って居たリンゴジュースの商品名とパッケージを控え──。
「──いやいや。おかしいでしょ。自分で買ってきてよ。すいちゃんが買ってきた物を取っておくのならいいけど、何で備蓄しておかなきゃいけないのさ」
「推しに貢ぐ的な。ライブTシャツとか買うでしょ?」
「俺は音源以外を買わない事にしているから、買いません」
不定期バイトくらいしかしていないのに、漫画とかも買っている俺では、それが限界である。
「……チッ」
「普通に舌打ちするじゃん」
別にいいけど。
「それで、すいちゃん。聞きたいんだけどさ」
「何?」
「今日って、俺がすいちゃんの家に行く予定じゃなかった? それに、何で俺の家を知っているの?」
今朝、家を出ようとした俺の前に、すいちゃんは現れた。
片手をあげて挨拶してきたすいちゃんへ、反射的に同じように挨拶を返した俺。そんな俺の脇を抜け、すいちゃんは勝手に俺の家へと入り……リビングにてネグリジェ姿のシオンと鉢合わせ、気づけば縄張り争いを始めていたのだ。
うーん……思い出しても縄張り争いの下りが良く分からない。何で家主仮を差し置いて、縄張り権を主張出来るのだろう。
「私がこっちに来たのは、急に姉街の友達が遊びに来ちゃったから、逃げてきただけ」
「成程、納得。それで、俺の家を知っていたのは?」
「発信機」
「嘘⁉」
「うそ」
悪戯に笑うすいちゃんが、口元へ人差し指を当てた。分かりやすい、内緒のポーズ。教えるつもりは無いのは、真実か、発信機の場所か。是非前者で合って貰いたい。
念の為、後で発信機は探そうと決めつつ、俺はすいちゃんへの追及を諦める。
丁度その折、部屋の壁時計が鳴った。正午を知らせる音である。
「お昼どうする?」
「ごちになります!」
「別にいいけど。何が食べたい?」
尋ねる俺に、はてと首を傾げるすいちゃん。
「料理できるの?」
「人並に食べられるものを出せる程度だけど。それで、何がいい?」
「じゃあ、辛いやつ」
「オムライス」
すいちゃんとシオンのリクエストを聞き、頭の中で混ぜ。
思いついた。
「オムカレーにするわ」
文章の構成はどちらがいいですか
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全部詰める(全話までのやり方)
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地文と会話文の間に改行を入れる(今回)