ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
天音かなた


エピソード・オブ・かなた ep.01退部

 これは、ホロ学園入学から、2ヶ月程経った頃の話。

 放課後の生徒指導室で、俺は難しい顔をする担任の先生と向き合っていた。

 とはいえ、難しい顔をしているのは先生だけ。俺といえば、何故呼び出しを受けたのか分からず、疑問符を浮かべていた。

 少なくともこの2ヶ月、怒られるような事をした記憶はない。

 無遅刻無欠席、授業態度も普通で、加入が推奨されている部活動も、入り忘れたという事は無く、寧ろ精力的に活動しているつもりである。

 

「えっと、何で呼び出されたのでしょうか?」

 

 俺が呼び出され、生徒指導室に来てから5分程。

 無言を貫く先生に見かね、尋ねる。今日も、この後部活があるから、話があるなら早くしてほしい。

 

「……この後、部活?」

「え? はい、そうですけど」

 

 妙な事を聞く先生に、頷き返す。

 

「今日は、何部?」

「今日はサッカー部と囲碁将棋部とサバゲ部とボクシング部と図書部ですね」

 

 図書部とは名ばかりで、百人一首かるたばかりしているから実質百人一首部である。

 

「……多過ぎない? 各部1時間ずつ振ったとしても5時間。完全下校時刻過ぎるけど」

「なので囲碁将棋部と図書部は同時にこなしていますね。部室は隣同士ですから」

「私は詳しくないけど、その2つって同時並行で出来る物なの?」

「いえ。専ら使っていない石や駒を磨いたり、詰将棋やら詰碁したり、呼ばれたらかるたの読み手をしているくらいです」

 

 入学して3ヶ月経つが、未だに真面な対局をしたり、札を取ったりした記憶はない。

 囲碁や将棋は駒の動かし方とか石を置くルールくらいは覚えているが定石は知らないし、囲碁に関しては勝敗の決め方も良く分からない。かるたについては百人一首をとりあえず覚えたが、具体的な札を取る技術とかは知らない。

 本当はやってみたいけど、対局の最中に他の部に急に呼ばれて戻れないなどが多々あって、気付けば遠のいていた。囲碁将棋は磨く専門、図書部も急に居なくなるなら取り手より読み手の方がマシという事で、読み手専任になった。

 ぶっちゃけ、他の部も似たような感じ。道具の手入れが殆ど。ボクシングだけ筋トレもしている。

 

「……君、毎日部活梯子しているでしょ」

「ええ、まあ」

 

 平均で4つ程度の部活に、毎日参加している。

 流石生徒数が兎に角多いホロ学だけあって、部活も多い。

 

「そのことで、少し抗議があったの」

「抗議ですか? 週1で文句も言わずに延々備品整備をする透明人間的存在に?」

「人は自分が思っているより周りの視線を集めていて、思っているより悪く思われている事を自覚しておきなさい」

 

 そんな事を言いながら、先生はばさりとA4用紙の束を置いた。

 何だろうかと思い、手を伸ばす。特に止められることなく、俺はその紙面を手に取れた。

 1枚ずつ、目を通す。内容は、嘆願書と題されてはいるが、内容は確かに抗議文だった。入部している殆どの部活から。今日行く予定だったサッカー部もある。

 色々と言葉を変えて書かれてはいるが、1つの言葉に纏めると、やる気が無いなら邪魔だから辞めてほしいとの事。

 

「成程」

「どうする?」

「……」

 

 答えに窮する。言われてみれば、確かにふらりときて掃除だけして帰るというのは、やる気が無いように見えても仕方がないとは、思う。

 

「部活動には入部してればいいってものじゃない。修練の為とか郊外活動の為とか、理屈は色々あるかもしれないけど、一番重要なのは、貴方がそれをやりたいかどうか」

「……」

「君が今、入部している部活の中に、君のやりたい事はある?」

 

 その言葉に、入部していた部活全ての、23枚の退部届で俺が答えたのは、数時間程前。

 時刻は22時。あの後直ぐに帰宅して、夕飯食べて、筋トレして、風呂に入って。

 

「あー」

 

 寝支度を終え、自宅のソファーに仰向けで横たわる。

 一人きりの家であるから、どれだけだれても文句は言われないのを良い事に、俺は肘掛けを枕代わりに、風呂上りのアイスを食べていた。

 

「失敗したなぁ」

 

 大量の兼部は、今まで何もやらなかったから好きな事もやりたい事も無いから、色々とやってみて、遣りたい事を探す為だった。

 しかし、その結果、何もやれていなかったのは本末転倒だと、我ながら思う。

 それに、抗議文だって、出す側としては気持ちいい物では無かった筈だ。部活に迷惑をかけてしまった事は反省しなければならない。

 ただ、今更ながら、全退部はやりすぎだっただろうかと、若干後悔。1個か2個くらい、残せば良かったかもしれない。やっていればもしかしたら、やりたい事になったかもしれないし、小中高大一貫校のホロ学に置いて、中途で入った自分が知人友人を増やそうと思ったら、部活動が一番分かりやすいから、と言うのも兼部の理由であったわけで。その目的が果たせたのかと言えると、それも怪しい。

 ……とはいえ、入り直したいと思える部活は無い。残念ながら、大量兼部の末、どの部活も基本的に清掃と手入れしかしてこなかった俺にとって、どの部活も大差無い。

 

「どうしようかなぁ」

 

 元々部活は推奨されているだけで、自由参加だ。要は入らなくても問題無い。

 とはいえ、折角だから、何かやりたいという気持ちもある。

 

「……まあいいか」

 

 明日考えよう。

 立ち上がり、リビングのゴミ箱へ食べきったアイスの棒を捨てて、電気を消すと、俺はそのままソファーに横になった。

 

 ***

 

 翌日は比較的いつも通りだったのだが、翌々日に違和感を覚え、1週間もすれば確信に変わった。どうも学校で浮き気味になっていた。

 内緒話を盗み聞くに、俺宛に大量の抗議文が届いた事と、俺が所属していた部活を全て退部した事が噂になっているらしい。

 事情が部分的に露見しているらしく、詰まる話、俺の部活態度が悪く、退部させられたという形で広まっているらしい。あながち間違えても居ないのだけど。首切りか、自主退部だったかの違いしかない。

 クラスで浮く事自体は度重なる転校のおかげで慣れているから構わないのだが、新しい部活を探そうかなと思っていただけに、入部しづらくなるのは辛い。

 

「どうしたもんかな」

 

 授業終わりの放課後、教室の掃除を1人でこなした後、帰路に着くべく、校内を歩いていた。

 すれ違う人の反応は様々。知らないのか興味ないのか、そのままスルーする者。俺を見て連れ歩く者と何やらひそひそと話す者、露骨に嫌そうな顔をする者も居れば、ばつの悪そうな顔をする者も居る。

 いっそ、完全に無視してくれる方が気も楽なのだが。とりあえず、暫く大人しくしていた方がいいだろうと思い、それらを無視する。人の噂も七十五日というし、そのうち飽きるだろう。

 問題はその間、何をしているか。何もしないには2ヶ月半は流石に長い。既に2ヶ月近くを棒に振る結果になっているので、何もしない選択肢は無い。

 ただ、何も思いつかない。元々は学校が終わって、家に帰って……。宿題やって、ランニングしたり筋トレしたり。

 

「変わってないな」

 

 昔と違うのは、ここ最近少し料理をするようになった。作れるようになって損は無いし、何より放課後が丸々開いてしまって暇になったから。

 料理自体は存外性に合っていて、洗い物も苦では無いのだが、如何せんレパートリーが少なく、飽きが早い。それに、自分で食べるだけなら正直買ってくるのと変わらないと思えてしまう。

 

「レシピ本でも買ってみるかなぁ」

 

 毎日頭から作るようにしていけば、日にちも潰せるだろうし、料理の腕も上がるかもしれない。

 どうせ暇だし、本屋にでも寄ってみようかと、この後の予定を決めた俺の視界に、作業中の銀髪の女生徒の姿が入ってきた。身長は俺より頭一つ分低く、正直後輩かと思ったが、腕のラインの色から先輩と分かり。腕章から生徒会の役員だと分かった。

 そんな先輩は、大きなポスターを1人で貼ろうとしている。頑張っているようだが、如何せん身長が足りていない。

 

「手伝いますか?」

 

 先輩へ声を掛ける。ポスターを抑え、プルプルとしている先輩は、「お、お願い!」と声を上げた。

 画鋲を1つ手に取り、先輩の脇に立って、ポスターを広げる。右上を止め、中央を止め、最後に左上を。

 下の方は既に止めていたようで、それでポスター張りは終了した。

 

「ふー、ありがとう。お陰で助かったよ」

「いえ。何よりです」

 

 笑顔で振り返る先輩と目が合った。

 暫しの間。それから、「あっ」と、先輩から声が上がる。

 そのまま気まずそうな顔をして、だらだらと冷や汗。

 

「じゃあ、自分はこれで」

 

 その反応を、恐らくは自分の悪名のせいだろうと考えて、俺は先輩へ一礼すると、その場を立ち去ろうとした。

 

「ねえ」

 

 呼び止められる。

 今度は俺が振り返ると、先輩はその手にポスターを抱えて持っていた。

 

「もう少し、付き合って貰えない?」

「……いいですけど」

「良かった。困っていたんだよ。1人で出来ると思っていたんだけど、思ったよりポスターが大きくて」

 

 てれてれと、困った様子で笑う先輩に、尋ねる。

 

「でも、良いんですか? 自分、部活の態度が悪くて首になった男ですけど」

「確かに、部活の数はもう少し絞った方が良かったね。幾ら積極的に掃除整備していても、やる気が無いって思われても仕方がないよ。……まあ、生徒会としては先にこう助言してあげられたら良かったんだけど」

「……」

 

 なにやら意外な反応に、首を傾げる。事情に詳しそうな反応であった。

 

「生徒会って、何でも知っているんですか?」

「あの嘆願書は元々生徒会宛に来た物だから。本当ならまずは生徒会長が検討と却下で大雑把に仕分けして、その後で検討になった方の事実確認と必要性を調査。それをもって最終決定って感じなんだけど。調査中に役員の子が君についての嘆願書を先生に渡しちゃったの」

「成程」

 

 そう言われると、あの嘆願書のフォーマットは生徒会室前に置かれた目安箱用の紙だったと思う。

 いきなり先生に持っていくあたり、本気で怒っているのかと思っていたが、裏事情があったらしい。

 

「……ごめんね?」

「いえ、気にしないで下さい」

 

 生徒会の人に責任は無い。そもそも俺が種を蒔かなければ、こんな事になっていない。

 

「それより、ポスター。貼らなくていいんですか?」

「そうだね。幾つか掲示板回るから、一緒に来てくれるかな?」

「分かりました……えっと」

 

 名前を呼ぼうとして、まだ聞いていなかった事に気が付く。

 同じくその事に気が付いたのか、先輩が「忘れてた」と、笑う。

 

「僕は天音かなた。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

 




2週間失踪していて、すみませんでした。

今回の失踪についてとホロ学の今後について
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=266038&uid=10000328
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