ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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3S

「出来たー?」

「出来たよ」

 

 気持ちおしゃれに盛り付けたオムカレーとサラダ、水の入ったグラス、スプーンなどの食器類。

 それらが、俺の言葉を受けたシオンによって浮かされ、飛んでいく。「おー」と、すいちゃんの感嘆の声を聴きながら、俺はダイニングへ入った。

 思い思いの席に座る2人と俺がいつも座る席へ、飛んでいたものが、ゆっくりと降り立った。俺もいつもの席へと座る。

 

「いただきまーす」

「召し上がれ」

 

 シオンが口火を切った。スプーンを手に取り、早速オムカレーへと手を付けた。

「いただきます」と俺も続くも、オムカレーをにらんだまま、動きを見せないすいちゃんが気になってしまう。

 作り手としては味の感想も気になってしまうので、出来れば早めに食べて、教えて貰いたく。

 急かす様になってしまうかなと思いながらも、俺はすいちゃんへ声をかける。

 

「どうしたの?」

「思ったよりおしゃれでちゃんとしたご飯が出て来て困惑している」

「そりゃあ、俺だけが食べるわけじゃないし」

 

 流石にちゃんとしないと申し訳ない。

 

「正直構成要素だけオムカレーとか出てくると思っていた。ケチャップライスの上に炒り卵を乗せてレトルトカレーをかけただけみたいな」

「あ、ケチャップライスの方が良かった? バターライスにしちゃった」

 

 流石にカレーとケチャップライスは合わないかなと思い、バターライスにしたのだけど。失敗だっただろうか。

 心配する俺に、「大丈夫」とすいちゃん。

 

「なんかごめんね」

「気にしないで。いい意味で裏切れたのなら良かった」

「アンタ、ちゃんとオムライス作れるなら、普段からもっと作りなさいよ」

 

 ふと、シオンから野次が飛んだ。

 そういわれても、和食のバリエーションが多いから仕方がない。

 何より。

 

「半熟、作る、大変」

 

 少し盛って成功率7割。今回も、すいちゃんとシオンの分はちゃんと出来たが、俺の分は固焼き卵板だ。それなら、最初から諦めて、完全に炒ってしまいたい。

 

「駄目」

 

 一蹴された。

 ぐぬぬと俺が歯噛みする中、くすくすと笑ったすいちゃんが、「いただきます」と挨拶し、スプーンでもって一口。

 

「……もう少し辛くてもいいけど」

「それだとシオンが食べられないから」

「子供舌みたいに言わないでよ」

 

 パクパクと食べ進めながらも不満を言うシオンを余所に、今度はすいちゃんはぐぬぬとなっていた。

 不味いわけではない様で、俺は安堵しながら自分の分へと口をつける。うん、普通。

 特別美味しい訳でもないのに、何処をどうしたら良いのか、説明に困るくらいには整っている味。まあ、俺の分だけで言うなら、卵が固くて若干舌触りが良くない。

 

 ──半熟卵の成功率、上げたいなぁ。

 

 ただそれも、その練習の為だけに卵を使えないから、おいおいでいい。

 

「カレーのお替りはあるから、食べたければ──」

 

 ぴんぽーん

 

「ん?」

 

 俺の言葉を遮るように、インターホンの音が響く。

 席を立ち、モニターの前へ。見れば、意外な相手が見えた。

 俺はモニター下部の、マイクボタンを押す。

 

「はーい」

『あ! ちょっと、大丈夫⁉』

「とりあえず落ち着け」

 

 慌てているスバルに声を掛ける。声が大きい。

 どうした、と聞くのは流石に野暮か。察しはつく。

 

「心配かけて悪かったな」

『……いいよ。とりあえず、本当に大丈夫そうだし』

「あがってく?」

『じゃあ、少しだけ』

「今、鍵開ける」

 

 マイクボタンから手を放し、振り返る。

 こちらを見る、シオンとすいちゃん。

 

「……どうしよ」

 

 勿論どうしようもなく、数分後。

 

「……」

「……」

「……」

 

 我関せずに食事を続ける者がいれば、睨みを利かせる者、それから逃れる為に俺を盾にする者と、三者三様の動きを見せる3人がいるのは、我が家のリビングであった。

 シオン。すいちゃん。スバル。そういえば全員イニシャルSだなと現実逃避気味に考えながら食べ進める俺は、俺を盾にすいちゃんの圧から逃れようとしているスバルの耳打ちを聞いていた。

 

「どういう状況⁉」

「俺が知りたい」

「何ですいちゃんが居るの!」

「遊びに来ているからかな」

「黙々とご飯食べている子は⁉」

「紫咲シオン。ホームステイしている子」

「……え、何? すいちゃんとあのシオンちゃんっていう子が、この家の縄張り争いしていたの?」

「うん」

 

 察しが良くて助かる。

 

「ついでに俺のスマホを奪って折ろうとしていたのもあの2人」

 

 何を言ってんだこいつという目を向けてくるスバル。昨日会った際にも向けられたから、実に数時間ぶり。

 そんな目を向けられても、事実である以上は仕方がないのだが。

 寧ろ俺の方が、聞きたい位。なんでこんなバチバチになるんだ。

 

「……あんた」

 

 すいちゃんが口を開く。

 内緒話をしていた俺とスバルの視線が、すいちゃんへ向く。

 スプーンは置かれ、手を組んでいた。

 

「女の子相手なら、誰にでも色目使うようになったのね」

「人聞きが悪い」

「昔は、すいちゃん様すいちゃん様って言って私の後を付いて来ていたのに」

「少なくとも様を付けていた記憶は無いが。それより冷めるぞ」

「……」

 

 すいちゃんはスプーンを再度手に取り、食べ始める。

 

「後を付いていた記憶はあるんだ」

「まあ、一緒に遊んでいた記憶はあるけど。流石に昔馴染だし」

 

 スバルの言葉に答える。

「ふーん」と、スバル。暫し間を置き、俺の肩越しにすいちゃんへ声をかけた。

 

「すいちゃん」

「なに?」

「こいつの子どもの頃って、どんな感じだったんスか?」

 

 俺の後ろから出て、俺の隣の椅子に、スバルが腰かけた。

 こめかみをぐいぐいと押される。叩き落すが、また押された。なんか扱いが雑ではないだろうか。

 スバルの言葉に、すいちゃんはスプーンで一口掬い、口に入れる。

 悩んだ様子で、暫し咀嚼。飲み込む。

 

「子どもの頃か……いうて、私も保育園の時代しか知らないからなぁ」

「あれ? そうなんスか?」

「すいちゃんとの付き合いは保育園を卒園する所までだよ。小学校入るタイミングで初めての引っ越しだったから」

 

 正直な話、一緒の小学校に行く物だと思っていたから、中々堪えた記憶がある。

 俺の言葉に、うーん、と唸ったスバル。

 

「その割に、随分と親しいね」

「そうか? 別に普通だと思うが」

「そんな事無いよ。小中と続けて接点があったなら兎も角、幼稚園の頃だけ親しかった人なんて殆ど覚えていないし。シオンちゃんは?」

「……え? あー」

 

 振られると思っていなかったのだろう。

 シオンは僅かに戸惑いを見せて。それから悩む素振り。

 昔の事を思い出そうとしているのか、それとも話す内容を纏めているのか。

 少しの時間が経った頃。

 

「私、昔から好きな事しかしてこなかったから、特定の誰かと長く過ごした事、無いかな」

「……ごめん」

「別に。それが普通だったし」

 

 律儀に謝るスバルに、シオンが塩対応を見せる。シオンだけに。

 俺としては、この状況で会話に参加しないで本を読んでいる辺り、だろうなという感想の方が強く、すいちゃんに至っては笑いを堪えている。バレると消されかねないので、是非そのまま耐えて貰うとして。

 何とも言い難い空気に包まれたダイニング。恐らく唯一気まずさを抱えているであろうスバルは、何とかこの空気を打開しようと思ったようで、「それで」と話を続けることにしたようだ。

 

「何でそんなに親しげなの?」

「何でって言われてもなぁ」

 

 なんでなんだろう。

 こういうとすいちゃんに怒られそうだが、すいちゃんとは距離を置くつもりでいた。

 なんたって、今を時めくアイドルである。可能性は低くても、迷惑を掛けたくは無かった。

 だから、再会した夜、連絡先を聞かれても、交換する事はしなかったし、なるべくマンション方面へ近づくこともしなかった。

 必要なら縁切り。そこまではいかずとも、きっちりと一線は引くつもりで居たのに。

 

「すいちゃん、なんで?」

「んー……アンタ、ホロ学の劣等生。友達0人の大惨事。わたし、ホロ学の転校生。私の存在がマジ大事」

「無駄に韻踏みながら俺の事を罵倒しつつ重大情報流すのやめろ」

「ノリ悪いー」

 

 ブー、と不機嫌そうに、すいちゃんが唇を尖らせた。

 摘まみ上げてやろうかと少し思うも、流石に辞めておく。

 

「一般素人にいきなりラップ出来る訳無いだろうが。寧ろなんで、すいちゃんが出来るんだよ」

「考えといた」

「スバル。すいちゃんって昔からこうだから、俺以外に友達居ないから必死なんだ」

「残念でした。アンタと違って普通に居たから。アンタだって、私と先生以外に声掛けてくる相手居なかったでしょ」

「は? 居たが?」

「あれは絡まれてただけでしょうが」

「あー……二人とも、友達居なかったんすね」

「違いますけど⁉」

 

 過剰に反応したのはすいちゃんだった。俺は慣れっこなのでスルー。

 騙したなと俺を睨みつけてくるのを、受け流す。

 

「ところで」

 

 受け流した俺に対し、すいちゃんがさらに突っ込もうとするも、それより早く、シオンが割り込む。

 

「結局、こいつの子どもの頃ってどうだったの?」

「……別に、普通だったと思うけど」

 

 シオンの言葉に、すいちゃんが答えた。

 コップを手に取り、お茶を一口含み、唇とのどを潤し、喋る準備を済ませる。

 

「さっきも言ったけど、マジでこいつ、私と先生以外に声掛けてくる相手居なかったから」

 

 だからそんなことは一切無い。

 仮にそうなったのだとしたら、多分すいちゃんと遊ぶようになったからだと、果たして理解しているだろうか。

 すいちゃんは、昔を思い出しながら、言葉を続ける。

 

「マイペースっていうの? 周りに合わせる事をしなかったし、かといって自分が中心になって皆を引っ張るみたいな感じでも無かったから、普通に浮いていたわね」

「あー……」

 

 すいちゃんの言葉を受け、スバルの視線が俺へと向いた。

 

「なんか、分かる気がする」

「失礼な奴だな」

 

 去年の俺が腫れ物だった事については否定しないが、今はそんな事無いはずだ。

 

「本当ね」

「他人事みたいな顔するなシオン。お前もこっち側だ」

 

 フフンと、嘲りを浮かべるシオンへは、現実を叩きつける。

 

「ところで、そんな感じだったのに、良く仲良くなったね?」

「……あー」

 

 感心した様子のスバル。シオンも気になったのか、食って掛かって来るのを辞めた。

 俺は、スバルの言葉に何と答えるか暫し模索し、丁度いい言葉を思いつき、答えた。

 

「丈夫だったからな」

「はい?」

 

 俺の言葉に、訳が分からぬと、スバルとシオンと──すいちゃんが首を傾げた。

 

「お前が首を傾げるのはおかしいだろ!」

「てへっ」

 

 

 




前話、切る場所間違えた。

文章の構成はどちらがいいですか

  • 全部詰める(全話までのやり方)
  • 地文と会話文の間に改行を入れる(今回)
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