「すいちゃん、そろそろ帰らなくて平気?」
「え? もうそんな時間?」
パズルゲーの実力を遺憾無く発揮し、俺とスバルとシオンをぼこぼこにしているすいちゃんが、ゲーム中であるにも関わらず、時計を見上げた。
時刻は夕方の6時。門限としては、丁度いい時間である。時間を確認し、「あー」と声を漏らしたすいちゃんが、ゲーム画面へ視線を戻す。視線を逸らしている隙にと、攻撃していた俺達へ瞬く間にカウンターを決めて沈めると、伸びをしながら立ち上がった。
「良し、帰る。付き合え」
「はいはい」
最初からそのつもりだった。
日も短くなってきて、この時間は既に薄暗い。流石にその中を、1人で帰らせるのは気が引ける。
そしてそれは、もう1人にも言える訳で。
「スバルも送るよ」
「あー、私はいいよ。自転車で来たから。持ってなかったよね?」
「……そうだね」
「すいちゃんの事を送ってあげて。スバルは超特急で帰るッス」
にこりと笑うスバルに、申し訳なさを覚える。
「そうか。なんか悪いな」
「いいって。急に来たのは私なんだし」
「その原因を作ったのは俺だし」
「サイテー」
「他人事みたいに言うな」
元々、すいちゃんとシオンが切っ掛けのはずなのに、すいちゃんは持ち前の面の皮を見せる。
スバルは、俺とすいちゃんのやり取りに困ったように笑って。
「兎に角気にしないで。門限もギリギリだから、自転車を押して帰ると間に合わないし」
「……分かった」
頷く俺に、スバルが頷き返す。
「因みに門限って何時なんだ?」
「6時半!」
そこからは慌ただしく、スバルは急ぎ身支度を整えると、玄関へ向かった。
その背を追い、玄関へ。靴を履くスバルの脇を抜け、玄関の扉を開ける。
「大丈夫か?」
「へーき、へーき! 急げば10分位だから」
「それにしたって暗くなってきたし。事故とか気をつけろよ」
「了解っス!」
靴を履き終えたスバルが、玄関を抜けた。そのまま、脇に止めてあった自転車の下へ、腰を下ろす。
きっちり止められていた2つのロックを外すと、スバルは自転車を押して道路へ出た。
サドルへ跨りライトを点けると、俺の方へと手を振ってきて。だから俺も、同じように振り返した。
「じゃあ、また明日ね」
「ああ。またな」
短い挨拶を終えると、スバルは猛然とペダルを漕ぎだし、瞬く間に曲がり角へと消えていった。
速いなぁと感心しながら、視線を玄関へ。
そこでは、帰り支度を整えたらしいすいちゃんが、靴を履き終えたままの、腰を下ろした姿勢で、俺の方を見ていた。
何かあったのだろうかと思い、近づく。すると、すいちゃんが手を差し出して来た。
余りになれたその所作に、俺は思わず苦笑いを浮かべた。そんな俺に、すいちゃんがちょっとムッっとした表情を浮かべる。
「なんだお前」
「ごめんて。様になっているなって思っただけだよ」
「私の事をエスコートなんて、早々出来ないんだから、感謝してよね」
「される側の態度じゃないんだよなぁ」
「ん」
「はいはい」
上げられた手を差し出し、催促してくるすいちゃん。そんなすいちゃんの手を取り、俺は引き起こす。
「じゃあ、シオン。行って来る」
「はーい」
リビングに通じる扉から、ひらひらと揺れる手が見えた。
「じゃあ、行こうか、すいちゃん」
「それはそれでいいけど」
そう言ったすいちゃんが、手を持ち上げる。握られたままの、俺とすいちゃんの手が、視界へ入った。
「あの頃みたいに、手、繋いでいくの?」
「離し忘れただけだよ。それに、あの頃のすいちゃんは、繋ぐより掴むが正しいでしょ」
「記憶に無いわね」
覚えている奴の反応である。笑いながら、「それで」とすいちゃんへ言葉を返す。
「今日は俺の手を掴んでいく?」
「……生意気」
ぺいと、照れ隠しの様に、すいちゃんは強めに俺の手を払う。
少し意外な反応に俺が驚いていると、すいちゃんから手提げのポーチを押し付けられる。
「無駄にでかくなったんだから、荷物くらい持ちなさい」
「背が伸びたのはすいちゃんだって、同じじゃない。それに、無駄にっていう程、大きくなってないでしょ。何なら、もう少し欲しい位だけど」
「それは、私の首が疲れるからダメ」
「えー」
何故俺の身長をすいちゃんが決めるのか。
ふん、と顔をそむけたすいちゃんが、歩き出す。少し苦笑を漏らし、俺はすいちゃんの後を追い、隣へ並んだ。
***
保育園の一角には、使われていない小屋があった。
大きな窓のある其処は、晴れの日はぽかぽかと日当たりが良く。曇りの日は程良く薄暗く。雨の日はしとしとという雨音が響く。少年にとって心地良い場所だった。
そこで微睡みながら、絵本を読んで。やがてぽっくりと、電池の切れるように、眠りに落ちる。それが少年の日課であった。
誰かと共に居るでも無く、其処に居つく少年。そんな彼が悪目立ちしない筈も無く。彼に目をつける者は居た。
この日も、ぽかぽかとした陽気の中、ふわふわとした頭で絵本を読んでいると、その絵本が取り上げられる。
何も無くなった手を少年は暫し見下ろし、それから顔を上げる。少年の視界に、意地悪く笑ういじめっ子と、その取り巻きである2人が収まった。
「何やってんだよ、お前。この時間は外で遊ばないといけないんだぞ」
「「そーだそーだ!」」
寝落ち寸前の頭では、何を言いたいのか良く分からなかった。一先ず少年は、それらの言葉を無視する事に決め、傍らに置いてあった別の絵本を手に取った。
読み始めようとするが、それより早く、取り上げられる。再び、空っぽになった手を見る。
持ってきた絵本は2冊しかないから、すでに読み物は無い。それなら、まあいいやと、少年はその場に横になった。目を閉じ、そのままスヤスヤと、夢の中へ意識を移す。
「あ! おい! お前!」
「またかよ! 起きろよ!」
「起きろー!」
眠りに落ちる少年へ、語気を強くしたいじめっ子達の声が降り注ぐ。
だが、少年は目を覚まさない。規則正しい寝息が、いじめっ子達の耳朶を叩く。
「この!」
焦れたいじめっ子が、足を上げた。思い切り、踏みつけてやらんと、その足が振り下ろされる。
眠っている少年は気づかない。足が迫る。
あわやというタイミングで、いじめっ子の横顔を目掛け、小さなシャベルが思い切り振られた。
そのまま振り抜かれ、片足を上げていたいじめっ子は、手下の1人を巻き込み、そのまま倒れる。
唯一巻き込まれなかった取り巻きが振り返り、下手人の姿を見とめ、顔を歪める。
「ほしまち!」
「は?」
悪びれる様子無く、睨み返すすいせい。そんな中、倒された2人も立ち上がり、すいせいを睨む。
だが、人数不利をものともせず、強気な態度を崩さない。
一触即発の空気の中。すいせいが視線を少年の方へ向ける。
「おーい、起きろー」
すいせいが声をかける。すると、もぞもぞと、眠っていたはずの少年が、体を起こした。
暫しぼんやりと周囲を見渡し、いじめっ子とすいせいの姿を見ると、面倒くさそうな顔をして、再びゆっくりと横になった。
「寝るなー!」
「……すいちゃ、眠い」
「後で寝なさい! ほら、行くわよ!」
「今、寝たい」
「……あ゛?」
どすの効いたすいせいの声色に、びくりといじめっ子達の肩が震わせる中、数秒と経たず、先程までと同じ規則正しい寝息が、聞こえてきた。
「すげぇ」
いじめっ子が、驚きと呆れの混ざった声を上げる。そんないじめっ子の脇を、すいせいが抜けた。
少年の脇へ屈むと、その顔を叩く。
「起きろー! さっさと行くわよ!」
数度顔を叩かれて、少年が幾許の反応を見せた。ぼんやりとした目をすいせいへ向け、何だとばかりに再度目を閉じ、寝返りを打つ。
その姿に、すいせいはゆっくりと立ち上がった。がっしりと、少年の足首を掴むと、いじめっ子達の方を振り返る。
「どきなさい」
改めて、今度はしっかりと向けられた声に、いじめっ子達が道を開けた。
すいせいが歩き出すと、寝たままの少年は、特に抵抗は見せず、そのままずりずりと引きずられる。
自分達より、余程の事をしているじゃないかと、いじめっ子達がジト目を向ける中、引きずられていた少年の顎が、扉のヘリに引っかかる。
微かな抵抗に、一瞬動きを止めたすいせいが、振り返る。少年を見て状況を察し、そのまま力を込めて引っ張た。
扉のヘリで、少年の頭が跳ね上がる。数秒の滞空。落下。
ゴンッっと鈍い音が響く。
びくりと、いじめっ子達だけでなく、その音を聞いた者達の肩が跳ねた。
唯一何も無かったのは、引っ張っていたすいせいと、引っ張られている少年。
流石に痛かったらしく、少年が顔を上げた。それに気づくことなく、すいせいはずりずりと、そのまま少年を持っていく。
引きずられながら、きょろきょろと辺りを見る。それで状況を察したらしく、ふわりと欠伸を漏らし、ぱたりと首を倒した。
運搬は止まらず、すいせいはそのまま少年を運んでいく。向かっている先は、いつもの建物の裏手の様だった。
やがて、すいせいと少年が、建物の影へと消えていく。
それを見て、いじめっ子達は自然と揃い、溜息を漏らした。
「こえーよ、ほしまち」
「いや、やばさで言ったら、あっちも相当だよ。なんで寝てられるのさ」
「アイツに勝てないと、ほしまちには勝てないよなぁ」
無理じゃないかなと思いながらも、「そうだね」と同意する。
「……あの2人、いつもあそこに行くけど、何やっているんだろうね?」
「「……」」
その言葉に、いじめっ子達は顔を見合わせる。
三人一様に頷き、三人はすいせいと少年の消えた方を目指す。
押し合いへし合い、抜け足差し足忍び足。出来る限りこそこそと、目的地を目指す三人。
「早く歩けよ」
「ちょっ、押さないでよ!」
「静かに! バレちゃうから!」
やがて目的地に着いた三人は、こっそりと、その奥を覗き込み。
般若のような表情のすいせいと、目が合う。
「……なに?」
「「「ギャー、出たー⁉」」」
「ハァ⁉」
すいせいが捕まえるより早く、我先にと、いじめっ子達が逃げ出した。
追いかけようとすいせいが身を乗り出すが、悲鳴で目覚めたらしい、少年が体を起こす。
しばし、ぼんやりし、それからすいせいの姿を見つけると、へにゃりと表情を崩した。
「おはよ、すいちゃ」
「……おはよ。よく眠れたみたいね」
「寝づらかったよ」
ふわり欠伸を漏らす少年。
その姿に、すいせいは溜息を漏らし。
次の瞬間には、表情の険が取れていた。
「ほら、準備しなさい」
「うん」
文章の構成はどちらがいいですか
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全部詰める(全話までのやり方)
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地文と会話文の間に改行を入れる(今回)