ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
癒月ちょこ


転校初日、指導室

 先生に連れられ、授業中の校舎の中を歩く。

 聞こえてくるのは、授業の解説をする声程度。

 独り言を言ったら聞こえちゃうかなと思い、少し歩くのを遅らせ、距離を開ける。

 

「――タロ」

『わん?』

「すいちゃんのとこに居てあげて」

『わん』

 

 肩からぴょいと降りたタロが、すたすたとすいちゃんの元来た廊下を戻っていく。

 その小さな体を見送り、俺は少し歩く速度を上げて先生に追いついた。

 足音に気が付いたのか、先生がちらりと振り返り俺を確認。そのまま直ぐに振り返り、その後は終始無言のままで廊下を歩き、つくのは生徒指導室。

 指導されるような事は無いんだけどなぁと思う俺を後目に、先生は扉を開けた。

 

「先に入って待ってろ」

「あーい」

 

 言われるがまま、素直に入る。

 一方先生は入らず、むしろ引き返して、指導室近くの職員室へと入っていった。

 他の先生でも呼んでくるのだろうか。初犯……では無いかもしれないが、無実の罪なので、三者面談は勘弁して貰いたい。

 座っていていいものかもわからず、とりあえず暇つぶしがてら、魔力を操る練習をする。足に集め、ジャンプしたり反復横跳びしたりと、ぴょんぴょん動く。

 文字通り体が軽い。重力が減った気分。だが、それに合わせて、目が霞む。

 いまいち、両方ともはうまく出来ない。

 

「んー?」

 

 目と足のどちらも意識すればいいのかもしれないが、ピンとこない。

 片足立ちのまま、グラグラと体を揺らす。

 

「やじろべえ?」

 

 そんな俺に急に声が掛かって、吃驚してこけた。

 ぶつけた場所をさすりながら顔を上げると、ちょこ先の姿。

 どうやら1人の様で、両手には湯気の立つマグカップ。

 

「ちょっこーん。珈琲、ブラックでいい?」

「え? あ……大丈夫です」

 

 どういうことなのか分かっていない俺を置いて、マグカップを置いたちょこ先は、指導室の戸を閉め、席に着いた。

 

「君も座って」

「あ、はい」

 

 訳の分からぬまま、席に着くと、マグカップが差し出された。

 中身はやはり、珈琲である。

 

「飲んでいいわよ」

「……いただきます」

 

 最近の生徒指導では珈琲が出る物なのだろうか。

 少し冷ましてから、口に含む。普通のインスタントのそれだった。

 暫し無言のまま、お互いに珈琲を飲む時間を挟み。

 その無言の時間に耐え兼ね、口火を切ったのは、俺だった。

 

「何でちょこ先が生徒指導を?」

「あの先生、本来授業中だったから、たまたま職員室に居た私が代理でね」

「……でも、生徒指導は指導担当の先生がいるのでは?」

「その先生も授業中」

「成程」

 

 ならしょうがないかと、思う中。「それで」とちょこ先。

 

「実際の所、どうなの?」

 

 その声色は、少し気まずそうな感じだった。

 

「なんか、厄介オタクとかストーカーとか勘違い野郎とかぼろくそ言われて、取り押さえられたらしいけど。体は大丈夫? 怪我とかない?」

「怪我とかは特に。暴言については断固無実です。俺はすいちゃ――星街さんの幼馴染ですし、朝は事前に約束をしたうえで、一緒に登校しています。……まあ、何故か怒らせてしまったらしく、転校の挨拶では無関係と言われてしまいましたが」

 

 自分で解説して、少しダメージをうける。流石にショックだった。

 

「成程ねぇ」

 

 ちょこ先が珈琲を一口飲んで、唇を湿らせる。

 

「まあ、私は朝、貴方とすいせい様が一緒に登校している姿を見ているから、貴方の言っている事が間違いとは思っていないわよ」

「そうなんですか?」

「ええ。幼馴染かどうかは兎も角、流石にあの光景見て、無理矢理付きまとっていたとは思わないわよ」

 

 それはありがたい。信じて貰えるだけましだ。

 

「あの先生も、貴方が妄言を吐いているとは思っていないみたい。ただ、あの場を締めるには、これが一番早かったから勘弁してくれって」

「それはまあ」

 

 あの後、言葉通り大人しく廊下に出た俺は、畳んでやるとばかりに取り囲まれた。

 少々懐かしさすら覚えたのだが、それは兎も角として。かなりのパニック状態だったから、あのままだと大なり小なり、怪我人はでただろうし、窓が割れたり等の被害も出た可能性がある。

 あの場を収めるには、渦中の俺がきちんと裁かれる方向に進む方が良かった。それは間違いないから、先生の判断に対して何も言うことは無い。

 

「……」

 

 ただ、先生に付いて行き際に向けられた視線を思い出して、珈琲を啜る。

 そんな俺の前で、同じように珈琲を啜ったちょこ先は、表情を一変させ、真面目な顔になる。

 

「とりあえずは今日は此処に居てって。教室には戻らなくていいそうよ」

「嫌ですけど」

 

 百鬼との約束もある。さっさと戻りたい。

 だが、そんな俺の気持ちに反し、「此処に居なさい」と再度強く言われる。

 

「すいせい様が転校してくるにあたって、教師陣でもどうするかって話し合いはあったの。それで、何らかの形ですいせい様と関わった別の生徒へヘイトが集まるのも予期はされていた。

 ただ、ちょっとした嫌がらせくらいだと思っていて、ここまでの想定してなかったの。今、貴方のことを野放しにしたら、闇討ちまでありそうじゃない?」

「俺は別に構わないですけど」

「そういう訳に行かないでしょ」

 

 ちょこ先があきれた様子を見せる。

 

「兎に角、大人しく今日は1日此処に居なさい。放課後に改めて教師陣が話し合って、どうするか決めるから」

「大丈夫です」

「は?」

「俺に何かあって文句の言う親は居ません。やりすぎなければ、相手も後ろ暗いでしょうから、問題になることもないでしょう。教室戻ります」

「ちょっ!」

 

 生徒指導室より出ようとするが、それより早く追いつかれ、羽交い締めにされる。

 背中に驚くくらい柔らかい何かが当てられ、吃驚して固まる。その隙に俺はちょこ先に引っ張られ、椅子に戻された。

 肩を抑え、立ち上がれないようにしながら、先生は俺の前へと回り込んだ。

 

「貴方、強情過ぎよ」

「が、我を貫く所を弁えて居るだけです」

「ここはちがうでしょ」

 

 そう言い、ちょこ先が溜息。

 

「ちゃんとどう思うか考えてあげて」

「誰がですか」

「すいせい様よ」

「……へ?」

 

 意外なような、そうではないような名前が出てきて、虚を突かれる。

 

「私は貴方達が幼馴染かそうじゃないかは知らないけど、あの光景見ていれば仲が良い事くらいは分かるわ。そんなすいせい様が、今の貴方にどう思うか、ちゃんと考えてあげて」

 

 ちょこ先が俺から手を離した。立ち上がろうと思えば立てたが、そんな気分にはなれなかった。

 

「私は保健室に戻るから。大人しくしていなさいね。喉乾いたとかがあれば、授業中にでも、こっそり抜け出して」

「……」

 

 無意識に、首が縦に動く。それを見て、「よろしい」とうなずいたちょこ先が、自分の分の珈琲を飲み切り、指導室を出て行った。

 後に残された俺は、背もたれに身を預け、天井を仰ぐ。

 まさかすいちゃんの名前が出てくるとは思わなかった。

 俺の方は、同じ学校に通えるのが嬉しくて舞い上がり、盛り上がっていた。

 2度と会えないと思っていたからこそ、余計に。なんたってすいちゃんは初めての友達だった。

 だから、すいちゃんには楽しい学園生活を送ってほしくて。

 ただすいちゃんは凄いから、きっと大変だと思って。

 その大変さの少しでも、肩代わり出来れば――いや、違うか。

 

「全部どうにかしようと思った」

 

 すいちゃんに向けられる物を、どんな形でもいいから俺に向けようと思った。

 

「すいちゃんの気持ちかぁ……」

 

 俺と再会した時、一緒の学校に通えると分かった時、一緒に登校した時、ついさっき。

 すいちゃんがどう思っていたのだろう。

 喜んでいた? 楽しんでいた? 悲しんでいた?

 

「難しいなぁ」

 

 例えば今朝の登校の時。一緒に道を歩いていたすいちゃんは、何を考えていたのだろう。

 

「怒ってはいなかったよね。笑っていたし、ドヤっていたし」

 

 先生からして、仲が良さそうに見えたというのなら、多分楽しんでいた、と思う。肩を並べて、話しながら。たまに蹴りが飛んできたり、不機嫌になったりはしていたけれど、概ね満足気だったと思う。

 昨日遊びに来た時も、再会した晩も。すいちゃんの機嫌はジェットコースターのように無秩序に加速度的に変化はしたけど、トータルでいえばプラスだった……はず。

 少なくとも、再会してから生徒会室までは怒る事は無く、見せていたそれは保育園時代と同じ、じゃれあいの一環、延長線のそれでしかなかった。

 

「じゃあ、ついさっきは?」

 

 生徒会室で会った時は、間違いなく怒っていた。

 本格的に怒ったのは入ってからだけど、入る前から機嫌は良くなかった。 

 単純に考えるなら校門から生徒会室までの間に嫌な事があった、とかだと思う。だが記憶の限り、すいちゃんは八つ当たりのような事はしない。やるのは報復だ。

 だから、俺に怒って、あんな事を言うという事は、間違いなく俺が怒らせたのだ。

 だが、やはり分からん。そもそも会っていないのに怒る理由が分からん。

 

「……んー?」

 

 直接聞こうか。しかし、会話をして貰えるか怪しい。

 後は、事情を知っていそうなのは天音先輩だけど、真面目なあの人の事だから、スマホを持ち歩いていたしても、学校にいる間は原則電源は切っているだろう。

 とりあえず、次の休憩時間に合わせてすいちゃんにメッセージは送るとしても、返信が来るかは怪しい。正直八方手づまりだ。結局自分で考えるしかなさそう。

 

「しかし、暇だなぁ」

 

 自習しようにも教材は無いし、普段なら授業中と思うと、スマホも弄りづらい。

 寝てようかなと思い、椅子を持って日当たりのいい窓際へと移動する。

 窓からグラウンドが見えた。何処かのクラスが、マラソンをしているのが見える。

 

「寒い中大変だなぁ」

 

 秋も更け、冬の到来を感じるようになってきたから、猶更だ。

 そろそろ鍋でも作るかなぁとぼんやり思いながら、背もたれに身を預ける。

 ぎしりと、椅子が軋む音。しっかりと身を支えてくれる。

 そのまま目を閉じ、力を抜いて。意思が沈む感覚――。

 がらりと、戸が開く音。

 

「寝て無いですよ!」

 

 慌てて飛び起きる。急な動きに若干の頭痛を覚えながら、入口の方を見た。

 見覚えのない、大柄な男子生徒の姿があった。観察するに、どうも先輩らしい。

 

「……?」

 

 何なんだろうと思う俺に、先輩は無言で近づいてくる。

 思いがけぬ状況に、椅子に座ったまま、成り行きを見守る俺。

 先輩はそのまま俺の前に立つと、俺の事を見下ろした。

 

「あの……」

「……」

 

 困惑する俺に対し、徐に振り上げられる拳。

 俺の拳より一回りか二回り位大きなそれだ。

 

「あー……そういう感じか」

 

 漸く脳が状況に追いつき、そんな事を呟いた直後。

 岩をも砕けそうなその拳が、俺めがけて振り下ろされた。

 




7月更新予定は
火水のどちらかと土日のどちらか
の週2回になります。

今月もよろしくお願いします。

文章の構成はどちらがいいですか

  • 全部詰める(全話までのやり方)
  • 地文と会話文の間に改行を入れる(今回)
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