紫咲シオン
「……で?」
「ん?」
「何を買いに来たの? それに、なんでそんなボロボロなわけ?」
場所を移動し、病院──ではなくホームセンター前。
俺が着くと、シオンは既についていて、自販機脇で飲み物を買って屯していた。
声を掛けながら近づくと、上の通りに声を掛けられたのだ。
「そんなかな?」
「少なくとも、何事も無く帰って来た様子では無いでしょ」
溜息をつき、シオンは周囲を見渡すと、えいやと魔法陣の中に手を突っ込んだ。
数秒で引っ張り出したのは、俺の上着。それを俺へと差し出してくる。
「ん」
「悪い、助かる」
制服のジャケットを脱ぎ、上着に着替える。
ジャケットは、シオンの魔法陣の中へ、ぽいと捨てられた。
「さっさと帰りたいし、買い物するなら、さっさと終わらせましょ」
「ああ。悪いな。流石に大荷物になりそうで、持ち帰れなさそうだったから」
共にホームセンターへ入る。
買い物カートに籠を入れ、店内マップをチラ見して、大体の場所を把握。其処を目指す。
「で? 何を買いに来たわけ?」
「DIYの材料とか道具とか……その他色々」
「……は? DIY? そんな趣味あった? いや、そもそもそれなら、学校さぼってまで買いに来るもんじゃないでしょ」
「急ぎで使いたくて」
「???」
疑問符を浮かべるシオン。
そんなシオンを引き連れ、ホームセンターの中を進む。
今まで特に大工作業とかはしたことが無く、最後にしたそれっぽい作業は、シオンが家に住むことになった時、彼女の部屋に置く為、バラバラに届いた家具の組み立て位。しかしその組み立ても付属のレンチで事足りた。
その後も地味に物が増えたりしているが、増えた物は誰かしらの私物でしかなく、そういった作業とは無縁だった。
出来るもんかなぁと、若干不安を憶えつつ、一先ずのこぎり売り場へ。
「……どれがいいと思う?」
「いや、のこぎりの善し悪しなんて、私が分かる訳無いでしょ」
「そりゃそうか」
最後に見たのは小学校の頃だった気がする。その時に見たのは、のこぎりの定番みたいな形だったが、今は細身だったり折り畳めたりと、最近ののこぎりは色々あるらしい。
大人しくスマホを取り出して、タプタプと画面を押して操作し調べる。
「んー、また使うか分からんけど、でかいのは邪魔になるか」
「アンタの部屋、物殆ど無いんだし、別にいいんじゃないの?」
「部屋にのこぎり仕舞っておきたくないなぁ」
という訳で、素直に折り畳みの物を選び、籠へ入れる。
移動再開。そのまま大工道具のコーナーを回り、スマホとにらめっこしながら、釘やら金槌やら選ぶ。
籠に入れられていく道具を前に、シオンは訝しんでいる様子。
「本当にDIYの道具を買いに来てるのね」
「だからそう言っただろ?」
「アンタの事だから、自称DIYってだけで、全く関係無い物を買いに来たのかと」
「流石に無いわ」
無い……無いかな?
「後はんーと……」
指折り、購入予定の物を数える。
普段と違って勢いの買い物だから、買い忘れとか買い過ぎとかありそうで地味に怖い。
視界の端で、シオンが興味無さげに棚の商品を手に取り、暫く眺めてから戻すを繰り返していた。
「ねえ、帰ってもいい?」
「だめ。寧ろ帰る時に頼りたいし」
「荷物持ちって事? 私、お箸より重い物持てなーい」
「持たなくていいけど、運んでは欲しい」
「運ぶって何をよ」
「これ」
最後の売り場につき、購入予定の物を指差す。
それを見て、シオンの表情が今日一番の怪訝な顔をした。
「アンタ、学校サボって、これ買いに来たの?」
「だから、DIYの道具と材料って言っただろ?」
「……配送とか」
「今日使うんだ」
寧ろ今日しか使わないまである。
という訳で、メインの買い物である木材のコーナーである。
「えっと、この板と……シオン。太さどうしよう?」
「いや、知らないけど。え? 設計図とか無い訳?」
「思い付きで行動しているしなぁ」
「一旦止まりなさい」
上着の襟首を掴まれ引かれる。
ぐえと呻く俺をよそに、箸より重いものは持てないシオンが、片手で俺を引きずりながら、買い物中のカートを押して移動。入れていた物をさくさくと棚に戻していく。
そうして、全ての商品を元の位置に戻し終えると、そのまま売り場から出て、風除室を抜け、ホームセンターからも出る。
その足で、向かうは先程合流に使用した自販機脇のベンチへ運ばれ、其処に座らされた。
シオンがポケットに手を入れ、財布を取り出す。あまりに見覚えのあるその財布に、俺はポケットを探った。無かった。
「スリかよ」
「アンタの分なんだから、アンタの金で買うのは当然でしょ」
財布から取り出した小銭を数枚自販機へ入れて、ボタンを押すシオン。
購入したら水のペットボトルを取り出して、俺へと投げ渡す。
「とりあえず一息つきなさい」
そう言いながら、自分はリンゴジュースを取り出し、封を開ける。
おかしい。あのリンゴジュースの購入に自腹を切った様子が無かったのだが。
納得のいかない気持ちになりながら、俺も封を切って、水を飲む。
切れた口内に染みたが、喉が渇いていたらしく、3割ほど一気に飲み干した。
「少しは落ち着いた?」
「とっても」
そのせいで、ずきずきという体の痛みも思い出したが。
落ち着いたせいで、アドレナリンの分泌が止まったのだろうか。
痛み出した頬にペットボトルを当てて、リラックスする。
「それで?」
「んー……実は──」
今朝からここまでの話を、シオンへ語る。
変に隠し立てはせず、全て。
聞き終わった後、シオンは溜息を漏らした。
「そんなところじゃないかと思ったけど」
「まじ?」
「すいちゃんと揉めた所は予想通りよ」
「殆ど分かって無いだろ」
何なら始めも始めだ。どうしてこんなドヤ顔出来るのだろう。
「で、朝からの一件は分かったけど、それと何でホームセンターが繋がるのよ」
「えーっと」
考えていた作戦を伝える。結果はペットボトルによる殴打だった。
衝撃はあったが、別に痛くは無い。
「何すんだよ」
「いや、目が覚めるかなって」
「バチバチに起きているんだが」
「残念なのは頭だったわね」
めっちゃ失礼。
「それ、効果あると思う?」
「んー……どうだろ?」
「何でこんな真っすぐな目を出来るの」
分からないと首を横に振るシオン。
「仲直りの効果っていうよりは、とりあえずここからって感じなんだよね」
「そこから?」
「俺がすいちゃんと良く過ごしていたのって其処からだったからさ。仲直りはそこかなって」
「ふーん?」
俺の言葉に、シオンが首を傾げる。シオンには話したことが無いから、反応は予想通りだった。
「……まあ、考えは何となく分かったけど、実際、間に合う訳? アンタ、この手の事、やった事あるの?」
「何を隠そう、小学校の図工の時間以外でやった記憶は無い」
「無理でしょ」
無理かな。
「私だって全然だけど、最低限、寸法測ったりする必要がある事は分かるし。それすらしてないでしょ?」
「思い付きだから、設計図すらない」
「他の作戦にしましょう」
全却下だった。
まあ、話をしていて不安になってきたから、俺もとりあえず別案を考える事に決める。
「というか、そんな難しく考えず、普通に話せばいいんじゃないの?」
「でも近づけ無さそうなんだよなぁ」
「……近づけないなら、どうやって誘い込むつもりだったわけ?」
「言い方」
罠みたいな言い方しないでもろて。
「まあ、昔のすいちゃんみたいに無理矢理とか」
「アンタ達、どんな保育園時代を過ごしていたのよ」
寝ている俺を叩き起こして連れまわす、健全な関係である。何処で寝ていても何故かバレた。
「普通に連絡取って、家に呼べばいいじゃない」
「怒ってるから、呼んでも来てくれ無さそう」
「なら乗り込むとか」
「不味くない?」
姉街さんと2人暮らしとはいえ、アイドルの家に男が上がりこむのは、世間体的に良くないと思う。
「やっぱり学校で捕まえる方が現実的じゃないかな」
「でもアンタ、有名人なんでしょ?」
「まぁね」
「近づく前に妨害されたら意味無いじゃない」
「そこは……こう……良い感じに?」
「無理そうね」
無理……無理かなぁ。
「すいちゃんが近づく事を我慢出来ない状況にして、後は抱えて逃げるとか」
「そんな状況作れるわけ? それに、何処に逃げるのよ」
「んー……」
背もたれに身を預けて、空を仰ぐ。
朝と違い、曇天に覆われた空が見えた。
まるで俺の心の様と、ふざけたことを考えた直後、水滴が俺の額を叩く。
そのまま継続して、2度、3度と叩かれ、やがて雨へと変わる。
「わっぷ」
慌てて身を起こす。シオンの方を見れば、ちゃっかり傘を差していた。
さっきまでは持っていなかったから、この一瞬で取り出したのだろう。
「俺の分は!?」
「近くに無かったのよ」
「じゃあ、せめて入れてくれませんか!?」
「仕方ないわねぇ」
このクソガキという思いを心中に押し込めて、立ち上がってシオンに近づく。
差し出された傘を受け取り、シオン側に傾けて差す。
「今日降水確率10%位だったんだけどなぁ」
「なら、通り雨じゃない? 直ぐに止むでしょ」
「それもそうか」
傘を雨粒が叩く音を聞きながら、空を見上げる。
曇天はそんなに厚くは無い様で、確かに直ぐに止みそうだ。
──雨か。
そういえば、あの日も雨だった気がする。
まあ、雨に加え、暴風が吹き荒れ、雷鳴が迸る、季節外れの台風の様な状況だったけど。
「……そうか。あそこがあったな」
「え?」
「すいちゃんを連れ込む場所」
「言い方」
シオンのツッコミを流しつつ、算段をつける。
「──ん。よし、逃げきれれば行けるな」
「……」
呆れ顔のシオン。そんな彼女へ笑って返す。
「ありがとな。付き合ってくれて。夕飯は期待してくれ」
学校へとんぼ返りしようと考え。傘をシオンへ返し、走り出そうとする。
「待って」
そんな俺の服を襟を、シオンにがっしり掴まれた。ぐえ、と再び息が詰まる。
「何んだよ?」
「その前に病院に行くわよ」
「……」
何故それをと思う俺に、差し出されたスマホ。
ちょこ先からのメッセージが表示され、其処には俺が先程説明した顛末に加え、『病院に連れて行くように』との文字。
「いつの間に?」
「アンタからの連絡来た直ぐ後」
「やだやだやだ!」
「子どもか」
ずりずりと引きずられ、そのまま再度移動を開始。
通り雨だったらしく、いつの間にやら雨はやみ、雲の合間から光が照らしていた。
「……なあ、シオン」
「何?」
「夕飯何が食べたい?」
「……考えとくー」
シオンちゃんと無限にお話してるだけの回とか書きたい。
文章の構成はどちらがいいですか
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全部詰める(全話までのやり方)
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地文と会話文の間に改行を入れる(今回)