ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
紫咲シオン
きんつば(⁉)
???


転校初日、道中

「……とりあえず、大丈夫そうだね」

 

 肩のレントゲン写真やエコー写真を見ながら、見慣れた巻き角のドクターが、そう言った。

 

「骨折は無し、筋肉と神経も大丈夫そうだ。ただ、脱臼を自力で治すのは感心しないから、応急処置はして、しっかりと外れたままで病院来てね」

「せめて気をつけるようにって言いません?」

「君の場合はそもそも怪我するなっていう方が無茶でしょ?」

「……」

 

 人の事を何だと思っているのか。

 

「紫咲さんも注意してあげてね」

「いや。私、こいつの保護者とかじゃないから」

「寧ろ俺が保護者ですけど」

「……気をつけてあげてね」

「「あ、はい」」

 

 残念ながら頷くまで進まなそうなので、シオン共々、素直に頷く。

 

「はい。じゃあお大事にー」

 

 ひらひら手を振るドクターに頭を下げて、シオン共々部屋を出る。

 

「あの人、結局何の先生なんだろうな」

「さあ?」

 

 来る度にお世話になっているが、相変わらず謎だ。

 

「さて。とりあえず俺は学校に戻るわ。すまんが払っといて貰えるか?」

「──手を出して」

「ん?」

 

 差し出すと、それを握られる。

 何かと思う俺の手が、ぬくもりに包まれた。

 シオンの手のそれだけではない。何か流れ込むようなそれは、魔力の流れと同じだった。

 

「シオン?」

「おまじない。良いから受け取っておきなさい」

「はーい」

 

 流れ込んでくるそれを受けると、成程、力が満ちてくるのを感じる。

 

「ありがとうな」

「まあ、保護者だからね」

「おっと、そうだった。じゃあ、保護者さん。ついでに夕飯作るのと、風呂掃除と洗濯もしておいてくれ」

「私は保護される者で保護者だから」

「それは被保護者っていうんだよ」

 

 ツッコミを入れている間に、シオンの手が離れる。

 体は軽く、力が漲っていた。服の下が包帯だらけとは思えない。

 今なら後輩の先輩の拳を受けても反撃出来そう。

 

「助かる。これなら何でも出来そう」

「とはいえ傷が治っている訳じゃないんだからね」

「ああ」

 

 とはいえ、体の内側には一先ず異常は無く、有るのは外側の打撲位。

 それが分かっているから、シオンも強くは言って来ない。無駄だからとも、思われていそうだが。

 

「それじゃあ、改めて行って来る。支払いだけ頼んだ」

「はいはい」

 

 ひらひらと手を振るシオンと一方的にハイタッチして、俺は病院を出て走り出した。

 レンタルサイクルを借りること無く、そのまま敷地を飛び出す。

 景色を置き去りにすると言うと大袈裟だが、それなりのハイペースで走っているが、速度の維持は出来そうだ。これなら、5限の途中、遅くても6限の頭には学校に着けそうである。色々準備をして、待ち伏せする余裕はありそうだ。

 何か小道具でも用意しようかなと、そんな事を考える。

 

「──ん?」

 

 視界の隅で何かを捉えた。

 園内にてはしゃぐ子どもや、その保護者と思しき人達が居る、小さな公園。

 かつて憧れ、あきらめた光景の広がるそんな公園内の片隅に、ぽつんと置かれたベンチ。時の流れを感じさせる古びた木製ベンチには、不思議と誰も近寄らず、ぽつんとエアスポットの様になっていて。

 そのベンチにはある小さな存在が、肩を落として座っていた。見つけてしまった以上は無視も出来ず、俺は行先を公園に変える。

 本来なら授業中の身。何故という視線に晒されながら、俺は公園内を進み、ベンチへ向かった。

 

「きんつば」

 

 声を掛ければ、白と黒の配色の、パンダ(っぽい)の精霊、きんつばが顔を上げた。

 初めて会った時もこんな感じの出会いだったなぁと思っていると、きんつばが俺に飛びついてくる。

 この飛びつきも2回目か。不意打ちでなければ、小さな体の突撃くらい、余裕で受け止められる。

 

「おー、よしよし。なんだ、また迷子か」

 

 こくこくと、俺の胸元に顔を押し付けながら、きんつばが頷く。硬いだけだろうにと思いながら、きんつばの頭をなでる。

 周囲を見渡す。パッと見、フレアさんの姿もノエルさんの姿も無い。流石に置いて去る選択肢は無かった。

 

「きんつば、そういえば、なんか遠くの相手と話をする魔法を覚えて無かった?」

 

 以前の迷子を切っ掛けに、確かそんな魔法を覚えたという話を聞いていたし、実際に使うところも見た。

 記憶が正しければ、連絡前も連絡中も、滅茶苦茶集中しなくてはいけないから、移動することが出来ない、という事も覚えている。

 そして、公園での様子を見た限り、移動していなかったようだから、連絡が出来ているのではないかと思ったのだが。

 そんな俺の疑問にきんつばが答える。さっきまで繋がっていたらしい。俺を見つけてうれしくなって飛びついたら切れたとも。

 

「なんかごめん」

 

 俺の言葉に、きんつばが首を振る。どうも、普段の行動圏から外れてしまい、きんつば自身、場所を伝えようにも、自分がどの辺りにいるのか分かっていないらしく、この辺りは住宅街だから目立つ物は無いから、連絡がついても迎えは望み薄らしい。

 次は地図の魔法とか覚えるか、スマホでも手に入れて貰うとして、とりあえず今どうするかを考える。

 置いて帰るのは無し。とはいえ、一緒に待つのはいつになるか分からない。時間の余裕が、俺だって凄くある訳でもない。一旦きんつばを一緒に学校へ連れて行くのは……そっちの方がリスクがあるか。

 合流の目印にしつつ、いい感じにきんつばを預けられる相手。悩んでいると、先程お世話になった巻き角のドクターが脳裏をよぎり、わための姿を思い出した。

 今日も恐らく駅前にいるだろう。ここからだと、学校へ向かう道から外れてはしまうが、きんつばを預ける相手として、これほど適した相手もいない。

 

「よし、きんつば。今から駅前に行ってわためと合流するって伝えて貰えるか?」

 

 俺の言葉に、きんつばがぴしりと敬礼を返し、難しい顔へ変わる。

 むむむと力の入った表情に、魔法を発動していることを感じていると、ふわりときんつばの体が落下を始め、俺はそれを受け止める。

 きんつばはこのままでいいだろう。一先ず抱えたまま、駅を目指そうと振り返る。

 

『……』

「……」

 

 公園でさっきまで遊んでいた子ども達に取り囲まれていた。じっっとこちらを見上げている。少し離れた所では保護者の方たちが、こちらを見てこそこそと何かを話している。

 そりゃ、この子達にはきんつばは見えないだろうから、他所からしたら、俺は急に公園に入ってきて、空のベンチとお話をしているやばいやつだろうなと、冷静な頭がそう結論付ける。

 

「おにーさん、誰とおしゃべりしてたの?」

「お友達の精霊さんかな」

「どこにいるの?」

「今腕の中にいるよ」

「うそだー! 全然いねーじゃん!」

「目に見える物だけが真実じゃないのさ」

『えー……』

 

 ジト目、もしくは腕の中身を透視しようと試みる、熱心な目を向けられる。

 お兄さん的には、知らない人とあまりおしゃべりするのは感心しないのだが。助けを求め、保護者達の方へ視線を向ける。

 保護者勢はイマイチどう対処したものかと悩んでいるらしい。俺の挙動が怪しいのは言うまでもないが、見た目は学生程度の歳。子ども達の方をじっっと見ているとか、隠し撮りをしている様子があるわけでもない。ただただ挙動が怪しいだけ。

 人によってはそれだけで充分とばかりに通報したり、そこまでいかずとも難癖染みた注意をしてきたりするものだけど。

 ここにいる人は常識人が多いようで、警戒はすれど、難癖や通報まではいかないらしい。

 本当にどうしたらいいのか分からない、目の上の瘤のような存在であることは、間違いないらしいけれど。

 

「とりあえず、お兄さんは急いでいるから、ここら辺でね」

 

 こういう時は、さっさと立ち去るに限る。

 一足に、ベンチを飛び越え、そのまま駆け足。左右を確認して、車通りの無い事を確認し、柵を飛び越える。

 着地&ダッシュ。一息に駅前目指して走り出す。

 

「はえー! すげー! かっけー!」

 

 うそだーの男の子のはしゃぐ声が聞こえてくる。

 懐かしい。自分もあれくらいの事は、やたら足の速い人に憧れた記憶が……ないな。

 運動神経とかにはあまり憧れなかった。ついぞ俺が憧れていたのは、雲を吹き飛ばせる子だった。

 

 ──さて。

 

 住宅街を抜け、大通りへ。

 平日日中とあっても、大通りともあれば流石にある程度の人通りはある。速度を落とし、人の隙間を縫いながら、先を急ぐ。

 

「お?」

 

 きんつばから声がかかる。フレアさんとの連絡がついたらしい。

 待ち合わせの件、了解とのこと。幸い、そう離れては居ない様で、直ぐに向かえるそうだ。

 それなら、出会ってすぐにきんつばを渡せそうか。多少遠回りはしたが、これでもまだ余裕はある。

 数段飛ばしに、歩道橋の階段を駆け上がる。そのまま転回。一気に走破しようとして、正面から歩いてくる相手に気が付いた。

 歩道橋の横幅はそう広くない。勢い良く駆けるのは、流石に迷惑かと思い、速度を落とす。

 しかし、全然疲れない──というと、流石に語弊はあるが、実際余裕はある。

 流石、シオンのお呪いはよく効──。

 

『わん!』

「──⁉」

 

 タロの一吠えに、慌てて屈む。直後、頭上を、何かが横切っていく。

 

「ほえ?」

 

 それなりに切迫した状況の中、上から聞こえてくるのはノエルさんの声質に近い、聞き覚えがある気がする、どこか気の抜ける声。

 声色から感じるのは戸惑い。急に屈んだ事に対してではなく、躱された事に対しての物だろう。

 

 ──なんなんだよ急に! 

 

 前に飛び、きんつばを抱えたまま前転。起き上がりながら、振り返る。

 歩道橋の上。俺の肩から降りたタロが、勇ましく威嚇している姿がまず見え。中央付近にいる、先程すれ違った少女の姿を最後に捉えた。

 黒と赤を基調とし、大量のベルトで固定されている肩だしのコート。その内に豊かな胸に押し上げられたガーリーな白いタンクトップ、チェックのミニスカート、ところどころに穴が開いたり、黄色のテープの貼られたストッキングが覗く。

 その上には帽子か頭巾か、イマイチ判別の付けづらい黒地に白の楕円の意匠のある物を被り、銀髪の下の顔はこれまた被り物と同じような黒地のアイマスクで隠されていた。おそらくは目元なのだろう場所が白になっていて、きんつばと逆だなと、そんな考えが頭を過ぎる。

 

「しかし、物騒な物持っているな」

 

 そんな、どこにでもいる──というとややパンク過ぎる印象の受ける少女の右手には、大振りのそれ。ジャグリングのように、放り上げては受け止め、放り上げては受け止めと、あまりに扱いの軽い武骨なそれ。そういった知識に詳しくない俺でも知っているそれ。記憶違いで無ければ、コンバットナイフと呼ばれる、立派な武器である。

 

「……教えてくれるなら教えてほしいんだけど、なんたっていきなり斬りかかられたんだ?」

「んー……分かりません!」

「は?」

 

 ひょいと投げ上げたナイフを、順手でキャッチした少女は、その切っ先を俺へと向ける。

 

「さかまたは、貴方を連れてくるように言われただけなので!」

 

 直後、さかまたと名乗った少女が、歩道橋を蹴る。

 膝曲げから、一息。瞬く間に距離を詰められ、凶刃にて狙われる。

 

「言っていることとやっていることが違うなぁ⁉」

 

 




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