ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
不知火フレア
角巻わため
白銀ノエル


転校初日、異世界

 山場を越えたら、また山場だった。

 横たわったまま、下より感じる振動に辟易しながら、傷口を抑える。学校に戻るだけで、何故また怪我せねばならないのか。

 救いは二つ。顔にしがみついたタロのお陰で、眩しくない事。それに、きんつばが何かしてくれているからだろう。

 

「ありがとうな、タロ、きんつば」

 

 逃げ果せた事は2人のお陰だから、言わねばと思い、そう告げる。

 すると、涙目になったきんつばにも顔に抱き着かれ、息苦しくなった。傷口が温かいのは変わらないから、何かは継続して行ってくれているらしい。

 痛いのがマシになってきて、徐々に余裕を取り戻してきた。血が抜けたからかぼんやりはするが、一先ずの山場は越えたらしい。

 そうなると、気になってくる事は行先だった。

 

「……ていうか、このバスって何処行きなんだろ?」

 

 俺が横たわっている場所。それは市内を走るバスの車上だ。

 さかまたと戦っていた際、自分の居る道がバスのルートであることを思い出して、バスの上に乗れば逃げられるし、恐らく駅に向かえるという事を思いついた。

 ただ、飛び降りるだけだと、さかまたに追いかけられ、バトルの場所が歩道橋からバスの上に移るだけになりそうだったし、バスの運転手等に気づかれたらバスを止められかねないので、そこをどうにかする必要があった。

 そこで思い出したのが、きんつば──ひいてはフレアさんやノエルさんと初めて会った時に行った牛丼屋にて行われた内緒話の際に、フレアさんが使った人払いだった。

 周りから気にされなくなる魔法と、あの時フレアさんは言っていた。それが本当なら全部うまくいくのでは。そう考えて、きんつばに内緒話出来るようにしてもらい、確認した。

 結論は一応出来るとのことだったが、しっかりこちらへ注意を払っている相手がいると、その相手には気づかれるかもしれないと教えられた。そのためにお気に入りの上着を犠牲にして、さかまたの隙を作った。

 肌触りいいから着心地良くてお気に入りだったのだ。中3の折、引っ越し前に買ったやつで、買った店は適当に入った服屋だったから、何という店の何という商品かも覚えていないせいで、買い直しも出来やしない。

 だが、上着という尊い犠牲を払った甲斐あり、しっかり逃げ果せたようで、一先ずさかまたがバスの上に降りてくる事は無かった。

 次の問題は、このバスが駅の方へ向かうのかどうか、である。流石にそれを確認している余裕は無かった。

 

「まあ……大丈夫だと思うけど」

 

 市内を走るバスは、駅に始まり駅に終わる。タロにバスが来るのを確認して貰った時も、しっかり駅の方へ向かう道を見ていて貰っていた。

 稀に例外はあるが、本当に稀。流石に無いだろう。……無いよね? 

 不安になって、体を引きずり移動。車上から首を伸ばし、バスを確認する。

 バスの柄から、幾つかある例外の内の一つ、そもそも市内を走るバスではないという可能性はなくなった。

 次いで行先が表示される電光掲示板を見る。そもそも止まらない巡回という事は無くしっかりとバス停の名前が表示され、その最後は駅の名前になっていた。

 首を引っ込め車上に戻り、横たわる。少なくとも、駅に向かわないという事態は避けられた。

 後はバスから落とされなければ、とりあえずこのまま駅まで向かえる。

 

「……」

 

 安堵感と血が足りないのか、横になった一瞬で意識が遠のいた。

 このままだと寝落ちしかねないので、体を起こす。ただ、その動きで痛みが走り、思わず蹲る。ミオ先輩に引っ掻かれた時よりはマシだが、痛いものは痛い。それに、あの時はさっさと気絶出来たので、痛みを感じていたのも短時間だったが、今日はそういう訳にもいかない。きんつばのお陰で多少はマシだが、それでもきつい。

 気持ちを落ち着けるために、深呼吸を一つ。それだけでも傷口に響くが、一先ずそれから意識を逸らし、数度深呼吸をする。

 

「──よし、落ち着いた」

 

 見られていない事を良い事にシャツとインナーを脱ぎ、包帯を解く。

 きんつばがぎょっっとしているのが見えた。その視線を受けながら、インナーを畳んで傷口に当て、その上から包帯を巻く。

 一先ずこれで、止血はいいだろう。駄目ならその時は別の方法を考えればいい。

 ワイシャツを着直して、ポケットからスマホを取り出す。時間を確認。

 さかまたに捕まっていたのは10分程。場所的に、駅前に着くのは5分程度の筈。

 着替えの為に家に寄りたいことまで考えると、時間的に少し怪しいか。6限目には着くとは思うが、手続の時間は取れそうにない。

 今日、使用申請出ていたかどうかは流石に知らないから、行き当たりばったりになりそうだ。

 

 ──……まあ、いつも通りか。

 

 スマホをポケットへ戻し、両手をついて、空を見上げる。雨は上がっているが、雲には覆われたまま。鈍色の空であった。

 見続ける気分にはならず、静かに目を閉じる。空気を切る感覚が、心地よかった。思わずふわりと、欠伸が漏れる。体の力が抜ける。頭の中が空っぽ。このままゆっくりと眠りに落ちるのが好きだ。昔から変わらない。それこそ幼稚園の頃からずっと。

 

『わん!』

 

 心地の良い微睡みを引き裂くように、タロの鳴き声が響いた。

 後ろから前へ上体を傾け、ゆっくり目を開ける。

 もうそろ、駅であった。乗ったバスがロータリーへ入る。徐行し、やがてバス停に停まった。

 扉が開き、乗客が吐き出され始める。

 左右と上下を確認。大丈夫な事を確認して、俺はバスから飛び降りた。

 

「……~~」

 

 バスに飛び降りた時と同じような刺激を受けて、思わず悶絶する。

 深呼吸を挟んで、落ち着きを取り戻して、ゆっくりと立ち上がった。

 車道から歩道へ移る。そのまま歩き、人目の少ないベンチまで移動した。

 腰を下ろしたところで、周囲を確認。誰も見ていない事を確認して、きんつばに魔法を解いてもらう。

 

「ありがとう。フレアさんは居る?」

 

 俺の言葉にきんつばが頷き、指さした。その先にフレアさんとノエルさん、わための3人が談笑しているのが見える。

 

「なら、ここで。今度は迷子になるなよ」

 

 きんつばに声をかけて、立ち上がり、背を向けて歩き出す。

 一先ず家に帰って、着替えると止血をする必要があるだろう。流石に今の姿は事件性しかない。

 シオンはもう帰っているだろうか。あいつのことだから、払う物払ったら、ぴょーんと飛んで帰っているかもしれない。

 そうなると鉢合わせて、また病院か。流石に困る。

 

「どうしようかなー」

「えい」

 

 刺激。激痛。

 

「~~~~~!!!???」

「あ、本当だったんだ」

「ふーたん、何やっているの?!」

「いや、見た目普通だったから。きんつばに誑かされたのかなって」

「そんな必要無いでしょ!」

 

 閑話休題。

 

「いやー、本当にごめん。大丈夫?」

「正直殺意は沸きました」

「ごめんってー!」

 

 きんつばと別れた後、すぐに追いつかれた俺。

 実際に怪我をしている事と、血塗れの服を見たわためがテンパった事もあり、俺はノエルさんに担ぎ上げられ、駅前から移動。自宅へと戻ってきていた。

 ノエルさんのパワーは知っているつもりだが、実際俵の様に持たれて移動させられると、感心なのか恐怖なのか、良く分からない感情を覚えてしまう。

 幸いきんつばにより、再度魔法は展開されていた為、目立つことは無かったから、それだけは良しとする。

 

「シオーン?」

 

 帰宅し、声を掛けるも反応無し。シオンの事だから、転移魔法でさっさと帰ってきているかと思ったのだが。

 俺はフレアさんとノエルさん、きんつばをリビングまで通す。

 

「本当に病院に行かなくていいの?」

「大丈夫です。きんつばも何かしてくれていますし、とりあえず止血さえしとけば」

「救急箱持ってきたよー」

 

 わためがぱたぱたと走って戻って来る。

 

「じゃあ、私が巻いてあげようかな。服脱いで」

 

 フレアさんが立ち上がり、わためから救急箱を受け取る。

 まあ、自分でするよりはして貰った方がしっかり巻けるかと思い、素直にお願いする事に決めた。「お願いします」と告げ、俺はシャツを脱ぐ。

 つけていた包帯を外し、止血ガーゼ代わりにしていた肌着を外す。くっついて、はがすのが少し痛い。

 だが、肌着を剝がした所で、そこから血が流れ出ることは無かった。

 どういう原理なのだろうと思いながら、フレアさんの方へ視線を向ける。フレアさんは、どこから取り出したのか、乳鉢に葉っぱやら木の実やらを入れ、それをゴリゴリと潰していた。

 

「それは?」

「ポーション」

「……」

 

 子どもが作る思いつくままにするお料理ごっこにしか見えんと、そんな感想を抱く俺の前で、しっかり潰され、ペースト状になった曰くポーションが、ガーゼにたっぷり載せられた。やはりというか、俺に使うらしい。勘違いであってほしかった。

 

「あの、やっぱりー」

「ノエル」

 

 ぱちんとフレアさんが指を鳴らすと、いつの間に背後に回ったのか、俺はノエルさんに羽交い絞めにされた。

 背中に当たる2つの大胸筋──に意識を奪われたのは一瞬。

 己の大胸筋に弾かれそうな俺の身体を抑える為、ノエルさんはその膂力を持って俺の腕の付け根辺りを掴み、自分の方へ引き寄せていた。

 それが結果として、腕があり得ない方向へと曲げられる結果となる。早い話、両肩が極められるような形になった。

 

「いだだだだだ! ノエルさん! 痛いです!」

「大丈夫! フレアのポーションは効くから! 直ぐに良くなるよ!」

「ノエルさんが腕を放してくれたら、解放されるんですけど!?」

「そしたら君、逃げちゃうでしょ!」

「そういう意味じゃないですけど!」

 

 ぎゃいぎゃい言い合っている間に、ポーションと思しき何かが塗られたガーゼが、俺の傷口に当てられ、テープで固定された。

 

「よし。ノエル、放していいよ」

「はーい」

 

 両肩が解放される。本日2度目の脱臼に襲われかけた右肩を中心に、両肩の無事を確かめる。

 そんな俺に、「包帯巻くねー」とフレアさん。前かがみになり、ガーゼを抑えるようにくるくると包帯が巻かれていく。

 

「それにしても、君、結構傷多いね。意外とこの世界も物騒なのかな?」

「そんな事無いのでは? 今日の傷以外は、一部を除けばやんちゃ時代の傷の手当てをきちんとしていなかったから、跡になっただけの物が多いですし」

「白昼いきなりナイフを持った謎の人物に襲われる世界は、普通に物騒じゃない?」

「……あれ?」

 

 俺が自分の常識を疑っている間にフレアさんの作業は終わった。

 しっかりと巻かれた包帯は、自分で巻くよりよほど上手い。体を動かしても、ほどける様子は無かった。

 

「大丈夫そう?」

「はい。ありがとうございます。大丈夫そうです」

「そっか。なら良かった」

 

 笑みを浮かべるフレアさんへ、笑って返す。

 傷口周りがほんのり暖かい。まるで、先程まできんつばに何かされていた時と同じような感じだ。

 

「ちょっと暖かいのは、きんつばの魔法ですか?」

「そうだね。さっき塗ったポーションは魔法の維持をする触媒なんだよ。それで、きんつばの魔法を維持してる」

「成程」

「ちなみに、きんつばの魔法は傷口を塞ぐことは出来ても、流れた血を戻す所までは出来ないから、そこは輸血なり、何かはしてね」

「はい」

「後、傷口を塞ぐって言っても、魔法による欠損部の補助と自己修復の強化だから、激しい動きは駄目だからね」

「わかりました」

 

 こくこく首を縦に振る。正直触媒の辺りからちょっと難しくて分かっていない節はある。

 とりあえず、激しい運動は駄目らしい。どのレベルだろう。

 うーんと悩んでいる所に、ぱたぱたとわためが再び、戻って来る。

 

「着替え、持ってきたよー」

「ああ。ありがとう、わため」

 

 わためが持ってきた、予備の制服を受け取る。

 着替えようとして、手を止める。流石に、フレアさんとノエルさんの前では着替えられない。

 そんな俺の様子に気づいたフレアさんが立ち上がる。

 

「じゃあ、私たちはお暇させて貰おうかな。きんつばの事、いつもありがとうね」

「いえ。自分も助けられているので」

「あと、くれぐれも無理はしない事」

「はい、気を付けます。ありがとうございます、フレアさん」

「じゃあ、またねー」

「はい。ノエルさんもありがとうございました」

 

 2人を見送り、わためと2人になる。

 

「わためはどうする? 俺は学校に戻るけど」

「うーん、改めて駅まで戻るのもなぁ……って、学校戻るの?」

「ああ」

 

 着替える前に、少し汚れを落とそうかと洗面所に向かう。

 そんな俺の後ろを、わためがついてくる。

 

「酷い怪我だし、病院に行かないにしても、休んだ方がいいんじゃない? ふーたんも無理はするなって言ってたし」

「適度な運動は必要だろ?」

「それは怪我が治った後の話じゃないかなぁ」

 

 全くその通りだったので、無言で流す。

 

「まあやる事があるんだ。無理はしないから、安心してくれ──ズボン脱ぐぞ?」

「わー!」

 

 ぴしゃりと、洗面所の扉が閉められる。

 俺は悠々とハンドタオルを水で濡らし、体に着いた汚れを拭い落していく。

 

「兎に角。学校には行かせません。此処は私が死守します」

「頼むよ。帰ってきたら、わための好きな物を作るから」

「だめ!」

 

 難しそうだ。

 体を拭き終わった所で、下着と予備の制服を身に着ける。これでぱっと見は朝と変わらない。

 洗面所の扉を開けると、わためが両手を広げて立ちふさがっていた。

 

「ここは通しません!」

「頼むよ、わため」

「だーめ!」

 

 断固、立ちはだかる意思を見せるわため。

 仕方がない。此処は1度諦めた振りをして、隙を伺おうと決め。

 諦める振りの為、「分かった分かった」と返しながら、俺は自室へ戻る為に歩こうとして。

 それより早く、足下に魔法陣が現れる。

 

「は?」

「へ?」

 

 次の瞬間には、俺はその場を離れ、家の前へと移動していた。

 ご丁寧に、足元には靴。

 

「サンキュー、シオン!」

 

 急ぎ履いて、駆け出した。

 




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