ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
星街すいせい


始まりの夜

 酷い雨の夜だった。別に台風が来ているという訳でもないのに、雨風雷のパレード。

 窓は勢い良く叩かれ、がたがたと揺れているにもかかわらず、少年の興味は窓の向こうでも、近くに響くアニメ音声でも無く、自分の隣。

 膝を抱えて耳をふさぐ、すいせいの方にあった。

 

「だいじょうぶ?」

「へ、平気よ」

 

 そんなすいせいの言葉を咎めるように、稲光が煌めいた。すいせいがびくりと肩を震わせて、縮こまる。

 ゴロゴロという雷の音が少し間をおいてから響くのを聞きながら、少年は壁時計を見上げる。

 

 ──あと3つくらいかー。

 

 現在7時。朝では無く夜である。カバー保育園は夜間保育をしているから、こうして遅くまで園児が残る事もあった。

 少年については入園から今日、時間ギリギリの10時まで此処にいるから、すっかり慣れた物で。後どれくらいで帰って来るなーという勘定までできる程。

 しかし、一方のすいせいはその限りでは無く、両親の仕事が伸びてしまったために起きた、初めての夜間保育。

 園のイベントとして、皆でお泊りといった経験は今までにあったものの。こうして2人で残されるのは、初めての経験だった。

 これで、隣にいるのが姉であればまだもう少しの余裕もあっただろうが。生憎隣にいるのはクラスでも変わり者と称される、全く話した事の無い男の子。

 素直に甘える事も、話をして気を紛らわせる事も出来ない相手。結論すいせいには、1人で耐える以外の選択肢は無かった。

 強く強く耳を塞ぎ、目を閉じ、只時間が過ぎるのを待つ。

 

「……」

 

 そんなすいせいの姿を、少年は観察していた。

 少なくとも、少年にとっては雨も風も雷も当たり前の物だった。

 降るし、吹くし、落ちる。不定期ながらも発生するもので、発生したからと言ってどうする事も無い。

 てるてる坊主も、風車も、光と音への恐怖も全て無駄。ただ粛々と、終わるのを待つだけのもの。

 だからこそ、すいせいの反応は、何というか少し新鮮だった。

 すいせいが何に怖がっているのかは分かる。ただ、怯えてどうにかなる訳はない。雷が終わるまでこうしているつもりだろうか。

 大変だなと、そんな感想を抱きながら、テレビへ視線を戻す少年。

 直後、テレビの傍にある窓の向こうが、一際輝いた。

 バチッ──。

 

「ん?」

「ひっ⁉」

 

 雷鳴轟き、それとほぼ同時に、園から光が消えた。

 闇に包まれたことに気が付いたのだろう。か細い悲鳴を上げ、更にすいせいが縮こまる。

 少年は片側に置いていたテレビのリモコンを手に取り、主電源のボタンを押すも、反応は無い。

 

 ──電気つかなくなる奴かな。

 

 停電という名前は知らなかったが、少年には心当たりがあった。

 以前、家で一人留守番していた時に陥った、似た事象。雷によりブレーカーが落ち、電気がつけられなくなった。

 暗闇の中、ぶつけたりぶつかったりしながら、壁のスイッチまでたどり着くも、電気は着かず。

 その時はブレーカーという物を知らないから、真っ暗の中、時折輝く稲光、響く雨音や雷鳴を聞きながら、一晩を明かした。

 翌日、帰ってきた母親がブレーカーを上げる姿を見て、そこでも電気が付くようになるのかと思った記憶がある。

 

 ──とりあえず見に行ってみようかな。

 

 ブレーカーの存在を知った翌日、園のブレーカーの位置は見つけていた。今いる部屋から、少し離れているが、たどり着けないことは無いだろう。

 さっさと電気を点けに行こうと思い、少年は立ち上がった。歩き出そうとした所で、ズボンを引かれる感覚に、足を止める。

 

「ど、どこ行くの?」

 

 震える声は、すいせいの物だった。

 

「でんき、つけてくる」

「暗くて、危ないじゃない。園長先生、直ぐに来てくれるでしょ」

「でも、まわりもまっくらだから、えんちょうせんせいのいえもまっくらじゃない?」

 

 そう言われて、すいせいが窓から外を見れば、確かに辺りに光は無かった。

 民家から漏れる生活感溢れる光も街灯からの光も何もかも。完全に真っ暗である。

 

「それに、つけなきゃくらいままだし」

「……」

 

 何てことは無いとばかりに答えた少年の言葉。その言葉に、すいせいは言葉に詰まり、やがて立ち上がる。

 すいせいは少年の身体を手で探り、やがて少年の手を見つけると、その手を両手でしっかりと握った。

 

「わ、私も行く!」

「べつに、まってていいけど」

「行くの!」

 

 少年は、握られている手からすいせいの震えを感じていた。

 怖いから、1人にするなという意味か。しかしそれだけにしては、声が強い。

 訳も分からぬまま、まあいいかと少年は「わかった」と首を縦に振り、歩き出した。

 まるで見えているのかと思わずにいられない、恐れ知らずの堂々とした一歩。探りながらという雰囲気はない。

 引っ張られたすいせいは、つんのめったものの転ぶことは無く、少年の足取りに追いつく。

 

「見えてるの?」

「え? ぜんぜっ」

 

 ガッっという音が、今度は少年の足下から響く。

 

「だ、大丈夫!?」

「足ぶつけただけ」

「……もうちょっと気を付けて歩いた方がいいよ?」

「でもみえないし」

「ゆっくり進めばいいんじゃない?」

「……」

 

 すいせいの言葉に少し考えた少年は、言われた通り、ゆっくり歩き始める。

 まあこれくらいならと思いながら、すいせいは少年の後を続く。

 ガンという音が、少年の元より響いたそれからすぐであった。

 

「大丈夫?」

「ぶつけただけ」

「だけなの?」

 

 そう言うと、少年は手を伸ばした。ぺたぺたと触る。どうやら壁らしい。

 何となくの場所の見当をつけ、手さぐりに壁を探ると、電気のスイッチを見つけた。

 ぱちぱちと数度弄るが、電気は着かない。

 

「電気、点かないの?」

「そうみたい」

 

 やはりブレーカーかと思い、少年は再び歩き出す。戸惑うすいせいが、その後を追って、歩き出す。

 

「ど、どこ行くの?」

「ぶれーかー」

「なにそれ?」

 

 戸惑うすいせいを置いて、少年は扉を開けた。

 遠くに非常灯がぼんやりと輝き、緑色の光で通路が照らされている。

 通り慣れている筈の通路が、遠くから聞こえる雨音や雷鳴などの環境音と合わさり、異様な雰囲気に包まれている。

 少年の手を握るすいせいの手に力が籠る。それを感じ取り、少年が振り返った。

 

「まってる?」

「行くに決まってるでしょ」

 

 そういう事ならと、少年は歩き出す。がちがちのすいせいを連れているから、自然と足取りはゆっくり。

 これなら1人の方が楽だなぁと、ついそんな事を思う。

 

「ねぇ」

「ん? なに?」

 

 すいせいに声を掛けられ、少年は反応する。

 

「怖くないの?」

「なんで?」

 

 質問の意図が分からず、尋ね返す少年へ、「だって」とすいせい。

 

「普通に歩いているから。怖くないのかなって」

「んー」

 

 すいせいの言葉に、少年は声を上げる。

 悩んでいるのだろうか。非常灯のみの廊下では、少年の姿は見えづらく、すいせいからは判断がつかない。

 しかし声を上げた少年は、その間も足は止めることなく、歩みを進めていた。その様子に、すいせいはやはり怖くは無いのだろうと判断を下す。

 不意に、少年が足を止めた。

 そんな少年の背中にすいせいはぶつかる。

 何事かとすいせいが少年を見れば、暗闇に慣れたすいせいの瞳は、壁を見上げる少年の姿を捉える。

 

「──あった」

 

 すいせいも少年の視線を追い、壁を見上げた。

 上の方。天井近くに、箱のようなものがついている。

 あれが目的なのかなと思いながら首の疲れたすいせいは視線を落とし、今度は床近くで何か見つけた。

 少年の手を放し、近づく。棒状のそれはどうやら懐中電灯の様だった。

 外せるのかと思い、えいやと引っ張れば、思ったより簡単に外れた。

 手探りに電源を探し、スライドさせると、問題無く点灯した。そのまま少年へと向ければ、少年は眩しそうに顔をしかめる。

 

「まぶしい」

 

 その言葉は少し不機嫌そう。そんな少年をすいせいは笑いながら、「ごめんごめん」と返す。

 そのまま懐中電灯の向きを、少年が見ていた方へと移した。

 天井近くにあるのはブレーカーボックス。ただ少年の家にある物とは違い、悪戯防止の措置なのか、スイッチは表に露出しておらず、カバーを開けなければならないようだった。

 きょろきょろと辺りを見渡す。足場に出来そうなものも、高い位置を弄れそうな棒も無い。

 

「だめそう」

「駄目って?」

「でんきつかない」

「えー!」

 

 少年の言葉に、すいせいは少年へ再び懐中電灯を向ける。

 

「点くって言ったじゃん」

「いってない」

 

 懐中電灯の光に晒されながら、少年は首を横に振る。

 

「言った」

「いってない」

 

 詰めるすいせいに、少年は顔を背ける。

 そんな少年の顔を掴んで、強引に自分の方へと向けるすいせい。

 代わりに懐中電灯の光はそっぽを向いたが、それでもお互いの表情は問題無く見えた。

 すいせいが見た表情は、変わらず無表情のまま。しかし、すいせいに抑えられているせいで、タコのような変顔をさせられている。

 

「……ぷっ」

 

 思わず吹き出す。笑いを耐えながら、少年の顔を揉んで、変顔をさせていく。

 寄せたり離したり。あげたりさげたり。思いつくままに手を動かす。

 

「……ふぁに」

 

 少年の声を切っ掛けに、すいせいの笑いのダムが決壊した。

 

「あはははは!」

 

 お腹を抱え、笑いだす。

 訳が分からないという少年を置き去りに、一頻り笑うすいせい。

 そんなすいせいを前にどうする事も出来ず、少年は大人しくすいせいが笑い終えるのを待った。

 

「──あー、笑った」

「よかったね」

 

 納得いっていないという様子を見せる少年。すいせいは、そんな少年の手を取る。

 

「電気、点かないならしょうがないし、戻りましょ」

 

 懐中電灯で照らしながら、すいせいは少年の手を引き、元の通路を戻る。

 ずんずんと、恐れなく進む。そんなすいせいの背を見て、少年は口を開いた。

 

「怖くないの?」

「吹っ飛んだ」

「ふっとんだの?」

「うん。だから次は吹き飛ばすわ」

 

 ***

 

「起きなさい」

「……」

 

 声を掛けられた気がして、俺は目を開けた。

 血が足りないのか、いまいち意識がしゃんとしない。

 ぼんやりした頭のまま、のろのろと頭を上げれば、望んだ姿がそこにはあった。

 

「おはよ、すいちゃ」

「──おはよ」

 

 俺を見下ろすすいちゃんに、声をかければ。

 何時ものように、何処かぶっきらぼうな声が返ってくる。

 

「何でこんな所で待ってんのよ」

「すれ違うとあれかと思って」

「……そう」

 

 そう言うと、すいちゃんは少し悩んだ様子を見せて。

 それから周辺を見渡して。

 

「走れる?」

「頑張る」

 

 差し出された手を取り、立ち上がって。

 

「んじゃ、行くわよ」

「おー」

 

 俺はすいちゃんと一緒に走り出した。




お休み頂いてました。すみません。

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