ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
星街すいせい



転校初日、午後

 隣席から抜き取った教科書を使い、午後の授業を乗り切って。ホロ学は帰りのSHRの時間であった。

 諸々の説明事項を話半分に聞いたすいせいは、終わりと合わせて立ち上がった。

 そんなすいせいへ、「すいちゃん」とラミィの声がかかる。

 

「何? いいんちょ?」

「今日はもう帰るの?」

 

 学校内の見学という気分にもなれなかったすいせいは、こくりと一つ、首を縦に振る。

 

「そのつもり」

「一人で大丈夫?」

 

 ちらりと、ラミィが視線を向ける。その先は廊下で、今日一番の人だかりがあった。

 ラミィにつられて、すいせいも視線を移す。いつものように向けられる、好奇の視線。

 仕事中であればファンサービスの一つでもするが、今はプライベート。視線を外すのみに留める。

 

「出れそう?」

「……なんとか」

 

 人込みは仕事帰りの出待ち並み。

 仕事であれば、マネージャーや警備員といった誰かが、すいせいの壁となり、道を作ってくれていた。

 1人でこの壁に挑むのは、正直初めての経験である。いっそ、窓から出ようかなんて、そんな考えが少し頭をよぎる。

 

 ──いやいや。

 

 その考えを振り払う。出来ないとは思わないが、それでも怪我をして、仕事に支障を来たすわけにもいかない。

 それなら、やはり突っ切るしかないか。ただ、それも何かしらの事故が発生しかねない。

 

「しょうがないか」

 

 人混みが掃けるまで、待つことに決め、すいせいは席に着く。今日はこの後用事も無い。気長に耐久戦を仕掛ければ、多少は緩和されるだろう。そうでなくとも悪目立ちして、強制的に解散させられる可能性も十二分にある。

 すいせいはスマホを取り出した。真っ先に仕事の連絡を確認するも特に無し。

 代わりにとばかりに別のメッセージが、幼馴染より届いていた。すばやく確認し、荷物を手に立ち上がる。

 

「すいちゃん?」

 

 戸惑うラミィを置いて、すいせいは進む。

 足はまっすぐ、扉の方へ。立ちはだかる人混みの前にて足を止める。一番前にいる男子生徒が、何かを告げようとする前に、すいせいは口を開いた。

 

「どいて」

 

 その鶴の一声をもって、人混みが割れ、道が出来上がった。

 

「すごー」

 

 どこか気の抜けたラミィの声を背に受けながら、作った道をすいせいは進む。

 人混みはすいせいの教室のその隣の教室まで伸びていた。その人混みが、綺麗に左右へ割れている。

 道の両端にいる生徒は、近くを歩くすいせいに息をのみ、可能な限り道を広げようとする事態。

 結果、何のストレスも無くすいせいは人混みを抜けた。その足で階段を下り、右折。

 足早に抜け、靴を履き替え、昇降口より飛び出す。

 前方に人混み。正門の辺りだ。ざわつく声には、困惑の中に僅かな怒りを孕んでいる。

 やがて、気配を感じたのか一人が振り返り、すいせいを見つけた。

 すいせいの姿に何を感じたのか、隣にいた生徒に何やら伝え。その生徒が振り返り、別の生徒へ何かを伝え。

 そんな連鎖の末、廊下と同様、すいせいの前には道が出来。しかし、その道に立ちはだかる者がいた。

 

「星街さん、止めた方がいい」

 

 勇気か無謀か。行動したその男子生徒の顔に、すいせいは見覚えがあった。

 ファンなのかただのミーハーなのかは知らないが。少なくとも1限の休み時間に、あの群衆の中にいて、幼馴染を取り押さえるにも一役買っていた記憶がある。

 そんな彼が止めるのだ。なら、この向こうにいるのが誰で、どんな状態なのか、察しも付くというもの。

 

「──ごめんなさい」

「え? 何が?」

「彼、正真正銘、私の幼馴染なの。ちょっと喧嘩しちゃって、だからあんな事を言っただけなの」

「……」

 

 言葉を失う男子生徒。

 ぐるりと、すいせいが周囲を見渡せば、見た顔がちらほら。

 正面に視線を戻し、男子生徒を見やって。すいせいは深々と、頭を下げた。

 

「本当にごめんなさい。誤解させるような事を言って」

「あ、いや」

 

 時間にして数十秒。

 静かに頭を上げたすいせいの目に、明らかに狼狽している様子の男子生徒の姿が映る。

 返事を待たず、すいせいは歩き出し、脇を抜ける。

 男子生徒の向こう側には道が続いていた。まっすぐ進む。

 そのうちぽっかりと出来ているエアスポットの中心。正門の右柱にもたれかかって座っている幼馴染。

 その正面に、腰を下ろす。反応は無い。定期的に動く肩からも、寝ているのだなと察した。

 何と無しに前髪をめくってみれば、今朝は無かった絆創膏が覗く。心なしか、制服もくたびれているように見えた。

 転びでもしたのかと思いながら、すいせいは立ち上がる。

 

「起きなさい」

「……」

 

 暫しの間をあけ。のろのろと頭を上がる。

 きょろきょろと首を動かし、顔を上げた幼馴染と、すいせいの目が合うと、幼馴染の少年がふにゃりと笑った。

 

「おはよ、すいちゃ」

「──おはよ」

 

 あんなことがあったから、幼馴染への居心地の悪さから、少しぶっきらぼうな反応を返すすいせい。

 ただ、それでも気にした様子を見せない幼馴染へ、さらにすいせいはぶっきらぼうに言葉を向ける

 

「何でこんな所で待ってんのよ」

「すれ違うとあれかと思って」

「……そう」

 

 すいせいのスマホへ届いたメッセージ。今朝方交換したばかりのアカウントから届いたメッセージは、一言『正門で待ってるね』だけだった。

 届いたのは、6限目の中頃の時間。今の時間から遡れば、締めて1時間弱程、寒空の下に待たせていた事になる。

 教室までくれば良かったのにと思いながらも、そんなことされれば逃げ出すだろう自分が想像出来たすいせいは、余計な事は言わず、周囲を見渡した。

 相変わらずのギャラリー。お話しするには、流石に向かない。

 とはいえ、あの頃のように引きずっていくわけにはいかないから。

 

「走れる?」

 

 手を差し出す。

 

「頑張る」

 

 その手が、取られる。

 

「んじゃ、行くわよ」

「おー」

 

 幼馴染が立ち上がるのを感じながら、すいせいはその手を引いて走り出した。

 

 ***

 

 ──モーゼみたい。

 

 すいちゃんの走行に合わせて割れる人混みを見て、そんな感想を抱く。

 意外にも、強引に止めたり、引き離してやろうという輩はおらず、手を引っ張られた俺は、割と不自由なく人混みを走り抜けた。

 

「ねえ。何処かいい場所無い訳?」

 

 先導して走るすいちゃんが、そんな事を尋ねてくる。

 

「分からないのに前を走っていたの?」

「こちとら、転校してきたばかりなんですけど?」

 

 それはそうだ。

 

「いい場所あるよ」

「なら案内しなさい!」

「あいあい」

 

 その為に、すいちゃんを抜こうとして。

 

「私の前は走らない!」

「ええ」

 

 仲良く並んで二人三脚でもしろというのか。

 大人しく走る速度を少し落とし、すいちゃんの後ろに改めて着く。

 

「昇降口に入らず、左にお曲がりくださいませ」

「良かろう」

 

 言われた通り、左に曲がるすいちゃん。この調子がゴールまで続くのか……面倒くさいなこれ。

 なにより途中で鍵を受け取る都合もあるし。

 

「ねえすいちゃん」

「何?」

「やっぱり前を──「だめ」……はい。あ、そこ右っす」

 

 取り付く島もない。大人しくすいちゃんの後ろをついて走る。

 角を右へ。方向的には修練場などの、特殊な施設のある方角。基本的にはそういった施設は、申請した上で鍵の貸し出しが必要なのだが。

 

「おーい」

 

 頭上から声。顔を上げれば、天音先輩の姿があった。

 

「すいちゃんごめん。ちょっとストップ」

「ん?」

 

 俺の言葉にすいちゃんが足を止める。

 

「怪我は平気?」

「はい。大丈夫です」

「そっか。ならよかった。じゃあ、投げるよー」

 

「ほっ」っと軽い声とともに、その手に持った何かを放る。

 きれいな放物線を描き、放られたものは大体俺の方へ向かって落ちてくる。

 ちょっと移動して、キャッチ。手に取ったものを確認する。

 

「すみません、天音先輩。ありがとうございます」

「普段色々手伝って貰っているし、これくらいはね。返却は任せてもいい?」

「はい。そのつもりだったので」

「了解。じゃあ、お願い」

 

 ひらひらと手を振り、天音先輩が引っ込む。

 その背に一礼し、事の顛末を見守っていたらしいすいちゃんへ、視線を移した。

 

「……随分準備いいわね」

「そもそも呼び出したの俺だし」

 

 受け取った物をすいちゃんに見せる。

 

「何処の鍵?」

「この先の講堂」

 

 修練場から更にもう少し行った先。学校敷地内のやや外れに位置する場所。

 校舎から直接向かう通路が無く、また集会などで生徒を集めるには狭いそこは、時々声楽部や演劇部などが練習で使うばかりで、基本的には使われないから、2人きりには丁度いい。

 それに何より、いい感じのステージがある。すいちゃんには、狭いかもしれないが。

 

「行こ」

 

 

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