ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
星街すいせい
紫咲シオン
角巻わため



始まりの夜2

 すいせいが懐中電灯で照らし、少年が中身を漁る。

 日頃、おもちゃ箱からは縁遠く、部屋の隅や庭のボートの中等で、うつらうつらと夢見心地に過ごしている少年としては、箱の中に入っている物に対して、これって何が楽しいのだろうかという気持ちで一杯だった。

 

「ねえ」

「何?」

「これってなにがたのしいの?」

 

 そんな気持ちが、つい口から漏れ出した。

 

「これって?」

「これ」

 

 おもちゃ箱の中から、積み木を取り出して示す。

 一部黒染みがあるものの、基本赤に塗られた木製の三角柱。他にも黄色の円柱や緑の直方体が箱の中には眠っている。

 積み上げて遊ぶ物という事は、実際そうして遊んでいるのも見たことがあるから、流石に知っていた。

 ただ、自分が積んでみても特に楽しく無かった記憶がある。

 そこから、自分が積んでいた積み木をクラスメイトの1人が奪取して使い始め、それを咎めたほかのクラスメイトとの喧嘩に。

 その喧嘩は玩具を投げ合う大喧嘩へと発展し、最後は飛んできた積み木が自分の頭に直撃して、流血沙汰になったことまで、流れで思い出した。

 

「んー……」

 

 差し出した積み木を前に、すいせいは腕を組んだ。

 うんうんと唸ること暫し。

 

「分かんないけど、積んであるのを壊すのは気持ちいい」

 

 あっけらかんとした態度を見せる。

 

「そうなんだ」

 

 流石に前回試した時はそこまでする暇は無かった。

 ものは試しと、ひょいひょいと3つほど積み上げて、えいやと崩す。

 だが特に何も感じず、少年は早々に積み木から興味を無くした。

 二度と触らないだろうと、そんな確信を得ながら、ぽいぽいとおもちゃ箱へと戻す。

 それからも次々に、時折すいせいへ面白さを尋ねながらのおもちゃの確認作業を進めていく。

 お飯事用の包丁や野菜。人形。ボール。

 使い方は知っていても、遊んだことのないそれらの物を一つずつ眺め、時折尋ね。

 10分もすれば、全ての確認を終えた。

 少年が、おもちゃ箱を元の位置へと戻す。その間にすいせいは、懐中電灯の方向を変え、室内を物色していた。

 

「何か心当たり無いの?」

「んー?」

 

 すいせいの問いに、今度は少年が頭を捻る。

 すいせいよりは園内で過ごす時間が長いとはいえ、基本的に他への興味が薄いから、積極的に見て覚えるという事も無かった。

 ブレーカーのように、偶々起こった事を憶えている位のもので、意識や習得とは縁遠いのである。

 だから、頭を捻った少年が、「あっ」っと声を上げつつ閃いた事は、地味に奇跡に近いのだが、生憎すいせいが知る由も無かった。

 

「何?」

「せんせいのへやにあるかも」

 

 先生の部屋、詰まる所職員室である。

 しょっちゅう居るから何時の事かは憶えていないが、今日のように夜間保育の最中、トイレに行ったら電球が切れてしまったのだ。

 暗い中でどうにか用を済ませ、手を洗い、一緒に待機していた園長先生へそれを報告したところ、職員室から懐中電灯と予備の電球を持って現れたのである。

 やっとこさ電球を変え終わり、少年へお待たせと伝えたのだが、別に待ってはいなかった少年に園長先生の向けた何とも言えない顔と言ったら。流石に申し訳なくなってしまったことまで思い出し、次は気を付けようとそんなことを思った事まで、序でに思い出す。

 

「なら行ってみましょ」

 

 すいせいが歩き出し、その後を少年が続──かない。

 もはや飽きていた少年は、ふわりと欠伸を漏らし、いつもの場所で寝ようと、のそのそとホールの隅の方へ移動を開始。

 もう少しで到着という頃、少年の手首が掴まれた。すいせいである。

 

「なんで付いて来ないのよ」

「ねむい」

「知らない。いいから行くわよ」

 

 すいせいがそのまま少年を引っ張る。

 

「やー」

 

 口で拒否しながらも、すいせいよりも小柄な少年は、抵抗虚しくそのまま職員室まで連れてこられる。

 鍵はかかっておらず、戸を引けば抵抗無く開いた。

 一応電気を確かめるが、当然点かない。懐中電灯を振って室内を見渡す。

 

「ねえ、どこにあるのよ」

 

 すいせいが声をかけるが、返事が無い。すいせいが懐中電灯を向けると、うつらうつらと舟をこぐ少年。

 懐中電灯の光を顔へ向ける。反応が無い。

 徐々に近づけていく。中々反応しない。

 直接に眼球へ照射してしまおうかとすいせいが考え、懐中電灯と顔をくっつけてしまおうとした矢先。

 より大きく舟をこいだ少年の頭が、懐中電灯へとぶつかる。

 ガッっと鈍い音。すいせいがびっくりしていると、仰け反った少年が、閉じていた目を開けた。

 

「なに?」

「あ、いや。ごめん」

「なにが?」

 

 痛くない訳では無いのだろう。ぶつけた辺りを擦りながら、少年は尋ねる。

 そんな少年へ、すいせいが恐る恐る返す。

 

「ぶつけちゃったから」

「……? うん、だいじょうぶだよ」

 

 淡々とした反応に、二の句を告げなくなるすいせい。

 そんなすいせいから懐中電灯を受け取って、少年は職員室へと入った。

 きょろきょろ辺りを見渡す。持ち出していたからある筈だが、だからと言ってどこにあるのかを確認したわけではない。

 少年は襟元を捕まれるのを感じながら、特に気にする様子なく、少年は職員室内を進んでいく。

 やがて。

 

「あった」

 

 キャビネットの上に、それらしい筒を見つけた。近くの椅子を引っ張ってきて、それに上る。

 滑車タイプの足に、くるくると回る座面に苦戦すること暫し。

 漸く持ち上げたそれを確認し、それらしい所をスライドすれば、問題無く灯りがついた。

 椅子から降りて、灯った懐中電灯を差し出す少年。

 受け取ったそれをまじまじ見てから、首を傾げるすいせい。

 

「これって見たことない?」

「え?」

 

 そう言われ、次いで少年も、まじまじそれを見る。

 言われてみれば、確かに見覚えがあった。

 以前園長先生が持ってきた時は、特に観察したという訳では無いから、別のタイミング。

 なんなら、ついさっきまで見ていたような気が──。

 

「「あ」」

 

 2人の声が被った。

 

 ***

 

「これだけ明るければ、大丈夫ね」

「そうだね」

 

 約30分の園中をめぐる冒険を経て。

 そう言いあう2人の元には、合計6つの懐中電灯。

 なんて事はなく、各部屋に1つずつ常備されていたというオチ。

 先程まで2人で見ていたテレビの上にも1つあったし、2人が普段過ごす部屋や、他学年のクラスにも置いてあった。

 それら全部かき集めて、元の部屋に戻ってきたのである。

 

「ほら準備しなさい」

「はーい」

 

 すっかり2人の距離は縮んでいた。

 るんるんのすいせいに、計5つの懐中電灯を持たされている少年は、言われるがままに動く。

 

「すいちゃ」

 

 舌足らずにすいせいを呼ぶ少年。事前に言われるがまま、ホールにあるステージの上に懐中電灯な並べていく。

 一方で、残ったマイクを手に、発声練習をしていたすいせいは、ん? と首を傾げた。

 

「けっきょく、なにするの?」

「歌うの」

「おうた?」

 

 少年の脳裏に過るのは、保護者参観も兼ねた園主催で行われる合唱大会。

 大きな声を出すのも、リズムを取るのも苦手な少年にとっては、明確に楽しくないと断言できるイベントでもある。

 

「あんた、そんな顔もするのね」

「そんなかお?」

「めっちゃ嫌そうな顔してた」

「……おうた、すきじゃない」

 

 余りにも下手だったせいで夜間保育中も練習させられた苦い経験を思い出し、表情をゆがめた少年を見て、すいせいが楽しそうに笑う。

 発声練習に満足したのだろう。懐中電灯で足元を照らしながら、すいせいはステージの上へと昇った。

 

「別にあんたは歌わなくていいわよ。私が歌うから」

「……まあ、それなら」

 

 少年はすいせいに付き合うことに決めた。

 ステージから少し離れたところに、大人しく腰を下ろし、手に持った2本の懐中電灯をステージへ向けた。

 相変わらず、外からは暴風や豪雨、雷の音が響く。対するすいせいは、音源の無いまま、マイクのように懐中電灯を握って、懐中電灯の照らすステージへ立つ。

 

「……眩しい。もうちょっと下げて」

「ん」

 

 角度調整。

 

「──よし。そのまま持ってなさい」

「わかった」

 

 改めまして。

 

「ちゃんと聞いてなさいよ」

「うん」

 

 少年が頷くのを確認して、すいせいが息を深く吸い。

 直後。少年の世界から、すいせい以外が消えた。

 

 ***

 

 目を開ければ、そこは良く知った天井。自室であった。

 状況把握に数秒。その間に、顔を覗き込まれた。

 

「あ、起きた」

「……すいちゃん?」

「おはよ。良く寝ていたわね」

「……そうみたいね」

 

 頭はぼんやりしているし、喉が少し痛い。長らく寝ていた時のそれだ。

 寝ぼけ頭を回し、思い出す。

 すいちゃんと一緒に帰った後。シオンとわための顔を見たら安心してしまい、意識が飛んだ。そして現在である。

 けほりと、空咳を1つ漏らすと、横から水が差しだされた。体を起こして、ありがたく受け取り、3割ほど飲み干す。

 

「ありがと」

「アンタ用で買ってきているから、気にしなくていいわよ」

「そうなの?」

 

 視線を動かす。机の上に、ビニール袋が2つ。それぞれの口からペットボトルの蓋が覗いていた。

 視線をすいちゃんへ戻す。膝の上にもビニール袋。こちらはペットボトルの蓋は覗いていないが、それは先程差し出されたものだろう。

 

「……随分買ってきたね?」

「3日分よ」

「3日?」

「あんたが休んでいた日数」

「……」

 

 困惑が表情に出ていたのだろう。スマホを取り出したすいちゃんが、画面をこちらへ向ける。

 確かにすいちゃんと最後に話した日から数えて、3日経っていた。

 

「私が来るたびに寝ているし、日中も音信不通だったから、嫌われたもんかと思っていたわ」

「タイミング悪かったねぇ」

「そもそも、見舞いの品があったんだから、起きたら礼の1つでも送るのが筋なんじゃないの」

 

 流石にその期間の間ずっと寝ていたとは思わなかったらしい。

 「全く」と怒るすいちゃんに、「ごめんね」と謝罪する。

 

「お見舞い、来てくれてありがとう」

「別に。あんただって、保育園時代にはお見舞いに来てくれていたでしょ」

「見舞いの品は買えなかったけどね。それに、保育園で待ちぼうけになるより良かったし」

「……それでもよ」

 

 がさがさとビニール袋を漁り、すいちゃんが次に取り出したるはゼリーであった。

 

「食べる?」

 

 返事をするより先に、腹が鳴る。

 余りにお約束なその音に、くくくと笑ったすいちゃんが、ゼリーの蓋を開けた。

 

「はいこれ」

「……ありがと」

 

 受け取った俺の顔が、どうなっているかは想像に難くない。

 そんな俺を見たすいちゃんが、笑いをこらえた様子で、袋から更にプラスチックのスプーンを取り出した。

 同じように封を切って差し出され、素直に受け取る。

 直後、堰を切ったようにすいちゃんが声をあげて笑い始めた。

 

「笑わないでよ」

 

 一口分掬い、口元に運びながら文句を言えば、すいちゃんの笑いは更に増す。

 これは暫く駄目かと思い、無視してゼリーに集中することに決めた。

 ブドウの味のそれは、中に果実が入っている少しお高い物。

 これを食べている事がシオンにばれたら面倒くさそうだなぁとぼんやり思う。

 食べ進めているうちに、徐々にすいちゃんの笑いは収まり。目じりの涙をぬぐう。

 

「食欲はありそうで安心したわ」

「ずっと寝ていれば、お腹も空くよ」

「体調悪いと、食欲無くなったりするでしょ」

「それは……確かに」

 

 まあ今回は体調不良ではないからか、シンプルにお腹が空いていた。

 とはいえ久しぶりの食事。一度に食べ過ぎないように注意して、ちまちまと食べ進める。

 そんな俺の様子を見ていたすいちゃんが、「大丈夫そうね」と、そう言いながら立ち上がった。

 

「それじゃあ、私は帰るわ。シオンちゃんとわためちゃんも心配していたから、早めに顔を見せてあげなさい」

 

 立ち上がるすいちゃんを見上げると、無意識に口が動いた。

 

「……もうちょっと」

「ん?」

 

 お願いを口にしようとして、思い止まる。

 相手は星街すいせい。今を時めく、アイドルにして歌姫。

 そんな彼女に、そんなお願い、分不相応だ。

 

「……やっぱ、何でもない」

「ふーん……じゃあ、私も1つ」

「ん?」

 

 すいちゃんが、再度腰を下ろす。

 ほっっとしてしまったのもつかの間、顔に浮かべる笑みが、随分と意地の悪い物だと気がつき、ちょっと嫌な予感を抱く。

 

「どんな夢見ていたの?」

「夢?」

「ずっとすいちゃんすいちゃん言っていたけど」

「……」

 

 正直、どんな夢を見ていたのかは良く覚えている。

 過去の追体験。一生色褪せないだろう、嵐の夜の奇跡。

 あの日を見ていれば、そりゃ寝言ですいちゃんを呼んでいても、不思議じゃない。

 

「絶対教えない」

 

 言ったら一生茶化される。

 

「教えてくれたら、もうちょっと此処に居てあげてもいいけど? 今ならおまけで一曲プレゼント」

「……」

 

 心でも読まれているのだろうか。そんな分かりやすい人間とは思っていないのだけど。

 

「……なら、あれ歌ってほしい。小さい頃に流行っていた、魔法少女アニメのOP」

「どれの事?」

「…………すいちゃんが、嵐の晩に歌ったやつ」

「……」

 

 さっさと視線を逸らす。自分がどんな顔をしているか、想像もしたくない。

 そんな俺の頬がつんつんと突かれる。

 

「だったらどんな夢を見ていたか教えなくちゃねー」

「今、言ったようなもんでしょ」

「いやー、分からないなー」

「……」

 

 相変わらず意地悪である。知っていた。

 

「……すいちゃんと友達になった日だよ」

 

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