ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
紫咲シオン
角巻わため
白上フブキ
大神ミオ


見舞い、幽世

 すいちゃんの来た翌日。

 今日の来客は、大変珍しいいつもの巻角先生だった。

 

「すみません、来てもらっちゃって」

「構わないよ。ちょこ先生の教え子さんだからね」

「……」

 

 ちょこ先って何者なんだろうか。

 そんな事を思いながら、服を着なおす。

 いつもの巻角先生の診察。いつもと違うのは、ここが病院では無く自室という事。

 出張診療なんて、普段ならしていないだろうに、連絡したら二つ返事で来てくれた。フットワークが凄い。

 

「傷の治りは早いけど、無理はしないでね。暫くは安静に。学校は休んでね、ちょこ先生には伝えておくから」

「いつもみたいに、魔法のお薬とかで治らないんですか?」

 

 先生の言葉を聞いて、沸いた疑問を投げかける。

 俺の言葉に、少し困った顔を浮かべた。

 

「いや、傷の辺りから、観測した事のない成分が検出されたからね。魔法を使って影響が無いか、定かじゃないんだよ。心当たりはある?」

「あー……大丈夫です。分かりました」

 

 多分フレアさんの使ってくれた物だろう。どうやら異世界産らしい。

 お金を払い、先生を見送って。俺はリビングへと戻る。

 リビングには、各々の時間を過ごしていたシオンとわため。そんな二人の視線が、俺に向く。

 

「診察終わった? 大丈夫?」

「ああ。治りは早いらしいから、暫く大人しくしてればいいってさ」

「そっか、良かった」

 

 キッチンに入り、コップへ水を汲んで戻る。

 そのままダイニングテーブルに座れば、わためも移動してきて、シオンの隣に座った。

 

「改めてありがとうな、二人共。心配かけてすまん」

「本当だよ、全く」

 

 俺の言葉に、わためが頬を膨らませる。

 そんなわためへ、改めて「ごめん」と口にする。

 

「私は別にいいけど。それで? 昨日は結局聞かなかったけど、その怪我、どうしたわけ?」

 

 あの日俺を送り出してくれたのは、ボロボロの状態ながら、その状態で普通に動ける事も知っていたからで。

 まさかその後、別の人に襲撃を受けて、腹から血を流していたなんて思っていなかったらしい。

 後からわためとの情報擦り合わせで俺がまた馬鹿な事をしていると悟ったらしく、あのタイミングで迎えに来たらしい。

 昨日は目が覚めてからずっと怒られていた。

 お陰で溜飲が下がったようで、今は冷静だ。

 

「それが、正直俺も良く分かっていないんだよ。シオンと別れて学校に戻る途中に襲われたもんでな」

「それで?」

「腹を捌かれながら逃げおおせた」

「なんだって、アンタは」

 

 溜息をつかれた。

 俺がシオン側なら、多分同じように溜息をついているだろう。

 何やっているんだと、そう思う。

 

「心当たりはないわけ?」

「何となく声に聞き覚えはあるんだが……」

 

 とはいえぴんと来ない。

 割と最近、聞いた気がするのだが。

 

「おまわりさんに届けた方がいいんじゃない?」

「んー……それは大丈夫だと思う」

 

 あれが辻斬り的な存在だったのなら兎も角、明確に俺が狙いと発言した。

 襲撃者の言葉を鵜呑みにするのもあれだが、それでも嘘には聞こえなかった。

 それに、昨晩調べた限りでは、この街で通り魔の被害が出たというニュースも無い。

 無いのだが……。

 

「まあでも、わためも暫く家に居るようにな」

 

 そんな言葉が、口をついた。

 

「それはいいけど……」

 

 不思議そうなわため。首を傾げる彼女に、頷き返す。

 

「私は?」

「お前は言わんでも居るだろ」

 

 俺の言葉に、シオンがイーッっと歯を剥いて威嚇してくる。

 そもそも俺より全然強いのだから、心配するだけ無駄だろう。

 

「さてと。じゃあ、俺はもうひと眠りするかな」

「起きたばかりじゃない」

「なんか眠くてなぁ」

「多分、魔法のせいだと思うよ」

 

 その言葉は、意外な事にわための口からだった。

 シオンの視線が、自然とわためへ向く。魔法と聞いて、気になったらしい。

 

「どういうこと?」

「傷口の治癒に使っている魔法って、その人の治癒能力を向上させる魔法なんだって。だから、加速度的に治りやすくはなるけど、その分疲れやすくなるんだって、フレアちゃんが言ってたよ」

「通りで」

 

 正直眠いし、お腹も空いている。

 今はともかく眠気。

 

「傷に対して、そういうアプローチをするのね、成程……」

 

 シオンが顎に手を当て、ふむふむと頷いている。

 

「とりあえずひと眠りしてくる。おやすみ」

「おやすみー、コップ、洗っておくから置いといていいよー」

「すまん、助かる」

 

 水を飲み切って、席を立ち、そのままリビングを出た。

 ふわりと欠伸が漏れる。寝すぎて凝り固まった体を解していると、捻った拍子に傷が痛む。

 

「いちち」

 

 服の上から傷をさする。

 そんな事をしていると、脳裏をよぎるのは、先程の会話で話さなかった事。

 

「結局なんだったんだろうなぁ」

 

 襲ってきたあいつとの戦闘の最中、転がっていた石。

 あれが無ければ、多分無傷で切り抜けられていたと思うのだが、それは兎も角。

 

「タロは何だと思う?」

『ク~ン』

 

 俺の問いに、タロは困った様子。そりゃそうだ。

 撫でながら、考える。

 あの時は正直タロに気を取られた瞬間をつかれたかと思ったが、流石にあの状況で、相手の動きを見逃す程に集中を切らすことはしない。

 なら、あの石は何かしらの外的要因からの物だろう。誰かが投げたとか、落としたとか、そんな感じ。

 

「まあ、それで集中切らして後ろ向いた時点で、自業自得なんだが」

 

 そこは反省。

 今後は油断せんように気をつけようと思いながら、戸を開けて自室へ入る。

 

「んじゃタロ。おやすみ」

『ワン!』

 

 布団に潜り込む。

 力を抜いたら、直ぐに意識が沈んでいった。

 

 ***

 

『ワンワン』

「んあ」

 

 タロの声に目を覚ます。

 

「どうした?」

『ワン!』

 

 俺の言葉に、タロはベッドを降りて、扉の方へ向かっていった。

 意識をそちらへ向けると、合わせたように戸がノックされ、間もなく開けられる。

 

「失礼しまーす」

 

 最初に隙間から白い三角耳が覗く。そこから徐々に、見慣れた顔が見え始めた。

 

「起きて──たや」

 

 ベッドの上で体を起こしている俺を見て、フブキ先輩は普通に扉を開け、部屋に入ってきた。

 その後ろにミオ先輩。その胸元にタロを抱えている。

 

「お疲れ様です。……私服着てますけど、学校はいいんですか?」

「もう放課後だよ」

 

 そう言われて時計を見れば、確かにとうに学校は終わった時間だった。シオンとわためと話したのは昼頃だったはずだから、がっつり眠ってしまったらしい。

 

「寝過ぎました」

「みたいだねー。はい、これお見舞いね」

「ありがとうございます」

 

 割と大きめの紙袋だ。受け取れば、ズシリと重い。

 何が入っているのかと中を見れば、大量の漫画やラノベ。

 机の傍に置かれていた椅子を持ってきて座りながら、フブキ先輩が言う。

 

「暇かなって思って、気にしていた奴とかオススメの奴とか、色々持ってきたよ。読み終わってから返してくれればいいから、ゆっくり読んでね」

「ありがとうございます」

 

 実際気になっていたし、フブキ先輩のオススメなら外れも無い。

 数は多いが、読み終わった物から、返していけばいいだろう。

 

「私からはこれね」

 

 ミオ先輩も小さな袋を差し出して来た。

 一旦フブキ先輩のお見舞いを脇へ置いて、それを受け取る。

 中にはプラスチックの透明な箱があった。その中にはクッキーが入っている。

 

「手作りだから日持ちはしないけど、小腹空いた時にでも食べてね」

「態々ありがとうございます。早速食べても良いですか?」

「いいよー」

 

 お腹が空いていたから嬉しい限り。取り出して、封を切る。

 一口大のそれを取り出し、そのまま食べる。

 

「──美味しいです」

「それは良かった」

 

 笑いながら、ミオ先輩が床へ腰を下ろす。

 

「あ、椅子も座布団も無くてすみません。ちょっとあれですけど、ベッドにでも座って下さい」

 

 体をずらして、隙間を開ける。

「そう?」と答えたミオ先輩が、立ち上がってベッドへ腰を下ろした。

 

「それにしても」

 

 横から伸びてきた手が、俺の持っている箱の中から、クッキーを強奪していく。

 それはそのままフブキ先輩の口の中へ消える。もぐもぐ咀嚼。

 

「保健室で別れた時は元気そうだったから大丈夫だと思ってたけど、まさか数日寝込む位酷かったんだね。もっとちゃんとお説教しといた方が良かった」

「──反省しているでしょうから、辞めてあげてください」

 

 どうやら事実は知らないらしい。

 態々話す事でも無いから笑ってごまかす。

「でもさー」というフブキ先輩を宥める。

 あれに関しては彼らは関係無いだろうし、フブキ先輩はこう言うが、かなりしっかり怒られていたから、更に怒られるのもかわいそうだ。

 

 そこから暫し、もぐもぐとクッキーを食べつつ、近況報告をしあう。

 まあ、俺は寝ていただけだから、もっぱらフブキ先輩から学校の様子を聞くだけだ。

 一先ずすいちゃんが転校してきた件については、落ち着いているらしい。今は、スバルや百鬼、後はいいんちょが一緒に居るらしい。

 同じ学年だし、同性だ。俺が一緒に居るよりいいのだろう。

 

「私も後一年後に入学していればなー」

「そういうもんですよ。あ、そうだ」

 

 すっかり渡し忘れていた物を思い出した。

 ベッドから降りて、本棚から色紙を取り出す。

 

「これどうぞ」

「何これ?」

 

 色紙を見て、ぴしりと固まるフブキ先輩。

 その脇から、ミオ先輩も色紙を覗き見る。

 

「これ……もしかしてときのそらちゃんの色紙? すごい、本物?」

「はい。以前たまたま道案内しまして。その時にお礼で頂きました」

 

 本当はもっと早く渡せれば良かったのだが、持ち出して汚したり、折ってしまったりと言ったことが心配で、出来なかったのだ。

 

「……本当にありがとう、家宝にするね」

「いえ。喜んでいただけたのでしたら、何よりです」

「実家の神棚に飾らなきゃ」

「絶対に辞めて下さい」

 

 呆けた様子のフブキ先輩の言葉に、ミオ先輩がツッコむ。

 

「なんでよ! そらちゃんの色紙だよ! 神棚に飾らなきゃ、神罰が下るでしょ!?」

「だからって、本家の神棚に飾っていいわけ無いでしょ! せめて本宅に飾りなさい!」

「だって神棚無いじゃん!?」

「普通に飾りなさい!」

 

 きゃんきゃん言い合う二人を見ながら、ぽりぽりとクッキーを食べる。

 

「うまぁ」

 

 もっと食べたい。

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