ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
白上フブキ
大神ミオ


見舞い、幽世2

 ミオ先輩手製クッキーは、しっとりとしたクッキーだが、それでも粉物。食べ続けていると、流石に少し口が乾く。

 空のコップを見て、何か飲み物欲しいなぁとぼんやり思っていると、控えめに扉がノックされた。

 そして、フブキ先輩の時と同じく、恐る恐るといった具合に、静かにとが明けられる。

 

「あのー、お茶のお替りとかーどうでしょう?」

 

 隙間から、わためが顔を覗かせた。それでもなお続くじゃれあいに、びくりと跳ねる。

 視線が泳ぎ、俺を捉え。そのまま目が合う。

 大丈夫と合図。するとわためは、恐る恐る部屋の中へ入ってきた。その手には麦茶の入ったボトル。

 とたたと小走りに移動してきて、机に置かれた三つのグラスへ、麦茶を注いでいく。

 その最中、わためがちらりと、俺へ視線を向けた。

 

 ──大丈夫なの? 

 

 アイコンタクトでそんな事を聞いてくるわためへ、笑って返す。

 日常茶飯事とまではいかないが、それでも二人の先輩のこうした口喧嘩は割と多い。

 大体フブキ先輩が暴走して、それをミオ先輩が窘める流れで、そこからヒートアップしていくのだ。

 まあ、喧嘩というよりはじゃれあいのそれ。そのうち収まる程度の、態々止める程の物でない事も知っている。

 俺の様子に、大丈夫というならとわためも落ち着きを見せ。

 代わりとばかりに、俺の方へ注ぎ終えたボトルを見せた。

 

 ──置いてく? 

 ──頼む。

 

 アイコンタクトでのやり取りはしっかり伝わり、わためはボトルを机に置くと、静かに部屋を抜け出す。

 背中を見送り、先輩方へ意識を戻した。

 わための事に気が付いているのかいないのか。じゃれあいはそらちゃんの色紙の内容から、普段の生活態度の話になっている。

 犬も食わないそのじゃれあいに、もう少し長引きそうだなぁと思いながら、俺はフブキ先輩のお土産に手を伸ばした。

 適当に一冊持ち上げれば、丁度単行本1巻。異世界物の俗にいう追放系作品。外れスキルをつかまされ、無能と蔑まれて勘当された主人公が、仲間と出会い家族を見返す話。

 

 ──別に見返さんでもいい気もするけどなぁ。

 

 家族以上の仲間が出来てなお、自分を捨てた家族に拘る理由は果たして何なのか。

 自己顕示欲? 復讐心? 難しいなぁとそんなことを思いながら、俺は表紙をめくる。

 

 ***

 

 読み始めて暫く経って。

 声が止んだなーと思い顔をあげれば、肩で息をする先輩方。

 

「満足しました?」

「「……ごめんなさい」」

 

 それぞれの三角耳が、ちょっとしょんぼりする。

 それを見て、俺もしょんぼり。

 

「すみません。なんか嫌味っぽくなっちゃって」

「いやいや。お見舞いに来ておいて喧嘩してたら流石にねー」

「喧嘩なんですか?」

「……そこまでのつもりは無いけど」

 

 んー、と首をひねるフブキ先輩。傍から見ればただのじゃれ合いなのだが、本人にすれば、イマイチ言葉にしづらいらしい。

 暫し、プスプスと煙を吐くような擬音が聞こえてきそうな程に悩んだフブキ先輩。

 やがて、諦めたようで、大事そうに抱えていた色紙を、顔の高さまで持ち上げた。

 

「改めてありがとうね! 凄く大事にする!」

「そう言っていただけると、貰った者冥利に尽きます」

 

 世の中には、こういった貴重な物を転売する輩もいるらしいが。フブキ先輩に限ってそれも無いから安心だ。名前も書いてあるし。

 大事にすると言い、何よりそらちゃんのサイン色紙だ。本当に大事にするだろう。

 神棚は流石にやりすぎと思うが、しっかり飾ってくれると思う。

 

「何かお礼しなきゃね。何かある?」

「いえ、そんな。偶然機会があっただけですし、そもそも普段からお世話になってますから。寧ろ、日頃のお礼のつもりで貰って来た位で」

「つまり、ウチにはお世話になっていないって思っているって事?」

「……」

 

 断固そんなつもりは無いのだけど。少なくともあの時、3枚は流石に貰い過ぎだよなーと思ったのに加えて、自分の欲望を優先した事は否定しない。俺だって、欲しかったのだ。

 

「……後日、今日の分を含めて何か、お返しをさせていただければと」

「ふむ、ならいいか」

 

 何して貰おうかなーと、ミオ先輩。大丈夫だとは思うが、出来ればお財布には優しいお願い事であってほしい。

 

「……そうだ、ミオ先輩」

「ん?」

「フブキ先輩も含めて、ここ数日最近周辺で変わった事とか無いですか?」

「変わった事?」

 

 今度はミオ先輩がんー? 

 間もなく、いや、と口を開く。

 

「心当たりは無いかなぁ。何で?」

「最近物騒じゃないですか」

「それは君の周りだけな気がするけど」

 

 ちょっぴり呆れ顔のミオ先輩。そんな先輩へ言葉を続ける。

 

「何かあったら教えて貰えませんか?」

「それは別にいいけど……」

 

 ちらりと、ミオ先輩の視線がフブキ先輩の方へと向く。

 その後を追ってフブキ先輩の方を見れば、まっすぐ俺の方を見据えていた。

 視線の中に、フブキ先輩じゃなくて白上さんが見える気がする。

 

「今の質問は、どういう意味?」

 

 フブキ先輩がそう口にした。

 少しだけ圧を感じ、笑って返す。

 

「正直深い意味は無いんです。ただ、何となく気になっただけで」

「どうして気になったの?」

「さっき言ったじゃないですか。最近物騒だからですよ。──それと」

「それと?」

「ただの勘です」

 

 そう、勘だ。実際、それ以上の説明しようが無い位に勘だ。

 何となく、フブキ先輩やミオ先輩の周りでも、何か変化が起きているんじゃないかと、そんなふうに思っただけで。

 ただ──確信に近い。寝る前わために、家に居るようにと、伝えた時と同じ感覚。

 

「勘ねぇ」

 

 俺の言葉をどう捉えるべきか、考えあぐねている様子のフブキ先輩。

 ミオ先輩はミオ先輩で、こちらも困った表情だ。

 ただ、フブキ先輩へ一任すると決めているらしく、悩んだりしている様子は無い。

 

「この件は──」

 

 再びの、フブキ先輩。

 

「幽世は関係無いよね?」

「はい」

「なら、ミオの力を貸すのも違うか」

 

 そのままうーんと、少し悩んで。

 

「よし、分かった」

 

 膝を打った、フブキ先輩。

 

「何かあったら教えるね」

「はい、お願いします」

 

 頭を下げる。

「まかせて」とフブキ先輩の声。

 

「色紙貰ったし、これ位はね」

 

 そう言うと、フブキ先輩は立ち上がる。

 

「さて、余り長居してもあれだし、私達はそろそろ帰るね」

「そうですか? もう少し長居してくれてもいいですけど」

「これはお見舞いで、君は一応怪我人なんだから。ゆっくりしなさい」

「はーい」

 

 一応では無く真の怪我人なのだが。言う理由も無いので、素直に黙る。

 ベッドに座っていたミオ先輩も立ち上がった。

 君はそのまま寝ていてというミオ先輩の言葉に甘え、ベッドの上から見送ろうとすると、代わりとばかりにタロがついていく。

 

「それじゃあまた部活でね。あまり無理しちゃだめだよ」

「気をつけます。フブキ先輩とミオ先輩も、お気を付けください」

「ありがと。じゃあまたねー」

「お大事に。しっかり療養するんだよ」

 

 ミオ先輩がそう言い終えると、二人は部屋から出て行った。

 タロは二人を見送る為について行ったらしく、部屋の中には俺一人残される。

 

「なんだろうなー、これ」

 

 この不思議な感覚はいったい。

 異世界魔法の力なのか、それとも別の原因があるのか。

 理由の分からぬまま、ベッドへ再び体を預ける。

 ふわりと欠伸が漏れた。目を閉じて、力を抜けば、意識は徐々に沈んでいく。

 

 それにしても、眠い。こんなに眠いの──。

 

 ***

 

 後輩の家を後にし、フブキとミオは帰路についた。

 先程あんなことを言われたせいか、何となく周囲を警戒してしまう。

 

「ねえ、フブキ」

「ん? なーに?」

 

 口火を切ったミオへ、フブキが返す。

 

「どう思う? さっきの話」

「まあ、気のせいじゃなかったって事だねー」

 

 嘘が下手な後輩を思い出して、フブキはクスリと笑う。

 成程、確かにここ数日、日に数度、何かを感じていた。

 ただ、巧妙に隠れているようで、その度にその何かの主を掴もうとはしたものの、成果が出ずにいたのだ。

 まさか、その話が後輩から出てくるとは思わず、語気が強くなってしまった事を反省しつつ、今も感じるそれに、小さな溜息を一つ。

 

「てっきり幽世の関係者だと思っていたけど」

「どうする?」

 

 ミオの言葉にフブキは少しだけ考える。

 向こうの関係者であれば、正直家の力を使ってどうとでも出来るとは思っていたのだが。

 そうでないのなら、こちらで対処する必要があった。

 

「探られているのも面倒だね。本腰入れて確認しとこうか」

 

 単純に現世の者では無いというのがばれるのも問題だが、フブキやミオのように現世の治世に溶け込んで生活している者たちの殆んどが、戸籍などの公文書を偽造しているし、私文書はそれらの偽造書類を基に作成されている。

 当然だ。幽世産まれ幽世育ちに、現世の公文書など無い。そして悲しきかな、今の現世ではそれらの物が無いと、ろくに生活出来ない。

 

「頼んでいい?」

「うん」

 

 頷いた直後、ミオの姿が消える。それを見送り、夜道に一人、残されたフブキが短く息を吐いた。

 究極バレても幽世へ戻るだけだが、フブキとしては、まだこちらに居たいのが本音だ。というか帰りたくない。

 

「杞憂だったらいいけど」

 

 そんな呟きは、闇に溶けて消える──事は無く。

 

「杞憂じゃないんだよなー」

 

 とある秘密結社の耳へと、届いているのだった。

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