角巻わため
白銀ノエル
不知火フレア
フブキ先輩とミオ先輩の見舞いの翌日。
自室で借りたラノベを読んでいると、インターホンの音が聞こえた。
来客らしい。一応本を閉じ、様子を窺う。
『ふーたん、ノエちゃん、いらっしゃい!』
『お邪魔します』
『お邪魔しまーす』
階下から、わためとフレアさん、ノエルさんの声が聞こえてきた。
様子を窺っていると、やがて階段を昇る音も聞こえて来て。間もなく戸がノックされた。
返事を待たず、戸が開く。
「2人ともきたよー」
「こんにちは。すみません、わざわざ来て貰ってしまって」
「お邪魔しまーす」
「お邪魔します。気にしないで。いつもお世話になってるから、お礼がしたいんだってさ」
俺の言葉へのフレアさんの返事は、どこか他人事の様子。
何故と考える俺だったが、すぐに見当はついた。
「きんつばも、ありがとうな」
きんつばが飛んできて、ベッドの上へ着地する。
そんなきんつばを撫でていると、わためとフレアさんも中に入ってきた。
というわけで、本日はきんつば先生withフレアさんの出張診療である。診療と言っても、治癒魔法のかけ直しなのだが。
「昨日、お医者さん来てたんだっけ?」
「なんか言っていた?」
「いえ、特に。傷の治りは早いけど、暫く安静にと」
「そりゃそうだ。君は言っておかないと、直ぐどこかに行きそうだからね」
「そうだそうだ」
「ごめんて」
あの日の事をまだ根に持っているようで、フレアさんの言葉にわためが同調する。
「さてと。じゃあ始めようか。さっそくだけど脱いで」
「はーい」
「わー!?」
服に手をかけると、わためが部屋を飛び出していく。
「あ、ついでに救急箱持ってきておいて」
そんなわための背中へ、フレアさん。
聞いていたのかいないのか、わためは勢いよく飛び出し、力強く戸を閉めた。
「恥ずかしがり屋だなぁ」
「そういう訳でも無いのでは」
傷を見たくないとか、そんな所だと思う。
パジャマ代わりのシャツを脱ぎ、ついでガーゼを剥がす。
昨日ぶりの傷跡は、また少し良くなったようだった。
「良好みたいだね。それじゃあ、きんつば、お願い」
フレアさんの言葉に、ピッっと敬礼したきんつばが傷に近づいた。
眉間に皺を寄せ、短い腕を突き出し、上下に振りはじめる。
その姿にみょんみょんみょんみたいな、何とも形容しがたい擬音が似合いそうだなと。そんな感想を抱いた。
もっとも、別に何か光線が出ているとか、そういったわけではない。そう見えるというだけ。
ただ、実際何か生暖かい感触があるから、存外的外れということもないだろう。
「……それにしても」
と、前置きするノエルさん。
「ちょっと体に触ってみていい?」
唐突にそう振られて、俺は首を傾げる。
「いいですけど……」
訳の分からぬまま、腕を差し出せば、ノエルさんに腕を取られた。
指先から始まり、徐々に上ってきて、二の腕辺りで止まる。ムニムニと揉まれる。
「……昔スポーツとかやってた?」
「いえ、特には」
ホロ学入学当初に部活に入っていたが、ほぼ掃除だったし。
体育とトレーニングしているくらい。
「トレーニングとか食事メニュー、誰かに決めて貰っている?」
「それも無いですね。自分で適当に」
昨日は此処やったから今日はこの部位とか、タンパク質とか脂質の量とか、簡単にバランスを取る位の事は流石にしているけど。
「そっかー……」
「あの……?」
「柔軟ってどれくらいできる?」
「まあ、普通に」
えいやと、体を倒す。足に顔がついて、足の裏をしっかり掴むに至る。
ぺしっときんつばに叩かれ、体を起こした。すみません。
「一応確認だけど、将来スポーツ選手になりたいとか、格闘家になりたいって言うのも無いんだよね?」
「特に理想にしたことは無いですけど」
「それでこれかー」
ノエルさんの手が腕から胸やら腹に移動し、触られたりつねられる。痛くは無いが、こそばゆい。
「筋肉はつけすぎていないし、体脂肪を落とし過ぎていない。体を大きくする、凄く実践的な鍛え方。誰にも教わっていないのに、出来る事じゃないよ」
「そうですか……」
良く分からないが、凄いらしい。
本当に教わった記憶は──無い?
「将来決まっていないなら、是非うちの騎士団来てね。見習いからだけど、高待遇だよ」
「職場が異世界はちょっと……」
ノエルさんの言葉に、思わずツッコむ。
直前まで脳裏をよぎりそうな何かが、飛んで行った。
はてと思っていると、ノックの音。
「救急箱持ってきた──ってわー!?」
間もなく、わためが戸を開けて入り、直後に飛び出る。
「なんで裸なの!」
「治療中だから?」
「じゃあ、ノエちゃん触ってるの!」
「それは俺も良く分からんけど」
ノエルさんの手が離れた。
「ありがとうね、触らせて貰って」
「それは別にいいですけど」
なんかありがとうって言われるの、変な感じだが。
「じゃあ、私、わためちゃんと約束あるから」
「……? はい」
よいしょと、立ち上がって。
ノエルさんが部屋を出ていく。
「……」
「……」
俺とフレアさんときんつばが残された。
沈黙が支配して、気まずい。悩んで、思いついた話題を口にする。
「……そういえば、こちらに来た目的って、その後どうなったんですか?」
「あれ? 意外と気になってる?」
「他に話題が……。それに気にならないかと言われれば、そんな事も無く」
件のドラゴンと思われる方は、今もうちの学校に居る訳だし。
「でも手伝ってくれないんでしょ?」
「手伝うのはちょっと」
キュッってされちゃうかもしれない。
「それじゃあ話せないかなー」
「……宝鐘さんの家の場所、教えてあげたじゃないですか」
「……それを言われると弱いんだよなぁ」
フレアさんが困り顔を浮かべる。
かなり昔に感じる。宝鐘海賊団に誘拐されて、シオンが迎えに来て。
あの後フブキ先輩の家に行った折、フレアさんに告げ口しておいたのだ。
座標はシオンが覚えていたから、直ぐに分かった。
あれからどうなったのかは知らないが、一度フレアさんに連れられた宝鐘さんが家へ謝りに来たから、多分解決したのだと思う。
「うーん……まあ、いいか」
少し悩んで、フレアさんが頷いた。
「一応解決はしてるよ。相互不可侵で話がついた。というより、つけてもらったが正しいかも」
「もらったんですか?」
「まあ、元々怒らせたのは人族側だった訳だし。人族滅ぶべしとか、貢物を献上しろ、なんて話にならなかっただけ、大勝利とも言えるかな。不平等条約を言われてもどうしようもなかった訳だし」
「成程、確かに」
理屈は知らんが、本気で息をしたら世界に穴をあけちゃうレベルなのだ。戦いにすらならないだろう。
「まあ、天使様にとりなして貰っ──」
言葉の途中でフレアさんは少し固まり。「あー……」と困った声をあげる。
「そうだった、忘れていた」
「はい?」
ぼそりとフレアさんが言う。
「なんか困ったことがあったら言ってね」
「急ですね。なんか怖いんですけど」
「大丈夫。下心とか無いから」
「本当ですか?」
嘘にしか聞こえんのだが。
忘れていた何かと関係していそうである。
「いやー、君にはどんどん頭が上がらなくなるね」
「そこまで接点無いでしょう。それに、こうして治療もして貰っている訳ですし」
「いやいや。君が知らないだけだよ」
そう言って笑うフレアさん。良く分からない。
首を傾げると、ノックが数度。わためが顔を覗かせる。
「救急箱、渡し忘れちゃって──わー!?」
顔を覗かせた直後、即退散していく。
「どうしたんだ?」
「驚いているふりして見に来ているだけかもよ?」
「……そんな事は流石に無いのでは?」
「ふーたん!」
扉越しに、わためからのお怒りの声。
その声に、フレアさんが喉を鳴らして笑う。
良く分からずにいる俺の腰が叩かれた。下を見れば、きんつばのみょんみょんが終わっている。
「終わったみたいだね。じゃあ、わため包帯巻くー?」
「いい!」
わための態度にけらけら笑って。フレアさんは救急箱から医療用テープを取り出した。
「貼っちゃうから、ガーゼを抑えておいて貰える?」
「はい」
ガーゼのサイズ的にも、包帯を巻くほどではない。
「あまりわためをからかったらだめですよ」
「だって反応可愛いじゃん」
「それは同意しますけど」
「わためー、可愛いってー!」
「うるさーい!」
まだ扉の前に居るらしいわためから、お怒りの声が響いてきた。
文章の構成はどちらがいいですか
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全部詰める(全話までのやり方)
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地文と会話文の間に改行を入れる(今回)