ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
大空スバル
星街すいせい
紫咲シオン


見舞い、日常

 94

「来たわよー」

「来たッス!」

 

 特にノックも無く開け放たれた戸からはスバルとすいちゃんが顔を見せた。

 時刻は放課後。今日の来客は無いかと思い、少し油断していた。

 

「……なんでそんな恰好してるの?」

 

 床でタオルケットを巻いて体を隠す俺を、すいちゃんが見下ろす。スバルも不思議そうな顔。

 

「筋トレで裸になってたんだよ! 服を着るから一回出てて!?」

「なんで裸になるのよ」

「別にいいじゃん! 動きやすかったんだから! な? スバル!?」

「確かに、総合格闘技部も上裸で筋トレしてたりするッスね」

「ほらー!」

 

 我が意を得たり。初めてあの筋肉マン達に感謝する。

 俺の言葉に、ほーん、とどうでも良さそうにすいちゃん。でも、とスバル。

 

「全裸じゃないよ?」

「もしお前の前で全裸になっていたなら、今すぐ殴りに行ってやるわ! あと、俺もパンツは穿いているから!」

「てか、別にアンタの裸なんて何度も見てるじゃない。今更減るもんじゃないんだし、鍛えているなら見せてみなさいよ」

「保育園時代の話!」

 

 確かにすいちゃんちに行って、一緒にお風呂入ったりした事あったけど! 

 

「ほーら、良いではないか良いではないか」

「いやー、おやめになってー!」

「なにやってんスか」

 

 すいちゃんにぐいぐいとタオルケットを引っ張られる。

 全力で抵抗しようにも、力いっぱいひっはったら怪我をさせそうなのと、すいちゃん相手には奴隷根性的なのが働いて、なんか抵抗しきれない。

 とはいえ、体はボロボロ。ミオ先輩の爪の痕とか古傷が地味に残っているし、脇腹にはガーゼが貼られたまま。

 絶対に見せる訳にはいかない。気持ち悪がられたら泣いちゃうし、説明を求められても出来はしないのだ。

 

「もー、すいちゃん。嫌がってるから、その辺にしとくッスよ」

「えー」

 

 スバルの鶴の一声に、すいちゃんからの力が弱まる。

 

「スバちゃんも見たくない?」

「別に見たくないから。ほら一回出よ」

「……」

 

 すいちゃんがスバルのいう事聞いてるし、何ならスバちゃんって呼ばれてる……。

 

「……なんか、向けられたこと無い感情、向けられているんだけど」

「楽しいよね」

「そんな事無いけど!?」

 

 ***

 

 ちゃんと服を着た俺は改めてすいちゃんとスバルを部屋に招き入れ、入れ替わりに外へ出た。

 そのまま1階へ降りて、キッチンに向かう。

 キッチンでは、わためがいつものようにお茶やらお菓子やらを用意し終えている所だった。

 

「あれ? どうしたの? 二人は?」

「部屋に居るよ。俺はわための持っているそれを持って行こうかと思って。いつもありがとうな」

「別にいいのに。じゃあ、はいこれ」

「ああ」

 

 わためからお盆を受け取って、キッチンを出た。階段を昇り、自室へ。

 何故かきっちり閉まっている戸を片手で開けた。

 

「おまたせー……何やってんの?」

「──ッ、いったぁ!?」

 

 パイプベッドの下を潜っていたスバルが頭を上げた拍子にぶつけていた。その衝撃にスカートが乱れ、何か覗けそうになり、視線を逸らす。

 その先に居たすいちゃんは棚に置かれていたフィギュアを後ろに向ける作業中。こっちは何をしているのか本当に分からない。

 視線をそちらへ向けたまま、部屋の中を移動し、お盆を一旦、机に置く。

 脇では、ベッドの下からスバルが這い出てくるのを気配で感じた。

 

「大丈夫か、スバル?」

「うん」

 

 視線をスバルへ戻せば、座った姿勢で、ぶつけたであろう辺りを撫でている。

 

「保冷材でも持ってくる?」

「いや、とりあえず大丈夫そう」

「そう……ところで何してたの?」

「やっぱり保冷材借りようかなー」

 

 立ち上がって、パタパタ走っていくスバル。

 どうせ戻ってきた時にまた聞くだけだから、それはいいのだが。

 視線を再び、すいちゃんへ向ける。

 

「すいちゃん」

「んー?」

「何してんの?」

「いや、別に」

 

 そう言いながら、隣にあった別のフィギュアを検分。後ろを向かせる。何やっているのかマジで。

 

「……そこらへんのフィギュア、殆どフブキ先輩の私物だから、なるべく触らないでね」

「そうなの?」

「ああ」

 

 今は、元々すこん部の部室に置いてあったものも、一部こちらに移動し始めている。

 今年度末でフブキ先輩とミオ先輩は高等部を卒業。そのまま内部進学の予定とはいえ、部活自体は引退するから、それにあたってすこん部も解散する予定であり、部室の片づけもぼちぼち始めていた。

 俺としては思い出の詰まっている部室を手放したくないのも本音だったが、だからと言ってじゃあ新入部員を入れて活動を継続するのかと言われると、違う気もして。……そもそも活動らしい活動はしていない、ペーパー部だし。

 

「──なの?」

「え?」

「だから、どれがそうなのよ」

「だから殆どだよ」

 

 考え事をしていて聞き逃していたらしい、すいちゃんの言葉に答える。

 ただ、間違えていたらしく、「じゃなくて」とすいちゃん。

 

「殆どって事は、アンタの私物もあるんでしょ? どれ?」

「なんでわざわざ」

「いいから」

「二段目の右端の1体だよ」

「右端……じゃあ、これか」

 

 言われた場所を確認するすいちゃん。

 置かれているのは、正確にはフィギュアではなく、ねんどろいどと呼ばれる大体三等身位のデフォルメキャラクターの造形物。

 普通と少し違うのは、それがアニメや漫画を模したキャラクターではなく、リアルな芸能人を模して作られた物という事だろう。

 

「これって……そらちゃん?」

「うん」

 

 通販サイトをぼんやり眺めていた時にたまたま見つけて、気づいたらポチッっていた。

 

「そらちゃん……じゃあ、しょうがない」

「そりゃどうも」

 

 なんか知らんが許されたらしい。

 

「残りはじゃあ、その先輩のなんだ」

「うん」

「……なんか白い髪だったりケモ耳のフィギュアばっかりね」

「え? ああ、言われてみるとそうだね」

 

 まあ、フブキ先輩には他にも様々なフィギュアがあるから、白髪だったり狐耳が生えてる様な、自分と同じような要素のフィギュアを態々置いておく理由も無いのだろう。

 一方で、すいちゃんはと言うと、ふーんと興味無さげに納得しながら、何故か振り向かせる作業を再開した。今のところ、許されているのはそらちゃんだけである。

 

「それでさ、すいちゃん」

「何?」

「その作業はいったい何なの?」

「目に毒」

「目に毒……」

 

 美少女フィギュアではあるけど、過度に露出が高いとか、そんな事は無いのだけど。

 ただ、すいちゃんの雰囲気的に言っても無駄そうなので。

 

「……壊さないように気をつけてね」

「うん」

 

 それだけ告げて、すいちゃんが満足するのを待つ事に決めた。

 その間に、片づけていたテーブルを置き、座布団を敷いて。持ってきたお茶とお菓子を並べていく。

 

「ただいまー」

 

 丁度終えた所で、スバルが戻ってきた。

 

「おかえり。座布団どうぞ」

「座布団どうも」

 

 そこに座ってねと、ベッド側の座布団を示せば、スバルは言われるがまま、其処に腰を下ろした。

 対面に、同じく腰を下ろす。

 

「すいちゃんは何をやっているの?」

「良く分からないけど、目に毒らしい」

「……そうなんだ」

 

 スバルも理解を諦めるのを感じた。

 

「頭は大丈夫?」

「急に馬鹿にされた!?」

「じゃなくて。ぶつけたでしょ」

「ああ、そっちか。大丈夫だよ、触った感じ、特に腫れている感じも無いから、冷やして置けば治まると思う」

「そっか。で、なんでベッドの下に潜り込んでたの?」

「頭は大丈夫って、やっぱり馬鹿にしてただろ!」

 

 そんなこと──あんまり無い。

 

「だって、覗き込む位なら兎も角、がっつり潜り込んでたし。なんか落ちてた?」

「いや、なんも落ちてなかったけど」

「ふむ」

「……なんか段ボールは置いてあったから、なにかなーって」

「へ?」

「ごめんなさい!」

 

 即頭が下げられた。謝れる事は良い事だが、それは兎も角。

 

「段ボールなんてあった?」

 

 身に覚えが無く。移動して、スバルの脇に腰を下ろし、ベッドの下へ覗き込む。

 確かに、奥まった場所に段ボールが置かれていた。何だあれ。

 一度テーブルをどかしてからベッドの下へ潜り込み、段ボールを手に取る。程々の重さだ。中が詰まっているという感じはしない。何だろうと思いながら、俺はベッドの下から這い出た。

 改めて段ボールを確認する。封は閉じられていて、一見で中身は知れない。

 

「何だこれ?」

「自分で置いたんじゃないの?」

「いや、記憶に無いなぁ」

「……何それ怖くない?」

「いや、下手人の心当たりはあるけど」

 

 同居人の魔法使いを思い浮かべながら、俺は立ち上がる。

 ペン立ての中から、カッターナイフを手に取った。

 

「見ていいの?」

「そもそも人の部屋に置いておく方が悪い」

「それはまあそうだけど」

 

 カッターナイフで段ボールの封を切る。

 そのまま段ボールを開けて──目が合った。即閉じた。

 直後段ボールが暴れ出すのを、体で押さえつける。

 

「何今の!? 何か白いの居たっスけど!?」

「俺が知るか! とりあえずシオン呼んで来て!」

「なんでシオンちゃん!?」

「いいから早く!」

「了解ッス!」

 

 ばたばたとスバルが駆け出していく。

 段ボールは元気にどたばたと暴れている。

 

「中に入っている不思議生物! 言葉分かるか! ちょっと落ち着いてくれ!」

 

 どたばたしたばた。

 かなりパワフルで、抑えていなければ段ボールごと縦横無尽に飛び回りそうな勢いだ。

 

「何してるの?」

「何してんだろ!?」

 

 作業を終えたらしいすいちゃんに声をかけられた。

 その間も段ボールはどったんばったん。元気なのは良い事だが、加減を知ってほしい。

 

「ふーん……あ、この絵本、私があげたやつ」

「今思い出話している余裕無いんだけど!?」

 

 ***

 

 結局、シオンが来たのは五分程経ってからだった。

 

「もー、何よ一体──あー」

「あー、じゃねぇ!」

 

 どんな顔をしているか何となく分かる。少しだけこの段ボール叩きつけてやりたくなった。

 

「なんで開けるのよもー」

「俺が知らん間に荷物置くな!」

「……言ってなかったっけ?」

「聞いてないな!」

 

 そうだったっけと言いながら、シオンが近づいてきた。

 俺の隣へ腰を下ろし、段ボールへ触れる。

 僅かに発光。やがて段ボールは大人しくなった。

 

「これで良しと。体起こしてもいいけど、蓋は抑えておいてね」

 

 そう言われ、恐る恐る体を起こす。

 段ボールはすっかり大人しくなっていた。

 安心している俺の脇から、シオンがてきぱきと段ボールへ封を行う。

 

「ふぅ……感謝してよね」

「もう一度この封切って、お前の部屋に放り投げてもいいんだからな」

「ごめんなさい」

 

 即謝罪。どれくらい反省しているのか、分かったもんでは無いが。まあ、謝ったのだからいい。

 

「それで? これなんだよ」

「マンドラゴラ。魔界の魔法生物。実験で使おうと思って引き取って、そのままだった」

「生物? 大丈夫なのか?」

「生死って事なら、気にしなくていいわよ。原生生物だもん。アメーバみたいなもんよ」

「……それにしてはデカいなぁ」

「今は魔法で寝かせたから、光の刺激が無ければ起きないわ」

「そうかい」

 

 追加でガムテープでぐるぐるにまいて、ベッドの下、その奥へと滑り入れる。

 

「実験で使うなら早めに使ってくれ」

「はいはい」

 

「あのー……」

 

 声が届き、俺とシオンは自然とそちらへ顔を向けた。

 部屋の入口に、当然スバル。シオンを連れてくるように言ったのだから、当然だ。

 

「えっと……魔界とか、魔法とか、なんなんスか?」

「……消しとく?」

「やめたれ」

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