ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
紫咲シオン


見舞い?魔界3

「──こんなもんでいいか?」

「うん、大丈夫」

 

 頷くシオンに、満足した俺は、視線をシオンから正面へ戻す。

 場所はリビング。元々あったソファーやテーブル、カーペットまでも動かして。

 広くなったスペースへは、運び込んだシオンの私物が並べれていた。

 敷かれた布には円形の魔法陣。円と六芒星で構成された図形があり、その線へ沿うように読めない文字で書かれていた。文字の形状がシオンがよく読んでいる読めない本に似ているから、多分魔界のそれなのだろう。

 そんな魔法陣の方々には、持ち込んだ五箱の段ボールの中から、更に厳選された雑貨類が並べられていて。その雑貨類の一部には紐がつけられ、その紐の先にはボールペン。更にその近くにはコピー用紙。

 ……なというか場違いというかロマンが無いというか。

 

「そこは羽ペンインク羊皮紙じゃねーの?」

「あんな書きづらい物、使う訳無いでしょ」

「それは魔法パワーでなんとか」

「そんなリソース割くなら、普通にボールペンと紙を使った方がいいでしょ」

「ごもっとも」

 

 なんて夢が無いんだ魔法使い。

 

「それじゃあ、あの中に座って」

「あれ? 俺が座るの?」

「アンタが座るの。倒さないように気を付けてね」

「はーい」

 

 てっきりシオンが入って何かやるのかと思っていた。

 言われるがまま、倒さないように気を付けつつ、魔法陣の中に入り、腰を下ろした。

 緊張から、一応正座してみる。

 

「長くなるから、正座辞めた方がいいわよ」

「どれだけ此処に座らせるつもりだ」

「終わるまで」

 

 素晴らしく答えになっているようで答えになっていない。

 

「暇つぶしに本を持ってきてもいいか?」

「書籍内の文字とかインクが魔術的に影響あるかもしれないからダメ」

「……スマホは?」

「同じ理由でダメ──あ、服脱ぎなさい」

「なんでさ!」

「以下同文。着たいなら、タグを切った白か黒の柄無しね」

「……」

 

 こ、こいつ──! 

 やっぱり断ってやろうかという思いと、今日は付き合うと決めたのだからという思いが俺の中でせめぎ合う。

 なんなら、若干断る方が優勢だった。

 

「ねえ、はーやーくー」

 

 声を掛けられる。煽るように伸ばされた言葉に、断ってくれるわぁと口を開こうとして。

 

「──ちょっと待ってろ」

 

 きらきら目のシオンと目が合い、消沈する。俺は弱い。

 

 ***

 

「はいこれ」

 

 差し出す。洗濯用のタグを切り取った無地のパンツ──のみ。シャツは肌着も含めてすべて本体に文字が入っていて許されず、ズボン類については、重ね着NGが後付けで出されたので用意出来なかった。

 上裸は予想外だ。おのれ、商品ロゴなんて入れよってからに。これからもお世話になります。

 

「どれどれ……うん、これなら大丈夫ね」

「そりゃどうも」

「じゃあ、着替えてきて、魔法陣の中に座って」

 

 大丈夫らしい。

 一度シオンの元を離れ、パンツを穿き替える。

 流石にそれだけだと寒いので、その上からパーカーを羽織って、魔法陣の元へ。

 シオンに向き合う形に座り、パーカーを魔法陣の外へ置く……。

 

「なあ、シオン」

「何?」

「流石に寒いのだが」

 

 暖房は効かせているが、流石にパンイチで寒くない筈も無く。

 俺の言葉に、あー、と声を漏らしたシオンは、一度指を鳴らした。

 直後、ぶわりと周辺の温度が上がる。

 

「どう?」

「……これからずっとやっといてくれんか?」

「嫌」

 

 残念。電気代削減の夢が。

 とりあえず暖かくなったので、シオンを待つ。

 半裸の同居人を他所に、シオンはシオンで、今は最終調整をしているらしく、自分の足下に小さな魔法陣の上に立っていた。

 その小さな魔法陣は、俺の座っている布に描かれている物と違い、完全に一から作られた物で、会った時の魔法陣と同じように紫色に発光している。その傍らには分厚い本が数冊浮いていて、勝手にぱらぱらと頁が動き、行ったり来たり。

 魔法使いみたいだー、なんて。そんなずれた感想を抱きながら、シオンの調整を見守る。

 真剣な表情。いつものクソガキっぷりは鳴りを潜めている。そんな顔も出来るんだなと、ぼんやり感心した。

 そういえば、半年以上一緒に暮らしていて、こうしてシオンが魔法の研究をしている所を見るのは初めてだ。

 それこそ、ダイニングで何か読んでいることは在るが、その時は此処まで真剣な表情はしていないし、本格的な魔法の研究をする時は、自室に籠って行っていて、食事のとり方はその時々によってまちまちだが、部屋の中まで運び入れたという事は無い。

 

 ──楽しいんだろうなぁ。

 

 そんな事を思う。そうでも無ければ、学校の単位を瞬く間に取り切る事も、一人で居ても平気という事も無いだろう。

 少なくとも、俺には無い。フブキ先輩に教わったオタク趣味、何となく初めて、今はミオ先輩に教わる事もある料理など、楽しい事はある。

 ただ心のどこかでは一線引いている感覚もあるのだ。本気になり切らないというか、なり切れないというか。

 かつてフブキ先輩に言われた、好きとはなる物ではなく、なっている物なんなら沈む物という言葉が、今ならわかる。シオンはがっつり、魔法という沼に沈んでいるのだろう。

 一方の俺は、今尚浅瀬でちゃぷちゃぷ。あと一歩が踏み込めていない。

 なんでだろうか。多分すいちゃんという沼に、かつて沈んだ事がある。だから別に、出来ないという事は無いと思うのだが。

 

 ──ん? 

 

 首を傾げる。

 ふと覚える疑問。そもそも俺は沈みたいのか。別に浅瀬でちゃぷちゃぷのままでいいだろう。少なくとも困ってはいない。

 無意識にコンプレックスにでも思っているのか。それとも何か他に理由があるのか? 

 ……いや、思いつかんな。昔ってどう──。

 

「ねぇ」

 

 回想を遮るように、声がかかった。思考の渦から浮上する。

 

「大丈夫? ぼーっとしていたけど」

「平気。ちょっと考え事していた」

「そう。ならいいけど。とりあえず準備出来たから、始めるわよ」

「了解。……ところでさ」

「何?」

「今から何をするんだ?」

 

 そう言えば聞き忘れていた。

 俺の言葉に、何言ってんだこいつという顔を一瞬浮かべるシオンだったが、はてと首を傾げる。

 そのまましばしの沈黙。

 

「説明してないわね」

「聞いて無かったわ」

 

 ぱたんと、傍らに飛んでいた本が閉じられ、シオンの手に収まる。

 

「一応、アンタの身体、調べておこうと思ったのよ」

「というと?」

「だって、魔界の魔法が使える状態で、異世界の魔法を掛けられた訳でしょ? どんな変化があるか分からないじゃん」

「でも、先生だって見ていた筈だろ?」

「此処まではしていないでしょ」

 

 此処までと言われても、判断基準が良く分からないのが本音ではあるが。

 確かにあの人(?)は、俺に手を翳して何やらむにゃむにゃとやってはいたが、今日のシオンの様にがっつりと小物を用意してという事は無かった。

 

「まあ、あの人は間違いなく医師だから、体に問題が無いというなら、確かにそうなんでしょうけど。含有魔力と魔素の反応とか、修復速度向上による魔力器官の変性とか、そもそも魔素がどういったプロセスで人体に影響を与えたのかとか、分からないじゃない?」

「すまん。俺はそれ以前の段階なんだが」

 

 それは兎も角。

 

「素人意見で恐縮ながら、言葉のニュアンスだけで捉えると、別に分からなくても問題無い気はするのだが」

 

 俺の言葉に、今度はシオンが、んー、と悩み。

 

「私が気になる。フレアちゃんの話を聞いてからずっと我慢していた」

「素直でよろしい」

 

 と言う訳で、シオンの知的好奇心を満たすべく、我が身を捧げる覚悟を決める。

 再び本が浮いた。小さな魔法陣の上で、シオンがむにゃむにゃと何事かを唱える。

 すると、小さな魔法陣から光の線が何本か伸びて、俺の座る魔法陣の、紐の結ばれていない雑貨類の置かれている位置へとくっつく。

 直後、其処を起点に、俺の座る魔法陣もまた、シオンの物と同じように輝き始めた。

 こうも輝くとは思わなかった。サングラスを持ち込むべきだったか。

 

「落ち着くから、ちょっと待って」

 

 俺の考えを読んだように、シオンの言葉。

 間もなく、光が徐々に収まっていき、一般的なろうそく程度の光量に落ち着いた。

 そして今度は、自分達の番だと言わんばかりに、紐の結ばれた雑貨類が輝く。

 その光は、紐を通ってボールペンまで届き、ボールペンもまた、宙へ浮く。

 

「おー」

 

 浮く程度、食器で見慣れてしまったつもりだったが、こうも綺麗に連動していると、流石に感心してしまう。

 俺の反応に、シオンは気を良くしたのか、満足そうな表情を浮かべながら、本を閉じた。

 シオンの足元の魔法陣が消え、それに合わせて伸びていた光の線も消える。

 だが、俺の座る魔法陣やそこに繋がる物については、先程までと変わらず、光ったままだ。

 

「軽く体を動かす程度ならいいけど、動き過ぎないでね」

「付き合うと決めたから、それは問題無いけど、維持はしないのか?」

「一度起動したら、注入魔力が切れるか、調べ終わるまでそのままよ」

「へぇ……その間シオンは?」

「昨日遅くまで起きていたし、ちょっと昼寝でもしようかなって」

「は?」

 

 戸惑う俺を他所に、ふわりと欠伸を漏らしたシオン。

 そのまま歩いて、ダイニング側へ除けていたソファーへと移動。

 横になった。

 

「一時間くらいで起きるわね」

 

 シオンが指をタクトのように振ると、いつもの三角帽子が、彼女の元に飛来した。そしてそのまま、シオンの顔に被さる。

 この間、体感一分。

 

「思ったよりがっつり寝る気だなぁ!?」

 

 早々に寝る準備を済ませるシオンに声をかけるが、聞く耳を持つ様子は無く。

 これでも見てろとばかりに、再度シオンが指を振ると、テレビの電源が付いた。

 刑事ドラマの再放送が流れ始める。トレンチコートを着た刑事が、白衣を着た医師へ何やら話を聞いていた。そのシーンには覚えがあった。確かこの回は、医療事故をめぐる殺人事件の話。

 確か検査中に緊急外来に呼ばれた医師が患者から目を離した結果、死なせてしまった所から話が始まったはず。

 

「……なんかすげぇ不吉なんだけど!」

 

 シオンに視線を戻せば、この数瞬で落ちたらしく、丸見えのお腹が、一定間隔で上下していた。

 

「起きてぇ!」

 

 動くなと言われた手前、声をかけるしかないが。残念ながら効果はなく。

 俺はシオンが起きるまでの間、何も事故が起きないように祈りながら過ごしたのだった。




盛り上がらない回ばかりですみません

文章の構成はどちらがいいですか

  • 全部詰める(全話までのやり方)
  • 地文と会話文の間に改行を入れる(今回)
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