ホロ学園の「俺」君物語   作:零円

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登場ライバー
紫咲シオン
角巻わため


見舞い?魔界4

 99

「ん……」

 

 ソファーで眠るシオンが、ごろりと寝返りを一つ。

 寝顔がこちらを向いた。かすかに開いた口元から、涎が滴るのが見える。

 後で掃除せんとなーと、その光景にぼんやりと思いながら、俺は欠伸を漏らした。

 

「つーか、起きないなぁ、シオンの奴」

 

 一時間位と言っていたのはどの口か。アイマスク代わりにしていた三角帽子が床に落ちても気付かぬ程に熟睡していて、気づけば開始からすでに九十分程経っていた。

 一時間を超えたあたりで声掛けを何度かしたのだが、残念ながら声は届かなかった。何か投げつけて起こそうにも、半裸の俺にそんな物は無く。

 まあ、暖かいからいいかと、俺は諦めの極致で、シオンが起きるのものんびり待っていた。

 現状、唯一の暇つぶしであるテレビでは、点けたときに流れていたドラマは終わり、同タイトル別シーズンでの話を挟んで、今は別タイトルのドラマが始まっていた。

 見たことの無いそのドラマは、ジャンルとしては変わらず刑事ドラマだ。多分基本各話完結だから、こういう空き時間に再放送として適当に流す分には都合がいいのだろう。

 番組的には、犯人が誰かというよりはどうやって犯人を追い詰めるのかに主軸を置いた物らしい。暇すぎるのでがっつり見てもいいのだが、如何せん魔法陣内はめちゃくちゃ広いということは無く、大人しく座っている分には問題無いが、姿勢を変えたりするには窮屈。

 軽く体は動かしてほぐすようにしているものの、座ったままとはいえ、少し疲れてきた。

 どれくらい魔法陣を乱さずに体を動かせるかチャレンジしてみようかと思いながらも、最初に見た医療事故が脳裏を過ぎる。

 流石に検査しているくらいでどうこうなるとは思わないが、万が一が捨てきれない。

 

「とはいえ暇だー」

 

 欠伸が再び漏れる。

 余計に体が凝りそうだが、座った姿勢でも寝る事は出来るし寝てしまおうか。シオンの魔法のお陰で暖かいから、風邪をひくということも無いだろう。

 ただ、やはり事故が怖い。それに睡眠が検査に影響を出す事は無いはずだが。

 しかし一度意識すると現金なもので、体は程よい眠気を覚えてきた。

 再三欠伸が漏れる。

 少し悩み、結局誘惑に負け、意識を手放さないように気を付ければいいと考えて、仮眠をとることに決めた。

 胡坐を組んだ足の上に両肘を乗せ、それを支えに体の力を抜く。

 がくりと頭が落ち、肩甲骨のあたりに支えられる感じを覚える。

 深呼吸を一つ。吐く息に合わせ、再度体の力を抜きつつ、流れてくるテレビの音をBGMに、俺は目を閉じた。

 

 ***

 

 ──ぴんぽーん

 

 響いた音に驚いて、顔をあげる。

 何事かと思う俺を急かす様に、再度同じ音が響く。

 よくよく聞けば、来客を告げるインターホンだった。

 急いで立ち上がろうとして、自分の現状を思い出す。

 そんな俺の前。ソファーの上で、寝入っていたシオンもまた、体を起こした。

 ぼんやりと周囲を見渡し、半裸の俺を怪訝そうな目で見るも、再三のインターホンで覚醒。

 状況を思い出したらしく、ぱたぱたと走って玄関の方へと向かっていく。

 

『ただいまー!』

『わためじゃん。お帰り、何で入ってこなかったの?』

『鍵を持って出るの忘れちゃって』

『そういえば、私が転送したんだったわね。一人で帰ってきたの?』

『うん……あ』

 

 わためが帰ってきたらしい。

 結局普通に表を歩いている。まあ、何事も無かったらしいから良い。

 

『アイツ、リビングにいるからばれないようにね』

『分かった!』

 

 残念ながら聞こえている。内緒話をするのであれば、もう少し小声でお願いしたいものだ。

 一応一言言っておいた方がいいかなと考えていると、足音が聞こえてきて。

 

「ただいまー!」

 

 勢いよくリビングの戸が開け放たれ。

 

「どういう状況!?」

 

 魔法陣の上で雑貨に囲まれながら座る半裸男に、わためは驚きの声をあげたのだった。

 最近こんなのばかりな気がする。そのおかげかどうか、わためは驚きながらも特に逃げ出す様子は無かった。

 

「おかえり、わため。楽しかった?」

「無理だよ! 私、この状況で何事も無く雑談出来ないよ!」

 

 ただ、其処が限界ではあるらしい。だろうなぁとぼんやり思う。

 

「早く何か着た方がいいって! 風邪引いちゃうよ!」

「シオンに聞いてくれ」

「なんで!?」

 

 言いつつも、振り返り。「シオンちゃん!」とわため。

 

「服を着させてあげよう!」

「ダメ」

 

 一蹴だった。ちょっとかわいそう。

 

「なんで!?」

「まだ終わってないから」

 

 まだ終わっていないらしい。

 その事実に衝撃を受けながら、時計を確認する。

 時間としては十分程度経っていた。長いか短いかは人によりそうな、何とも言えない時間だ。

 一蹴されたわためは、少しうんうんと唸った末、何か思いついたらしく、ぱたぱたと駆け出した。

 その後、戻ってきた時にはその手には毛布が抱えられていた。

 

「はいこれ!」

「それもダメらしい」

「なんで! どうしてそんな苦行を強いられているの!?」

 

 確かに、傍目にはそう見えるのか。

 成程なと納得している俺を他所に、再度何かに気が付いた様子のわためはぱたぱたと駆け出してリビングを出て行き。

 戻ってきた時には、わための部屋に置かれているヒーターがあった。

 

「じゃあ、これ使お!」

「……気持ちは嬉しいんだが、すまん。意外と暖かいんだ」

「だからなんで!」

 

 ヒーターを置いて、近づいてきたわためだったが、俺まであと少しと言う所で、ぴたりと足を止めた。

 

「本当だ」

 

 魔法の範囲に入ったらしい。一体どうなっているのかと、きょろきょろと辺りを見回している。

 

「わため」

「何?」

「手洗いうがいしてきな」

「あ、うん」

 

 落ち着いたらしいわためにそう声をかけると、素直に頷いて、ぱたぱたと小走りにリビングを出て行く。

 その背を見送り、視線をシオンへ。ボールペンが書き上げた資料を顎に手を当てて読んでいる。

 寝る前と変わらず、ボールペンは動いたまま。何をそんなに書く事があるのだろうか。

 

「──特段、数値的に特別な所は見られないわね。魔素って物質は魔界では観測された事無いから、何か相互作用でもあるのかと思ったんだけど。いや、魔力と違って物質として存在しているから付与効果や実体化が効率良く行えているとも言える?」

「……魔力は物質じゃないのか?」

「厳密には物質よ。サイズが原子レベルだから、イメージはしづらいけど。魔素は微粒子というか微細物質レベルだから、魔力より大きいわね」

「……おう?」

 

 ファンタジーかと思ったらケミストリーだった。頑張って、頭の中での解読を試みる。

 

「そこまで大事な事じゃないわよ」

 

 理解しようとする俺の努力を一蹴しながら、別の紙面を拾い上げるシオン。

 それを読みながら、更に移動。背中側に、回り込まれる。そこにも確か、ボールペンと紙面があったはずだ。

 

「今大事な事は、魔力を持っている人間に魔素を使った術で効果を与えても、アンタに目薬を使った時の様な、特殊な作用が起きていない事」

「はい」

「もう一個は──」

 

 シオンの言葉が止まる。何かと思っていると、背中を指で突かれた。

 

「何この傷……?」

 

 突かれた場所から指が離れたと思ったら、更に別の場所が突かれ。

 そこを離れたら、更に別の場所。更に別の場所。計三か所を指で突かれ、更に指先で撫でられる。

 

「くすぐったいんだが!」

「黙りなさい」

「ごめんなさい」

 

 一喝されて、少し落ち込む。

 そんな俺を差し置いて、俺の背中を暫くこそばゆくしていたシオンは、「ねぇ」と俺に声をかけて来た。

 

「背中の傷って、何か心当たりある?」

「特に。背中見る機会なんて早々無いからな、まあ何かの拍子にできたんじゃないか?」

「……いや、そんな事ある?」

 

 シオンの様子がおかしい。俺の背中にどんな傷があるというのか。

 何とかのぞき込もうとすると、そんな俺の顔を掴んで、強制的に前を向かせるシオン。

 

「記憶に無いなら、見なくていい」

「いや、そんなこと言ったって」

 

 さすがに気になりすぎる。

 

「改めてただいまー」

 

 遮るように、改めてガチャリと。わためがリビングへ入ってきた。

 そちらに俺が気を取られる。その隙をつくように、指が鳴った。シオンである。

 

「あ、今なんかしただろ」

「別に。そんなことより続きよ」

「わため。ちょっと俺の背中見て」

「背中ー?」

 

 こちらに近づいてきたわためが、背中を見る。

 

「なんかある?」

「特に何も無いよ。普通の背中」

「……」

 

 成程。隠したらしい。よほど見られたら不味い物でもあったのか、俺の背中に……いや、それは変だろ。そんなものがあれば、記憶に無いとおかしいのだが。

 

「どうしたの?」

「……いや」

 

 首を傾げながら、シオンの様子を見れば。こちらはもういつも通りだった。

 紙面を広い、目を通し、顎に手を当てて何やら呟いている。

 

「この数値なら、充分有意差はある。なら、理論上ならもしかして可能? でも、それには実証が足らないか」

 

 興味を失っているのか、それともあえてなのか。

 考え込んでいるシオンに、かける言葉が思いつかず。

 思わず溜息が漏らしながら、わための方へ声をかけた。

 

「そういえばわため。なんかフレアさんの家に行ってたんだって?」

「……聞いちゃった?」

「流石にな。別に怒って無いよ。俺も明日には復学するつもりだし」

 

 俺の言葉に、ほっっと息を吐いたわためは、それからポーチをごそごそと漁り。

 取り出したのは、小さな紙袋。

 

「これを作りに行ってたの」

「それは?」

「ふっふっふー、これはねぇ──じゃーん!」

 

 紙袋を漁ったわためが取り出したのは、色鮮やかな紐が、規則正しい図形を描くように編まれた物。

 

「ミサンガ?」

「こっちだとミサンガって言うの? 願いの組紐の事」

「まんまだな」

 

 分かりやすい。

 

「昨日部屋の前通ったら、先月誕生日だったって聞こえたし、私がこの家に来てもうすぐ2か月くらいだから、お礼も兼ねてプレゼントしようかと思って」

 

 紙袋にミサンガを戻したわため。その紙袋がおずおずと差し出される。

 

「受け取って貰える?」

「ああ、うれしい。ありがとな、わため。ただ、すまん。こいつがあると、色々制限あるらしいから、これが終わったら、改めて受け取らせてくれ」

 

 ちょいちょいと魔法陣を指差せば、わためは「そっか」と納得した様子を見せる。

 

「分かった! その時は服着てね!」

「……うす」

 

 別に好きで裸でいる訳じゃないのだが。

 わための無邪気な圧に、俺はこくこくと首を縦に振るしか無いのだった。

 




剣士の恥

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