進撃の巨人 RTA Titan Slayer   作:オールF

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1があるってことは2もあるんですよね?(自問)


幕間:ホライゾン・モルガン その1

 #ジャン・キルシュタイン

 

 

 あぁ、最悪だ。何度目だよ、この気持ちになるのは。最悪ってのは、自分史上、最も悲しみとか怒りとか嫉妬みてぇな悪感情ってやつがわんさかわいてくる時に使う言葉だ。それを兵士になってから何回使ってきたよ俺は。

 トロスト区の戦闘で生き残って、壁外調査でもなんとか生き残った。なのに、次は戦場じゃないにしてもあの死に急ぎ野郎の代わりときた。今、あの野郎を憲兵団に引き渡すのは調査兵団として大きな損害になる。団長の言葉はわかるぜ。公には女型の巨人には逃げられたって言ってしまったんだ。エレンを伴った壁外調査で結果を出すってのが兵法会議とやらで決まった結論らしいからな。結果が出なければ、憲兵団が引き取るって強く言うのも理解出来る。いつ敵になるか分からない上に知性を持った巨人になれる人間なんて不安要素の塊すぎる。俺が憲兵団のおっさんならさっさと殺してるだろうよ。

 けどよ、女型の巨人は捕まった。俺にはわかる。じゃなきゃ、あいつはあんなこと言わねぇよ。

 巨大樹の森の中から団長達が血相変えて出てきた時は、アルミンと一緒にダメだったんだなって悟ったよ。それに、ミケ分隊長の班にいるはずの見知った顔がいなくて女型に殺されたんじゃねぇかと思った。帰る時にはカラネス区を出た時よりも人数が減ってたし、団長も言ってた。毎回何十人もの死人が出るって。だから、受け入れる覚悟は出来ていたが、やっぱり訓練兵団で苦楽を共にしてきた奴の死はどう頑張っても否定したくなる。

 けど、そいつは生きて帰ってきた。しかも、妙に高揚してた。初めは巨人好きだし、異性の巨人に会えたからかと皮肉を飛ばしてやったがそいつは妙に憂いを帯びた顔で「そうかもしれないな」と返してからそれっきりだ。何があったのかは聞けなかった。団長からは作戦失敗の報告を受けたし、アイツのあの顔を見たら上手くいかなかったんだろうなってその時は思った。

 でも、寝る時にアルミンの話が俺の頭の中で蘇ってきた。女型の巨人は知性を持った巨人だって。壁や門を壊した鎧や超大型の仲間が中身の可能性が高い。思い返せば、女型のやつはアルミンの発した「死に急ぎ野郎」って言葉に反応していた。あのあだ名を付けたのは俺で、あだ名を知ってるのは同期の連中だけだ。つまりは女型の巨人の中身は俺たちの同期って可能性がある。アルミンと同じくらいの思考力と観察眼を持つアイツならこの推論に至るのは容易いはずだ。ヒントを貰っていたとは言え、俺でも気付けた話だ。

 もし、アイツが女型の中身が同期だと察して、その中身を見ていたなら、あの顔をするんじゃねぇのか。捕らえられていなかったら「惜しくも逃げられた」とか「私の実力が足りなかった」とか、そうやって自分を責めつつも次へと繋げていく。それが俺の知るホライゾンだ。なのにやつはなんて言った。俺の冗談に対して「そうかもしれないな」だと?

 きっとあいつは見たんだ。女型の中身を。その中身が同期で流石のアイツも堪えたんだろう。じゃなきゃ、やつはあんなシケた顔はしない。ホライゾン・モルガンってやつは最高にイキがってて、クールで度胸のある巨人に対して好奇心をむき出しにする変態だ。そんなヤツがいくら索敵陣形で巨人との接触は少ないにしろ、巨人を多く殺せる壁外調査であんな顔をしながら、あんなことは言わねぇ。

 真実を聞こうにも、俺とエレンたち以外の104期生は女型の仲間かもしれないからと、隔離されているらしい。俺がその中に入っていないのはアルミンが団長に進言したのが理由みてぇだが、そのせいで影武者をやらされているのなら、疑われてた方がマシかもしれない。それにホライゾンの野郎が隔離組に入ってるのも納得がいかねぇ。調査兵団は噂通り変人の集まりだ。だから、常識人の俺には、一生かかっても理解出来ねぇんだろうな。

 

 

 ###

 

 

 #アニ・レオンハート

 

 

 

 私が捕まってもう4日になる。ホライゾンにうなじから引きずり出された時には硬質化する力も残ってなくて、私は奴の悲壮な顔を最後に眠りに落ちた。そして、目が覚めたら硬いベッドの上で手足は金具に繋がれてて身動きが取れなくなっていた。

 最悪だ。これも全部あのゴリラとベルトルトのせいだ。マルセルが食われた時に帰っていればこんなことにはならなかったかもしれない。壁の中に入って、5年も暮らして、情報を集めて、兵士になって、敵と同じ屋根の下でご飯を食べて寝て、それで壁の外で兵士をたくさん殺した。

 リヴァイ班やホライゾンに切られた箇所はとっくに再生が終わっている。巨人化しようと思えば簡単に出来るけど、見たところここは地下。したところで身体が潰れて無駄に終わるだろう。だったら、何をするのが最善かと私は考えた。

 2人の助けを待つか? おそらく、私が捕まったことは遅かれ早かれあの2人にも伝わるから、来てくれるとは思う。でも、この地下では巨人化の力は使えない。心中は出来ると思うけど。だけど、私の目的は帰ってお父さんに会うことだ。こんなところではまだ死ねない。

 調査兵団に協力するか? いや、マーレの目的を知れば全面戦争は避けられない。こっちに勝ち目はないにしろ、壁の外の無垢の巨人や立体機動装置を使った白兵戦は脅威だ。それに協力したことがマーレに知られたらお父さんの命はない。

 かと言ってずっと黙っていられるわけもないかと、考えていたところメガネをかけた女性の兵士とその部下と思われる兵士が入ってきた。

 

 

「あぁ、起きてたんだね。女型の巨人、いや、アニ・レオンハート」

 

 

 私が多くの調査兵団を殺したからだろうか、ハンジと名乗った兵士は私に対して冷徹な目と無機質な声で私にそう声をかけてきた。牢屋の鉄柵越しに。隣にいる部下は話しかけてこなかったけど、私への警戒心が顕著に出ていた。2人の反応は正しいし、普通の反応だと思う。

 

 

「やぁ、アニ! 朝食……いや、君が捕まったのは夕方で、我々をつけてきたと考えると最後に食べたのは朝だろうから……昼ごはんだな!」

 

 

 だけど、その横に見えた私を執拗に切り刻んできたどころか、色々と気持ちの悪いことを言ってたヤツが訓練兵団の時と変わらず声をかけてきた時は少し動揺した。なんなんだコイツはと思ったのは、初めて声をかけられて以来だろう。私の反応はどうやら正しかったようで、上官の2人がやや困惑していたのを覚えている。

 それから昼食を摂りながら、尋問が始まった。だが、その時、私の手足は拘束されてちゃんとご飯を食べることが出来ない。私はこういう時は拘束を解いてくれるんじゃないかと思っていたが、牢屋にホライゾンが昼食を持って入ってきた。まぁ、牢屋越しに食べる訳にはいかないし、中に持ってくるのは当然だろう。だが、彼はベッドの脇にあった丸椅子に座るとパンを一ちぎりして私の口の前に持ってきた。

 

 

「は?」

 

 

「ん? 大きかったか?」

 

 

「……そうじゃなくて」

 

 

 どうしてこいつに食べさせてもらわないといけないわけと視線を送るも「これくらいか?」と先程より小さくちぎったパンを持って首を傾げられた。ダメだこいつ。言葉が通じてない。

 

 

「ねぇ、これどういうこと」

 

 

「うーん、私に聞かれてもねぇ……」

 

 

 檻の外で私たちを見ていた兵士に聞くと困ったように頬をかかれた。なんでもいくら大量殺人を犯した巨人の中身でも、人は人。なので、ご飯を食べないと死ぬのではないかという団長と隣でしつこく「食べないのか?」と聞いてくる男の判断によりこの方式が取られたらしい。訳が分からない。

 

 

「まぁ、食べながらでもいいから、私たちの質問に答えてくれたらいいから」

 

 

「いや、チェンジで。こいつは無理。私、殺されかけたんだよ?」

 

 

「失礼な。私は殺さないように丁寧に君を切り刻んでだな」

 

 

「それが問題だって言ってるんだよ」

 

 

 どこが丁寧なんだ。確かにご丁寧に巨人に子宮はあるのかと腹の中をカッ捌いていたが。あの時目が見えていれば、たたきつぶしてやったのに。恨み節を込めていうとハンジという兵士が「落ち着いて」と私たちをとりなす。

 

 

「仕方ないだろー? みんな君のことを怖がって近づきたくないんだよ」

 

 

 まぁ、常識的に考えて殺し合った者に食べ物を分け与えたとしても直接手から与えるなんてのは聞いたことは無い。やっぱり、こいつ倫理観とか常識に欠けてるのか。まだ喋っててうるさいから仕方ないとパンを咥えると「おーっ!」と感嘆の声が上がった。なんなんだよこいつ。

 

 

「じゃあ、尋問はじめよっか」

 

 

 私がホライゾンにパンやスープを食わせられながら、はじめての尋問が始まった。聞かれたのは壁外調査を襲撃した目的や何故エレンを狙うのかといった、聞かれるだろうなと思っていたことばかりだった。出身や壁の外の状況、巨人の力はどこで手に入れたかとか、私を捕獲したやつが考えたのであろう質問に対して、私は一切の口を噤んだ。

 質問に答えなかったらどうなるのか、それが知りたかったからだ。しかし、ハンジの反応は予想と反して「そっかー」と淡白なものだった。

 

 

「まぁ、初めから全部話すとは思ってなかったし、別にいいけどね」

 

 

 どうやら今のところ、質問に答えなかった時のペナルティはないようだ。しばらくは生きてられるか。これで2人が来るまで時間稼ぎをするか、こいつらの味方のふりをして脱走するかの選択ができる。

 

 

「そういえば、ホライゾンは何か質問とかない? エルヴィンには君の意見も聞いて欲しいって言われたんだけど」

 

 

 檻の外の2人からの尋問が終わって、私もご飯を食べ終えた時にハンジがそう言うとホライゾンは「そうですね」と私の顔を見た。

 

 

「巨人化している時にも聞いたが、君は巨人が産まれてくる根源なのか?」

 

 

「は?」

 

 

「いや、全ての命は女性から産まれてくる。巨人発生のメカニズムは今のところ未解明だが、君を見て私は1つの仮説を組み立てた」

 

 

「は?」

 

 

「一般的な巨人はみな男性型。乳房がなく、性別を示す性器がない。しかし、君の巨人には女性器がないにしろ乳房があった。乳房の有無で君は我々から女型の巨人と名付けられた。そして、ここからが本題だ。先程も言った通り、全ての命は女性から産まれてくる。つまり、乳房のある君が他の男性巨人と何かしらの繁殖行為をして巨人を産み落としているのではないか……というものだ。どうだ」

 

 

 早口で興奮気味にまくし立てられた言葉に私は心底引いた。こんなやつだとは思わなかった。巨人についての座学に関して食い付きがいいのは知ってたけど、実際に巨人を目にすると我先にと斬りかかるだけならまだしもセクハラ発言までするなんて。私の中で何かが冷めていく中、牢屋の外で「確かに」とホライゾンに同意する声が聞こえた。

 

 

「女型の巨人には立派な乳房があった。あれ? でも、ホライゾン。彼女には女性器がなかったはずだ。ど、どうやって産み落とすの!?」

 

 

「分隊長!?」

 

 

 あ、ダメだ牢屋の外にも変態がいた。部下っぽい人が立ち上がってハンジの発言に目を見開くも、彼女の質問に応じたホライゾンは止まらない。

 

 

「巨人は哺乳類のような体躯をしていますが、身体の質量や仕組みに関しては我々の理解を超えています。なので、口から産み落としたり、分裂して増える、という可能性もあるのではないかと」

 

 

「な、なるほど! え? でも、全部彼女が1人で産み落としてるの? え、君、やばくない?」

 

 

「分隊長! 同じ女性としてその発言はいかがなものかと!!」

 

 

 2人の変態の考察を聞かされ、このままでは私が全ての巨人の生みの親というレッテルを貼られてしまう。そう思った私は悩んだ。正直に話すか、嘘を言うか、黙るか。最後は無理だ。巨人の生みの親にされるなんて耐えられない。死ぬ。正直に言えば、こいつらが殺してきたのは同じ呪われた民族の血を持った悪魔の血族と分からせることができるが、言ってしまうと他にも何か知っていると思われかねない。かといって、嘘をつくにも彼らは変態であるが頭は回る。その場しのぎの嘘はすぐに見抜かれる。どうするかと悩んだ時だった。

 

 

「モブリット、私、このことエルヴィンに話してくる」

 

 

 そうハンジが言ったのを聞いて、私は壁の外には巨人化できる民族がいて、とある時期になると無知性の巨人に変化すると伝えて潔白を証明することにした。壁の外のことが分からない3人にはこれが事実か嘘か判断する材料は持っていない。可能性の1つであると思わざるを得ないはずだ。なんとかして壁内に妙な話が広がるのを防ぐために、事実を混じえながら言った嘘に変態たちはまたも食いついたが、その後もいくつか質問が続いた。私が全ての巨人の生みの親であるという誤解は晴れたようだが、私が壁の外から来たことが確定してしまったのは言うまでもなかった。

 この日から3日間、私への尋問は続いた。質問の内容は毎日変わらないが、隣から飛んでくる質問はいつも私の心を掻き乱し、牢屋の外の変態をも同調させた。そして、唯一の常識人は2人を止めることが出来ないと分かってからは手を動かすだけの機械になっていた。

 

 

「ねぇ」

 

 

「む? 何かな」

 

 

 牢屋の外の2人が立ち去って、ホライゾンと2人きりになった時、ふと私は尋ねた。

 

 

「なんでそんな風にしてられるの?」

 

 

 普通、仲間をいっぱい殺した上に、今まで巨人であることを隠していた同期に果物を剥いたり、食事を食べさせたりできないはずだ。

 

 

「そんな風? あぁ、安心しろ女性のトイレなら祖母の時に」

 

 

「そうじゃない!」

 

 

 手足が拘束されてなければ、頭蹴っ飛ばしてるぞこいつ。デリカシーって言葉知ってるのか。

 

 

「そうじゃなくて、その、どうしていつも通りなわけ?」

 

 

 私がそう訊くと彼はとても不思議そうな顔でこう言った。

 

 

「アニはアニだろう? 今さら、態度を変えろと言われても困るんだが」

 

 

 そう言われて私は敵わないなと思ってしまった。この島には殺されても仕方の無い悪魔の血を持った者たちが住んでいると私たちは教えられてきた。しかし、ここに5年間暮らしてみれば、悪いやつもいるが、良い奴も沢山いた。それはあの収容区も一緒で、ここにいる人たちは全ての人の悪意を押し付けられただけなんだろうと、理解するのはそんなに時間はかからなかった。でも、私たちが帰るには多くの犠牲が必要だった。仕方がないと割り切って、殺すしかなかった。じゃないと、あそこには帰れないから。

 けど、こんな血に塗れた巨人になれて、悪魔の血を引いた人にも、こうして変わらない態度で接してくれる変態なバカがいる。そう思うと私は帰りたくても帰れないなと鎖に繋がれた手足を見ながら、マーレから離れる前の日に私を娘と言って抱きしめた父に申し訳なく思ってしまう。そんな思いが目から溢れてしまって、隠したくてもまた手についた鎖がそれを阻む。こうなったのはあの父親のせいなのに、ここにいれるのはあの父親のおかげで、もう、どうしたらいいかわからなくなった時に、あの日に感じた温かさが私を包んだ。

 

 

「……な、に、して」

 

 

「泣いている女性の顔を人に見せるものでは無いからね」

 

 

 ハンジさんやモブリットさんが来るまでだよと私の顔を隠してくれた胸に、私は顔を擦り付けると涙が止まって眠るまで彼の身体にすがりついていた。

 ───────というのが、昨日の夕方のことだ。起きたら時間は分からないが、食事のトレーが置いてある数からして、もう昼のようだ。

 

 

「……あいつ、今日は来ないの?」

 

 

「っ、あ、あぁ」

 

 

 看守に名前を出さずに問いかけるとややビビっていたようだが、頷いてくれた。私が泣いていたこと、彼がそれを隠す盾になったことはおそらくは看守から調査兵団の上層部に伝わってる事だと思う。そのせいで彼がなにか疑われるようになったのなら、胸の奥がギュッと締め付けられる。

 

 

「……食べよう」

 

 

 アイツが食わせてくれないからか、利き手の鎖が外れていた。看守は私がフォークやナイフで身体に傷をつけないかと見張っていたが、トレーにはいつも通り、パンとスープだけだ。これでどうやって傷をつけろというのか。私はパンを手に取るとちぎって食べながら、アイツがやってくるのを待っていた。




2人だけで6000字超えたから投下。ごめんな、ライナーとクリスタ。これは仕方なかったってやつだ……!

巨人を育てるのに乳首は必要かという話はあえなくカットしました。ちなみに僕の中では下ネタは下半身の話で、上半身はセーフと考えています。なので今回の話は9割アウトです。お疲れ様でした。

いつも誤字修正ありがとナス! 目を通さずに修正ボタンポチポチしてたら、さっき意味わからないことになってたからちゃんと目を通すようにします(決断)

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