進撃の巨人 RTA Titan Slayer   作:オールF

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信じたかったんですよね(嘲笑)
カンノミホ……の夫好きです(唐突な告白は美少女の特権)


幕間:これ以上の地獄はないと信じたかった

 #ライナー・ブラウン

 

 なんでだ。どうしてだ。馬に乗って大地を駆けながら俺は頭ん中を行き交う疑問符の答えを探し続ける。俺とベルトルトがここにいるってのにどうして巨人が出てきた。壁が破られたってのか? あの壁を壊せるのは超大型巨人だけのはずだ。まさか始祖が一部の壁を破壊した? いや、最もありえない。それができるなら俺たちが初めて壁を破った時にやってるだろうし、まず破壊するメリットがない。

 被検体の死に、 女型の巨人の出現のせいで俺たちが疑われてしまうのは予想の範疇だ。しかし、こんなこと誰が予測できたっていうんだと俺は首を振った。いつからだ。地獄に足を踏み入れたのはこの島に来た日か? マルセルが喰われた日? 壁に穴を空けた時か? それとも、俺がこの世に生まれてきた時から地獄は始まって……。

 

 

「ライナー、大丈夫?」

 

 

 声をかけられて顔を上げれば、俺の顔を心配そうに覗き込むクリスタがいた。相変わらず可愛い。天使かよ。結婚したいと俺は「ああ、平気だ」と座り込んでいたケツを上げる。

 巨人発生からもう何時間経ったのやら。空はもう暗く、月も時々雲に隠れて松明やろうそくの火がなければまともに辺りが見えなくなった。これ以上野原を駆ける体力は俺たちにも馬にも無く、俺たちは盗賊たちが根城にしていたのではないかという古城で身を休めることにした。

 古城に来たメンバーはナナバさんやゲルガーさんといったミケ分隊長に信頼を置かれる調査兵団の精鋭たち。加えて、俺とベルトルト、クリスタにユミル、そしてコニーの104期生達だ。サシャや他の奴らはどうなったのか……。俺には分からないが、既に死線をくぐり抜けてきた奴らだ、きっと生きているだろう。

 

 

「みんな大丈夫かな」

 

 

 同期たちを心配する気持ちはクリスタも同じらしい。やっぱり、俺とこいつは似通うところがあるらしい。クリスタは女だが、自ら危険に飛び込んでいく勇敢な兵士だ。それに髪も明るい金髪。なんだよ、俺の相手にピッタリじゃないかと思う。

 

 

「ホライゾンもたった1人で巨人に挑むなんて……」

 

 

 あぁ、そういえば居たなと思い出した。あんまり関わりがねぇからホライゾンのことはよく分からねぇ。けど、アニと妙につるんでいたのは覚えている。でも、格闘訓練の時だけでそれ以外で話しているのを見たことは無い。大方、アニから独特の格闘術を盗もうってだけで、あの野郎にアニに対する好意ってのは感じられなかった。だから、ベルトルトには気にするなと何度も言ってるんだが、アニがどう思ってるか分からないじゃないかと怒鳴られてしまった。いつもは大人しくて静かなやつなんだが、寝てる時とアニが関わると我が強いからなアイツは。この前の壁外調査で女型の捕獲に失敗したと聞いて安心したが、壁外調査の事後処理やアニの配属先と距離が離れたことで安否を確認できていない。俺は無事だとは思うが、ベルトルトは気が気じゃないだろう。さっさと帰って安心させてやりてぇが、この状況じゃそれも難しい。

 

 

「まぁ、無事だろうよ。ミケ分隊長がついてるんだ」

 

 

「うん……そうだよね」

 

 

 しかし、やはり気になる。壁は破られていなかった。破壊されたと思われる壁を見て回ったが、破壊痕も巨人の足跡すらも見られねぇ。そして、コニーの村だ。巨人が捕食した形跡もなければ、住民が逃げ出した跡もねぇ。あったのは家屋が中から吹き飛んだような破壊痕と、コニーの家で横たわっていた巨人だけだ。

 あの状況と壁が破壊されてないことを照らし合わせると、来たのかあの人が……? なんのために? 俺たちがここに来てから5年も音沙汰がなければ、見に来るのは分かる。しかし、わざわざ村の人間を戦士長の脊髄液で巨人化させる必要はないだろ。

 

 

 

「ねぇ、ライナー本当に」

 

 

「おいおいクリスタ! そんな間男なんて無視して私と話そうぜー!」

 

 

 余程気難しい顔をしていたのか、再びクリスタが俺を心配してくれたがその言葉は途中でこんな状況でも陽気なユミルによって阻まれた。

 

 

「あんまり睨むなよ」

 

 

「別に」

 

 

 睨んでなんかない。これ以上クリスタに心配をかける訳にもいかないし、俺がずっと暗い表情をしていたら周りにも伝播するかもしれない。ベルトルトとは今喋る気分にはなれないし、コニーも故郷のことで頭がいっぱいだろう。じゃあ、俺の取るべき行動は何かと後ろを振り返るとユミルがいなくなっていた。クリスタに聞けば、食べ物がないか探しに行ったらしい。ユミルはふざけたやつだが、コニーの懐疑心を吹き飛ばしてくれている。そのお礼も兼ねて、俺も飯を探しに行こうとユミルの後を追った。

 

 

 

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 #クリスタ・レンズ

 

 

 バレたのかと思った。兵士として慎ましく生きるのならば、私は死ななくていい。けど、兵士になったらどこで死ぬか分からないという矛盾を抱えて生きてきた。でも、私はこうして生きている。死にそうな場面は多くあった。けれど、私はまだ生きている。

 死ななくていい人が死んだのに。トロスト区では駐屯兵団の先輩たちや同期の兵士も何人か死んでいる。壁外調査でも、私の班の人は生きてたけど、帰りに見た死体を詰んだ荷馬車を見れば、たくさんの人の死体が積まれていた。その中に私の死体はなく、私はなぜかまだ生きている。

 エレンのように全ての巨人を駆逐するという夢もないのに。

 ミカサのように強靭な精神と力もないのに。

 アルミンのように逆境を乗り越える知恵もないのに。

 ライナーのようにみんなを引っ張る牽引力もないのに。

 ジャンのように現状を正しく認識する力もないのに。

 ホライゾンのように兵士としての責務を果たすことも出来ていないのに。

 彼らが生きているのは当然だ。彼らは自分の信念がある。生きる意味と理由を持っている。私にはあるか。ただの偽善。欺瞞と呼べる偽りの自分を演じて、みんなと共に過ごしている。おかげで私を嫌う人はいない。でも、ただそれだけだ。みんなの記憶に残るような強さや心を持っていない。あるのはかっこよく死にたいとか、誰かの記憶に残っていたいといった今まで死んでいった人たちに対する冒涜ばかり。

 

 

『お前、いい人になろうとしてるだろ』

 

 

 ユミルには気付かれていた。他にも気付いている人はいるだろう。聡明なアルミンやジャン、ホライゾンはもう気付いているのかもしれない。けど、みんな優しいから触れないようにしてくれているのかもしれない。膝を抱えて日が昇るのを待っていれば、また空けられた壁の場所を調べに行くことになっている。そこで、本当に穴が空いていて、巨人がいて、誰かが食べられそうになったら今度こそ死ねるかな。

 そんなことばかりを、考えていた。

 

 

 

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 #ジーク・イェーガー

 

 

 5年前に島にやってきたはずの戦士たちからの音沙汰もなく、他国との戦争で始祖の必要性が迫られたマーレの上層部によって、俺はピークちゃんと一緒に悪魔が住まう島へとやってきた。あの父と母が送られた楽園にだ。この島に住む人々は俺と同じエルディア人で、とある脊髄液をうたれたら化け物に変身する悪魔の血ってやつを引いている。中身はちゃんとした人間なのに、過去にご先祖さま達がやってきた悪行のせいで俺たちエルディア人が明るい日の下を歩けたことなんてない。

 しかし、この楽園には3重の壁に守られながら、人種の差別もなくエルディア人達が暮らしている。壁の外に楽園送りと称されて姿形を変えられた同胞たちがいるってのはどういう顔をして受け止めればいいのか未だに分からないが。

 巨人の活動が鈍る夜の間に、ピークちゃんの車力に先導してもらって、俺たちは壁を目指した。

 1つ目の壁。1番外の壁って言った方がいいのかは分からない。名前があったはずだけど、なんだったかなぁ。まぁ、それは壊れてた。中の町には巨人の姿は無くてさらに進むとぶち破られた門があった。どうやら、壁の破壊には成功しているらしい。

 2日くらいかけて進むと今度は2つ目の壁に着いた。壁は破壊されていたようだけど、入口にはデカい岩が置かれていて、成功したのやら失敗したのやら。そもそも、壁内文化にこんな大岩を運べる技術があるのかと感心してしまった。ここから入ると壁内人類に見つかりそうだからと、少し遠ざかったところから壁を登って壁内へと侵入した。

 壁内の戦力とかを知るために壁近くの集落か村のエルディア人に俺の脊髄液を霧状にしたやつを撒いてから俺はいつものように叫んだ。あぁ、そういえば何人かは小さめの城の近くに置いてきたけど。それでひとまずは人里を目指して北上してもらったんだけど、小屋近くに行った巨人たちが死んでた。壁を破られて巨人と戦う必要性を迫られたからか、壁内の兵士の練度は高く、大砲や榴弾もなしによくやるなと感心して近付くとそいつは俺に声をかけてきた。金髪で青い目をした白人の兵士だ。俺は挨拶に乗ってやり、腰についている箱のようなものについて質問した。おそらくは巨人のうなじを狙うためのものだろう。ワイヤーが伸びたり、ブレードの換えなどが見えることから間違いないが動力や構造が気になって尋ねると、返ってきたのは俺の名前が知りたいって言葉だった。教えてもなぁと、奪ったら殺しちゃうしと言葉を選んでいる間に視力が奪われて、股間は裂かれるわ、喉は切られるわ、脳を抉りとっては憤慨されたりと散々な目に遭わされた。しかもうなじから引きずり出された、それも思いっきり髪の毛を掴まれてだ。なんなんだよこいつはと思ってもう一度巨人化をしようとしたら、身体の再生に時間がかかっていることに気付いた。このままじゃ、逃げる時間も稼げない不出来な巨人になると考えて大人しくしていたら。

 

 

 

 

「オイオイ、勘弁してくれよ。どこに行くんだよぉ」

 

 

「はっはっはっ、着いてからのおたのしみだ」

 

 

 リヴァイとかいう三白眼の怖いチビと部下たちがどっか行ったと思ったら、変態と2人きりにされて、腹が減ったからと小屋の外に連れ出された。上官には大人しくしてろって言われたはずなのに何考えてんだよこいつはと思ったが、変態の考えることなんて俺には分からないし喋るのは諦めた。

 

 

「そういえば、名は名乗っていたが姓はなんなのかね?」

 

 

「…………イデデデッ!!?」

 

 

 髪の毛を掴みながら俺に何気なく質問してくるイカレ野郎に対して黙っていたら、ブンブンと頭を回された。なんだよこの島の拷問は……。こいつらの会話からアニちゃんは捕まってるみたいだけど、こんな扱いを受けてるのか……? ベルトルトのやつは何してるんだ。

 

 

「あだっ、こ、答えるっ、答えるから! 回すのをやめろぉっっ!!」

 

 

 俺が言うとホライゾンは手を止めて、俺の言葉を待つ。言って何になるのか分からないけど、言わなきゃ治癒が遅れる。

 

 

「イェーガーだよ。クソっ、痛てぇな」

 

 

「それは済まない。ふむ、巨人にも毛根にダメージが入るのか」

 

 

「今の俺は人間だから、痛いもんは痛いの」

 

 

 骨折とかもすぐに治るけど痛いんだからね。巨人化する時にナイフで傷つけるのもさ。平然とした顔でしてるけど、あれは後で治るからできる芸当だからね。

 

 

「それにしても、イェーガーか。エレンと同じだな」

 

 

「エレン?」

 

 

「あぁ、顔に傷のある女性の横にいた男性兵士だ」

 

 

「へぇ」

 

 

 まぁ、イェーガーなんて名前も珍しくないだろうとその時は世間話に付き合ってやるかという気持ちくらいで聞いてやっていた。

 

 

「彼の父親は医者だったらしいが、君の父親は?」

 

 

 そう言われて、まさかと首を振る。アイツは俺とクサヴァーさんの告発で楽園送りにされて、今頃は壁の外をさまよってるかこいつらの誰かに殺されているはずだ。頷くわけにもいかず、どうするか悩んでいるとホライゾンは勝手に話し始める。

 

 

「無言は肯定と受け取ろう。さて、これは私の主観なんだが、君とエレン、目元はとても似てるように思うんだが」

 

 

 それに父親が共に医者とは偶然と思えないと語る奴はさらに思いがけないことを言い出した。

 

 

「君も彼も巨人になれる。君たちの一家は全員巨人になれるのか?」

 

 

「───────は?」

 

 

「いや待てよ。彼の母親は巨人に食われたと聞くし、父親は行方不明だ。少し辻褄が合わないな」

 

 

 ブツブツと推論を組み立てていくホライゾンに、俺は問いかけた。

 

 

「エレン、そいつの、父親の名前はなんだ」

 

 

「ぐ、ぐ、グラタン? いや、違うな……聞いたことはある気がするんだが」

 

 

「……グリシャか?」

 

 

「……いや知らないが? あとで確認してみるよ」

 

 

 こ、こいつ、カマかけやがったのか……!? いや、でも、本当に親父なのか? 医者という情報だけで踏み込みすぎたか? けど、エレンは巨人になれる。マーレには9つのうちの7つしか巨人の力がない。始祖は壁の中にしても、進撃だけはどこにあるのか誰も知らなかった。それがもし、エルディア復権派の中で継承が繰り返されて親父が持っていたのだとしたら。楽園送りを免れて、壁の中にまでやって来れたかもしれない。それにマーレからパラディ島にやってきた船の1隻が行方不明になったことがあるという話と照らし合わせれば辻褄が合う。

 

 

「……思った通り、私が与えた情報で君なりにここに来た理由は果たせたらしいな」

 

 

「何の真似だ? こんなことしてもお前に得はないだろ?」

 

 

「なくても、私と話す気くらいにはなったんじゃないか?」

 

 

 たしかに、目つきの悪いゴロツキみたいなやつや、マーレにいた頭の固い上層部達と話すよりは有意義な時間を過ごせるかもしれない。

 

 

「……それは、俺に協力してくれるってことでいいのか? ホライゾン・モルガン」

 

 

「そんなわけはないだろう。調子に乗るな」

 

 

「えぇ……なんだよなんだよ。ちょっと心開いちゃったのにさぁ」

 

 

 別に開いてないんだけどさ。まぁ進撃の行方が知れただけでも十分かな。体力を取り戻したらすぐにこんなやつ握り潰して殺してやる……! アニちゃんの行方は分からないけど、ライナーとベルトルト、マルセルは無事みたいだし、ピークちゃんと合流して総攻撃をしかければ始祖も出てこざるを得ないでしょと考えていると、ホライゾンの馬の足が止まる。そこは偶然にもあの古城の近くで、一叫びすれば巨人達を発生させて、こいつを殺せるという状況だ。しかし、ブレードを引き抜いたホライゾンは俺の首にその刃を突き立てた。

 

 

「私が巨人を潜ませるならこの辺りを選ぶと思って来てみたんだが……その顔は大正解だったようだな」

 

 

「嘘だろおい……バケモンかよ。壁内の兵士ってみんなお前みたいなの?」

 

 

「私はまだ未熟だ。だが、私より優れた兵士はまだたくさんいるということは言っておこう」

 

 

 えぇ、これよりも上がわんさかいるとか壁内人類どうなってんだよ。襲うところ間違えたら、俺いきなりゲームセットだったってこと? 勘弁してくれよ。まだ何も出来てないんだぞこっちは……。

 

 

「さてと」

 

 

「ガバババババッ!?」

 

 

 ノーモーションで首に当てていた剣を俺の喉に突き立てて、口の中をぐしゃぐしゃと掻き混ぜると俺の声を奪った男は、ニヤリと悪魔のように微笑んだ。さらに治りかけの手足を切り落として、さらには胴体の下をブレードでノコギリのように切り落としやがった。これで再生にはもっとかかるなと額の汗を拭ったホライゾンはまた俺の髪の毛を掴んで歩き出す。向かう先は、古城で塔の上からは煙が出ている。まさか、あそこに俺を連れていくのか? 喉にはブレードが入れられたままで再生するのを阻害される。暴れようにも手足がなくて身動きが取れない。完全に詰んだ状況だ。

 

 

「君を手土産にあそこにいるかもしれない君の仲間を炙り出すとしよう」

 

 

 そんな物騒なことを言いながら進むホライゾンは俺と戦う時に初めて見せた獰猛な笑顔で「次はどんな巨人に会えるのやら」と呟いた。やべぇよやべぇよ……もう無理だろこんなの。初見殺しが通じない初見殺しなんて、俺聞いてねぇぞ……! 壁内で警戒すべきは始祖の力と行方不明の進撃、そしてアッカーマンの力くらいだと思ってたのによぉ……!




ジークくん可哀想。共闘ルートもあったんですけど、そうなると超大型、鎧、顎の討伐が遅れそうなのでおじさんを手土産に挑発する予定通りのチャートを採用しました。
まぁ、割とガバってる。

なお、次回の投稿日は不明です。多分、月曜日まで延びるかもです。


質問来る前にぱぱっと解説


走者(ホモくん)単独行動いいの?→ジジイ見てろなので見てればどこいてもええやろみたいな屁理屈
走者なんで城に来たん?→本文通りライナーとベルトルト。ついでにユミル釣るため(ユミルは今じゃなくてもいい)


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