進撃の巨人 RTA Titan Slayer   作:オールF

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王政奪還は概ね原作通りなので、ダイジェストでお送りします。


王政打破

 

 ホライゾンのもたらした情報を手に、調査兵団・団長エルヴィン・スミスは駐屯兵団・司令官であるドット・ピクシスのもとを訪れた。現王政の打破、それ以外に人類に未来はないと、彼はそう口にした。

 話されたピクシスは驚くことはなく、その事実を淡々と受け入れたと同時に来るべき日が来たことを嘆いた。王が壁の外に興味を持つことをご法度として107年。この狭い壁の中に人を留め続けることに限界を迎える日が来て、王に銃口を向けなければならないことがあるだろうと。

 しかし、ピクシスに部下を革命のために犠牲にするような権利も、道理もない。それに壁の支配者を殺したところで、民衆や役人は賛同するとは限らない。土地は狭く、ロクな仕事もなく、税の負担は増えるばかり。4年前にはあからさまな口減らしに、下層階級の住民たちが壁の外に締め出されて人口の2割を失っても、現王政に歯向かう者は誰もいない。

 それは王も、役人も民衆も同じ壁に追い詰められた運命共同体であるからだとピクシスは語る。争いを起こすことはこの壁内では滅亡を意味すると知っているからだとも。2000年以上も続くとされる王家の血筋は人類の繁栄の象徴であり、この壁に人類が追い詰められる前から世界を統治した王という尊い存在が、この苦しい壁内では人々の希望となっている。

 逆にその繁栄の象徴を惨殺し、争いを起こす者を残された民衆はどう思うだろうか。武力による革命では、武力による反旗が起こる。その果てに残るものはピクシスもエルヴィンにも容易く予想ができる。だから、ピクシスは武力による革命には手助けしないと前置きしてからエルヴィンの話を聞いたが、エルヴィンの口から放たれた言葉にピクシスは眉を顰めた。

 

 

「今の王は偽りで、真の王は別にいる。そして、壁は巨人で出来ていて、人は巨人になれる……か」

 

 

 他にももたらされた情報は多い。エレン以外の知性を持つ巨人たち。その中には方法は不明だが、人を巨人にする力を持つもの。自身の皮膚を刃が通らないほどに硬質化させることができる能力を持つものがおり、そこにエルヴィンの父が話した仮説を照らし合わせる。

 壁内の初代王は巨人の能力、あるいは王家の力を用いて壁内人類の記憶を改竄したのではないかと。そして、現在確認されている7人の巨人化能力を持つ誰かにその力を持つものがいるのではないかとエルヴィンは口にした。

 

 

「ほう、それはお主の意見か?」

 

 

「えぇ」

 

 

 ピクシスが言うとエルヴィンは頷きを返して肯定する。それならば、王政がエレンを狙う理由がわかるのだ。聞けば、エレンはその身を狙われている。建前上は、巨人化能力を持つ危険分子だからとされているが、巨人の力の有用性をいくら示しても意見を変えない王政の役人にエルヴィンは疑問を抱いた。

 

 

「どこから情報が漏れたのか分かりませんが、中央憲兵が壁外からやってきた巨人化能力を持つもの達を探しているという話も耳にしました」

 

 

 エルヴィンの手に握られたメモは先程ニファが持ってきたものであり、そこには調査兵団本部に中央憲兵の査察が入ったこと。ホライゾン班が中央憲兵の兵士と戦闘になったこと。リヴァイ班も中央憲兵の兵士と戦闘になり、オルオが負傷したことが書かれていた。

 王政が本格的に中央憲兵を動かしてきたということから、調査兵団が現王政にとって不利益になるものを握っていることは確実であり、エレンとホライゾンを狙うことから、巨人の力が関係しているというのは明らかであった。

 エレンは巨人化能力者本人であり、ホライゾンは他の巨人化能力を持つものを捕らえている牢屋の鍵を握っている。自分達の権利や地位が脅かされるのであれば、その相手が巨人でなく、人間であっても区別なく排除する。それが現王政であり、エルヴィンの父親とホライゾンの祖父母は何の正当性もなく殺されてしまったのだ。

 そんな王政にエレンや他の巨人化能力者は渡せないというエルヴィンの強い意思にピクシスは顎を摩った。

 

 

「しかし、そのヒストリアが本当の王家という証拠はあるのか?」

 

 

 それが無ければ民衆は誰も信じないぞと口にしたピクシスにエルヴィンは「あります」と返した。エルヴィンは順番に指を立てていく。

 現王政がレイス家が真の王であると認めること。

 現王政がいかに自堕落で自分の保身しか考えていないかということ。

 そして、これまで現王政がしてきたことを全て明かせば、民衆たちは新体制に従わずとも、現王政を見限るだろうとエルヴィンは語った。

 その前に上級役人から貴族、現王フリッツ王家の指揮権を持つロッド・レイスの口から何故我々が争う必要があるのか。巨人により同じ脅威に晒される者たち同士がどうして一丸となって助け合えないのか。ロッド・レイスが市井の人々を見捨て、壁外への進出を拒んで、技術の発展を阻止する。その行為に納得しうるだけの意味があるのならエルヴィン並びに調査兵団各兵士たちは退こうと。

 エルヴィンは心臓を捧げた。あとは結果を出すのみであった。

 

 

「私はおそらく、中央第一憲兵から仲間殺しの罪を押し付けられるでしょう」

 

 

 言葉通り、ホライゾン・モルガンが5人の中央憲兵を殺した罪は調査兵団であるエルヴィンの責任であると同時に、王を守る中央憲兵を殺した大罪人が所属する調査兵団は反逆者の集まりであると見なされ、全ての調査兵団員が拘束された。さらに再三に渡るエレン・イェーガー引渡しの拒否の罪も合わさり、新聞で報道された内容に疑うものは少なかった。

 疑ったのは調査兵団員を家族に持つ者と、彼らによって救われたことのあるトロスト区やウォールローゼ南区の住民たちだけだった。

 しかし、エルヴィンの目論見通り事は運んでいく。王の前で膝をつき、処刑前に遺言があれば聞こうという王と役人たちの前で、調査兵団の必要性を説くも聞き届けられるはずもなく、処刑となるはずであった。

 ウォールローゼ突破の知らせがなければ。鎧の巨人と超大型巨人によりカラネス区の扉は2つとも破壊され、東区より避難する住民が押し寄せて来ていると聞いたピクシスと憲兵団師団長のナイル・ドークはすぐさま兵士たちに動くように指示を出した。

 しかし、それを役人たちは拒否。自分達の保身のために動いた役人を見て、憲兵団、駐屯兵団、調査兵団に加えて総ての兵団のトップに立つ男、ダリス・ザックレーはこれを断罪せんとクーデターを起こし、現王政の打破となった。

 

 

 ###

 

 

 欺瞞に塗り固められ、自己防衛のために民衆を見捨てようとした愚かな役人たちの存在が露呈し、王政が完全に打破されたことで真の王の台頭が迫られた。

 その王の名をヒストリア・レイス。壁内の最高権力者ロッド・レイスが使用人との間に授かった子供である。ウォールマリアが破られてから数日、妾の子ということで、殺されそうになった際に、レイス家の血が途絶えることを危惧したのか、あるいは殺されそうになってから親としての情が湧いたのか、名前を変えて慎ましく生きるのであれば命を助けようと彼は口にした。その時に与えられた名前はクリスタ・レンズ。

 そして、偽の王の代わりとして真の王になることを言い渡されたヒストリアの心中は穏やかではなかった。どうして自分がこんな目に。兵士の次は王かと自分の身体に流れる血を呪った。自分を護る同期たちは不遇とも言える境遇のヒストリアに対して、言葉をかけるもヒストリアはそれを曖昧な返事でしか受け取ることが出来ない。ユミルは空気を読んでか、声をかけてこない。ホライゾンは時折話すが、忙しいときはやはり口を開くことは無かった。

 自分にこの壁の中の王という役目が務まるだろうかと思案してるうちに事は進んでいく。リヴァイ班は負傷者を出しながらもエレンを死守し、ついにロッド・レイスと対峙するも、切り裂きケニーの名で世間を騒がせたことのある憲兵、ケニー・アッカーマンにより生還し、礼拝堂へとやってきた。だが、そこで待っていたのは調査兵団の兵士たちであり、汗を垂らし息を荒らげたロッドへとホライゾンが刃を向ける。

 

 

「会いたかった、会いたかったぞ……!」

 

 

 情熱的な言葉と共にホライゾンはロッドを見据える。しかし、剣を向けられたロッドは震え上がった。自分が何をしたんだという叫びをあげながら「誰か! 誰かいないのか!?」と自分の身を守っていたはずのケニーの部下たちを呼ぶも、誰も来ないという現実に掠れた声が出る。

 

 

「わ、私をどうする気だ、私を、殺しても、何も、いや、それどころか……」

 

 

 ブツブツと言葉を漏らすロッドにホライゾンは興味が無いのか、彼が大事そうにかかえるカバンを取り上げる。抵抗する気もないロッドは黙って俯き、ホライゾンはカバンの中身を物色する。中には注射器と瓶に入った薬品が数本。その中には「ヨロイ」というラベルのついた物もあった。

 

 

「これか」

 

 

 ホライゾンは目当ての物を回収すると、それ以外は床にぶちまけて、ロッドに背を向けた。後ろにはあまりいい顔色をしていない彼の部下たちが立っていた。1人は弓を持ち、残りの2人は数本刃のストックがなくなっており、ロッドは彼らを見て護衛についていたはずの中央憲兵が来ない理由を察した。

 

 

「ヒストリアは?」

 

 

「ユミルがついてる。で、こいつが?」

 

 

「あぁ、ロッド・レイスご本人だ」

 

 

 ジャンと数度、会話を交わすとサシャが礼拝堂の奥へと消えていき、ヒストリアを連れてきた。父親との対面に、ヒストリアは重苦しい顔であったが、父親の方はそうでなかった。

 

 

「ヒストリア……!」

 

 

 私の希望だという意味が含まれてそうなくらいの喜ばしいという顔を浮かべたロッドはよろよろと立ち上がると1歩、1歩ヒストリアへと歩み寄る。それをホライゾンやユミルは止めることなく、何時でも武器が出せるようにだけして見守っていた。

 

 

「今までの事を許してくれ……お前を守るためにはああするしか無かったんだ」

 

 

 いつだってお前のことを思っていた、こうやって抱きしめることをずっと夢見ていたという言葉と共に流れた涙に嘘はない。そして、どうしてこうなったんだよという気持ちは同じであった。

 父から弟へ、弟から娘へと力を引き継いだ。これを繰り返していればこの楽園でつかの間の幸せが築けると思っていたのに。それは突然に崩れ去った。全ては壁を破った超大型巨人と鎧の巨人、そしてロッド以外の家族を殺したグリシャ・イェーガーのせいだとロッドは礼拝堂地下で散っていった家族のことを思いながら憎しみを燃やした。

 だが、彼は知っていた。そんなことしても父も、弟も、娘や妻たちも返ってこない事は。

 あの日、娘を食べたグリシャ・イェーガーの息子、エレン・イェーガーはあの力を継承している。だから、それを奪い返さなければならないとロッドはエレンをヒストリアに食わせるべく、最後の材料であるエレンをケニーが連れてくるのを待っていたが、やってきたのはリヴァイ班に護られて無傷で身体が自由に動くエレンであった。

 ロッドは歯噛みした。使えないヤツらめ! どうする。このままでは、情報だけを開示させられ、用済みになったら自分にもう未来はない! そう考えたロッドは床にころがったビンを見た。ロッドは何も無い彼方を指をさして大声を上げて、全員の注意を引くとそのビンを手に取り、割るために叩きつけようとした。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁあッッッ!!! ……あがぁっ!?」

 

 

 しかし、その声に反応しなかった3人の兵士によりアンカーを撃ち込まれてしまう。だが、それでも彼は目的を果たした。落下した瓶は地面との衝撃で割れて中の液体を飛び散らせる。そして、倒れるようにしてロッドは「ウーリ、フリーダ、今行くからね」とその液体を摂取した。

 

 

「全員後ろに飛べ!」

 

 

 リヴァイの指示が飛ぶと同時に、ロッドの身体へと雷が落ち、超大型巨人は楽に超えるであろう巨人が生まれる最中、ホライゾンはエレンの口にとある薬品を流し込んでいた。

 

 

「んぐっ、んがぁっ!?」

 

 

「エレン!? ホライゾン、エレンに何をっ!?」

 

 

 だが、これが功を奏し、エレンは硬質化の能力を身につけることになった。こうして、硬質化したエレン巨人体を盾に生き延びたリヴァイ班とホライゾン班は礼拝堂から脱出し、やってきたエルヴィン達と合流した後、オルブド区でロッド・レイスはヒストリア・レイスによって討たれた。




ホライゾンのした事(抜粋)
・ヒストリアが真の女王であるとニックから聞き出す
・得た情報全てをニファを通してエルヴィンへと伝える
・ロッドを待ち伏せてヨロイのビンを回収する
・ロッドが自力で巨人化できるように足元にビンを転がす
・ヨロイの瓶の中身を笑顔でエレンにぶちまける
・書いてないが、ヒストリアが父親殺しができるようにお膳立てする……など。


来そうな質問
牢屋の人達ホライゾンいないから飯がないのでは?→手の拘束は外されて、水だけなら飲める。
ケニーは?→生きてる。仲間はほとんどリヴァイ班とホライゾン班に殺されてる。
はしょりすぎでは?→ごめんなさい。
なんで王政はエレンが始祖持ちって知ってるの?→始祖を食べたグリシャの息子だから、息子が親の力を継承したのでは? という推論。だが、エレン以外ウォールマリア破壊時に壁の外から来ているので、消去法でエレンではないかとなった。
ロッド死ぬの早くない?→あそこ長々と書くくらいなら続き書くよね。
その割にはエルヴィンとピクシスの下り長いよね→好きなんですよあの辺り。

他にもあれば気軽にどうぞ。


追伸 2月に描き始めて5月で30話ですって。ヤバいですね☆

どっち派?

  • クリスタ
  • ヒストリア
  • 両方
  • どっちも好きじゃない

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