ピークが調査兵団を発見して俺たちに報告して10分は経った。そろそろ着いた頃だろうか。壁の中ってのもあって、外の様子は見れても音は上手く拾えていない。
奴らがまず塞ぐとすれば外門だ。どうやって塞ぐのかはわからないが、ここに来たってことは何かしらの方法を見つけてきたんだろう。せっかく空けた穴だが、俺たちの任務は始祖、あるいは行方知らずだった進撃を連れ帰ることだ。アニと、マルセルを喰った巨人のことは後回しだ。クリスタも出来れば連れて行きたかったが……ジーク戦士長の作戦に従うしかない今は諦めざるを得ない。
気をつけるべきは巨人化したエレン、リヴァイ兵士長とそしてホライゾンだ。エレンはホライゾンやアニとの対人格闘訓練でかなり技を覚えている。この前もそれで殺られちまったわけだしな。鎧で覆えない部分なら兵士も攻撃できるが、もうこの前みたいな不覚は取らない。動きが減速しても殺られるよりはマシだ。エレンや兵士と戦うことになったら全身を硬化させて消耗戦に持ち込む。エレンの巨人化の練度は上がっているだろうが、それでも俺たち戦士とでは天と地ほどの差があるはずだ。いざとなれば、ベルトルトに吹っ飛ばして貰えばいい。普通の兵士は死ぬが、巨人の中にいるエレンならうなじと頭さえ残っていればどうにでもなる。
……あぁ、聞き慣れた立体機動装置のワイヤーの音、ガスの音が聞こえる。俺の腰にもシガンシナ区の駐屯兵団基地から奪ったのがついてる。自前のではなかったが、奴らが来るまでに調整は万全だ。もっとも、こいつを使うことになるかは今のところ分からないが。
壁に空けた小さな穴から信煙弾が立ち上がるのが見える。緑ってことは、作戦続行の合図か。てことは、外門を塞ぐために調査兵団が動くはずだと目を凝らすと、エレンが巨人化した雷が落ちると同時に聞きたくなかったあの声が耳に届いた。
「この辺りだな……私が潜むなら」
瞬間、マズいと俺は取手に手をかけようとしたが。
「ここかぁ!!」
「がはっ!?」
遅かった! なんだこいつの直感力はバケモンかよ!! ホライゾンの蹴った壁のパーツが、俺を押し込み、身体と共に壁の中の奥へと叩きつけられる。
「ホライゾン、てめぇ!」
俺が壁を押し退ける間にホライゾンは信煙弾を打ち上げる。色はここからじゃ分からないが、確実に俺がここにいると示すために打ち上げたやつだ。出口を塞ぐようにして立ったホライゾンは立体機動装置の他に見たことの無い装備も付けている。杭のように見えるが、何のための武装だ?
いや、そんなことよりもこの状況だ。壁の中では巨人化ができない! 囲まれたら、終わりだ。最悪、俺の命を捨てて、ホライゾンや駆けつけた他の兵士と心中する手もあるが……!
『帰ろう! ライナー! 僕たちの故郷に!』
『ライナー、必ず、帰ってくるのよ』
……そうだった。俺は帰らなくちゃいけないんだ。ベルトルトと、目的を果たして母さんの所へ。
そのためには、この島の悪魔共に死んでもらわないとな。
「……ここで巨人化するということは無さそうだな」
「あぁ、残念だったな」
「全くだ」
冗談で返した言葉に、ホライゾンは本当に残念そうな顔でそう口にした。
「君の鎧なら圧迫に耐えられるのかと期待したのだがな」
ガッカリだという顔を浮かべながら、剣を引き抜いたホライゾンの一挙手一投足に目を配る。逃げ道は1つ。ホライゾンの入ってきた場所のみ。それ以外の逃走経路も用意しておくべきだったなと今更ながらに思うが、後悔はしていない。むしろ、こいつと1対1で決着が付けられるんだ。しかし、他の兵士が来るのも時間の問題だ。チラリと壁面の割れ具合を見る。内門の壊れ具合から、ここで巨人化しても、俺が圧迫死するのが先か、もしくはここが砕けるのが先かの賭けになる。俺が巨人化しないと戦士長達は動けない。だったら……迷っている時間はない!
「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
俺も剣を引き抜いてホライゾンへと突進する。背丈はあまり変わらなくても、肩幅や体格は俺の方が勝っている。やつを殺す必要は無い。今は巨人化することだけを考えろ! 一発、傷を貰ったらやつを巻き込んで巨人化してやると、接近した時、ホライゾンは後ろへ飛びながら何か呟いた。
「君にプレゼントだ、ライナー」
言葉と共に射出された杭は俺の胸へと刺さり、ホライゾンがピンのようなものを引き抜く。
「いッ───────」
ドドドドトドドドドドド
口の中でせり上がってくる鉄分と、胸にぽっかりと空いた穴に広がる痛みと熱、そして耳に響いた轟音と共に俺の意識は刈り取られそうになるも、なんとか踏みとどまる。しかし、ホライゾンの前ではその一瞬が命取りだった。
「───────ハッ」
もうダメだと悟った時、俺の脳内には走馬灯のようにこれまでの出来事が駆け巡っていた。
『あれで穴を塞ぐなんて……無茶な作戦だ……。エレンが食われるかもしれない。もしそうなれば何も分からないままだ』
『あぁ……いざとなったら俺の巨人で何とかするしか無さそうだ』
あの日。壁に穴を空けてから5年経ち、再びウォールローゼの壁を破壊した日。
『でも……作戦が成功したらせっかく空けた穴が塞がれてしまう』
『構わねぇさ……俺達がこの5年間ずっと探してた手掛かりをようやく見つけることができた』
エレンが巨人になれる人類だと知った日。ベルトルトと共に俺はトロスト区にある家屋の屋根から大岩を運ぶエレンを見ながら、そう話していた。しかし、そこが敵地だということを俺たちは忘れていた。
『オイ……2人とも……一体……何の話をしているんだ?』
マルコに聞かれた。俺たちの話を。俺の巨人。せっかく空けた穴。
今の話は冗談だと言っても、マルコは思い至るだろう。巨人に変身したエレンを見れば、人間が巨人になれることに。
突然現れて突然消える超大型巨人や、あれから5年間姿を見せていない鎧の巨人の正体が人間ということに。
『マルコ……お前は察しが……良いからダメなんだよ』
『ひっ……だれかぁぁぁ、ムグッ』
誰かに伝える前に殺さなくてはと、マルコを取り押さえる。叫ぶ口を塞ぐとアニがやってくる。そして、それから……どうなった? マルコの立体機動装置を、アニに取らせて、マルコは、どうなった?
『まだ……ちゃんと……話し合ってないじゃないかぁあああ』
そうだ、俺たちは、話し合ってない。話し合ってないじゃないか───────!
「トドメだ! その心臓、私がいただく!」
「……待っ、待って───────」
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おかしい……。最初の雷。あれは恐らく、エレンが巨人化した時のものだ。ジーク戦士長やライナーの見立てどおり、外門を塞ぐためなんだろうけど、どうやって塞ぐのだろうか。こんな短期間で硬質化を身につけたということはまず無いだろう。そもそも、あれはライナーや歴代の鎧継承者の脊髄液を摂取しないと発現しない。壁内に鎧の脊髄液を入手する方法なんてないだろうし、仮にマーレからこちらに移る時に持ち込んでいたとしても王族でもなければ、知り合いに王政関係者もいないエレンがそれを入手することは不可能なはずだ。ウォールマリア周辺にはトロスト区の時のように、壁を塞ぐのに手頃な岩はなかったから、従来通りの補修方法にエレンを加えて効率化しているのだろうか。
だが、それにしても時間がかかりすぎている。エレンのことではなく、ライナーだ。確かに作戦の決行はエレンが内と外の門を塞いだ後、あるいはライナーが発見された時だ。しかし、エレン達は内門を塞ぎに来ないし、ここからじゃ信煙弾の色もよく見えない。
合図はまだかライナー。そっちは、まだ……無事なのか!?
ライナー、巨人化になれずに死亡……?
ライナーがもし、この時死ぬのなら雷槍刺される前に思い出すのは母親や故郷のことではなく、パラディ島での5年間ことではないかと思いました。
次回は未定ですが、覚悟完了ベルトルトを精神的に追い詰める方法あるや〜んって思いついて描き始めたやつなので、ベルトルト戦はやります!
でも、先にほんへ進めるかも。