変態魔王とマーレ
巨人から見れば、たった1人の小さな兵士がその巨大な頭を大地に踏みつけた。それを見たマーレ人は何を思ったのだろう。ある者は恐怖を。ある者は希望を。ある者は人間の可能性を叫び出した。
悪魔が住むと言われている島からやってきた、その島の王を名乗る男、ホライゾン・フリッツによってマーレの持つ最後の巨人は倒された。9つの巨人の全てを討伐したホライゾンの顔は清々しく、全てをやり切ったという充足感に満ちていた。
硬質化で生成した結晶体を砕き、中から戦鎚の巨人の中身であるラーラを引きずり出したホライゾンは女型の巨人の手のひらで戦況を見守っていたこの戦いの裁定者、マガト隊長に目をやった。結果は一目瞭然。誰がどう見てもホライゾンの勝ちは明白で、今更彼の勝利を称える気にはならなかったが、見上げてくる翡翠の瞳が「早く言え」と語りかけてくる。
「この勝負ッ! ホライゾン・フリッツの勝利とする!」
もしこの場に彼の仲間が居れば沸き立つであろう勝利であったが、残念ながら誰一人としてホライゾンの勝利を称える者はいない。拍手の音もなければ、彼の名前を叫ぶ者もいない。しかし、巨人を倒せるのは巨人か、兵器だけという事実を覆した男を、本物の悪魔と見る者もいれば、人類の新たなる可能性を示したと見る者もいる。
「……強いですね、貴方」
「それはどうも」
自身の敗北を認めると同時に、ホライゾンの兵士としての力量を賞賛すると謙遜することなく男は言葉を受け取る。そして、女型の巨人から降りてこちらへやってくるマガトと、巨人化を解除するアニの方へと目をやった。
「見事だった。これで軍は貴様の言うことを事実として受け取らざるを得なくなった」
立体機動装置と対硬質化用ハンマーという特殊な兵装を用いてではあるが、戦鎚の巨人を倒したことは変え難い真実で、それは遠目から見ていたマーレ軍上層部の目にも映っただろう。
これでマーレ軍は戦争時の兵器を巨人から、新たなる重火器の開発へと乗り出すだろう。しかし、それでも結局この国が戦いの道を選ぶことに変わりはないのかとマガトは3人には気付かれないように肩を落とした。
「まぁ、見てたから知ってるけど、一応聞いとく。大丈夫?」
「ガスは半分ほど使ってしまったが問題ない」
巨人から出てきたアニがホライゾンにそう尋ねると、なんならこれからもう1戦やれるがという好戦的な笑みが返ってきたが、アニは首を横に振った。
「仲、いいんですね」
「いや、そんなことは……」
ラーラにそう言われ、アニは即座に否定するもホライゾンの方を見る。マガト隊長も居る手前、仲がいいと認めてしまうと「貴様、島の悪魔と何をしていた」と咎められてしまうかもしれない。余計なことは言うなと視線で訴えるも、ホライゾンは特に言及する気はないらしく、なんならアニの方ではなくラーラの方を見ていた。その視線に気付いたラーラは首を傾げた。
「なんですか?」
「……失礼」
一言謝ってからホライゾンの手がラーラの胸部へと行った。突然のことに触れられたラーラは何をされているのかよくわからず、傍で見ているマガトとアニも唐突なホライゾンの奇行に口を開けた。
「は?」
「おい、貴様……」
「失礼と言った!!」
数回揉んで大きさを確かめた後、ホライゾンは顎に手を添えながらブツブツと呟き出した。
「ふむ、やはり女型の巨人以外の巨人は、人間時の乳房の大きさに関わらず巨人の時にその特徴は表れないのか」
異性の胸を触れば普通は頬を染めたり、呼吸速度が早まったりと変化が現れるものだが、この男は全く変わらずに今までの私見と組み合わせて結果を導き出していた。自身の胸を守るようにしながら、ホライゾンから少し距離を取ったラーラと、もしかしてこいつユミルとかピークのも触ったのではと訝しむアニの視線が彼に突き刺さるも全く気にする素振りを見せない。
「これが島の悪魔の王か……」
魔王と言うより変態の王ではと考えたマガトは、女性陣2人から口々に罵詈雑言を浴びせられても真剣な眼差しで巨人についての考察を展開する男を見ながらそう呟いた。
###
人間が巨人という文字通り巨大な存在を倒したという事実を目の当たりにしてしまったマーレ軍部は、これからのマーレの在り方とホライゾン・フリッツの処遇に対しての話し合いを行っていた。
その場には戦鎚の巨人を管理し、マーレを裏から動かすことの出来るほどの権力を持つタイバー家当主のヴィリーも同席していた。
「私は今ならパラディ島と友好的な関係が築けると思っています」
「ほう」
ヴィリーの言葉に耳を傾けていたマーレ軍元帥だったが、彼は肩肘をつくと即座に口を開いた。
「無理だな」
「なぜです?」
「今の島の王に巨人を操る力はない。ただ、巨人を倒せるだけだ。我々マーレが欲しているのは巨人を倒す存在ではない。我々マーレに仇なす国々を黙らせる力だ」
その事は貴方もわかっているはずだがと元帥はヴィリーへと問いかける。
「しかし、地ならしの力を持つパラディ島勢力と手を結んだ。この事実だけでも、ほかの国々は我々に手を出しにくくなるはずだ」
「確かに、どちらかに攻撃を仕掛ければ50メートルもある巨人が報復にやってくるような国に対して無策に挑んでくるやつはいないでしょうな」
ヴィリーの言葉に同意するようにマガトが言う。さらにマガトは言葉を続けた。
「我が巨人兵力は当分の間、陸上戦においては無敵を誇ることでしょう。しかし、このまま航空機戦力が発展していけば、20メートル程しかない大地の悪魔たる巨人はただ空を見続ける他なくなるでしょう」
だから、パラディ島との講和と国交回復を機に、新たなる軍事兵器の開発と共に諸外国の航空戦力への対策方法を設ける。そのための時間稼ぎのためにも地ならしの脅威を宿しているパラディ島との同盟や安全保障条約は必要だとマガトは口にする。
「……まぁ、一理あるが」
ヴィリーとマガトの提案は始祖の巨人の力を行使できなくても、その脅威が潜んでいることを敵対国に示すだけで十分だという話だ。しかし、その脅威が存在しないことが少しでも露見してしまえば、マーレはパラディ島と共に滅びの道を辿るだろうと天井を仰いだ。
「……スパイというものがいなければ採用できるいい案だったな」
近い将来、マーレは戦争の主導権を失う。既に所有していた7つの巨人のうちの5つがパラディ島で拘束されている状況だ。今、敵国に攻め込まれてしまえば、パラディ島は助かってもマーレは終わりだ。
例え、巨人を討ち取る兵士がいようとも、人間の肉や骨に容易く穴を空けることの出来る重火器の威力には勝てない。今や巨人ですら、いつうなじを裂かれるかわからないのだ。
「分かった。大変不服だが今の状況では仕方ない。パラディ島との同盟締結を進めよう」
「元帥殿」
「ただし、9つの巨人の返還とパラディ島に眠る地下資源の譲渡は必須事項にする。これでいいな?」
パラディ島の悪魔と手を結ぶことに懐疑的な士官の1人が口を挟もうとするが、元帥が条約の上での必須事項を付け足すと、それならばと引き下がった。
だが、マガトとヴィリーは横目で目を見合せた。本当にこんなマーレにとって一方的に有利な条約を彼らが受け入れるかどうかと。しかし、ホライゾンが巨人を生身で撃破したという事実を知ったマーレに潜むスパイによって、多くの時間を稼げることになったのだがこれはまた別の話だろう。
スパイ「人間は立体的、3次元的な動きをすることが巨人に勝てる! 銃火器とか戦闘機は後でいい!」
悪魔に魅せられた敵国の運命は如何に。なお、開発するのは目潰し用のナイフとハンマーな模様。こういうことも有り得るかなと。
ちなみにまだマーレが7つのうちの5つを取られていることを敵対国は知らない模様。代わりに変態の悪魔が入国したのは知られている。
マーレの人から見たホライゾン
マガト→戦闘力、思考力共に目を見張るものがある。変態性を除けば、マーレでも指折りの兵士になれることは確実と見ている。
元帥→ただ巨人を倒せるだけの奴隷の血を持った人間。
ヴィリー→妹の胸を触ったことは許せないが、島を蹂躙し滅ぼそうとしたマーレに友好的な部分があるため、大きく出れない。
ラーラ→変態。触っておいて巨人の考察しか言わなかったのもイラッときた。
アニ→あの後お説教も兼ねた格闘戦したけど、全部避けられてムカついた。
アニパパ→娘を連れて帰ってきてくれたのは嬉しいけど、それはそれとして娘のベッドで勝手に寝るなと思っている。
ガビ→巨人を生身で倒す姿を見て、ただ1人高揚した。
ファルコ→上を見て自分も生身で巨人を倒せるようにならないとと思った。
ポルコ→マジかよライナー許せねぇ
その他マーレ人→島の悪魔が悪魔(巨人)を倒してる……?
マガト隊長の呼び方
-
マガト隊長
-
マガト元帥
-
マガト教官
-
プロフェッサー