布団草子   作:スナ惡

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布団草子

 朝は寒い。子供の頃、21エモンで読んだ近未来の生活はついぞ来なかった。人工知能付きのエアコンが常に適温に調節してくれる部屋が技術としては実在する。金持ちの家にはあるとかそういう話ではなく、現に私が寝起きしているこの部屋にもついている。今だってボタン一つで部屋の温度は快適になる。なぜやらないのかというと電力が不足しているからだ。結果、私の目の前には古式ゆかしい反射式の灯油ストーブが鎮座しておられる。実はこいつはエネルギー効率が極めて良い。燃焼のエネルギーを電磁波と熱以外の何にも変換しないため、常夜灯兼暖房としてはうってつけだ。問題は私が寝起きしている部屋に対して出力が小さいというだけだ。なので電気毛布を使っている。前述の人工知能付きのエアコンに比べて、こちらも大変に効率がいい。電力消費はエアコンとは比較にならないほど小さい。何せ部屋全体ではなく私の布団の中しか暖めないのだ。あとは部屋の湿度を快適に保つだけだが、近所の金物屋(本当にあるのだ)で二束三文で買い求めた大鍋に湯をはって灯油ストーブの上に乗せてある。結局、技術は進んだが人間の暮らしはこんなものだ。

 さて。

 コンカフェにぼちぼち顔を出すようになった。シンガーソングライター、バンドマンと一通り経験して、はライブハウスにたまに顔を出すのがささやかな楽しみだったが、そのライブハウスの経営者がコンセプトカフェをやった。略してコンカフェで、昨今の事情でライブか難しくなった現状、メシのついでに本来ならライブが出来ていたはずの若い女性と話す店だ。その横を忙しそうに見知ったライブハウスのオーナーがすり抜けて忙しそうにしている。「お邪魔しています」「ああ、いらっしゃい」とお決まりの短いやり取りがある。その度に「ああ、近未来とはこれだな」と妙に納得する。

 なぜコンカフェの話など書いたかというと、そこで給仕する若い女性が、「作品をいくつか読みましたが、なぜ見てもいないことをあんなにリアルに書けるんですか?」と嬉しい質問をされたからだ。今思い返すと「面白かった」とは一言も言われていない。その女性も夢小説というのを書いているそうで、少し見せてもらったが自分と架空のキャラクターの恋愛を書くものらしい。ただ、それを書く行為に伴う恥じらいがあるらしく、夢の一文字をつけて何かから何かを守っている様子だ。私はそれはどちらかというと夢小説ではなくて極めて純文学に近いなにかだと思う。身勝手な人間が身勝手な文章を書く小説の本分であるかと思うのだが、あえてその女性にはそこを云わなかった。億劫だった。あなたのやっておられる表現は小説の本線に近いよと言うと、彼女の持つ恥じらいが加速する気がしたので、それに伴うコミュニケーションが面倒くさかったのだ。小説なんてものは恥知らずが書くものだからだ。私は優れた物書きではないが、文豪というものはだいたいそうだ。

 私はここまで描写をしているようで描写を抑えている。肝心要の話は何も書いていない。電気毛布の入った布団の中で、キーボードに向かうのが億劫で携帯端末で文字入力をしてこの文章を書いているので致し方がない。まだ日が高くなるまでは時間がかかる。それまでは寒い。寒ければ布団から出ない。さて、この布団はいつまで私達人類の生活を支えるだろうか。発明されたのは東アジアのいずれかだろう。中国だろうか、はたまた日本だろうか。2000年代にはヨーロッパ州に渡ったことは知っている。彼らは伝統的に毛布とシーツを使っていたが、布団の方が保温性にまさる。特に寒冷な土地では布団の普及は早かったのではないか。薄布の袋に綿を詰めたこの布団は、綿が合成樹脂製になっても変わらぬ機能性を持っている。現に小説家が練炭の火鉢と半纏で原稿用紙に向かっていた時代も、消費電力にモノを言わせて人工知能が室温を管理できてしまう現在も変わらず使われている。

 隣家の人間が出勤するのが音で分かる。電気自動車の駆動音がする。これが曲者で、今年の冬も相変わらず政府は電気の節約を訴えているが、原因は間違いなく電気自動車だ。昔は大型バッテリーを積んで充電して走っていたが、今はバッテリーのサイズを小さくして路面から給電しながら走っている。というか給電駆動のタイヤが一般的になって久しいのだが、その給電道路の待機電力がものすごいのだ。あれさえなければもっと快適な暮らしができているのだが。エネルギー効率に劣るガソリン車をのさばらせておくことはできなかったようだ。

 そうこう書いているうちに目の前で灯油が切れた。この文章の締めとしてはこれ以上のことはないが、私はようやくそこで布団を出て、この反社会的布団活動から脱出する意思を固めた。

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