異世界転生のすゝめ   作:アルピ交通事務局

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転生者養成所
日本の地獄は自慢の地獄


「……あれ?」

 

 目を覚ますと、全く知らない場所にいた。

 

「……さっきまでなにしていたっけ?」

 

 なんでここにいるのか思い出そうとするものの思い出せない。

 昨日食べた晩御飯やどうでもいい元素記号、焼き鳥のタレの作り方と変な物は覚えているのに、何故かつい先ほどまでの記憶だけが抜けている。

 

「こう言う時は携帯をって、携帯が無い!?」

 

 慌てることはなにもない。

 困ったときは携帯(スマホ)に頼るんだとポケットに触れるのだが、なにもない事に気付く。

 

「新手の悪質なドッキリ、じゃないよな?」

 

 最近の迷惑系YouTuberかなにかが素人にドッキリを仕掛けるなんて事をしてきたのかと焦るのだが、こんなことをすれば嫌でも警察沙汰になる。

 何よりも俺の周りにYouTuberを目指している人はいない。

 

「落ち着け、落ち着けよ……こう言う時こそ冷静さを欠いてはいけないんだ」

 

 危機的な状況で思わず叫びたくなるが、そんな事をしてもなにも変わりはしない。大きく深呼吸をして呼吸を整えて改めて、今俺に起きている状況を確認する。

 

 何時も通りの私服だけど、ポケットには財布もなにもない。

 つい先ほどまでの記憶は無く、なんでこんな所に居るのかは分からない。

 

「ピンチ、と言うことしか分からないか」

 

 俺が危機的な状況下に居ることしか分からない。

 頭がゆっくりと状況を理解しはじめてくると周りの景色も段々と頭に入ってくる様になってきていき、ここが何処かの山の森っぽいのが分かってくる。

 

「近所にこんな場所、会ったか?」

 

 明らかに見知らぬ場所で困惑をする。

 明らかに家から近い場所ではなくこのままではと歩いて散策してみると沢山の老人達が行列を作っているのを発見する。

 

「あの、すみません」

 

 人が居ることに喜びを感じながらも、取りあえずはと声を掛ける。

 声をかけられたお爺さんはビクッと反応をした後、俺の事を見て直ぐに両手を合わせて涙ぐむ。

 

「お若いのに、可哀想に……」

 

「え?」

 

 俺を見て哀れむお爺さん。

 まるで死んだ人に合掌をしてお祈りをするその様子は理解できず、なんでと疑問を浮かべているとメガホンを持った和服姿で糸目の男性が声をかける。

 

「はいそこ、列を乱さない」

 

「コレってなんの列なんですか?」

 

 列からはみ出ているお爺さんに注意をする男性。

 お爺さんはすみませんと謝ると列に戻っていき、男性はこちらを見てくる。

 

「貴方も早く並んでください」

 

「これってなんの列なんですか?」

 

 深夜に徘徊している老人達、変な宗教にハマってしまった大人達と言うわけではなさそうだ。いったいなんの列なのか分からず聞いてみると大きなため息を吐かれる。

 

「記憶が混濁しているみたいやね……」

 

「え、なんでそんな事が分かるんですか!?」

 

「取りあえず、最後尾に並んでくれよ」

 

 直近の記憶を喪失していることを言ってもないのに当てた男性。

 どうして分かったのかを聞こうとするものの、直ぐに列の最前列に行ってしまう。

 

「……並んでみるか」

 

 なにをすればいいのか分からない。出来れば家に帰りたいのだが、何処か分からない場所で野宿もしたくはないので老人達が並んでいる列に並び、少しずつ少しずつ前に進んでいくと最前列の先に2本の円柱の木材が刺さっていて、縄で縛られていてなんか神社の鳥居っぽい感じになっており、そこから先には誰もいない。

 

「あ、さっきのお爺さんだ」

 

 よく見れば先ほど俺を哀れんだお爺さんが1番前だった。

 なにをするんだろうと見ていると、鳥居の様な円柱を潜ると姿を消した。

 

「は?」

 

 あまりにも突然の出来事に思わず口を開いてしまう。

 周りの人たちは特には驚いておらず、文句の1つも言わずに鳥居を潜っていく。

 

「さぁ、次は君の番だ」

 

「あれって、どうなってるんですか?」

 

 あれはいったいと考えている内に自分が鳥居を潜る番がやって来た。

 やっと糸目の男性と話せるチャンスが来たので聞いてみる。

 

「あれは黄泉の国の入口だ」

 

「黄泉の国の入口?」

 

「分かりやすく言えば三途の川にいける」

 

「……三途の川!?あの世とこの世の境目的なところにあるって言う三途の川のことか!?」

 

「せやで」

 

 なんで関西弁で答えるのかはどうでもいいぐらいに驚く。

 三途の川と言うことはつまり、俺は今からあの世に行くと言うことだ。

 

「ここは島根県の出雲にある黄泉比良坂(よみひらさか)、スゴく分かりやすく言えばあの世への入口だ」

 

「ちょっと待ってくれ!!理解が追い付かない!!」

 

「追い付かなくて結構、さっさと行ってこい!!」

 

 最前列の俺は男に(ケツ)を蹴られ、鳥居の門を無理矢理潜らされる。

 鳥居を潜らされた俺の景色は一転。何処かの山から川原の様なところに変わっていた。

 

「三途の川……」

 

 日本の清流とは真逆の濁流が流れている川。

 向こう岸があの世と繋がっているとか言われていたりする場所であの世とこの世の境界線の様な場所……ゲームとか漫画とかでそんな感じの描写をされているから多分、合ってる。

 お伽噺とかゲームとかアニメとか特撮とかで割と見たりはするものの、まさか本当にあるとは思っても見なかった。

 

「……俺、死んだっけ?」

 

 三途の川に行く人間はあの世に行く人間だ。と言うことは俺もあの世に行く事が決まった人間なのだろうが、俺って死んだっけ?となる。死んだ時の記憶どころか、死ぬ少し前の記憶すら無くて怖くなってきた。

 

「あ、そこの君。突っ立ってないで早く歩いてください」

 

 必死になって記憶を呼び起こそうとしてると綺麗な青みがかった長髪が特徴的な鬼が声をかけてくる。

 あの世には鬼が存在すると言うがマジで存在していたのかと驚くが、鬼にとっては日常茶飯事なのか驚かれる事には馴れているのか気にせずに向こう岸を指差す。

 

 川を渡れと言うことなのだろうが、生憎俺は泳ぎが得意な方じゃない。それなりの早さをしている川を泳げるのか心配をしていると船渡しと思わしき人がこちらの岸に向かってきているのを見かける。

 

「すみませーん、船に乗せて貰えますか?」

 

「あぁ?船に乗りたきゃ、6文銭を寄越しな」

 

「銭?」

 

 タダで船には乗せて貰えない

 何時の時代のお金だよと思える金額を要求してきた……6文銭って幾らだ?江戸時代ぐらいの金だろうが、持ってないぞ。

 

「ちょっと船橋さん、今はもう6文銭の時代じゃないって言ってるじゃないですか!」

 

 お金が無くて困っていると、さっきの青髪の鬼が注意しに来る。

 

「そんな事を言われても、これで1000年以上やってるんだから今さらだよ」

 

「今は300円で向こう岸に渡すと10年以上前から言ってますよ?」

 

「10年と1000年じゃ重みが違う」

 

「あの……お金が無いんですが」

 

 口喧嘩をはじめ、言い争う鬼と船渡しの船橋さん。

 そもそもでお金が無いので、こんなところで争われても困ると手を上げて言うと残念そうな顔をする。

 

「そうですか。でしたら、自力で三途の川を渡ってください」

 

「え!?……いや、お金を払えば渡してくれるんですよね?その、今、財布が無くてですね」

 

「気にしないでください。死人は基本的には洋服以外は身に付けていた物、全て無くなります」

 

「じゃあ、どうやってお金を持ってくるんですか?」

 

「葬儀の際に遺体と一緒に300円を燃やしてください」

 

「いや、ものすごく罰当たりですよ」

 

 火葬場で燃やせとは言うが、日本円を燃やしたりしてはいけない。

 貴重なお金なのだからそんな事をすれば罰当たりになるので絶対に出来ない。てか、しない。

 

「金が無い以上は、船を出すわけにはいかねえな」

 

「むしろ金を持ってきてる人って居るんですか?」

 

「居るよ、極々稀にだがな」

 

 いるのか、そんな人が。

 ちょっと衝撃的な事実を知り、これからどうしようかと三途の川を見てみる。

 

「貴方、カナヅチなんですか?」

 

「大体そんな感じです」

 

 具体的には息継ぎがヘタクソで泳げない。

 泳ぐフォームとかはちゃんとしていてバタ足だけで何処までいけるかとか、顔に水を浸けれるとかそういうところは大丈夫だ。

 

「問題ねえよ、三途の川は浅いからな。なぁ、青冥(せいめい)

 

「あれをご覧下さい」

 

 三途の川の別の方向を指差す女性の鬼改めて青冥さん。

 俺よりも先に三途の川に来ている老人達がゆっくりと三途の川を渡っている……なんだ、足が付くぐらいの浅瀬──

 

「服を寄越さんか、クソガキぃ!!」

 

「ぬう、おあああ!?」

 

 鬼ババア!?

 

 三途の川の深さに安心していると背後から現れる鬼のババア

 二本角の鬼で、絵巻とかに出てきそうな鬼の顔をしており俺の服をパンツごと奪う。

 

「な、なにすんだよ!!」

 

「お~お~小さいね」

 

 おいこら、何処を見て言ってやがる。

 人の股間を堂々と見る鬼のババアは俺から服を奪うと死装束な白色の着物と幽霊が付けているイメージがある三角巾を俺に渡す。

 

「いったい、なんだってんだ」

 

「なんだい、最近の子は脱衣婆(だつえば)を知らないのかい」

 

「あまり有名ではないですからね」

 

「だ、脱衣婆(だつえば)?……よく分かんないけど、説明をしてくれよ」

 

 なにがなんだか分からないのは嫌だ。

 状況の説明を求めると仕方ないなと脱衣婆や地獄について教えてくれる青冥さん。このババアもとい婆さんから服を剥ぎ取られて死装束で三途の川を渡り歩くのは閻魔大王に会う為に必要なことらしい。

 

「今からあんた達は裁判を受ける。これはその裁判の為の準備さね」

 

「待て待て……今から裁判を受けるのか?弁護士とかは?」

 

「残念ながらいません。全ては閻魔大王達の主観で行われます」

 

「まぁ、色々と文句を言うよりも、さっさと行った方がいいね。後が控えているんだから、さっさと行きな」

 

 まだまだ聞きたいことは沢山あったが、脱衣婆に背中を叩かれ三途の川に入れられる。

 三途の川は思ったよりも浅く、流れもとても緩やかなもので死装束が水を吸っていっても特に重さを感じる事は無く、向こう岸まで渡りきる事が出来た。

 

「ほら、さっさと新しいのを着な」

 

 橋を使って先に向こう岸に渡っていった脱衣婆は新しい死装束を渡す。

 こんな事をするぐらいならば最初から橋を通せと思うが、これが結構重要らしく三途の川を渡る際に川の水をその人の罪の重さに合わせて吸っていくらしく、罪の重さに合わせて地獄は待遇を変える。

 

「ま、子供だからこんなもんかね」

 

 よくしなる木に死装束を垂らす脱衣婆。俺の死装束は老人達より軽く、木は全然しならない。それだけ俺の罪が軽いと言う事なのだろう。

 

「いよいよか」

 

 脱衣婆にあっちに行けと指差された方向を歩くこと十数分。

 和式の如何にもな庭園が見え、そこには多くの亡者が1つの列を作っており俺もそこに並ぶ。

 

「……ここまで来たのはいいが、なにも思い出せないな」

 

 1人、また1人と屋敷の中に入っていく。

 大体が老人で時折若い人達が入っていくのが見えており、入口から出てこないと言うことは更に奥になにかがあるのだろうと考えれるのだが、それよりも自分がなにも思い出せない。

 ここに来ると言うのはなにかしらの死因があってからこそだが、その死因が俺は思い浮かばない。普通に高校生をやっていて部活とかは入っておらず、代わりにアルバイトをしていたぐらいであり、病気や怪我とは縁遠く、新型のインフルエンザが流行っているとかもない。

 

「入れ」

 

 自分の死因が思い出せないまま、審判の時がやって来た。

 屋敷の重苦しい門は開いたので俺は息を飲み込みながら歩いていくと、そこには大柄なモジャモジャとした口髭を耕した人がいた。

 

「あれが閻魔大王」

 

「っむ」

 

 噂に違わぬ存在感を見せつける閻魔大王。

 ここ法廷だと言わんばかりの見た目をしており、威圧されて思わず声を出すと額に青筋を浮かび上げる……呼び捨てしてしまった事がまずかったのか?

 

「秦広王だ……」

 

「え?」

 

「だから、我輩の名前は秦広王(しんこうおう)だ!!」

 

「……閻魔大王じゃないのか?」

 

 日本の地獄と言えば閻魔大王だ。

 そういう感じのイメージが強くて嘘をついたら舌を抜かれるとか子供の頃によく言われたが、違うのか?

 

「違いますよ」

 

 スーツ姿の紫色の角が特徴的な女性の鬼が俺の考えを違うと言ってくれる。

 

「日本の地獄の統率者は閻魔大王です。ですが、天国と地獄に行く裁判をするのは十王と呼ばれる十名の裁判官で合計10回裁判を行います」

 

「10回も!?」

 

 日本の裁判は2、3回ぐらいで決着が付くようになっているのに随分とまた多めだな。

 いやでも、生まれてから今日までの全ての行いから罪を判断して判決を行うのだから10回ぐらいしておかないとダメなのか?

 

「そしてこの御方は十王で1番最初に裁判を行う秦広王(しんこうおう)。私は秦広王の補佐官を勤めている紫煙(しえん)です」

 

「全く、最近の奴等とくれば我輩を見る度に閻魔大王だなんだと言いおってからに」

 

「なんか、すみません」

 

 これと似たような事が毎回起きている様で、プンプンと怒っている秦広王。

 日本の地獄と言えば閻魔大王しかイメージが無いので、1番最初に会うのが閻魔大王だと大半は思ってしまう。

 

「気にしないでください、何時もの事ですから」

 

「何時もの事なんですか!?」

 

「はい。大体が閻魔大王だと勘違いしてイラッとしてそこで終わりで、新年会とか忘年会とかの酒の席で閻魔大王に対して毎回お前に間違われるんだよと泣きながら愚痴るだけです」

 

 泣き上戸なんだ。

 なんだかあまり聞いてはいけない様な情報を聞いてしまった気がするな……。

 

「そういうことで、我輩は閻魔大王でなく秦広王。閻魔大王は5番目の裁判官で亡者の罪によっては閻魔大王の元には行かずに天国にも行く……全ての亡者と対話をするのはある意味、我輩だけなのだぞ」

 

「ほらほら、そんなに落ち込まないでくださいよ。ここから名誉挽回していけばいいじゃないですか」

 

 閻魔大王と間違われた事をまだ根に持つ秦広王。

 紫煙さんはなんとか立ち直らせようと必死になって頑張ると、ぶつぶつと文句を呟いていた秦広王は気を取り直して俺を見る。

 

「では、汝の裁判をここに開廷する!!」

 

 コンコンと木槌を叩く秦広王。

 仮面ライダーWとは言わないが自分の罪を数えてみる……犯罪的な事は一切していないな。ボランティア活動とか学校の草むしりとかマラソン大会とかめんどくさいのはサボった記憶は結構あるけど真面目にアルバイトとか取り組んでる。

 

「と言いたいところだが、先ずは幾つか確認をしよう」

 

「はい。犯罪歴とかいじめに加担とかそういった事はしてません!!」

 

「そういうのは生まれてから死ぬまでの間の行いを全て倶生神が記録しているから、本人が真面目そうだからと言った理由で判決は覆りにくい」

 

 なんだそうなのか。

 どうやって自分が善人で地獄に落ちないかをアピールしようかとか、被告人の発言の際になにを言おうかなと考えていたけど、無駄になったっぽいな。

 

「紫煙、あれを」

 

「はい」

 

 巨乳な谷間から巻物をスルリと取り出して秦広王に渡す紫煙さん。

 秦広王は巻物を開いて書かれている内容が見つめると目頭を押さえる。

 

「お前、自分がどうして死んだのか覚えているか?」

 

「それが全くと言って無いです。直近の記憶もあやふやでして」

 

 昨日は覚えていても今日は思い出せない。

 全くと言って思い出すことが出来ず、少し不安が過る。凄くくだらない理由で死んでしまったのなら、どうしよう。

 

「ここならどうして自分が死んだのか分かりますか?」

 

「……まぁ、そのなんだ」

 

「お願いします!!ハッキリと教えてください!」

 

 言おうか言わないか悩んでいる秦広王。

 ロクでもない理由で死んでしまったのならそれはそれで受け入れる。今が生きてるみたいな感じで死んだと言う実感が沸いてこないから聞くなら今しかない。

 

「……その、歩道橋で足を滑らせて打ち所が悪くて死んだ」

 

「……え」

 

 俺はロクでもない死に方ではなく、どうでもいい死に方だった。

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