エクストリーム座敷わらし 作:もっけ
ㅤ──これまでに紹介してきた例からもわかりますが、少なくとも先輩にゲーム感覚で挑戦するような真似はやめた方がよいでしょう。
ㅤ一言でも三下悪党のような発言をすれば、待っているのは屈辱的な敗北だけです。
『少し遊んでやろう』や『まずは小手調べに……』などは以ての外です、話になりません。
ㅤかといって、真面目に挑んだからといって満足できる結果が得られるかといえばそうでもありません、残念ながら。
ㅤあくまで、その方がまだちゃんとした勝負としての形がとられるというだけですので……
ㅤそれでもこけしやおはじき、お手玉などで心身ともにボコボコに打ちのめされたくなければ、やはりきちんとした勝負をオススメします。
ㅤなお、真剣勝負を保証するわけではないのであしからず。
ㅤ余談ですが、個人的にはキメ技のこけし流星群はある意味必見モノだと思います。
ㅤもっとも、冥界における各大会のエキシビションでは準々キメ技のこけしインパクトまでしか披露されていないので、まずお目にかかる機会のない技なのですが……
ㅤまあ、私は何度か見たことがありますけどね。
ㅤ塔城白音著──『イオリ先輩大全』あとがきより一部抜粋
ㅤこけしって、知ってるか?
ㅤ木製の人形で、種類にもよるが大抵は小さな子供を模している日本の工芸品だ。
ㅤそれがどうかしたのかって。
ㅤ降ってきてるんだよ、空から。
ㅤそれも大量に、呆れ返るほど多種多様なこけしが。
ㅤ炎を帯びて地上へと降り注ぐ様は、さながら流れ星か隕石か。
ㅤ超巨大こけしがビルに落下し、目の前で建物が次々と倒壊していく光景はちょっとしたパニックホラーだ。
ㅤまあ、映画ならB級確定だな。それもシュールギャグっぽさでそこそこ笑えるヤツ。
ㅤああ、勿論わかってる。これは夢だ。
ㅤそれもどちらかと言えば、悪夢寄りの。
ㅤちょくちょく場面転換が入っては、やれ通ってる学校だの、行きつけのスーパーだのがこけしによって潰されている。
ㅤこんな状況だとあのデザインって思いのほか恐怖心煽ってくるのな。初めて知ったわ。
ㅤ小さい子に見せたらトラウマになるかもしれない。
ㅤ……にしたってこけしで世界滅亡ってどうなんだよ。
ㅤ逃げ惑う人々の表情はそれはもう必死なもので、誰一人として『なぜこけしなんだ?』とツッコミを入れようとしない。
ㅤまあそこまで考えてる余裕がないだけなんだろうが。
ㅤなにせ次は我が身だ、さっき知り合いらしき人影がこけしに潰されてたからな。
ㅤ偉い学者だろうがなんだろうが、逃げるのでいっぱいいっぱいなんだろう。
ㅤ俺は例によって体が金縛りにでもあったかのように動かないし、こうしてる間にも自分の頭上から見覚えのあるデザインのこけしが落ちてきている。
ㅤ問題はどうして俺がこんな夢を見てるのかだが……
ㅤこけしに祟られるような真似をした覚えなんぞ──なくもないな、うん。
ㅤいや、いや。
ㅤ別に、そこまで罰当たりな真似をしたわけじゃないぞ。
ㅤちょっと投擲武器として使っただけで……
ㅤゴォォォォ──
ㅤあ、うん。祟られるにはそれで十分か。
ㅤどことなく、ド級こけしの勢いが増した気がする。
ㅤおいおいおい、死ぬわ俺。
ㅤあのレベルの質量攻撃は普通にオーバーキルだって。
ㅤコロニー落としかよ。頭の部分しか見えんわ。
ㅤとまあそんなこんなで俺、イオリは──
ㅤプチッと、どこかで見たことのあるこけしに潰され、その短くも長いような生涯の幕を閉じたのであった……
「うぁ゛……っ」
ㅤ息苦しさを感じ目が覚める。
ㅤ薄暗闇の中、目を凝らすと……
ㅤ思った通り、人様の腹の上で眠るちびっこがいた。
ㅤ存在感がやや希薄だが、驚くまでもない。
ㅤこいつは朧。座敷わらしの朧である。
ㅤこれが圧迫感の正体か。道理で変な夢を見るわけだ。
ㅤ朧は俺に横たわり、すやすや、と寝息をたてている。
ㅤ随分と気持ちよさそうだが、あまり呑気にしてられない。
(重てぇ……)
ㅤこっちは森に住んでるトトなんとかじゃないんだ。
ㅤ向こうがいくら小さいとはいえ、それでも一般的な小学3〜4年生くらいの大きさはあるわけで。
ㅤ子供に乗られたら普通に重いし、つらい。
(……仕方ないな)
ㅤどうしてこうなったんだか、と腹の上で眠るちびっこを抱き起こし、そのまま隣の布団に転がしてやる。
ㅤ朧のこれはなにも昨日今日にはじまったことじゃない。
ㅤ俺の親代わりだった祖父母が共に鬼籍に入ってからは、ほとんど毎日こうだ。
ㅤなもので、かれこれもう二年になる。
ㅤわざわざもう一枚布団を敷いてやっているのに、朧は頑なに使おうとしない。
ㅤ最近は敷いてやった布団で一旦眠るフリをし、今日のように俺が寝てからこっそり移動、なんてどこで学んだんだか知らない悪知恵まで働かせてやがる。
ㅤこう毎日とくればさすがに手馴れたもので、我ながら無駄のない完璧な一連の動作なんじゃないか。
「そのままぐっすり寝ててくれよ……」
ㅤ壁掛け時計を見ると、時刻は夜中の二時。草木も眠るなんとやらだ。
ㅤ当然まだ起きるには早い。つか早すぎるわ。
ㅤ朧が寝ているのを確認し、俺も改めて横たわる。
ㅤ結局のところ、座敷わらしってなんなんだろうな。
ㅤいや、そりゃ妖怪やら精霊やら、八百万の神的な存在なのは知ってるが。
(……さっぱりわからん)
ㅤ俺は幼い頃から人には見えない物が見えている。
ㅤ陳腐な言い回しをするなら“見える子”ってやつだ。
ㅤ自分たちに見えない存在をほのめかす俺を気味悪がった両親は、まだ幼い息子を祖父母の元に預けた。
ㅤおかしな物が見えていることを、不用意に明かさない方がよいのだと幼心に理解したのは、正にその頃だ。
ㅤそれで、気のよい祖父母が暮らす一軒家に住み着いていたのが件の朧というステレオタイプの妖怪で。
ㅤこれに妙に懐かれてしまったのが、俺の人生における運の尽きだったのかもしれない。
ㅤこいつなりに寂しかったのか、それとも単に見えてる人間を手放したくなくなったのか。
「……仲間が欲しかったのか」
ㅤ寝返りを打ち、自分の手を月明かりに透かして見る。
ㅤ以前、朧になんの前フリもなく同族にさせられかけたことがあった。つまり、人間から座敷わらしに。
ㅤ幸い完全に染まり切ることはなく、あくまで半々という形に落ち着いてるものの……
ㅤこういったことがままあるのか、その辺は知らない。
ㅤただ、それまで人間だったやつがある日突然妖怪の類になってるなんてケースはいくつか心当たりがある。
ㅤまあそこまで激レア、超珍しいってわけでもないんだろうな。
ㅤ街の人間に比例するように、そういった普通の人間には見えない存在も腐るほどいるわけで……
「ふぁ……ねっむ……」
ㅤそうこう考えてる内に眠たくなってきた。
ㅤ俺はどっかのキタなんとかさんじゃないので、半妖だろうが関係なく学校がある。
ㅤそもそも今の俺は人間として生活しているので、半妖だから〜とかそういった特別なことは一切ない。
ㅤ普通に飯の支度もあるし、特に朝は早い。
ㅤ時間的にもう少し余裕があるし、さっさと寝てしまおう……
ㅤ寝付きのいい方だと自負する俺は、そう考えるや否や、眠りについた。
ㅤお陰様で悪夢を見ることはもうなかったが……
ㅤ日が昇るまでに二度、息苦しさで目が覚めた。