エクストリーム座敷わらし 作:もっけ
「先輩は……」
ㅤすんすん、と鼻を利かせる。
ㅤ校内のありとあらゆる場所の中から、イオリ先輩の匂いを嗅ぎ当てる為……
ㅤそして、校内のどこかにいる先輩を探す為に。
「……見つけた」
ㅤ個人特有のものと、お線香の香りが混ざった匂い。
ㅤこの匂いなら、きっと隣町からでも嗅ぎ分けられるだろう。
「小猫ちゃん、また明日!」
「部活頑張ってね、小猫ちゃん!」
ㅤクラスメイトに会釈して、私は教室を出た。
ㅤそのまま匂いを辿り、廊下を進む。
ㅤ駆け出したい気持ちでいっぱいだが、廊下は走ってはいけない。
「……あっちですね」
ㅤ私の放課後は、いつもイオリ先輩を探すところから始まる。
ㅤこの世界のどこを探しても、きっと先輩ほど手のかかる人はいないはずだ。
ㅤ気分屋で、ひどく気まぐれ。子供の手から離れた風船を擬人化したらあんな感じになるかもしれない。
ㅤその癖ヘンに律儀だったりするし、鈍そうに見えてはっきり物を言うし、子供の相手が得意で面倒見がいい。
ㅤ私のことをすぐ子供扱いして髪をくしゃくしゃにするのは気に入らないが、謝る時に浮かべる優しい表情は嫌いじゃない……かも。
ㅤけれどやっぱりいつもどこかぼんやり上の空で、なにもない場所をじっと見つめていたり、知らぬ間にふらっとどこかへ行ってしまったり。
ㅤ特に目を離すとすぐどこかに行ってしまうので、存在感の希薄な先輩を探す方も大変だ。
ㅤ酷い時には旧校舎裏で猫と戯れてる先輩を発見するのに、部長たちは最大で完全下校時間ギリギリまでかかったらしい。
ㅤ匂いで先輩の居場所を探せる私が即刻イオリ先輩係に任命されたのには、そういった経緯があったようだ。
ㅤとはいえイオリ先輩は、どれだけ行方不明になっても放課後は帰らずちゃんと校内に留まってくれてはいる。
ㅤ部室にいないだけで、律儀な先輩は部長との取り決めを一度も破らず守っているのだ。
ㅤ一年の頃に部長たちとなんやかんやあった先輩は、僧侶と戦車の素質があるという部長の勧誘をきっぱりお断りして、なんやかんやあって今の協力者という建前に落ち着いている。
ㅤもっとも建前というだけあって、協力者たる先輩が部室でやっていることといえば、専らグレモリー眷属の運気をやや上昇させることくらい。
ㅤ夜間の活動にもあまり参加しないし、してもすぐに帰ってしまう。
ㅤ先輩は自分のことを大したことないように言っているが、はっきり言ってそれはないだろう。
ㅤ先輩自身、今は落ち着いたのか普通の人間のように感じられる程度の妖力に収まっているものの……
ㅤ一時、具体的には先輩が部長たちと出会う少し前、先輩は妖力よりも溢れんばかりの神性を帯びていた。
ㅤもっとも突然町に現れた神性の正体が先輩だと判明したのは、先輩が部長と偶然出会ったまさにその時わかったことで、それまでは謎の存在として扱われていた。
ㅤ力のある存在を他所の勢力が放っておくはずもなく、一時期は件の謎の存在とコンタクトを図る為、様々な勢力の尖兵がこの駒王町にやってきたものだ。
ㅤそして先輩の恐ろしいところは、そんな神性を帯びていたのに一度もそういった勢力と接触しなかったこと。
ㅤつまり何者も、振りまく神性から先輩の位置を辿れなかったのだ。
ㅤ神性の正体を探す誰もが、先輩がこの街のどこかにいることまではわかっても、どの辺にいるのかまではわからなかった。
ㅤそれこそが、先輩の存在感が希薄という由縁。あれほど存在を主張しておきながら存在感がないという矛盾。
ㅤそういう意味では、きっと部長は幸運だったに違いない。ほんの偶然で先輩と出会ったのだから。
ㅤちなみに私は偶然に頼らず、きちんと自分の力で先輩を探し出すことができる。
ㅤ先輩は放っておくとそのまま消えてしまいそうなので、私が探してしっかり保護しなければならない。
ㅤだから私、塔城小猫の放課後は……
「先輩、部室に行きますよ」
「はいよ」
ㅤまず先輩を探すところから始まるのだ。
「今日は部室に例の先輩が来るそうですよ」
「例の……ああ、部長さんが妖怪にした生徒ね」
「転生悪魔です、先輩。妖怪じゃなくて……」