この俺、宙坂壮馬の朝は早い。
起床時間は六時、学校が遠い訳じゃないけど朝食つくったり弁当にご飯詰めたり早く起きないと間に合わないのだ。それで登校する時間は八時くらいになる。通学路の途中で直哉を拾って学校に到着する。朝のホームルームまでスマホで行方不明事件を調べている。
『昨日のおっさん大丈夫なのか?』
『ソウマが手早く病院に送ってくれたから問題なく回復したよ。しっかしお仲間さんとの邂逅は失敗からのスタートになっちまったな』
先日の森下虎々乃との初対面は勝手に狩りをしていると難癖を付けられて攻撃されたが、新しいコネクトパス『フォームパス』で変身した新しい姿で何とか窮地を脱する事が出来た。でも
『やっぱり感覚狂うなぁ……昨日あれだけドンパチやってたのに何事も無かったみたいに日常が過ぎてるなんて』
『昔は修繕なんて無かったから隠蔽には苦労したんだぜ?それを考えると大分マシになったもんさ』
『そっか……魔法少女の戦いに巻き込まれたら一般人にとっては迷惑以外の何物でもないもんな』
『まあ俺たちが戦わなかったら人類全滅エンドなんてカウントダウンだ。俺たちの戦いは称賛はされど断罪される事は無い』
『そうだけど……全員が全員人々の事を考えてるわけじゃ無いんだな』
そう言って森下虎々乃の事を思い出す。俺より年下なのに喜々としてファンタミアと戦っているようだし、民家の被害なんてお構いなしって感じだった。
『そりゃそうだ。全員が同じ思想を持っていたら良いなんて言うヤツもいるが、そんな世界はディストピアだ。完全な管理社会と変わりないんだよ。だから組織も虎々乃みたいに他者を鑑みないヤツだって魔法少女になれる』
別に他の人にも人々を助けるようにしろなんて言うつもりは無い。俺自身誰かから「お前今日から完全菜食主義になれ!」と言われたら何言ってるんだと怪訝な顔をするだろう。
『でもあの子何だったんだ?強いのは分かったけど協調性ってものがまるで無い。自分より強いファンタミアが出たらどうするんだ?』
『それは彼女にとっては目下の課題って感じだな。現に彼女を敬遠するヤツは多いし、彼女自身協力に否定的ってか何でも一人で出来るって思ってる。でも虎々乃を上回るファンタミアが表れるのは明白だし、それをどうやって解決するかは虎々乃自身、そして彼女の契約者であるプラムの問題だ』
『……にしてもやっぱりあっちの方が俺らより魔法少女してたな』
『おう喧嘩なら買うぞ?』
ティエリとこれからについて話していたらあっという間に学校も終わり、帰宅時間になる。俺は帰宅部だから部活動も無いが、直哉はオカルト研究部に籍を置いている。最近変な事やってるとか言ってたけど大丈夫なのか?
『まあ本当にヤバくなったら逃げるだろ。それに何も手を打っていないわけじゃ無い』
「そうならいいけど、それより不安なのは魔法少女だな」
『恐らくまだ向こうは正体を知らない。組織の書庫に行けば魔法少女の情報なら手に入るが、プラムならしない』
「なんでそう言えるんだよ」
『あいつの趣味は人の感情だからな。怒りの感情も含まれる』
「?すまん、意味が分からないんだが」
『ヒント、胸部』
「え?……あ」
俺が変身すると何故か胸がデカくなる。そしてあの子は……うん。
「そのプラムっての性格悪くねえか?」
『だから苦手なんだよ……組織もあいつを重用するのは分かるが、何かしら制限かけた方が絶対いいって……』
ティエリがため息をついてうなだれている。……なんかおっさん臭いな。
そんな話をしていると校舎から一人の女子が俺向かってかけてくる。確か名前は……
「青原さん……だよね?」
「もう入学から二か月も経つんだからそろそろ覚えてくれてもいいんじゃない?宙坂くんってそんな話じゃなくて!三木くん知らない?今日文化委員会なんだけどどこにもいなくて……」
「直哉?あいつなら今日オカ研行ってるはずだけど」
「オカ研ね!ありがとう!」
そう言うや否やすぐさま校舎に戻っていった。直哉さては忘れてんな?
『今のってクラスメイトだったよな。誰だっけ?』
「俺だってそんな覚えてるわけじゃねえよ。確か名前は
『でもヲタク優しいギャルもいるし案外好感持ててもらえてるかもしれないぜ』
「え?あんなん妄想の産物だろ」
『は?』
「え?」
ティエリがいきなり切れ散らかして宥め終えると改めて帰路につく。しかし晩飯の買い出しもあるから直接家には帰らず、帰り道にあるスーパーで食材を選んでいる。
「今日は肉じゃががいいかな……」
『いいな肉じゃが。肉は豚肉にしろよ』
「いやお前食えねえだろ食ってるところ見た事無いぞ」
『いや食えるし、プラムも口開いてたろ?俺も口開くんだよ』
そう言うとティエリはゆっくり口を開く。やはりというかデフォルメされた口だ。まあ物を食べる事が出来るのは分かった。
「でも食わせるとは言ってないから」
『そんな馬鹿な!』
そんなやりとりをしている内に買い出しが終わり冷蔵庫に買った食材を突っ込んでいるとティエリが急いだ様子で飛んでくる。これだけで何があったか察するけど……
「ソウマ!ファンタミアが現れたぞ!」
「やっぱりか……何処?」
「学校だ!」
「……マジ?」
今の時間なら運動部くらいしかいない。そしてファンタミアの餌は人のエネルギー、つまりガッツのある運動部が標的になるのは分からなくは無い……のか?
「兎に角行くしかないか。準備するから待っててくれ」
「四十秒で支度しな!」
お前最近アニメとか漫画に影響受けすぎじゃないか?
今日二度目の登校だが、明らかに今朝と雰囲気が違う。重苦しい空気が場を支配し、昨日一昨日のファンタミアとは格が違う。ティエリもさっきとは打って変わったように険しくなる。
「この空気はいったい……心なしか空も曇ってる……」
「褌締め直せよソウマ、今回はかなりヤバい相手だ。昨日のヤツなんか比じゃねえぞ」
ティエリが脅すように奮起させようとするけど場合によっては逆効果だぜ……
「行こう、誰が宿主になっているのか確認しないと」
ティエリの感知能力を頼りに校舎に入っていく。職員室、科学室、教室、階段を上がると空気が更に重くなった。更に三階へ行くと重い空気が可視化されるまでになる。
「きっとこの階だ。この奥……」
「この奥には、多目的室があったはず。今日は……委員会!」
文化委員が使う教室は多目的室だって直哉が言ってた。直哉どれだけファンタミアを引き付けるんだよ!
「急ごう!きっと今回も直哉だ!」
「いいやそれは無い。一度ファンタミアに憑りつかれた人間はマーキングとも言うべきか、他のファンタミアが寄生する事は無いんだ。恐らく他の、それも増幅しやすい感情を抱えた人間が宿主になってる」
「増幅しやすい感情?それって」
「マイナスの感情だ。怒り、嫉妬、悲哀、憎悪、これらが生み出すエネルギーは増幅しやすくファンタミアも吸収しやすい。ここまでだとかなり厄介だ。他の人間も無事かどうか……」
「なら尚更助けないと!」
「今のお前で勝てるか分からないぞ?応援を待つのも選択肢として有りじゃないか?」
「でも、あそこには直哉が……」
「だからもう呼んでおいた。十分くらいで着く。だから遠慮せず行け!」
「ティエリ……ありがとう!」
こういうのには抜かりが無い。そこはありがたいよな。俺たちは多目的室へ走り、勢いよく開けた。
「おい……あれって……」
俺たちの目の前にいるのは、確かに
「間違いなくファンタミアだ。だが……
上位種に位置する【バロン】だ」
間違いなく人間なそいつは、どこか人形のような出で立ちで、でも間違いなく生物としてそこにいた。俺たちを認識したそいつは
「……キヒッ」
軽く笑うと青く輝きだした。
「ソウマ!!」
「!!」
俺がコネクトパスをスキャンするのとヤツが攻撃を仕掛けるのは同時だった。すかさず腕を交差して防御したのが幸いして直撃でもダメージは大幅に減ったが
「なんだよ……これ……」
校舎の壁をぶち抜いて校門に激突した。魔法少女って凄いな、目立った怪我が無い。
「でも痛ぇ……なんつぅ力だよ……」
『あいつは上位種、その中で一番下のバロンではあるが下手なファンタミアとは比較にならない。嫌な読みが当たっちまった……あと八分って所だが、耐えられそうか?』
「いやいや見たろ!絶対無理だって!一撃でこれなんだぜ!次食らったらミンチだって!」
『助けるって言ったのはお前だろ!つべこべ言わねえで行けって!』
「そうは言ってもよぉ……」
俺がビビっていると後ろから高慢な態度の声が聞こえてきた。
「情けないわね!ファンタミアに遅れをとるなんて!」
「この声は……」
『紛れもなくヤツさ!』
左手サイコガンのあいつじゃねえだろ。後ろを振り向くとやはりというか森下虎々乃が仁王立ちでドヤ顔しながら煽り立ててきた。あの野郎……
「ファンタミアに一撃もらうなんてやっぱり新人は大した事無いわね。ここはこの私が華麗に倒して実力の差を示してあげるわ」
「お、おいティエリ。応援来るのって八分はかかるって言ってなかったか?」
『どうやら近くにいたみたいだな』
「でもそれなら組織もすぐ着くって言わないか?」
「さっきまで他のファンタミアを相手にしていたのよ!さっきのは雑魚だったしフォームパスも落とさなかったし無駄骨だったわ」
「無駄骨って……」
「当然でしょ?ファンタミアはクラスが低ければそれ程報酬も低くなる。フォームパスは完全に運だから仕方ないとしても小銭程度の報酬で働くなんて馬鹿らしいじゃない」
社会で働いている全ての人間に謝れと言いたくなる台詞だが、彼女が強力なのは間違いない。確実に倒す為にもここは協力して
「じゃあそこで寝てなさい。あんたを飛ばしたそいつは私が狩るから」
「は?」
「は?じゃなくて。足手まといはいらないって言ってるの。分かったらそこで大人しく寝てなさい」
「でもあいつは上位種?ってヤツで倒すのはそう簡単じゃない。ここは協力して「しつこいわね!私一人で十分だって言ってるの!」あ、おい!」
俺の言葉を無視し、虎々乃は校舎に突っ込んでいく。するとすぐにファンタミアの咆哮が響く。大人しくしてろって言われたけど
「あんな風に言われて黙ってられるかっての!」
『大丈夫か?ある程度の傷ならすぐに修復出来るけど、骨折とか身体が吹き飛んだりしたらそう簡単に治せないぜ?』
「なんでこうタイミング悪くバッドニュース入れるかなあ!」
でも一人でここにいるのも色々と事だ。俺より年下ってなら尚更放っておけない。ぶち抜いた壁の穴から入り、虎々乃を追う。すると直ぐに
「あぶぇ!!」
『ココノ!大丈夫なのら?』
「大丈夫よ、このくらい……」
「やっぱり駄目じゃねえか!」
「な!? なんでここにいるのよ!あんたは邪魔なんだからさっさと消えなさいって!」
「生憎自分より小さい子に戦いを押し付けて自分は逃げろなんて教育受けてなくてね」
『さっき無理って言ってた癖にな』
「シャラップ!!」
余計な事は言わなくていいの!
「あんたらこの状況でよくコント出来るわね……」
解せぬ。ティエリは兎に角俺が芸人扱いされてる。
『ソウマは兎に角俺を芸人枠にするのはやめろ』
「お?喧嘩?」
「ふざけてないで、来るわよ!」
虎々乃を引っ掴んで回避する。虎々乃がいた所はえぐり取られたように衝撃波が走った。放たれた方向へ向くとその正体が露わになる。
「あいつは……
『知り合いか?』
「『
『……原因が分かったかもな』
「マジか!原因ってなんだ?」
『お前たちだよ』
「え?」
『きっとあいつはお前たちと疎遠になった事が寂しかったんだ。何かの言い合いから関係が切れる事は確かにあるが、向こうが何も感じてないなんて無いんだからさ』
「……ティエリ」
蓮が疎遠になった理由。確か、直哉のオカルト趣味で俺がいつも付き合って、それに蓮が待ったをかけたのが始まりだっけ。それから蓮は直哉とつるむのを止めるように俺に言って来て、でも俺はそれを聞かなかった。昔から付き合いのあるあいつとつるむのを俺自身止められなかったんだ。それから言い合いになったんだっけ。
『仲良い友人が誰かにとられるってのは多感な思春期なら嫉妬に繋がるものだ。それに付け込まれちまったのかもな』
「……蓮」
「危ない!」
虎々乃がそう叫び、俺を引っ張る。今度は俺が助けられる形になった。
「ちょっと!何湿っぽい雰囲気になってるのよ!さっさと動け!」
「なんだよ!これからどうするかって考えるんだろ!」
「そんなの簡単よ!ファンタミアを倒して宿主から引きはがす!それからあんたが「ごめんなさい」って謝れば終わりよ!」
「そんな簡単な話じゃ……」
「簡単よ。嫉妬していたって事は、それだけ思われてるって事じゃない。あんたが大事に思われてるって証拠よ」
「……虎々乃」
「な、何よ……」
「お前そんなまともな事言えたんだな」
「私の気遣いを返せ!」
でもその言葉は効いた。今なら、あいつと話せる気がする。
「ありがとうな」
「ちょ、いきなりお礼とか言わないでよ。こそばゆいじゃない」
「やっぱり褒められ慣れてなかったのね」
「何よ……それで、作戦はあるの?」
「作戦と言えるものじゃ無いけど……虎々乃は陽動を頼む」
「はあ!? 私が活躍する作戦考えなさいよ!あんた助けてあげたんだからそれくらいやりなさいよ!」
「それ言ったら俺だってさっき助けたろうが!それでおあいこだ!それに蓮は俺が助けたい!」
「……はぁ、報酬は七:三だからね!!」
ちゃっかり報酬の半分以上持っていかれてるが、蓮を助けるには彼女の力が必要だ。蓮、今助ける!!
『でも実際どうするんだ?今の魔力量じゃ倒せるか分からないぞ』
「虎々乃もある程度削ってくれるさ。それに、昨日教えてくれたろ?俺たちには《必殺技》があるって」
『おいおいマジかよ。言っておくが『トゥーハンド』じゃどうにもならないぜ?あれは火力が低い分手数で補うフォームだからな』
「だから今の状態で打つんだよ。一か八かだけど俺は魔法少女で蓮の友達なんだ!」
『……全く、いいぜ付き合ってやる。それに、そろそろだ』
「え、何が?」
何がそろそろなのか聞こうとした時、虎々乃が蓮に吹き飛ばされる。大きな隙をつくった虎々乃を狙うのは容易く、右腕を剣に変形させてその首を落とそうと襲う。
「くっ……こんな……ヤツに!」
『ココノ!!』
「!ヤバイ!!」
「とりゃああああああ!!!」
昭和のヒーローみたいな叫びと共に蓮は右から襲い掛かった飛び蹴りをもろにくらって壁に激突した。虎々乃にも当然怪我は無く、助けてくれた人物は虎々乃に手を差し伸べていた。
「あ、あんたは……」
「いやーゴメンゴメン。まさか出現地点が学校とは思わなくって思いっきり飛ばしてきたんだけどやっぱり時間かかっちゃった!怪我は無い?まあ大抵の傷なら『コット』たちが治してくれるけど」
凄いフレンドリー?な人だな。もしかして応援ってこの人……?というには装備が魔法少女っぽくない。四肢についた装甲で衣装は俺のトゥーハンドみたいに軽装だ。健康的な魅力があるね!
「私『青原春佳』!これでも魔法少女だよ!よろしくね!」
青原……春佳……?
あお……はら……?
「ファ!!?」
「ん?どうしたの?」
「い、いいいいいや何でもないですよはっはっは!いやー凄かったですねえ今のライ〇ーキック!あのファンタミアを一撃なんて!」
「あんなの不意打ちで決めたに過ぎないよー。でもよく頑張ったね、後は任せて!」
「あ、あの!」
「どうしたの?あれは私が倒すから。報酬は二:四:四でいいよ!」
「ちゃっかり報酬の話してるわこの女。大体あんたなんかいなくても私で何とかなったわよ!」
「そう?あのままだったら首スパッだったと思うけど?」
何食わぬ顔でえぐい事言わないで。虎々乃も顔青ざめてるじゃねえか。
「で、でもおr……私、あのファンタミアの宿主と知り合いなんです!彼を助けるのは私の役目だと思うんです!」
「あれの宿主の……友達?」
「……はい」
「ふーん……
じゃあいっちゃおう!!」
「あれー?思ったより決断はやい!」
「だってドキドキするじゃん!敵に操られた彼を救い出し、その後は……キャーーー!!」
「!そ、そんな事無いですから!」
そうだよ今の俺女なんだからそう受け取られても仕方なかった!でも俺も蓮も男だしそんな事なってたまるか!
「ね、ねえ、その後って何やるの?」
「え?」
「あんた昨日は宿主のおじさんを病院に送ってたけどそれを彼にはしないの?」
「……君はそのままでいて」
「?ま、まあそういうなら分かったわよ」
虎々乃の以外すぎる事実を察し、蓮に向き直る。向こうも立ち上がり、こちらに向かってきていた。
「じゃあとどめは任せるよ!ええっと……」
「あ、私は『こいつソラって言うんだ!』てぃ、ティエリ?」
「オッケー!ソラちゃん!先輩がいいところ見せちゃうよー!」
青原さんは俺は兎も角、虎々乃よりも長く戦っているのか無駄のない体裁きでバロンの攻撃をいなしていく。斬撃を躱し、裏拳で顎を撃ち、脚を払って身体を蹴り飛ばす。
「凄い……これが魔法少女の戦いか……」
『言ってる場合じゃねえぞ。はやいところ魔力を溜めるんだ!』
「お、おう!」
ティエリにせっつかれて魔力を込める。青原さんが削ってくれるなら俺の全力でも十分に倒す事が出来る。
「後は、コネクトパスをもう一度スキャンして……青原さん!拘束って出来ますか!」
「オッケー!」
青原さんも自分のパスをスキャンして地面から鎖を出現させる。そのまま蓮の体を拘束した。
「鎖まで出せるのか!」
「魔法、もとい魔力は自分の想像力で形作る事が出来るの。ほら、後はあなたの仕事よ」
「よ、よし……」
バロンを倒して蓮を助け出す。そして
「謝るんだ。ないがしろにしてゴメンって。だから
これで、ぶっ飛ばす!!」
一点に向かってまっすぐ、貫く事をイメージしながら撃ち抜く。これが俺の必殺技!
「シューティング・ブレイクハート!!!」
込めたありったけの魔力とは反対に実物の銃弾のように小さい魔力弾は、それでも輝きを放ちながら蓮の胸を貫いた。
【グルウウオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】
断末魔をあげてバロンは沈黙した。通常のファンタミアと違い、外側の部分が溶けて蓮が出てきた。
「蓮!!」
倒れる蓮を上手くキャッチして地面への直撃を避ける。蓮は僅かに意識をこちらに向けていた。
「あ……そ……壮馬か……?」
「ああ俺だ!蓮ゴメン!本当なら直哉とお前の仲を取り持たないといけないのに俺……!」
「いいんだ……俺こそ……ゴメンな。お前に迷惑……かけちまったな」
「そんなもんいくらだってかけろ!俺たちは、友達だろ?」
蓮ははにかみながら俺に体を預けて気を失った。俺は感情が高ぶったか蓮を抱きしめながら涙を流していた。
「本当にありがとうございました。青原さんが来てくれなかったらきっと蓮を助けられなかったと思います」
「いいよいいよ。困った時は助け合いってね?」
青原さんの契約対象の『コット』に蓮を見てもらった結果、病院に送る程でも無いという事で蓮の家まで送り、今は二人に改めてお礼しているところだ。青原さんがいなかったら蓮を助ける事が出来なかったし虎々乃も俺の我儘に付き合ってくれたから今回の報酬は二人で分けるという事で決まった。
「でも本当にいいの?私とココノちゃんで分けて」
「いいんです。二人がいなきゃバロンに寄生された蓮を攻撃出来ずにやられていたと思いますから。二人のおかげで助ける事が出来ました。本当にありがとうございます」
「……」
さっきから虎々乃は一言も喋らない。バロンとまともに相手できなかったからというのもあるかもしれないが、青原さんがほとんどやってしまったから実力の差を感じたのかもしれない。
「それじゃあお礼ついでにお願いも聞いてもらおっかな?」
「お願い……ですか?」
「私の事、青原さんじゃなくて春佳って呼んでほしいの。学校でもそうだし、青原さんってなんか他人行儀じゃない?」
「な、名前呼びですか……ちょっと抵抗あるんですけど……」
「あと敬語も禁止。同い年なんだからそういうのは無し」
「え?あの、私年齢言いましたっけ?」
「え?だって君
宙坂壮馬君でしょ?」
「……え?」
「なんか私に対して緊張気味だしさっき俺って言ってたし。直哉君の名前出てきたって事は直哉君と友達っぽいしそうなると宙坂君だなって……あれ?もしかして秘密にしてた?」
「……」
青原さんから目を逸らし虎々乃の方を向くと
「嘘よ……男……?それであの胸って……」
絶望したような表情を隠しもせず俺の胸に視線を集中させる。そして
「……………………………………………………ぅぅううううううううううううああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああこの乳袋がああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「どぅひょおおおおああああああああ!!!!」
憎しみを込めた眼差しのままに引きちぎらんばかりに力を込めて俺の胸を揉みしだいた。
「……あはは」
青原さん笑ってないで助けてくれええええええええ!!!
そんな感じで今回終了です。書いてたら清純派というより爽やか特撮ヲタ系になってましたねこれは。
次はどれくらいかなと予定は未定という事で気長に待ってくれるとありがたいです。ではまた次回にー。