前回のあらすじ
正体がばれた。
「これがああああ!! この駄肉があああああああああああ!! 男が持つものだってえええのおおおおおおおお!?」
「ほわああああああああ!? や、やめろおおおおおおおおお!!」
そして今俺は虎々乃に胸を揉みしだかれている。恨みを込めたそれは俺の胸を引きちぎらんばかりに力が入っていた。
「痛い痛い痛い!いい加減離せっての!」
「許さない!私なんて牛乳だったりきな粉摂ったりしてるのになんの効果も無いのよ!それなのに男が……男が……」
悲痛な表情を浮かべて俺を睨みつけるけど、結局のところ胸が大きいのが羨ましいというものだった。後、牛乳やきな粉で胸が大きくなるのはデマらしいぞ!
「ああ……虎々乃ちゃん?胸が大きくてもそんなにいい事無いよ?肩は凝るし男の人からは視線が怖いし」
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!」
青原さんの悪意無き刃が虎々乃の心を容易く抉る。因みに青原さんも立派なものをお持ちです。
「てか宙坂壮馬!あんた男だってなんで最初の時言わなかったのよ!」
「いやあの時お前問答無用で襲って来たじゃん。お前の名前だってティエリから聞いたんだぞ」
俺の台詞にぐぬぬと睨みつけてくるが、俺は間違ってない。そもそも新入りだって分かっていたなら挨拶とは自己紹介とか最初にするべき事があっただろうに。
「もういいわ、じゃああんたの男の姿見せなさいよ。本当の姿が分からないなんて気味悪いわ」
「言葉の端々に棘を感じるのは俺だけか……」
独り言ちをしつつ変身を解除する。ティエリは銃からデフォルメクマの姿に戻り、俺は元の姿に戻った。
「ふーん、なんかパッとしないわね」
「そう?私はいいと思うけどなー」
虎々乃は予想通りの台詞だった。そして青原さん、その台詞は勘違いしちゃうから言っちゃダメだぜ!
「まあ改めて、宙坂壮馬だ。よろしく」
「相棒のティエリだ。そんじゃそっちの紹介も頼むぞ」
「じゃあ私からいくね。分かってると思うけど青原春佳だよ。こっちは相棒のコット!」
「コットだ……よろしく」
変身を解除した青原さんの相棒であるコットはカラスをデフォルメした姿だった。カラスというか鳥含めた動物好きな俺としてはありだな。
「因みにクマなんていかがかな?」
「こんなおっさん臭いクマなんて嫌だ」
「我儘言うもんじゃありません!」
おかんか。ってそんな事はいいんだよ。最後は虎々乃だが
「私の事はもう知ってるんでしょ?じゃあいらないじゃない」
案の定の反応だ。それに加えてどことなく不機嫌な様子はなんとなく察するから何も言わない。
「まあ改めてよろしく。てかお前普段の生活態度それだとコミュニケーション絶対破滅的だろ」
「うっさい、それじゃあ行くわよ」
「?行くってどこに?」
「決まってるでしょ。報酬を受け取りによ」
…………………………え?
「報酬って自動で受け取れるんじゃないの?」
「流石にそこまでハイテクじゃないよ。各国に一つか二つしか無いけどウィッカの支部があってそこで報告して報酬を受け取るって形になってるよ。……その子から聞いて無いの?」
「……おいどこに行こうとしてる」
「いやちょっと滝を見たくなってな」
「貴様アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
こいつなんで情報穴多いの!? 前にも似たような事あったじゃん! つっかえ! こいつホンマつっかえ!
「はいはいそこまで。はやいとこ行くわよ。もう暗くなってきてるんだから、こっちだって門限あるのよ」
「え?そこはしっかりしてんのか」
「そりゃそうよ。中学生が夜遅くまで出歩いてるなんて塾が無い限りそうそう無いわ。ましてや男といるなんて見られたら両親共々あなたを殺しに来るわよ。私愛されてる自覚はあるから」
「自分の口からそれ言うのか……」
「じゃないと魔法少女なんてやってないしファンタミアと戦うどころかその存在すら知らずにいたわよ。ま、そこはパパとママには感謝してるわ」
俺にはドライだけど両親の話になると途端に饒舌になった。両親の事をちゃんと好きで、両親もしっかり愛情をもって接してる。理想の親子なんだな。
「そういうわけだからはやくいくわよ。心配なんてかけてられないんだから」
虎々乃はそう言うとコネクトパスに似た物を取り出す。そしてそれをウィッカーコネクターに読み込ませると、空間に光が集中して扉のようになった。
「え? 何これどこ〇もドア?」
「ちげえよ。あれは『ゲートパス』っていってあれに登録された場所に限るがそこに一瞬で移動できる代物だ」
「何それ凄い! あれもファンタミアを倒すと手に入るのか?」
「いや、あれは基本ウィッカから配布されるぞ。自宅と最寄りの支部で合計二枚分だな」
「……なんで俺には無いんだ?」
「そりゃ支部に行ってないし、そんな時間も無かったじゃねえか。一応あそこも受付時間あるしな」
受付時間あるのか……前に聞いた話と合わせると福利厚生しっかりしてるっぽいし、下手な企業よりもホワイトなんじゃないか?
「まあその代わり命の危険が半端ないんですけどね初見さん。“バロン”と戦って生き残ってるのだって本当に運が良かったんだぜ?」
「それは……身を持って知ったよ」
ファンタミアの上位種だという“バロン”、まだそれ以外に詳しい話は聞いていないけどそこそこ珍しい存在だった様子だし、支部に行ったら詳しく教えてくれないかなぁ。
「ねえまだ? はやくしないと置いてくわよ?」
俺を急かすように虎々乃が呼びかける。俺達も後に続くようにゲートパスを通って行った。
ゲートパスを通った先には海外映画のファンタジーのような空間が広がっていた。空中に浮かぶ掲示板、箒や絨毯に乗って移動する人々。十階建てマンション程はあるんじゃないかという高さの本棚が壁一面を構成している。何より目を引いたのは天井だ。ゲートパスが移動アイテムというのは今ので分かったけど、こんな所地球の何処にあるっていうんだ。そんなまず間違いなく表に出ることは無いこの場所こそ
「ようこそ、ここがファンタミアと戦う者達が集う『ウィッカ』その本部だ」
「すげぇ……」
両親から「外の世界を見ると視界が広がって見つからなかったものが見えるようになる」と言っていたけど、こんなの世界の何割が見られるんだろうか。ファンタミアと戦う事になってついさっき死にかけたし、怖い思いをしたって言うのにそんなの関係無いって具合にワクワクしてる。
そんな俺を余所に青原さんと虎々乃は受付らしき所に向かっていく。俺も二人に付いて行った。
「こんばんはドロシーさん。先程ファンタミアを討伐してきたので報告に来ました」
「あら春佳さん。虎々乃ちゃんも一緒なんて珍しいですね。……そちらの方は?」
「えっと、新しくこのティエリと契約した宙坂壮馬と言うんですが……」
そういうと受付のドロシーさんは慌てた様子で「しょ、少々お待ちください!」と言って奥に引っ込んでいった。
「ティエリ、なんであの人はあんなに慌ててたんだ?」
「……ま、色々あるんだろうさ」
どこか意味深なそれに俺はどう返せばいいのか分からなかった。暫くするとドロシーさんは役員らしき人を連れて戻ってきた。
「宙坂壮馬さん、まずは契約者としての正式な手続きをさせていただきます。それにあたり、改めて契約の内容と同意を確認させていただきたく思います」
役員の人は定型文といったように俺に伝える。契約はティエリと交わしていたはずだけど……
「彼と交わしたのは力を使う契約です。ですが今のままでは十全に扱えない上、こちらに来ても報酬は受け取れません」
「は?」
ちょっと待て話が違うんじゃないか? ファンタミアを倒せば報酬が貰えると思っていたらそこは自動じゃないし更にはここでも契約しないと報酬の話は無しって
「もしかして、今まで倒したファンタミアの分ってのは……」
「流石にそれは可哀想ですし……この後契約なさるのでしたら変わらずにお支払いします。そこの
役員の人は呆れながらティエリを睨む。ティエリは少し体をびくつかせるが、我関せずといった風を装うと言わんばかりに下手糞な口笛を吹かせている。思うところがあるなら少しは反省の色くらい見せろ。
「えっと……ティエリっていつもあんな感じなんですか?」
「仕事は出来るのですが……風来坊というかいい加減というか、気が付いたらどこかに消えてしまっている事が多いんです。今回もそれで」
「おいおいおいそりゃ無いだろ? 俺のおかげでファンタミアの異常発生も発覚したしこうして新戦力も確保出来た。こんな万々歳な結果を出したってのにボーナスの一つも無いのか?」
「ボーナスが欲しいなら定時報告くらいしなさい。昨日一昨日の報告を除けば最後に報告されたのは三か月も前なのよ? クラスダウンにならないだけマシだと思いなさい」
また分からない単語が出てきた。ティエリ達にもクラスがあるのか……仕事は出来るって言ってたからそれなりに上の方なのか? 分からない事がいくつも増えてくるな。
「……話を戻して、ではこちらへ。応接室があるのでそちらで説明します」
ようやく本題に入る為に場所を移動する事になった。青原さん達はドロシーさんに話を付けて報酬の決算に移っているようだ。まあ時間がかかれば置いて行ってもらっても大丈夫だろう。契約すればゲートパスを貰えそうだし、何かあっても流石に家に送ってはもらえると思うし。
「では気を付けてください。
「へ? うおお!?」
気の抜けた返事をした俺は変な声をあげながらバランスを崩した。尻餅を着いて尻をさすっている俺が気づいたのは、
俺と役員の人を中心に床が浮き上がり、地面と平行して動き出したんだ。
「表の世界でも自動床がありますよね。それを元に基盤を作って魔力で動かす事で自由に方向を変える事が出来ます。縦、横、そして上にも」
彼女が腕を振り上げると床が上昇し、二階部分の床に合う位置に止まった。た、立つことも出来ない……
「おいおいそろそろ止めてやれって。ソウマも訳分かんなくなってリアクションも出来てねえぞ」
「ふふふ、すいません。新しい子が来るのは久しぶりなので少しからかいたくなってしまいました。少し止めましょうか」
床は二階に入ってから止まり、浮遊感が消える。そして役員の人が手を差し伸べてきた。
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はステラ、『ステラ・ワーナー』。ウィッカにおける日本関東支部統括責任者、企業でいう所の支店長みたいなものです」
ステラさんのいたずらが成功した時の子供じみた笑顔が、大人びた顔つきとのギャップで一層綺麗に見えた。
今回はここまで。次はもう少し早く出来るように頑張ります。