拝啓、いつの間にかVTuberなってました   作:白雪蓮華

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知らぬ間に嵌められた

 さて、突然で申し訳ないとは思うが皆さんはネットで配信などはよく見るだろうか。

 動画とは違い当人の反応を直に堪能でき、かつ配信者とコンタクトを取りながら時間を過ごせるというのは案外とハマったりしてしまう人も多いと聞きます。

 

「ここで上スマ!? 判断が早い!」

 

 コメント こやつ、只者ではない!? 

 コメント 守ったら負ける、攻めろ! 

 コメント まだ勝てる! 行ける! 

 

 さてそんな世界にも最近になって人気が出てきた存在を知っているだろうか? 

 一般的にはやってること自体は他の配信とほぼ変わらないがある一点が他の配信者とは違う存在、その名もヴァーチャルYouTuber、通称VTuberである。

 基本配信者はやはりというか当然と言うべきか自分と同じ人間であり、配信してる最中に画面端に配信者を映す配信もそこそこ増えてきていると思うのだがVTuberはその代わりにアバターを使用する。

 可愛いかっこいい系から悪魔なのか小動物なのかわからないものまで幅広いアバターを自分の姿とし配信を行い視聴者に夢と同時に本来の配信ならそうそう受けることのない非現実を与える存在となった彼らは瞬く間に人気が爆発し今やこの業界にとってなくてはならないコンテンツの一種となってるのではないだろうか。

 

「突っ込んできてくれ、ないか……? いや来た!」

 

 コメント 獲った! 

 コメント きちゃああ!!! 

 コメント あっぶねえ

 コメント 見事な復帰阻止! 

 コメント 120円 おめでとです! 

 

 かくいう俺、楠木奏多も。

 

 ス○ブラ配信、雑談しながら眠たくなるまでやりましょう【ノンフェイト 春房カナタ】

 

 そのVTuberの一人である。

 

 ☆──☆──☆──☆

 

 ことの始まりは約一ヶ月前の夜、部屋で大学の課題と戦っている時にドアをノックされる所から始まった。

 

「兄さん、今大丈夫?」

 

「ふぇ? あ、大丈夫だよ」

 

「じゃあ入るね」

 

 そう言って部屋に入ってきたのは俺の弟である楠木和人だ。

 今年で歳は十九になるイケメンかつ成績優秀スポーツ万能挙げ句の果てには周りからの人望も厚いと究極のハイスペック人間を絵に書いたような弟はどこかかしこまったような、いやなんか真剣な表情を浮かべていた。

 

「どうしたの? なんかあった?」

 

「何もないよ。それよりも兄さん、ゲームしない?」

 

 なんだゲームの誘いか、そんな表情しなくてもいいのに。

 確かに彼の手にはSwitchがある、本当にただゲームをしにきただけのようだ。課題も行き詰まってた所だしちょうどいいかな。

 

「いいよ、何する?」

 

「兄さんのSwitch今何刺さってる?」

 

「今は確か……イカ?」

 

「お、いいね。じゃあやろっか、僕端末のままでするから兄さんモニター使ってくれる?」

 

「ん? あ、いい、けど……?」

 

 珍しい、覚えが正しかったら和人確かモニター派でいつも俺の部屋でやるときはモニター貸してるのに。今日の気分は端末なのだろうか。

 まあ考えてもしょうがない、とりあえず電源つけて早速イカを起動し、オンラインマッチでまで進める。

 

「兄さん今日は筆なんだ」

 

「最近のブームだったりします」

 

「兄さん接近戦の方が好きだもんね」

 

「シューターとかもいいけどね、やっぱりこういう接近重視の武器のが使いやすいよ、近づけなかったら死ぬけど」

 

 さて和人と合流し早速オンラインに潜り込みバトル開始。

 ちなみに縄張りの方ではなくガチの方である。ルールは一定のエリアを塗りつぶし自分チーム側のタイムが終わるまでエリアを死守するものだ。

 

「エリアかあ、ホコの方が好きなんだけどなあ」

 

「僕はアサリも捨てがたいと思うけどな」

 

「わからなくもない」

 

 とりあえずエリアを先取、後は守り逃げ切るだけだが敵方はそうはさせまいと攻め込んでくる。

 四対四ではあるもののどこからその一人が出てくるかわからずさらにインクの中に潜っていればインク内を泳ぐ軌跡以外で基本的に敵を捉える術はない。このドキドキ感がもどかしい。

 

「兄さんそっち行った!」

 

「了解!」

 

 和人の位置を確認し敵が攻め込んでくる地点を予測し先回りしインク内に潜む。数秒待たずして段差をイカ状態で飛んで超えてきた敵を目視した瞬間に筆を思いっきり振り回す。見事連続ヒットし的は爆散、此方陣営のインクが周りに飛び散っていく。

 この戦場をマイルドにした感じがいいんだよなあ、まあ俺使ってるの筆なんだけど。

 

「兄さん!」

 

「ふぇ? あ」

 

 などと考えているといつのまにか俺も爆散していた。

 まじか、近づかれてたの全然気づかれなかった。相当なやり手だな。

 

「ごめん、見てなかった」

 

「大丈夫大丈夫、なんとか死守できたし、守りきろ」

 

「だね」

 

 気合を入れ直しリスポーン地点からエリアまで全速力で直行、とりあえずなんかエリア外を自刃有利にしようとしてるやつに後ろから攻め寄り撃墜しエリア死守に全力を注ぐ。

 と言ってもほぼほぼ俺以外の三人が敵リスポーン地点の周辺で敵を狩りはじめたので実質ほぼ勝ちみたいなものなのだが。

 

「お、勝った」

 

「やったね兄さん」

 

「ほぼ和人の活躍なんだけどな」

 

「兄さんがいなかったらエリア取られてたよ。お互い頑張ったってことで、次行こうか」

 

 それから和人の悩みに応えつつすうせんしたがどれも難なく勝てた。具体的には和人の活躍で。

 現実でのスキルがそのままゲームにも反映されておりワンマンアーミーとか一騎当千とかまじでやりかねないぐらいにはうまい。

 

「やっぱりうまいな、和人」

 

「兄さんスイッチ入らないと中の上くらいだもんね」

 

「これでも俺いつも一生懸命にやってるんだけどなあ」

 

「自覚なしスイッチなんだよ。入ると僕だって負けるのに」

 

「ええ……?」

 

「ちょうどいい時間だ、兄さんありがとう。忙しいのにごめんね」

 

「いいよ、また誘ってくれ」

 

「うん、それじゃ」

 

 そう言って和人はSwitchを片手で持ちつつ部屋を出た。

 

 

「どうですか?」

 

「完璧、本当にいるもんなんだねえ」

 

「でしょ?」

 

 ☆──☆──☆──☆

 

「兄さん、早速で申し訳ないんだけど出かけない?」

 

「え、何、どうしたの? なんか欲しいものでもあるの?」

 

「そういうわけじゃないんだけどちょっと兄さんと一緒に行きたい場所があるんだよ」

 

「別にいいけど、どこいくの」

 

「んー、渋谷。それ以上はついてからのお楽しみで」

 

 と言われてからあーだこーだ準備をしてから家を出て電車乗り継ぎしていざ渋谷に辿り着き、今は和人の誘導で街を歩いている。

 そういえば一、二年前ぐらいから和人よく渋谷にいってるんだよな。最近は頻度高いし。ともすれば和人と俺が向かっている場所は和人がいつも言う『ちょっとした用事』で赴いている場所なのかもしれない。

 

「そろそろネタばらししてくれてもいいんじゃない?」

 

「もう着いたからネタばらしするよ」

 

 此方を向いてニコッと爽やか笑顔を作り上げ彼はある建物に向き合い、それを追うように俺は顔の向きを変えた。

 思ったよりも大きなビル。外観やロビーからしておそらくどこかの店というわけではない、何かの会社か? 

 

「ここの上層階が僕たちの目的地」

 

「……なんか俺、知らぬ間に変なことに巻き込まれた?」

 

「それは兄さん次第じゃないかな。さ、いこ」

 

 ええ、何そのセリフ。超怖いんだけど。

 けどここまできたらもう逃げ道なんてないしだからこそここまでどこが終着かを和人も言ってないんだろうし……ええい、どうにでもなれ! 

 

 かくしてエレベーターで上層階に到着し和人の後を追いながらスタスタと歩いていく。

 見る感じ悪い場所、具体的にいうと飛躍しすぎと思うが闇金とかではなさそう。むしろ何というか、活気溢れてる感じがする。

 

「ここだよ兄さん」

 

「ここ……ここ?」

 

 いやいや和人さんなんかこの部屋社長室って書いてあるけど何? 俺素知らぬ会社の社長と今から面談? え、何かやったっけ? え? 

 

「姫乃さん入りますよ」

 

「待ってました!」

 

 社長偉く元気だなあ、とりあえずは危ない方ではなさそうなので部屋に入ってみる。

 部屋は社長室と言われたら想像する通りのもの、具体的には手前にはソファに挟まれたテーブルとその奥に社長机にそこに両手を組んだ仁王立ちする多分社長さんと数枚の紙が入ったファイルを持った女性が一人。なんで仁王立ち? 

 

「紹介するよ兄さん。仁王立ちしてるのがここ『ノンフェイト』事務所の社長こと西澤姫乃さん。それでその横の人がイラストレーターの赤萩さつきさん」

 

「初めましてカズトくんのお兄さん! 私が社長にっしざーわひめの! だ!」

 

 大丈夫これ、言いたくないけど大丈夫? そのどこぞの南国で強い技使うときのポージングもう古いですよ? 

 

「やばいインパクトが強すぎる先手を取られた……!?」

 

 なんでそんな悔しそうな表情してるんです? こういうのはインパクトよりも誠実さを見せるべき場面なんじゃないんですか? 

 

「とりあえずおんなじのやっとけばいんじゃない?」

 

「同じの二回見せられたらインパクトもクソもないでしょ! ……ゴホン、てなわけで赤萩さつきです☆」

 

 キャピって一世代昔のギャルか。インパクトよりも虚しさのが残ってるよ今。

 

「兄さん今必死に衝動抑えてると思うけど基本的に頭のネジぶっ飛んでるからツッコミ声出して言ってもいいからね」

 

「ええ……」

 

 俺は今一体何を見せられてるの? というかノンフェイトってどこ? 

 

「兄さんVTuberはわかる?」

 

「最近流行りの配信者でしょ?」

 

「そそ。その事務所の一つがここノンフェイトなんだよ」

 

「ちなみに名前の由来は出会いは運命じゃなくて必然って言う意味合いのノンフェイトね!」

 

「渾身の命名だぁ」

 

「カンッペキッ!」

 

「いやキメ顔されても困ります」

 

「返しが早い……こやつ、やはりやり手!」

 

「とりあえず話進めましょう姫乃さん」

 

「おっとそうだった、とりあえず右側に腰掛けてくれたまえ!」

 

 そこそこ長い付き合い故か弟はすでに慣れ切ってしまっている様子。これになれるのにどれだけの時間を費やしたんだ? というか慣れというか呆れてない? 

 

「兄さん大丈夫?」

 

「そこそこキツくなってきたかも」

 

 だがまだダメってレベルではない、まだいける。

 

「常識レベルも上々と、いいねえ」

 

「やばい俺追いつけない!」

 

 前言撤回全然ダメだ俺には早すぎた! 

 

「大丈夫、僕もだから。久々のハイテンションなんだよ」

 

「それは見るからにわかるけど……」

 

「ヘイヘイ! さっさと座りなYO!」

 

「ポージングしないとダメになる病かなにかで?」

 

 ヤッベ失礼なこと言っちゃった。素知らぬ顔してとりあえず座っとこ。

 

「とりあえずこれ名刺ね、どぞどぞ」

 

「これ私の名刺、受け取ってくださいな」

 

「あ、はい」

 

 うわあ、名刺受け取りとか初めてやったよ、しかもそこそこお偉い人からのやつ。というか本人たちがああいう性格のわりにはちゃんとした名刺だな。まあ周りに見せるものだしここら辺はちゃんとしているのだろう。よかった、頭のネジは数本まだ無事のようである。

 

「じゃあ説明始めよっか。カズト君どこまで言ったの?」

 

「いえ一つも言ってないですけど」

 

「なーるほどねえ、よし。まずカズト君が実はVTuberってのは知らないでしょ?」

 

「はあ……え? 嘘でしょ!?」

 

「本当だったりします」

 

「いやいや知らない! いつから!?」

 

「正確にいうと二年前の五月二十日かな。春房カズトって名前で現在活動中」

 

「ずっと一緒にいたのに知らなかった……」

 

「家防音だからね、隣同士でも気付かないよ。兄さんタイミングよくいつも配信してない時にしか来なかったし」

 

 そういえば時々部屋入った時通話ツール使ってるわけでもないのにマイク繋いでたりしたっけな。なるほど、あれは配信し終わった後だったのか。

 

「とまあそれはともかく。実はさつきが最近新しい子を書いたんだ」

 

「それがこの子ね」

 

 そう言ってさつきさんがファイルの中から一枚の紙を出した。

 そこに描かれていたのは少し大きめなサイズのパーカーを着た黒髪の一部分に銀色のメッシュがある優しい表情をした青年の絵だった。

 

「お兄さん……、あー、えーっと」

 

「楠木奏多です。奏多って呼んでもらえれば」

 

「じゃあ奏多君、奏多君はVTuberの中の人が基本的にどう決まるかは知ってるかな?」

 

「スカウトとオーディション、ですかね?」

 

「そ。大体の人はオーディション、ごく稀にこっち側からスカウトする形が主。それで新しい子を作った以上はこの二つのどちらかを私たちはしないといけないんだけど」

 

「なんか今回に限ってはさつきが爆発して『こんな人じゃないと任せられない!』とかほざき始めたんだよねえ」

 

「それはまあ、自分が書いた、いわば子供なんでしょう? 親としては当たり前なのでは」

 

「お、わかる? わかるよね!」

 

 せっかく書いたのだから安心できる人に任せたいというのはむしろ当たり前なのではないだろうか。意味のわからんとりあえずが理由でその人に任せてしまったら親としては応援するにしきれないだろうに。

 

「そんなわけでこの男の子の設定がこれ」

 

 そしてキャラの描かれた紙に重ねるように紙が置かれる。

 

『都内の大学に通うごく普通の常識ある一般人。

 周りに気を配れる優しさを持ち、これを活かせる場所があると配信を勧められて配信主となることを決める。

 配信を通しいろんな人と関わり、相手と、そして自分も成長したいと思っている』

 

「それでさらにある程度ゲームも出来るような子ならいいなあって駄々こねたの」

 

「駄々を、こねた?」

 

「そそ。よくあること」

 

「よくあっちゃいけませんから!」

 

「はいはい、話戻しますよ。それでね兄さん」

 

「ん?」

 

「実はその話を聞いて僕から推薦できるかもって提言したんだよ」

 

「ほお……ん?」

 

 いや待てよ、和人が推薦するって誰を。

 基本的に和人はハイスペック故にその敷居はそこそこ高い。そんな和人が推薦? 

 この役を任せられる人を知ってるって? 

 い、嫌な予感してきた。

 

「君達、三日前にゲームしたでしょ? あれ、見てました」

 

「はえ!?」

 

 あれ見てたの!? どうやって!? 俺何も繋いでないけど!? 

 

「僕の胸ポケットに入れてたスマホ、ビデオ通話したままだったんだよ」

 

「……だからあの時モニターでって」

 

 なるほど、それなら辻褄が合う。

 胸ポケットに刺さったスマホのカメラに映すにはどうしても俺がモニターを使う必要があったからあの時俺にモニターを使わせたのか。

 

「そうゆうこと、端末だと兄さんのゲームスキルを見せられなかったからね。それで姫乃さんとさつきさんにはゲームスキルと兄さんの性格喋り方、後特徴を審査してもらったんだ」

 

「それで、結果は?」

 

「完璧。カズト君の小さな悩みにちゃんと答えて、それでいて優しい声音もイメージ通り。しかもゲームもそこそこ出来る。あのゲームをやってる時も見えもしない誰かに気を配りながら的確に穴を埋める性格が分かるプレイスタイルだった。これはあってみてわかったことだけど常識がちゃんとあって私たちの行動にちゃんと返してくれる、まさに理想だったよ」

 

「率直に言うとね。── VTuber、やってみない?」

 

「俺が、ですか」

 

「私としては是非君に預けたいと思ってるの。君に魂を吹き込んでもらえたら私も、きっと彼も幸せだから」

 

「私としてもお願いしたい。うちの新しい風に、君は必要だと思うんだよ」

 

 なるほど、だからか。

 

「……和人、絶対わかっててやったでしょ」

 

「うんわかってたよ。だって僕の自慢の兄さんは優しいもの」

 

「「ほんと!?」」

 

 うわーお笑顔が眩しい。

 

「やった! やった! 早速みんなに言いふらさないと!」

 

「やったあ! 今から配信超楽しみ!」

 

「いや言いふらすのはやめてください恥ずかしいです!」

 

「大丈夫大丈夫! うちに所属してる子たちは手放しで喜んでくれるよ!」

 

 手放しで喜ぶとかレベル高、すごい恥ずかしい。

 

「うんうん、じゃあ早速書類を……」

 

「あ、待ってください」

 

「え、どったの?」

 

 一番大事なことを聞くのを忘れていた。

 俺の半身となる青年のことを俺は何一つ知らない。まず知らなければならないことだ。

 

「彼の名前は、なんていうんでしょうか」

 

 

「ふっふーん、聞いて驚け! 彼の名は──春房カナタです!」

 

 

 

 

 

 




なお続くかは知らない
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