絶対に異世界から帰還すると決意した男の末路 作:コーカサスカブトムシ
俺が知ってる異世界転生、その導入には幾つかのパターンがある。一番オーソドックスなのは主人公にあたる人物が死ぬと天界のようなところに魂だけで連れていかれ、これこれこういう理由でと異世界に転生させられる……俺もこのタイプだったがここから先に多少の違いが出てくる場合がある。
原因は色々あるが基本的にみんな死んでいる訳だ。時間の進みが異世界と現代でどうなっているのかはわからないが、間違いなく死んだ人間の身体そのものは死体として残っているだろう。そしてその肉体は火葬されるなりで失われるが、大抵の異世界転生物では生前となんら変わり無い姿で転移している場合が多い。身体能力からして異なる以上、それはあくまでも再現体に過ぎないんだろう。
一方で俺は死んだあと魂だけとなって現地の人間として生まれ変わった訳だが、最近は悪役令嬢だとかでこっちを見ることが多い気がするな。フルネームで言うと【バルト・グリコス】という人間として生まれ変わった俺だが、目的が『現代へと帰還すること』ってなるとこの現地人転生タイプだと厄介な事がかなり出てくる。
「……イザベラ、五月蝿いぞ」
「んもー、毎日毎日本、本、本! 少しは運動したらどうなの?」
「俺は俺のペースで体を動かしている。余計な口を出すな」
生前の姿のまま転生するとなると直後は身元が無いことや土地勘、資金面などで困る事があるだろうが大抵はその身に与えられた能力や、あるいは現世から持ち込んだ物品を売って資金にすることで立ち位置を安定させられる。分かりやすく冒険者ギルドなどとある街だったりすればステータス登録からなんだこいつ!? って流れは様式美ですらあるな。
一方現地の人間に生まれ変わった俺はそうもいかない。まず短くても10年~15年は村の中という極めて狭いコミュニティの中で生活することを余儀無くされる。ここで生活することでこの世界における常識、教養、処世術を学べるという利点はあるが時間の長さ、これは不味い。
今こうして目の前で俺に語り掛けている少女、【イザベラ・アンスリウム】はグリコス家と親の世代から親交のある隣家の幼馴染みなのだ。歳も近い、自分たちの子どもを接触させないなどということがある筈が無い。本当に物心ついた時から彼女を知っている俺は、この少女の存在が将来現代へと帰る時に足枷になるのではないかと懸念しているのだ。
俺はゲームをするときが特にそうだが主人公に感情移入しながらプレイするタイプの人間だ。思われる事もあるだろうがそうやってゲームをしているとその世界の人間になれたような気がするし、魅力的なキャラクター達がまるで自分の友のように……とまでは流石に行かないが、登場するキャラクターや場所に思い入れを込めてストーリーを楽しむのだ。
そんな俺が、この自分自身が実際に口で喋って目で見て耳で聞く、幼い頃から一緒にいる少女に対して思い入れを持たない事が出来ただろうか。
出来ないだろうなぁ! まず顔がいい、めちゃくちゃに可愛い、天使か貴様っ! 俺は小さい女の子を可愛いと思って邪だとか思われるのは正直おかしいと思っている。性的な意味で捉えてる奴は軽くしばいた方がいいだろうけどね。自然の中で生きているというのもあるからだろうか、その穢れ無きピュアピュアな瞳は三次元ではありえないルビーのような紅で、ぱっちりとした睫毛とクリクリした茶髪。性格も明るくて気前がいいし、活発で元気なのもいいところだ、だがそれが辛い!
「何時やってるっていうのそれ! 作業の手伝いしたらすぐ本じゃん、まさか私もやってるあれを運動っていうつもり?」
「腕立てや腹筋、プランクやスクワットと言ってもわからないだろう。第一成長期に筋を付けすぎると背が伸びない」
「プラ……? 難しい言葉使って、自分だけ大人ぶっちゃって!」
大人ぶるも何も人生経験だけで言えば大人だからな、親よりも。筋肉をつけると背が伸びないというのはデマとも聞くが程よく運動してよく食べ、眠る。これを実行している事もあってか俺の身体はしなやかな筋肉に包まれ、すらっと伸びた美少年になろうとしている。両親の遺伝故か顔が良い……誰でも彼でも顔がいいな、向かいの宅のおじさんだって美形の面影があるぞ。
話はずれたがここでレールを戻そう、改めてこれは由々しき事態である。エリザ、そしてアストラ、この二人の親は自分の中で前世の両親との違いをひたすら心中に渦巻き続けさせたことで、ホームステイ先の親くらいの感覚に押し止める事が出来た。だがイザベラはそうもいかない。美少女の幼馴染みはファンタジーだ、これに該当する例を俺は知らないし何かと重ねて拒否することが出来ない。
距離感が近く、性別の違いなど感じさせないようなフランクさがある癖に定期的に羞恥を見せる仕草など、彼女は既に俺の中から切り離せなくなりつつある要素になっている。これは、不味い。なんせ俺は友や家族がいるからこそ現代へ帰りたいんだ、それがこの世界にも産まれて比重が大きくなってしまえば……
俺は本を閉じて立ち上がり、指先や首を捻って歩き出す。ぽかんとした顔で此方を見上げるイザベラを置いて、山道へと向かった。
「走る、ランニングは基本だ。追い付かなければ置いていく」
「え……っ、そうこなくっちゃ! そしてまた難しい言葉使わないのもー!」
俺には幼馴染みがいたがそいつは男だったし、互いに気心の知れた仲ではあったが一番の友という訳でもなかった。中高校と別の学校になったこともあり、時間が距離を離し、会えば話すが疎遠になっていった。
イザベラを突き放し、いつかどうとでもなる距離感の存在にする。そうすれば、彼女とていつか俺以外の人間に関心を向けるだろう。どうせ俺は世界以前にこの村を出る、それにまでわざわざ着いてくるような関係性でなければ良い話だ。
私はイザベラ、ご飯を食べる事と外で遊ぶ事が好きな女の子。 突然だけど私の幼馴染みはとても変わってるの、私とそう年齢も変わらない筈なのに大きなヨロイムシを捕まえて見せに行っても全然はしゃがないし、物静かでまるで大人みたいな子。名前はバルト、お隣に住んでる子で初めて会った時の事も覚えてないくらい昔から一緒の友達なんだけど……この子が本当に変わってる。
まず毎日毎日熱心に本を読んでる。みんなが外で遊んでる間バルトは一人で書庫に籠ってて輪の中に入ろうとしないで、目を獲物を狙う鷹みたいにしながら魔法の本を読んだりしている。そうやって頭がいいからなのか、もう自分で作った魔法が使えるらしい。基礎的なものなら赤ちゃんぐらいの時から出来たらしくて、お父さん達が神童だ天才だってはしゃいでたなぁ……
幼馴染みなのになんだかそれが悔しくて、まるで彼だけが別の場所にいるみたいで、何とかバルトの気を惹きたかった。遊んでもくれないし声を掛けても返事はあんまり返ってこない。反応は毎日変わらない、ずっと私より本が優先で……彼は私の事をどう思っているんだろう。暫くそうしてる間に、きっと何とも思われていないんだろうなって、そう思い始めてた日の事。
遅くまで書庫に籠ってるバルトを見掛けた。本を読むのに集中している彼の関心を惹くことを半ば諦め掛けていて、それでも何かないかと思っていた時だった。ブラブラとしている時に躓き足をぶつけた本棚が揺れて、そこから重たい本が何冊も落ちて来た。
急な事で身体が動かなくて、そうしたらバルトは読んでた本を放り出していた。目線が彼を追っていて、それがすぐ近くまで迫って来たときそれまでに聞いたことの無いような声をあげながら私を抱えて本を避けた。
「ぐっ、農書が……どうするかな」
「バ、バルト……」
大人達が来て悪かったのは私なのに、どうしてかバルトは私と一緒になって叱られようとしていた。自分がもっと関心を向けていればって、大人達もそれには困ったような顔をしていた。
私は知ってる。バルトは本当は優しい子なんだって、怪我をしたときにぶつくさと文句を言いながらきっと本で勉強したんであろう手当てをササッとしてくれて、本当に大丈夫なのかと何度も聞いてくれて。ゲルマンさんの家の小さい子がいなくなったときは泥や砂まみれになりながらその子を探しに行って。関心が無いようなフリをしてるけど、よくみんなの事を見て考えてる。
『I'm a thinker~I could break it down
I'm a shooter~A drastic baby』
そして、一人で泣いていた。聞いたことの無い国の言葉で歌を歌って夜空を見ながら、そこには私の幼馴染みのバルトじゃない子どもがいた。私の知らない、彼の隠したい彼が。屋根の上で頬を濡らし、届かない何かに手を伸ばそうとするバルトの姿は普段から大人らしく見えるよりもよっぽど大人びていた。
バルト、私の幼馴染み。友達、っていうのが正しいんだろうしもしかしたら彼にとっては手間の掛かる子どもみたいに思われてるかもしれない。子どもなのに大人みたいな男の子、みんなと遊ばずに一人でいるのは……周りとの違いを意識してしまっているのからなのか。だけど、私はあなたと同い年なんだからね? みんなに優しいのに彼は自分にだけは優しくない、何処か危なっかしいところがあって目を離したら消えてしまいそうな朧さがある。
「ちょっと待ってってばぁー!」
「お前が遅いのが悪い」
『そうか……無事で何よりだ』
だからバルト、私は、貴方から目を離さない。
この作品が面白いのか、つまらないのか改善点があるのか伸ばす点があるのか、キャラクターの個性が出せているか、初めての試みなだけあって感想が欲しい……切実に……
一話読了後お気に入りしてくださった方々ありがとうございます、励みになります。二話を見ていただいた方も感想を残すなりしていただけると幸いです
これからの展開について
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バルトが傭兵として戦う描写重点
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バルトが帰還する手掛かりを探す重点
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ヤンデレ重点