絶対に異世界から帰還すると決意した男の末路 作:コーカサスカブトムシ
そこで主人公を能天気めに設定し、勘違いの落差を深めにしてみたので初投稿です
言ってしまえば俺はこの世界で言葉、文字を覚える事が出来るのはもっと先の事だと思っていた。農村に転生するとは前以て言われていたし、一般的に想像出来るような異世界の農村と言えば文明のレベルは言い方が悪いがかなり低いもので、字の読み書きが教えてもらえるとはとてもじゃないが思ってもいなかったからだ。
しかしこの異世界、ヤーラカムには魔法があれば剣や弓や槍を使う戦士、そして人に仇をなす魔物とそれを従える魔族……そして魔王なんていう分かりやすい生態系が作られている。THE ファンタジーって感じだな。ちなみにほとんどの動物がイコールで魔獣って考えていい、家畜化されている牛やら羊やらもいるから魔ってついてるのも複雑な感じがするぜい。
この村は作物が豊かな方でそれを目当てにした鳥獣や、それを狙って更に大型の獣など木の柵と獣避けの呪いがあるとはいえそれも万能じゃない。もしそれが破られて村に魔獣がやって来た場合、むざむざとやられるなんて訳にはいかないから当然の事ではあるが戦える力を持った人達がいるのだ。
そして、その中に街の学舎で魔法学を納めたクライスという男性、今はもうおじいさんだがかつては魔物退治を生業としてやっていた人がいる。歳というのもあってその職を引退し、この村で護衛を兼ねて暮らしている訳だが色々な国を渡ったという彼の知識と技量は本物だ。
老境を越えた熟練の魔法使い、燻銀なダンディーなおじさまだ、例に漏れず顔がいい! 言ったらなんだけどこんな辺境の農村にオーラントみたいな風格の人がいるの違和感あるぞ……
クライスさんは当然の事ながら文字の読み書きが出来る。このヤーラカムでは各大陸で文字や言語が違うということが無いのでこれさえ覚えていれば何処でも意思の疎通が可能だ。この世界でバベルの塔は作られなかったんだなって、なんでそうなるんだよエーッ!
何もない普段は言葉や計算等、位としては小学生のそれくらいな内容だがそういった学術を俺達のような子どもに教えてくれるのだ。最も真面目に取り組んでいるのは俺くらいのようで、この年頃は勉強よりも遊びたい気持ちが強いのだろう。だが最近はイザベラも来るようになったな。結局授業が始まってすぐに視線が虚空へと浮かんでいってしまうが、何しに来たんだよお前……
「そうしてシロヨモギの根はすりおろして乾燥させれば薬になる」
「効能は魔蛇系毒性の中和、患部に塗って使用する……ですね」
だが俺が教えを請いに行った時には近くでとれる薬草などの効力が強すぎない基本的な傷薬の調合法や、魔法を扱う際のコツに心得など一歩踏み込んで村の外でも生きていける術を授けてもらっている。
自分の手で魔法が使えるってめちゃくちゃ楽しいし特別感があるんだよな。VRってどころじゃない躍動感、掌から迸る火玉からは確かな熱を感じるしパチパチと弾ける音は心に安らぎを与えてくれる……ぼんふぁいありっと。
「ふうむ、飲み込みがいい。復習も忘れてはおらんようだ、どの大陸でも見れる薬草の効能は粗方覚えたというところか……」
「ええ、これもクライス先生のお陰です」
おじいさんと言ってもクライスさんは足腰がしっかりしているし、ボケているというような事もない。この世界の事を教えてくれる先人としてこの上ない教師だった、とてもありがたいし感謝している。
さてそこで魔法の事なんだが、転生するにあたって万全な才能を与えられている俺でもやりたいことがなんでもかんでもすぐに出来るって訳じゃない。炎を使いたいのなら小さい火の粉を出す練習から始めなければならないし、氷なら冷たい風と……ポケモンのタイプみたいな分岐が出来る魔法は、それぞれの熟練度を上げていかなければ大それた事は出来ないようだ。
『memo
火→炎→爆発、高熱、レーザー
冷気→氷→氷の造形化、浮遊物の停止
静電気→電流→雷撃、天候操作
急に地震を起こしたり雨を降らせたりってことは出来ない。少しずつ応用が出来るようになる』
では、世界の壁を超越する……そんなことをする為には果たしてどんな種類の魔法を育てて行けばいいのか? ……魔法とは想像の力だ、無理くりこじつけみたいにイメージして兎に角練度を上げていけばなんとかなるべ! あぁそうさ、ノープランだよちくしょうめ!
威勢よく魔法を鍛え始めてみたはいいもののどうにもなる気配がしないな。色んな文献を読み漁って世界の魔法使いが発現した稀有な魔法ってを調べたが、それにもそれらしい事は記載されてなかった。せいぜい大昔の大魔法使いがテレポートを使えたってことぐらいで、それも何を基礎に派生させたものなのかは残って無かったしなぁ。
「なぁバルトや」
「なんでしょう、クライス先生」
もしかしたら関係しそうだよなーって事で幼少期からやっていたのは重力を操作して物を自在に動かす魔法、傍目に見れば念動力ってところか。なんか星とか極めてブラックホール的なの出せたらワープとかそういうの出来そうだし……何よりフォースにはちょっと憧れるだろ男子としては。それで手元のペンを指先で浮かせ、エクストリームペン回しをしていた最中にクライスさんがいつになく真剣な顔で此方を見つめ問い掛けて来た。まさか邪な考えで魔法を使っていることがバレたのか、それともペン回しとか気になるタイプの人だったか……?
「おぬしはこんな老い耄れのくだらん鞭撻に真面目に付き合い、薬学にもある程度通じて魔法までもが使えるようになった」
「そう、ですね。本当に感謝して……」
「それでじゃ、おぬしは何を目的にこんなことをしておる? 外を見てみい、童は野山を走り回りきゃあきゃあとはしゃいで遊ぶ。それが正しい事などとは言わん、正解は無い」
ひえぇ視線がなんか底冷えしてるぅ! 俺なんかクライスさんの地雷踏んだ……か、いやこれはただ単に不審がられてるだけじゃないか? そうだよな、俺幼児くらいの頃から積み木使ってフォースの練習してたし噂にもなってた。運動が嫌いな訳でもないのに自分の時間削って本読んで魔法習ってって、子どもにしてはちょっと不自然なまでに勤勉だったな。
あんまり他人と関わらないようにしてるのにクライスさんのとこだけ足しげく通ってるのも変な話だしな、しかしこれ言い訳どうするかねぇ……例によって前世の事は言いたくないし、いい感じに誤魔化しておけばいいかな? ある程度真実を混ぜて自分自身でもそれらしく言ってればなんとかなる……筈。
「……俺には、為さなければならないことがあります。その為に俺は産まれたと言っていいし、そうでなければならないという確信があります」
「ふむ」
進撃の巨人とか絶対最後まで読みたいからな、少なくともライナーが英雄になるとこ見届けたい。友達のRISEやる約束もしてたしなぁ……そして俺の意識がある以上、前世に戻る為に産まれたようなもんだしこの言葉に欺瞞は一切無い!
「わかっているでしょうが、俺はいつかこの村を出ます。戻って来るのか来ないのか、そもそも来れないのか、それもわからない。ですが俺は自分自信の命題に従って生きる、その為には貴方の知識と用意できる準備、そして魔法が必要……それだけのことです」
「なるほどのぉ……やはり、か」
ちなみにバルトとして話す時の俺はバリバリに気取ったちうに病風な話し方をしている、本当に気持ち悪いよ。こんな芳ばしい奴いたら関わり合いになりたくないだろうし……ところでクライスさんそのやはりってなんなんですかね? 難聴系とかやってませんよ俺は、何がやはりなんですか。
「ならば、それに相応しい覚悟がおぬしにはあると、そういうことじゃな?」
「無論、それに殉ずる覚悟です」
クライスさんが何考えてるかわからねぇ! でもこのノリで違うって言う勇気無いし、現代に帰る意思だけは本物なので肯定しとこ。もし帰れたらバルトくんは失踪することになるしな。
「そうじゃったか……じゃが、おぬしはまだ若い。一人だけで抱えきれん問題なんだ、頼れる事があれば……なんとなり聞け」
「ありがとうございます、クライス先生」
……これもしかしてバレてる? バレてーら(確信) マジかよぉ、人生経験つよつよ過ぎない? ってかそんなことまでわかっちまうものなのか歴戦の魔法使いには……でもそこまで分かってて協力してくれるってことは遠慮しなくてもいいってことだな。外での稼ぎ口はやっぱり魔獣狩りとか組合とかでの依頼になるだろうし、攻撃的な魔法も実戦形式で教えてもらっていいですか?
「あぁ勿論じゃ、この老い耄れの……最後の大仕事じゃな」
儂にとってバルト・グリコスという童ははっきりと言って、異質で不気味な存在じゃった。エリザとアストラが子に恵まれたと耳にしてそれを祝い、育つ事を楽しみに待ちながら……信じられぬ物を見た。
「クライスさん……これは……」
「これ程精密なサイコキネシス、いやそれとは基礎から異なるか?」
まだ赤子のような、玩具として積み木を与えてられておったバルトをそれを遊具として使う事はなく、所以のわからぬ魔法で浮かせ縁をずれさせること無く積み上げていっておった。遊戯ではないと確信したのは、その眼が到底尋常な子どもそれでは無かったからか……不意に発現した魔法で遊んでいる、訳ではなく確たる意思を持ってそれを鍛えている。そう形容する以外無い光景を目にしてから、儂はバルトに言い知れぬ感情を抱いていった。
それから月日は経ち、やはり予想していた通りにバルトは儂の教えを請いに来た。遊びもせず書物を読み、その視線からは子どもらしさもなくともすれば達観したような超然ささえ感じられる。いったいこの童はなんなのか、幼少期から進むべき道を決めているかと言うかの如くの行動の数々。そこから、儂は遥か昔に仲間達と交わしたある噂話を思い出した。
曰く、この世には常人には及びもない才覚を持ち、人の内から魔王を討ち滅ぼすべく宿願を背負って産まれる、勇者とも呼ばれる存在がいるのだと。そんなことを、魔物達に立ち向かう術を持たぬ人々が抱いた願望の与太噺であろうと笑い飛ばしていた若かりし頃の事。
仲間達は街を襲い来た魔族の群衆に命を落とし、からがら生き延びた儂は確かにそんなものがいたならば良いなと、そう思っていた。
儂の問いに淀み無く、ああ答えたバルトはもう異質で不気味な童などでは無かった。こやつの人生は始まったその時から使い道が定められ、またそれこそを天啓と信じ進んできたのだな。
あぁ、そうか、そうなのか。お前が『勇者』なのか。そう考えると年甲斐もなく胸の底が熱くなるような気がした、若い心が甦ったようだった。
神に祈った事はない。この世に神がいるのなら、大陸の一つを攻め滅ぼし、支配し、今もなお四大陸を脅かす脅威として君臨している魔王とその軍勢を赦している筈が無いのだから。
だがこうして神が遣わしたような存在を目の当たりにした時、自分にも信仰心のようなものが目覚めた。あの日から自分だけが生き残り、この老いさらばえた枯木にも意味が与えられたようだった。前線を退き長いときが経った今魔法も進歩したことだろう、それでも伝えられる事はある、教えられる事はある。
この若き勇者を鍛える事、それがクライス・オースタンの最後の大仕事になるというのならば、それはなんと、心が踊る事であろうか……あいつらにも良い土産話が出来そうだ。
鬼灯 白夜さん誤字報告ありがとうございます
魔法の熟練度~は私の語彙が及ばぬ辺りで? となった方も多いでしょうがご勘弁を……
タグはちょくちょく追加されるものかと思います。ヒロインのヤンデレタグは決して受け狙いという訳ではなく作者の宗教的都合によるものです
感想等がモチベーションなのでしていただけると生き返ります
これからの展開について
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バルトが傭兵として戦う描写重点
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バルトが帰還する手掛かりを探す重点
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ヤンデレ重点