絶対に異世界から帰還すると決意した男の末路   作:コーカサスカブトムシ

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あれからお気に入りしていただいた方の数は右肩上がり、トップ層の方々には及ぶべくもありませんが日刊オリジナルランキングにも拙作が名を連ねさせていただけました。これもお気に入り、評価と感想をしていただいた皆様のお陰です。
これ以上無い感謝をさせていただいたところで、バルトくん出立によりシリアスが挟まれます。後ろめたい内容になってしまいましたがご理解ください、進行上若干の鈍感要素も含まれます。正直傲りや調子に乗っている気もします、評価の低減に恐れ慄きながらも初投稿です。


これも我が身の為……悪く思え

 それから月日がそこそこ経った。文武両道ってのも中々大変な事ではあるがやり甲斐はあるし、自分自身の身体がイメージしている通りに動くってのは凄まじく楽しいもんだ。異世界ではこれといった娯楽が無いってのがかなり大きいかもしれない、現代なら暇さえあればゲームをするかスマホを弄るかってとこだったがそうもいかないからな。

 

 それで、俺はそろそろこの村を出た方が良いと思っていた。この村の人達はみんな良い人ばかりだ、エリザとアストラ、クライス先生は言うまでも無いが子どもの頃からずっと目を掛けてくれたし文明的な問題を除いて何一つ不自由すること無く生活させてくれた。

 

 だが俺は此処に居続ける訳にもいかないし、酷な話ではあるが飽きたようなところもある。現代日本人としての価値観を持つ俺にとって娯楽も何も無いこの村で16年間は流石に無理があったのだ! 書庫には村で使う本があるって言っても新刊は入って来ないから読み潰してしまった、会話をする同世代はイザベラくらいなもんだし折角のファンタジーワールドで鍛えるだけ鍛えて実戦が無いってのも味気無さすぎる。

 

 クライス先生にも俺の実力は既に大陸有数の街に出ても通用しうるものだと太鼓判が押されていた。あの人なんか老けるどころか雰囲気が若返ってるような気がするのは気のせいなんだろうか、めちゃくちゃイキイキしているが俺も恩師が元気で期待をしてくれているのは嬉しいな。俺の悲願が叶う事も願ってくれているし本当神的に良い人だ、稼ぎが出来たら親に仕送りする以外に贈り物した方がいいよなぁ、っと。

 

 

「フッ!」

 

 

 壁に開いた穴も塞げそうな巨岩へ全身全霊を込めた拳打を放つ。表面には綺麗に拳の痕が残り、そこを中心に皹が全体へと拡がっていく。パラパラと粉塵が舞う中で拳を引き抜き、皮の一枚も傷付いていない自身の堅固さにちょっと飽きれながらもノックするように岩を小突く。

 

 形は保ったまま、されど全体を隈無く衝撃により破砕されていた岩石は軽い衝撃一つでその身を瓦礫の山へと変えた。こういうの一回やってみたかったんだよ! 岩を砕く力と繊細な調節が出来る事は俺自身への最終選抜でもあったな、RPGではストーリーを程よく楽しみたいからあんまりレベリングして余裕で攻略ってのは好きじゃないんだが俺の場合は命が掛かっている。和マンチと洋マンチ掛け合わせたくらいの気持ちで行くぜ、宝箱はまず殴るぞ!

 

 魔法使いは近接出来ないなんて言うことはなく、クライス先生も手合わせの時には杖と槍が一体化した武器を使っていた。俺もメインは杖と槍で遠距離、中距離、近距離隙の無いビルドにしている。

 

 戦いたい、身体は闘争を求めているんだ、対人はちょっと勘弁してほしいけどね。現代ではそろそろアーマード・コア6が出ているだろう、何にせよこの村で得られる物と修めるべき事柄はもう何も無いのだ。現代に帰るという目標の為にも村の外に出て冒険し、更なる手掛かりを探すぞー!

 

 

「ねぇ、バルト、聞きたい事があるんだけど、イイカナ?」

 

「なんだイザベ、ラ……」

 

 

 ヒュッと背中にマヒャドデスを付き込まれたような悪寒。この16年間、間近で聞き続けた魅惑のスイートボイスが身体の芯から震え上がりそうな程の気迫を伴って背中越しに叩きつけられた。振り返ってみるとあら可愛い、そこには俺の幼馴染みイザベラがルビーのような瞳にまったく光を宿さずに佇んでおりました。

 

 俺が成長したのだから当たり前だがイザベラも成長している。わんぱくなのは今もそう変わりないが顔立ちからは幼さ、丸みが消えてより目の綺麗さが際立つ美人さんになったし、よく運動していたから身体付きはシュッとしていてそれでもご飯が好きだから出るべきところは出ている。タッパと胸のデカイ女はタイプです!

 

 そんなことの前に一つ質問いいか、ハイライト……どこやった? 拙僧は健康優良児として、健聴系主人公としての道を志しておりますれば、そこまで積極的にイザベラと関わった事も無いのにその……こうなっていることにそれほど心当たりが無い訳でございます。というよりも、昨日までは普通だった気がするんだがたった1日で何があった?

 

 

【この時俺はすっかり失念していたんだが、今の俺の容姿は凡庸もいいところの武内 一弘ではなくバルト・グリコスであるということをもっと意識しておくべきだったのだ。『俺』が何かするのと『バルト』が何かをするのとでは受け取る側の情報量がかなり違ってくる、なんでそんな事に気付けなかったのか。それが後々にも波紋を産むことも知らずに】

 

 

「バルトが、この村を出るってパーチが言ってた。でも、嘘だよね! パーチはいつも下らない嘘ばっかりついてみんなを困らせてるんだもん! バルトだって勝手にそんな事言われたら迷惑で……」

 

 

 あー、そうかイザベラには言って無かったもんなぁ。やっぱり幼馴染みとしてはもっと早い段階で言っておいて方が良かったか……配慮が足りてなかったな、これでも16年まるまる近しい仲ではあったし此処にも戻って来ない事を考えると今生の別れにもなる。つい浮かれてたってところだな。

 

 

「いいや、俺は村を出る。此処にいる意味が無いからな」

 

「は?」

 

 

 こっっっっっっっわ! 一文字に恐怖という恐怖を圧縮するのはやめないか! 魔法を使っている訳でも無いのに空気が凍てついている、冷や汗が背中を濡らす。ボディの表情筋が巌の如し強靭さをしていて助かったがしていなければ橘さんのようになっていただろう。

 

 

「っっっっっ!! で、でもでもっ! そんなに長い間じゃないでしょっ!? 1ヶ月、それとももっと長くなったり……」

 

 

 そうか……俺はイザベラの事を可愛い幼馴染みとしか認識していなかったんだが、彼女からは違ったんだな。ずっと殆ど一緒みたいな家の近さで、イザベラからすれば俺は……家族みたいなものだったんだな。それが急に居なくなるって聞いたら、そりゃあこうもなるよな……

 

 この事態を引き起こしたのは俺の責任か。だけど、下手な嘘をつく訳にも行かないからな、俺とイザベラでは文字通り住んでいる世界が違うんだ。いつか彼女も村の誰か、あるいは外に出たっていい、ただそうして俺の事も記憶の片隅にでもやっておいて幸せになって欲しい。それなら、多少突き放す事も必要だな。

 

 

「いいや、俺はこの村には戻って来ないつもりだ。連絡くらいは寄越すかもしれんがな」

 

「んで……なんで、なんでなんでなんでなんで、どうしてっ!! あ、いや違、私バルトに何か嫌われるようなことしちゃってた? それとも他の誰かが」

 

「違う。この村にも、当然お前にも文句はない」

 

 

 確かにイザベラの凸にはムッとしてしまうことも多かったが幼い頃くらいなものだったし、何より可愛かったから特に気にしてはいない。それでも気に病んでしまう思い当たりはあったんだな……だけど此処ばかりは俺も譲れないんだ。この村での生活はきっと俺が人と触れ合うまともな期間の最後になるかもしれない。

 

 

「俺にも為すべき事がある、イザベラ……さらばだ」

 

 

 だから名残惜しいが、御別れなんだイザベラ。絶句して固まったままの彼女を置き去りにして村へと引き返す、心が凄まじく痛む。俺は辛い、耐えられない、忘れてくれイザベラ、過去の思い出として!

 

 

 

 

 

 

「イ、イザベラ……そうか、バルトに会ったのか」

 

「クライス、先生……」

 

 

 あの時から私の心の中にはずっとバルトがいた。彼が私に話し掛けてくれることは少なかったけど、いつまでも彼の優しさを湛えたその瞳の色は変わる事はなかった。憧れのようなものがあって、大人になっていくにつれてどんどんカッコよくなるバルトの姿は……見ていてうっとりしそうな、いや、するものだった。

 

 いつか好きだと言ったら、どんな反応をするんだろうか。どうしようもなく彼の事を想って、惹かれていることを自覚してからはもう駄目だった。そんな時に、あのパーチがバルトが出ていくなんて笑い混じりに言っていて、頭が真っ白になりそうだった。バルトがいなくなるなんて、考えた事も無かった。

 

 

「順風満帆な別れとはいかなかったか、それはそうもいくまいがな……」

 

「知って、たのっ!先生はバルトが出ていくって、いつから!」

 

「どう、話したものか……」

 

 

 そうして失意のまま村に帰ってクライス先生に会って、私はバルトの胸懐を初めて知った。昔から誰とも関わろうとはしないけど、誰にでも変わらず優しい男の子、そのバルトは産まれた時からその人生の使い方が決められていて……勇者? 魔王? どうして、どうしてバルトがそんなものの為に!?

 

 

「知ってて! 知っててバルトを鍛えてた! あなたは、そうして……」

 

「イザベラ……」

 

 

 突発的に沸き上がった怒りがクライス先生の胸倉を掴んでしまう。けれどその熱もそう長くは保たず、直ぐに冷たい感触が心の中に侵食してきた。この怒りがバルトの運命に対するものだったのか、知っていた上でそれを助けていた先生への物か、はたまた私の自分勝手な想いだったのか。

 

 そうして私は暫く泣いた、声をあげずに啜り泣いた。辛かった、バルトが居なくなってしまうことが、何よりバルトがその事の為に私達を、村を捨ててしまう事が悲しかった。

 

 先生曰く勇者のバルトは人類でも稀に見る天才だけれど、嘗て勇者の存在が語られていながら今もなお魔王が健在であるということは、バルトでも敵わぬ可能性が高いという……そうすれば彼がどうなるかなんて、それは彼にも分かりきっていたことだろうから、もう戻って来ないなんて……

 

 あぁ、だけど、良いことを思い付いた。それなら今度は私がバルトを助ける番なんだ、バルトは確かに凄いけど本気の駆けっこだってチャンバラだって、それなりにやりあえたんだから。

 

 

「クライス先生……私の事、強くして。バルトにしてたみたいに、バルトに追い付けるようにさぁ!」

 

「なるほどな、あれが最後の仕事かと思っていたが……悪くないだろう」

 

 

 

 

 

「私が、魔王の事殺してやれば、バルトも村に帰って来るよね?」

 

 

 

 かくして勇者でも何も無い、しかし数奇な運命を背負った男は旅に出る。これは絶対に現代に帰還するという決意を抱いた一人の男の、その波乱に満ちた末路を彩る物語である。




私は女性優位でしか致せません、従って信仰するものはヤンデレとなります。展開は多少強引ですがイザベラちゃんの病みが琴線に触れていただけたならば感想をお願い致します。幼馴染みは負けヒロインな文明は悪い文明だ。

誤字報告をしてくださったおっかざきーさん、ありがとうございます。発火能力で物を浮かせるとはいったい……

これからの展開について

  • バルトが傭兵として戦う描写重点
  • バルトが帰還する手掛かりを探す重点
  • ヤンデレ重点
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