絶対に異世界から帰還すると決意した男の末路 作:コーカサスカブトムシ
「バルルゥッ……」
六本足の馬が駆る馬車に揺られながら外を眺める。魔馬の一種、スレイプニルと言うらしいこの魔物は通常の馬より一対多い足を活かした走破能力と悪路への適応力を持っている。最高速度は間隔的にかさ張る為多少は遅めだがスレイプニル以上に馬車に向いた馬はいないだろう。
けどスレイプニルってオーディンだかが乗ってる神馬じゃなかったか。しかもあれって六本足じゃなくて八本足だった気がするし……異世界だっていうのに現代と名称が被ってるようなものが所々にあるんだよな。
「おお、あれが……」
もうすぐで街にたどり着く。村では見られないような様式の建造物が遠くに見え始めた。先程までは走っているのがただの野道だったが街門をくぐってからはレンガで舗装された道となり、ガタガタと揺れていた馬車も揺れが穏やかになる。
ローゲル大陸の西部、貿易港として大陸の玄関口を担っている『ドラムジェラ』に集う人々は種族も職種も様々だ。いやぁ村の人達の顔面偏差値が高かったが、こう大都市に来ると服装から違ってくるからそれも含めて破壊力が半端ないな!
ドラムジェラはローゲル最大の港という性質上様々な職業の人間が働いていて、それに伴い他に類を見ない程バラエティーに富んだ建物がある。何より重要なのが専門に魔法を学べる学舎と、村のそれとは比較にもならない図書館。ここならば現代に帰る手段もきっと見つかるだろう。何故なら俺は異世界のファンタジーっぷりを信じている! 俺達は選ばれし転生者、ローゲルの民だ! うおおおおおおおおおお!
彩り鮮やかな街の写し絵を見て何時かは行ってみたいなと思ったもんだが、こうして近づいてみるとドキドキしてくるな。浮き立つような気持ちになりませぬか兄上。
荷物を背負って馬車から降りる。建築物は赤いレンガをメインに造られているようだ、昔旅行で行った長崎のハウステンボスを思い出すなぁ、カステラは無いのか? しかし、こうして考えると現代でもそれより文明が発展してない異世界でも、ビルやアパート、スーパーやデパートなんて言い出さなければ建物の外見にそう違いは見られない気がする。
「借りた部屋はあっちか」
一人暮らしをするのは前世も含めて初めての経験だ。最も現代に帰る事が目的の俺にはその暮らし自体を裕福にしたいだとか、充実させたいって想いはないが、万を期して物事に当たる為にも寝具やら食事やらの質は高くしておきたい。食事でバフを盛ったりなんてことは出来ないだろうが……ハンターが村に来た時と古龍に挑む時で基礎ステが変わらないのはおかしいと思う。
「イザベラもああ言ってくれたんだ、俺も頑張らないとな……」
両親を含め、村の人々は快く俺を送り出してくれた。イザベラもあれから立ち直ってくれたのか『私も頑張るからね』と言っていたし、引き摺ってしまわないか不安だったがいい方向に進んでいけそうで良かったよ。あぁ……安心した。
「ここだな、しばらく世話になる……」
魔導式の自動キーという無駄にハイテクな扉に驚きつつ、借りた部屋に荷物を置いてきた。今は財布と杖槍だけ持ってきている。銃刀法なんてものは当然無く、抜き身の剣さえ帯びている人達がいるが、それも許されているのを見ると異世界とはいえ釈然としないな。
ヤーラカムというこの世界。そのローゲル大陸において、ドラムジェラで活動が出来るのならばそうしない手は無い。人、物、金、情報に技術が集まる文明の最先端の一つがこの街だ。魔法使いは学院で常日頃研究を繰り返しているし、冒険者達は未開の遺跡から不思議な遺物を持ち帰る。今は無くともいずれ世界を超越するような手立てが見つかる、或いは産まれるかもしれない。
時計は丁度四時か。異世界でも24時間365日なのには驚いたがこの星自体が地球とそう変わらず、太陽と月が似たような関係性で存在している以上太陽暦が同じ経緯で産まれたんだろうな。
さて、それじゃあおまちかねの冒険者協会に向かうとしよう。この世界での冒険者協会の立ち位置だが、言ってしまえばモンハンのハンターズギルドみたいなもんだな。そこに登録している冒険者は普通の人には危険で手を出すことの出来ない素材を持つ魔獣を狩る、村や町への被害を防ぐ為の予防、危険な場所にしかない物品の採集、仇討ちなど行う。そういった仕事を色々手回しして斡旋してくれるのか冒険者協会だ。折角恵まれた武と魔法の才があるならそれで稼ぎたいよな、メジャーで待ってるぜジャッキー……
仕事をこなしていれば多方面に顔が利くことにもなるし、きっと情報も集めやすくなる。成り上がる事自体目的とは違うが、冒険者として上を目指すのは間違いじゃない。出世すりゃあ色んなところに顔が効くからな、おれはそこそこの地位について帰還するぜ……オラッ!
「おおい、そこの君ぃ、君だぁ! アノーラから来たんだろう?」
ぬ、聞き覚えの無い声。ドラムジェラに来たのは初めてだから知り合いなんていない筈なんだが……アノーラ、バルトの故郷の名前を出されては反応するしかあるまい。そう思って声を掛けてきた人物の方向へ振り向くと、そこにはとびっきり美しい女性がいた。
フリフリと仕草に合わせて揺らめく金髪は日に照らされて金の糸にさえ見えるし、そこから覗く海より深い蒼色の瞳が人懐っこそうに此方を見つめている。口元はヘラッとしていて愛嬌があるが顔立ちは大人っぽい、そのギャップがたまらない具合になっております。本当に顔がいいよ……
だけど知らない相手の言うことをホイホイと聞いても不味いからな。こんな美人なのに回りから見向きもされてないってことは何かキナ臭いぞ、俺なら絶対それとなく振り返ってでも二度見するからな。
「やぁやぁこんにちわぁ、私はクライスの知り合いのアレクサと言ってねぇ。確かあの村にそんなお爺さんがいただろう?」
「クライス先生の知り合いですか、それは失礼しました。私はバルト・グリコス、不肖ながらもクライス先生の弟子をさせていただいておりました」
アレクサさんはどうやらクライス先生の知り合いだったらしい、どうにも親しげな口振りだが一体……いや女性に年齢の話題なんて聞けないし、もしかしたら魔法でどうこうって線もある。取り敢えず安心して話しても大丈夫か……
「へぇ~彼がぁ、そんなことをするようになったとはねぇ! まあ立ち話もなんだぁ、私がやっている喫茶店があるんだがぁ……時間はあるかい?」
「いえ、問題ありません。此方こそよろしくお願いします」
何より声が良いんだよなぁ、脳味噌が蕩けそうな感じで鼓膜を揺さぶってくる。イザベラも甘ったるい感じで可愛い声だったが、アレクサさんは囁くような響きがあるな……ゆったりした喋り方に反して声は結構大きいけど。
「さぁてここだぁ、まぁ他の客もいない事だぁ……残念だねぇ。だが聞かれたくない話も出来る、お茶を淹れてくるからゆっくりしたまえ~」
「どうも、失礼します」
アレクサさんの喫茶店は通りからは少し離れていて、その装いもあって何だか隠れ家って感じがする。うーんイスの座り心地が滅茶苦茶良い。家具が全体的に高級感あるし煌びやかって感じじゃないが、落ち着いていてオシャンティーだ。客がもっと入ってもよさそうなんだが、隠れ過ぎてんなぁこれは。
「あぁおまたせぇ、アイスティーだがミルクはいるかなぁ? まさか砂糖なんて入れるつもりはないだろうがぁ……」
「ありがとうございます、自分はストレートが良いですね」
「うーん百点だぁ、さてじゃあ飲みながらでも良いが話を聞いてくれるかなぁ?」
この紅茶めっちゃ美味いな、別に飲みなれてるとか違いがわかるとかそういう舌を持ってる訳じゃないが、格別ってわかるくらいに美味い。そりゃあ砂糖やらミルクやらが必要ない訳だ、っていうかミルクの壺はあるけど砂糖のはないな……
「クライスに師事していると言っていたねぇ、それは何時からの事だぁい?」
「5、6の頃からでしょうか。主に魔法を専門に教えてもらっていましたね 」
「ふふ、ふふふふふふふ。なるほどなるほどぉ……やっぱりねぇぇ」
アレクサさんが見上げるようにして一気に紅茶を呷る。喉めっちゃ白い、せくしー、童の貞には些か辛い光景ではないか? 絶景だね(ガン見) しかしこの質問になんの意味があるのか、コレガワカラナイ。アレクサさんはなんか楽しそうだが……
ん、アレクサさんが立ち上がった。その手にはやたらと禍々しい剣が……こっ、これはまさか騙して悪いが!? やっべなに呑気にお茶飲んでんだよ俺ぇえええええ!!
「つまりぃ、君は幼き頃から魔王を倒すつもりで鍛え、この街へやって来たという訳「え?」え?」
「???????」
……状況を整理しよう。クライス先生の知り合いのアレクサさん、アレクサさんに喫茶店に誘われてお茶をご一緒する事になり、クライス先生に昔から師事してるって話をしていた。そこからの飛躍がちょっと凄まじすぎるんだが……そもそも何故武器を?
はっ、これ一緒に戦おう! とかそういうイベントだっ! なるほど、そしてアレクサさんは盛大に勘違いしてしまったって訳だなこれは……アレクサさんも困惑気味に笑っている、どんな表情でも可愛いな……
「魔王を倒す、ってことに関しては……まぁ人々にとって悪しき存在ですから倒した方がいいのでしょうが、自分はどうも……」
「そ、そうかい……嘘って訳でも無さそうだしねぇ」
「…………どうやら、勘違いがあったようで」
「う、ううんそうだねぇ! 私としても予想外だったぁ……」
アレクサさんはポットから紅茶を注ぎ、二杯目にはミルクを淹れて飲みだした。テンション高くなってたもんな、流石にちょっと恥ずかしかったんだろう。本当に申し訳ない。
「他にぃ、いなかったかなぁ? 小さな頃から勉強してたとか、鍛えてたって子はぁ……」
「勉強はみんなあまり……」
アノーラはそういった脅威とは無縁だったからなぁ、せいぜいが魔獣くらいなもんで危険度の高いヒト型の魔族には出会った事がない。他の候補者の事を聞いているようだが、それらしい人がいないということにアレクサさんはがっくりと項垂れた。
「悪いねぇ、これが聞きたかっただけなんだぁ……そうなると用が出来てねぇ。誘っておいてなんだがお茶を飲んだら出てもらうよぉ……」
「いえ、とんでもない。美味しい紅茶でした」
うーむ気まずい、冒険者協会の受付をしに行く予定だったから出るのは構わないがしばらくこの事は忘れられそうにないな。お礼を言ってから店を出る、何だか忘れられない1日になるな色々と。よ、ヨシ! 兎に角この事は忘れて、明日から現代帰還を目指してガンバルゾー! ガンバルゾー!
「まったくぅ、予想外だねぇ……」
カップを魔法で洗浄してラックに突っ込む。あの若さに釣り合わない超然とした振る舞いと、確かに感じられる文武の才覚。ローゲルの西部、アノーラ付近に発生したっていう勇者は間違いなく彼の事だと思ったんだが……
「察して嘘を、って訳じゃないしなぁ」
私に嘘をつける者はいない、それは魔王様であれ例外ではなく、だからあの質問でもし『そんなこと』があろうものなら……命令通り早急に殺してたんだが、やっぱ子どもを無駄に殺すのは辛いからねぇ。
「バルト・グリコスかぁ……へへへ、綺麗な顔してたなぁぁ」
だけど油断なく私から顔を反らさず、急所の喉に注視する癖とも言うべき武の才。剣を取った瞬間もやはり、という色が見えた辺りは勇者ではなくとも強者たりうる素質があるんだろう。
あの目と視線は気に入った。いつかくり貫いて剥製にしてやろう、いやむしろ顔ごと……それとも飼ってやってもいいかなぁ。彼が勇者じゃなくて良かったなぁ……
「魔王様に興味が無いってんならいいやぁ、強くなって強くなって、そして私をいーっぱい満足させてくれよぉ、バルトくん♡」
もんむすクエストっていいですよね。ヤバイお姉さんっていいですよね。つまりそういうことです、私は後悔していない
ご迷惑をお掛けして大変申し訳ありませんでした。今後もこういった事が起こるかもしれませんが、どうかご理解を……
これからの展開について
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バルトが傭兵として戦う描写重点
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バルトが帰還する手掛かりを探す重点
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ヤンデレ重点