絶対に異世界から帰還すると決意した男の末路   作:コーカサスカブトムシ

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今回ヤベー奴要素として多少あれな表現があります。ヤンデレなんて多分きっとそんなものなんだ(偏見) 求められているものとは違うかもしれなくても内なるキチゲを解放したので初投稿です


ちょうめちゃくちゃ

 バルトが村を出てからもう一年が経ちそうだった。向こうでも元気にやっているというのは届く郵便でわかっているし、アストラさん達への仕送りがひっくり返る程のものと聞けばお仕事は順調に進んでいるんだろう。そしてきっと、魔王と戦う準備も少しずつ進んでいる。

 

 グリコス先生につけてもらう鍛練は先生がやっていたものじゃなくて、昔所属していた一党の前衛がやっていたというもの。私はバルトみたいに頭がよくないから魔法に関する知識は対処を身につけるくらいにして、専ら身体能力を伸ばす方向で鍛えている。でも身体に筋肉がつきすぎてるように見えたらバルトは嫌かな? まぁ彼が人を見た目で判断するなんてあり得ない事だけど、どうせなら可愛いと思われたいなぁ。

 

 

「アアアアアッ!!!!」

 

 

 滝に打たれながら木剣を下段に構えて、力任せに振り上げる。途轍もない量の水が身体を打ちのめしているけれど、その全部を纏めて吹き飛ばすようにそれを振るった。降り頻る滝は一閃に切り裂かれて、裏の岩肌が姿を覗かせる。これくらいは平気になってきた、あとは……

 

 

「キャアアアアアアアアア!!!」

 

 

 剥き出しになった岩壁に向けて木刀を大上段から叩きつける。ミシミシと悲鳴をあげて木っ端微塵になる木剣と、その衝撃で崖ごと崩壊して土砂崩れみたいになる滝。上から降り注いでくる岩石を拳で粉砕しながらそれをやり過ごして、落ち着いた頃に瓦礫に囲まれた沢から跳んで抜け出す。

 

 

「…………誰が環境破壊をしろと?」

 

「これくらい出来ないと魔王となんか戦えないでしょ? 実際どれくらいの力があるのかはわからないけど、バルトの為だもん……万が一、億が一、京が一でも無いように絶対殺せるくらいにしないと」

 

 

 もしバルトが死ぬかもしれないって考えるのもおぞましい想像をすると、一時も心が休まらない。少なくともバルトが村を出た時から心が休まった事なんて一度もない。霞みたいに掴み所の無い彼が目の届かない場所にいて、いつ取り返しのつかないことになるかもわからない。

 

 バルトは昔から凄かった。勉強も運動も村の中の誰よりも出来たし、憧れと羨む気持ちがあった。けれど、それでもバルトが世界で一番凄いなんてことまでは思ってない。彼はちゃんと人間なんだから、一人で何でも出来るなんて事はあり得ない。だから私がなんとかしないと、助けてあげないと……

 

 

「イザベラ、はっきりと物を言うなら……バルトを私が鍛えず、お前だけを鍛えていたなら。私はお前を勇者と思っていただろう、魔法の才はからっきしだがこと体術に関してはバルトに、いやそれ以上か……」

 

「そんなことあるわけないよ先生。仮に私が昔のバルトより強くなれてたとして、今のバルトは絶対に、それなんかよりもっと凄い。第一私はバルトの為に魔王を殺したいんだから勇者なんかじゃない……私はもっと強くないと」

 

 

 これで木剣が壊れるのも10じゃ利かなくなった。重さの事も考えて作ってもらってはいたけどそろそろ金属のにするべきかなぁ、色々と物足りなくなってきたし……丸太でも振り回してみようか。

 

 

「しかし勇者が一人だと誰かが決めた訳でも……」

 

「先に帰ってるね先生」

 

 

 ブツブツと呟き出した先生を放って村に戻る。たくさん蓄えていたお髭も剃って、肌にハリが出てきた先生は暫く前の姿からは考えられない程若々しかった。とはいえおじさんの域を越えない具合ではあるけど、人って心の持ちようなんだなってよくわかる。

 

 水で汚れを落として身体を拭いて、少し寝転がろうとベッドに倒れ込む。この毛布もだいぶバルトの匂いが薄くなってきてしまった。身体が強くなるのと共にバルトへの想いも強くなっていくような気がして、これが焦らしなのかななんてどうでもいいことを考えてしまう。ただバルトのいない生活、その名残さえ消えかけて来ているのには中々耐えられそうに無いものがあった。

 

 彼を意識して自分を慰める度に、まだこの村に留まっていていいのかという考えが頭を過る。バルトは贔屓目なしに見てもカッコいい筈だ、街にはきっと凄く綺麗な女の人達がいて……それで……

 

 

「それは、駄目だよね。駄目だ駄目だ駄目だ駄目だそんなの、バルトがそんなこと…………」

 

 

 うん、実戦の経験も必要だし私はまだ生き物を直接殺したりはしていない。魔王と魔族というのはヒト型のそれが大半だそうだし、命を奪う事に躊躇をしてしまったらバルトの想いを叶える事なんて夢のまた夢だ。ヒト型の魔族を殺すのは『いざという時』の予行にもなるだろう、私も村を出て街に行ってみようかな。

 

 

 

 

 

 

『アレクシア、貴様あの若者を見逃すとはどういう事だ。あいつらは……』

 

「なぁにもぉ、彼は勇者じゃない。私が直接会って話したのだからそれは間違いないだろうさぁ……」

 

 

 水晶越しに響いてくる神経質なあいつの声にうんざりしながら紅茶を飲んでそれに応対する。今は絶好のティータイムだと言うのに無粋な奴だぁ、人の真似事などしてなんになる、じゃあないんだよぉ。

 

 

「大体君こそどういう事さぁ、アノーラとまで言っておきながらそれといった話も無いらしい。恥を掻かされたじゃあないかぁ……」

 

『それほど愚かとは思わなかったな、見聞きしたことで全てを決めるつもりか。尋問官が聞いて呆れるな』

 

「私の性格じゃなくて目で尋問官だろう、そこに私の本質を求めるなぞお門違いさぁ……確かに嘘は嫌いだがねぇ。」

 

 侮蔑するような声色に多少はムッとするが私は大人だからね、余裕を持って受け流してやろう。そう言っている時点で温まっているのだが、追及の言葉自体は正論だから反撃に困る。確かに彼が嘘をついていないところで、知らなかったではそのまま通ってしまう話だからなぁ……聡明なバルトくんが知らぬ存ぜぬはないと思うがぁ。

 

 

「あぁぁ、あれだぁ、今は件の彼を注視しているからさぁ。ほらぁ私ってば勤勉なものだからねぇ」

 

『呑気に茶をしばいている女から勤勉と聞くとは思わなかったな。魔王様への忠誠はどうした、各大陸での始末はあのお方直々の命なのだぞ。疑わしきは抹殺で構わん』

 

 

 殺すのは殺すでいいとしてやり方が問題なんだよなぁ。あの時は多少の抵抗くらいは許すつもりだったから即殺はしなかった。それでもあの反応と警戒からして、一撃はくらいはその気で不意をついても防御されていたかもしれない。そこが気に入ったところで、何なら殺される事でもあれば彼がいいなと少しばかり配下をけしかけて強さを調整しようとしている。

 

 最近はそれに学院の青いのがついて回ったりしているが、そっちは処分しておくべきかなぁ。あの魔法は中々稀有なものだけれど同時に禁断の扉でもある、そんなものがバルトくんに何かを起こされても困るしなぁ。

 

 

「実はさぁ、彼の事気に入ってるんだぁ」

 

『……なんだと、とうとうイカれきったか腐れ死体め』

 

「酷いじゃないかぁレディに向かってぇ」

 

 

 どうにも純正の魔族で魔王狂いのあいつとは仲良く出来る気がしない、全てを気に食わないものと決めて掛かってくるからなぁ。何より正論しか口にしないのは本当に良くない、まあ今は腐ってるかと言えば別の話だがぁ。

 

 

『は、人ではあるが貴様のようなイカれに気に入られたとあっては同情もしてやれそうだ。その若者も長くはもつまいな』

 

「安心したまえよぉ、彼の事は大体見ているからねぇ。まさか他人のペットの事情にまで口を出すつもりはないだろう? まぁどうなるかは彼次第というところねぇ……」

 

『勇者は人間の存在と、それで釣り合っている我々のバランスを崩し去りかねんのだ。魔王様の命こそ絶対だ』

 

「魔王様は私達の命を救い自由を与えたぁ……確かに尽くす義理も心もあるがぁ、それに命と自由を懸けては意味が無いだろう? 勇者じゃないと私が言うんだぁ、好きにさせてもらうよぉ」

 

 

 水晶が無色透明なそれへと戻る。魔王という強大な存在があったからこそ私達魔族はこの世での生活圏を手に入れる事が出来たのも事実だがぁ、それに命を賭しては本末転倒だぁ。まったくこれだから勇者がどうこうという話題は面倒なんだぁ、だが実際早めに潰さないと手がつけられない域にすぐたどり着いてくる訳でぇ……

 

 

「バルトくんねぇ……正直強さの伸びはあいつらのそれなんだがぁ、魔王様に興味も無いと言われればなぁ」

 

 

 戦う事自体嫌いではない、寧ろ好きなんだがどうしても色々滾るし昂ってしまうからねぇ。実力もついてきているし、なんならもうつまみ食いしてしまっても構わないだろうか。あの魔法の元になる法則を何処で知ったのかは想像も出来ないがぁ、中々優れた力を持っているのだろう。その後の事も、彼の匂いからして純潔だろうしどんな顔をしてどんな声を上げるのかは楽しみだぁ……

 

 

 

 

 

 

「お゛え゛っ、う゛お゛ぇぇ゛ぇっ……」

 

 

 込み上げて来る嘔吐感に抗うこと無く、喉元にせりあがったそれをバケツに吐き出す。しかしこれももう数回目、吐き出せる内容物など何処にも残っておらずただ口内を荒らす胃酸を撒き散らしただけだった。

 

 バルト君はあまり他人と関わりを持とうとしない。あれ以降僕が彼について魔法を見せてもらえるということも無かったし、話し掛けてもその反応は淡々としたもので壁を作っているようなものだった。

 

 その後から、僕は彼の仕事に断り無くついて行って盗み見るように彼が使う魔法を観察していた。高所から物が落ちるように、重さを増した魔獣が地に埋まる。太陽を直視した時のような光が周囲に群がる魔獣の視界を奪う、そうして星が落ちてくる。

 

 いつしか星に焦がれる事と同じように彼に焦がれていた。産まれてからこのような感覚は他に覚えた事が無い、そうしていると彼が使っている魔法だけではなくその杖と一体化した槍を振るって軍勢を一蹴する姿に、僕は彼が本当は人間ではなく誰も知らない星界から来た使者ではないのだろうかと伽噺のような妄想を浮かべたりもした。

 

 酷く浅ましく卑しい考えではあったが、やはり彼も男である以上、僕にああ付き纏われても気分が良くなかっただろう。異性の事はよくわからないが、大体の男というのはそういうものらしいから。彼がその大体に含まれるとは到底思いはしないが、僕が仮に女であったならばもっと彼に近づけるのではないだろうか。

 

 しようとも、やろうとも考えなかった試みだがふと頭に浮かんだ事自体はあった。既存の生物学の性別を、雌雄で反転させるということ。僕の魔法は教会の者達が言うように禁域に全身を浸しているようなものなのだろう、そんなことに畏れなどありはしないがもしその応用で自身の性別をも変える事が出来るのなら……

 

 常から僕に付きまとってくるような女達に少し微笑んでやって、その身体というものを知った。学院とはいえ点呼など取りはしないからいなくなったとして誰も気づかないだろう。男とはあの螺旋の細部が異なるらしくそれを変化させるよう試して、身体的特徴のいくつかを変える事は成功した。だがそれも一部に留まっていて今まだ歪な部分が多い。

 

 骨格はそのままだが肉付きだけが変わっていたり、顔立ちはあまり変わっていない気もするが元からの素質があってかだいぶ女性らしいと思う。少しずつ修正しながら何とか見れるような姿にしてはいくが、果たして彼はどのような女が好みなのだろうか。時たま彼にしては珍しく喫茶の女と話しているようなのは見るが、スタイルは男にしろ女にしろ重要だろう。

 

 自身の身体を別物に変えていくことに抵抗は無かったが掛かる負担は凄まじいもののようだ。吐き気も頭痛も常に止まらないし手足が震えて止まらない、思考がじんじんと滲むし覚束ない。それでも僕にはこの行為がそうするだけの価値はあると思っていた、星を求めているのか彼を求めているのか混ざってしまった気もするけれど。

 

 

「ぎ、い゛、き、い、あ、ああーー、あぁあーぁぁーーー、あー……うぷっ、声は問題ないか……だいぶ形になっただろう」

 

 

 変性した僕の外見を他人がどう見るかは知らないが、美しいと言われているものを参考にしたから醜いということはないだろう。肉質もあの実験で得た情報を参考にしたし、そうあながちおかしなものではない筈。

 

 

 

 

「さぁてバルトの住んでるとこがこの……」

 

「んー、そう言えば彼がいるかは確認しなかったがぁ」

 

「は、初めて来てしまったがここが……」

 

 

 

「「「ん?」」」

 

 

「御願い致します! 拙者御身にこの命を捧げて仕える所存、俸禄なぞなくとも小間使いであれどうかっ!」

 

「お前は……もう……帰、れ…………え?」

 

 

「「「は?」」」




比翼の羽根さん誤字報告ありがとうございます
現場猫並みの確認作業しか出来ないので報告本当に助かります

悩みが深い

この作品も完結などしていませんし先行きは不透明ですが、一度最初から別物として書き直したい気持ちがあります。詳細は活動報告に……

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