百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで   作:流石ユユシタ

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14話 千冬 特別

 俺はデスクに向かって業務にいそしむ。毎年十月にある所沢祭などの企画確認や運営などで最近忙しいが自身の仕事は最低限終わらせて定時で帰宅する。

 

 

 本日も定時で仕事終える。

 

「じゃ、お先」

「おーう」

 

 

 佐々木に挨拶をして役所を出て車に乗って自宅に戻る。夕暮れ時、車の数は意外と多い。自分以外の社会人も定時で帰る人が居るんだろうなと思いながらアクセルを踏んで家に進んでいく。

 

 

鬼のように左右確認をしながら家に向って行く。安全に気遣いながらも頭の中には姉妹の事があった。夕ご飯何が食べたいのか。学校で悩みがないか。

 

 色々彼女達も悩みがあるのは知っている。ゲームでもそうだった。だけど、それってゲームの終盤に主人公だから解決できた、変えられたみたいな、感じがあるからな。俺が不本意に踏み込んでも不快になるんだろうし。

 

 

 理想の父になりたいと感じはしたが、俺には最低限の事しかできないんだろう。だが、俺にし出来ない事もきっとあるのだと思い一緒に生活をしていくしかない。

 

 

 と、内心恥ずかしい事を考えているうちに自宅に到着した。

 

 

 家の鍵を開けて入るといつもなら勢いよく出迎えてくれる千秋が顔を暗くして、目尻に涙を浮かべていた。

 

 

「ど、どうしたんだ!? 何処か痛いと事でもあるのか!?」

「か、カイトぉッ……」

「お、落ち着いて! えっと、先ずはァ、お、落ち着いて話をしてくれ」

「う、うんッ、千冬が、千冬がね、何か元気なくて、2階の部屋に一人で閉じこもって、千春も何か元気なくて、千夏も訳分らなくて泣いちゃって、わ、我も、もう、悲しくて、悲しくてッ」

 

 

 千冬が部屋に引きこもってると言う事か!? 何か学校であったのだろうか? でも、もしそうなら何で千春が何もしないんだ!? 大抵の事は千春がしてくれるはず。お世話で過保護、そして姉妹の事が何よりも最優先の千春が……ゲームでも全てにおいて優先をするのが千春と言う少女なのに。

 

 

「千春は今何してるんだ?」

「えっと、リビングでソファの上で顔を隠して体育座りしてる……」

「何か、言ってなかったか?」

「分かんない……」

 

 

 千春は必ず何かをする、起こす。それが姉妹の為であればやりすぎと言う位の事をする。でも、それをしないと言う事はしないのでは無くできない。

 

 

 ……それって、かなりとんでもない問題じゃないか!?

 

 どんなことがあったのか、もっと詳しく聞かないといけない。

 

「千秋、今日何があったのか教えてくれ」

「朝は皆でバス乗って、クラスで別れて……うぅ」

「大丈夫か? ゆっくりでいいからな?」

「う、うん……」

 

ポケットティッシュで鼻や涙を拭きながら彼女に続きを促す。朝は俺も千冬の姿は見たが特に変わったところはない感じがした。千春もいつも通り姉妹を見てほのぼのしていた。朝の時点では何もなかったはずだ。

 

「それで、学校で勉強して、給食お代わりして、午後の授業はちょっと寝て先生に怒られて、それでっ、バスで4人で話してたら千冬の様子が可笑しくなって……」

「バスで何を話してたんだ?」

「えっと、テストの話……」

「テスト……千冬の点数って何点だったんだ?」

「98……」

「千春は?」

「100……だから我は二人とも凄いなって、思って。千春は何時も100点で、千冬は勉強熱心で部屋でよく勉強してるからそれが、結果に出たなって思って……」

 

 

千冬は殆ど部屋から出ない。千秋から偶に様子を聞いて部屋ではよく勉強をしていると言っていたな。もしかして、そのテストにかなりの労力をかけて何が何でも勝ちたくて、それで負けてしまったから落ち込んでいる、いや自己嫌悪。姉妹に対して負の感情を向けてしまう自分が嫌で仕方ない、無能が嫌で仕方ないと感じているのかもしれない。

 

千春も勉強はしているが千秋の面倒やほかの姉妹の事も気にかけている。対して自分は全てを注いだのに、負けた……。それで、自分を見失ってしまった

 

 

これ、ゲームのイベントであったな……高校生になった姉妹たちは主人公と出会いそこからイベントが始まって行く。

 

 イベントにも数種類あるが、千冬が千春、千夏、千秋に対して嫉妬や様々な感情を抱いていたがそれが爆発。差別感や自分は超能力無いのにどうして酷い目に遭って来たのか、特別になりたい。感情の奔流を主人公に語る。

 

 

これは好感度がある程度ないと発生しない。恐らくだが好感度が無いとそもそもこのイベント事態が何の解決もしないから。

 

『千冬は特別になりたいッス……』

 

泣きながらそう告白する千冬に主人公は自分にとって貴方は特別な存在だと語る。努力が出来る貴方は素敵だと、一番になれなくても頑張り続ける貴方が眩しく見えたと話す。

 

 

『……そうっスか? ○〇さんにとって千冬は特別なんスか?』

 

 

『えへへ、○○さんに話聞いてもらって良かったッス。○○さんって面白い人なんスね……”ありがとう”』

 

 

そんな感じで彼女との親密度が益々上がる。好感度のある主人公が特別であると言うから意味がありそうでなければただの戯言。好きな人からの言葉だから動かされる。姉妹以外の好きな人だから響く。

 

姉妹だとどうしても余計な気遣いがあるではないかと考えるからだ。

 

 

俺に何ができるんだ……? 主人公でもなく、好感度があるわけでも無く、年齢だって離れている。近しい特徴がない……これは……俺にはどうしようもないかもしれない。

 

 

「……千秋、取りあえず部屋に入ろう」

「う、うん……」

 

 

もう一度、彼女の涙などを拭いて、立ち上がりリビングに向かう。部屋に入るとソファの上で千春が座っていた。彼女の膝の上で千夏が寝ており目頭が腫れている。泣いていたのだろう。

 

「……お帰りなさい。お兄さん」

「……ただいま」

「ごめんなさい、お兄さん仕事頑張って疲れてるのに。家にいるだけのうち達がこんなのんびりしてたら不快ですよね……でも、今は千夏を寝かせてあげてください」

「あ、ああ、全然いいぞ……」

「ありがとうございます……」

 

千春も心ここにあらずと言った感じでただ只管に千夏の頭を撫でていた。テレビもつけず、この無音の空間で俺が帰って来るまで過ごしていたのだろうか。

 

「千春……どうして、千冬はあんなに落ち込んでるんだッ、()、何を言っていいのか分からない、部屋の前で話しかけても何も言ってくれないし、ねーねーッ、どうしたらいいのッ!?」

 

 

再び涙があふれる千秋を千春は抱き寄せて頭を撫でる。

 

「大丈夫、お姉ちゃんが何とかしてみるから。何とかするから。千秋は何も心配しないでいいよ」

「……本当に?」

「うん。本当。だから、安心して。疲れたでしょ? ほら、ここおいで」

「うん……」

 

 

そのまま千秋を自分の横に座らせる。そして、千夏の頭を少しずらして千秋の頭も太ももの上に乗せる。そして、千秋の頭も撫でた。張り付けた笑みのように微笑みながら安心させるように頭を優しく只管に撫でる。

 

そうすると再び千秋は泣き始めるが、その内姉の安心感に包まれて寝息を立て始める。

 

 

「……お兄さん……夕ご飯お願いしてもいいですか?」

「……分かった」

 

 

 俺も何を言っていいのか、どう行動すればいいのか分からない。ただ、言われるがままに台所に向かって冷蔵庫から材料を取り出し手を動かす。

 

 

 ふと千春が気になった。彼女はただ二人の頭を撫でている。泣きもせず、表情も変えずただ撫でた。

 

 

 ゲームだったら多少そう言う描写があっても直ぐにスキップとかできた。千冬が姉妹たちと仲が悪くなり、何を言っても響かないのは見ていて気持ちのいい物じゃない。俺も千冬が感情を出して姉妹たちと格差が出来たところは少し飛ばした。あまり見たくはなかったからだ。飛ばしてハッピーエンドの所だけを抜き取った。

 

 

 でも、今はそんなことはできない。

 

 

 

「夕食出来たけど……食べるか?」

「うんうん……うちは大丈夫……でも、この子達が起きたら食べさせてあげてください」

「分かった……」

「ソファ、占領しちゃってごめんなさい……」

「気にすんな……」

 

 

俺は、何もできない俺は千春のすぐ近くに腰を下ろした。地面に座ると自然とソファに座る千春より目線が低くなる。下を向いている彼女の顔がよく見えた。

 

泣いていない。無表情。でも、確かに悲しんでいるようだった。互いに何も言わず時間が過ぎていく。何秒経ったか分からないが少し時間が空くと千春が口を開いた。

 

 

「お兄さんが帰って来た時、千秋は何処に居ましたか……?」

「玄関で座っていたけど……」

「そうですか……」

「それが、どうかしたのか?」

「きっと、千秋はお兄さんに期待をしてたんだと思います……この子は少しほかの子より素直で幼い所もあるけどきっと、うちが思っている以上に大人だから。だから、分かっていたんです……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……」

「本当はうちが何でもしてあげたい。全部を与えてあげたい。悩みなんて全て無くしてあげたい。でも、それは無理だと……そんなことは分かっていたつもりでした。今までは心の余裕がなかったんです。只管に互いに身を寄せ合って生きるしかなかった。だから、窮屈な視界で色んな事に目を向けられなかった。でも、お兄さんが現れて心に余裕が出来て周りが見えるようになった時に……千冬は自分と姉妹を見つ直してしまった……」

「……」

「……何を言っているのか、分からないと思います。だからと言って、どんな悩みとかも具体的には言えません……それでも、お願いします……それがどんな結果になっても構いません。千冬に声をかけてあげてください。気にかけてあげてください……あの子に必要なのは、姉妹以外の何かだから……」

 

 

 

 千春が頭を下げた。髪に隠れてしまって顔は見えない。でも、尋常じゃない程の悔しさや怒り、悲しみが感じ取れた。

 

 

「……分かった。出来るだけの事はやってみるよ」

「……お願いします」

 

 

 

  俺はリビングを振り返らずに出た。そのまま階段を登って行く。何を言えば良いのだろうか。何を言っても俺では意味がないのではないかと不安が募る。でも、千春に頼まれて、了承したのだからその責務果たさないといけない。

 

 

 部屋の前に立ってノックをする。

 

「魁人だ……、話をしたいんだが……大丈夫か?」

「……」

 

 

返事がない。寝ているのか、それとも聞こえていて反応をしないのか分からないがドアノブを捻って押し込むが何かに突っかかってドアが開かない。何か重い物でも置いているのか?

 

「……千冬。起きてるならどかしてくれないか?」

「……」

 

やっぱり起きていないのだろうか。いや、でも起きているような感じがする。勘だけど……。

 

「その、起きてるなら少し、話しないか? ほら、この家に来てからあんまり話す機会も無かっただろう? 気分転換にもなるかもしれないし……」

「……」

 

 

やっぱり起きてるな。それにすぐそこに居る。この部屋には余計な物は置いていないし彼女自身が錘のような役割をしているのだろう。

 

「千冬……本当に少しで良いから俺と話してみないか?」

「……」

 

 

再度語り掛けると部屋のドアが開いた、中は暗くてよく見えない。でも、廊下の光が僅かに部屋に差し込み千冬がドアの側に体育座りで座っているのが見えた。

 

 

部屋の電気はつけない方が良いのかもな。泣き顔とか見られたくないと思っているかもしれないし。

 

 

「ありがとう。千冬……」

「……」

 

 

俺は入り口付近で体育座りをした。そして、彼女に話しかける。

 

「最近、どんな感じだ?」

「……普通ッス……いつも通り」

 

 

いつも通り……か。この一言で彼女がどれほど日々悩んできたか、同時に声のトーンでやはり俺は未だに微塵も彼女と打ち解けていないことが分かった。

 

 

「……そうか」

「……春姉に何か言われたんスか?」

 

彼女は体育座りのままそう言った。嘘はつけない。ついたとしても何の意味もない。ただ、しこりが残るだけのような気がする。

 

「そうだな。千冬が悩んでいるから気にかけてくれって言われたんだ」

「……そうっスか」

「……だから。聞かせてくれないか? 悩みを」

「……」

「訳の分からない大人がいきなり何言ってるんだと思うかもしれないけど、ごめん、俺はあんまり遠回しの言い方とかできないんだ」

「千冬達の事なんてどうでも良いじゃないっスか。家族でも無いし、親族でもないただの他人なんだから放っておいても良いじゃないっスか……」

「引き取ったからには責務がある。それに俺も千冬の事は放っておけないんだ。話せる範囲で良いから聞かせてくれないか……?」

「……つまらない話ッスよ」

「そうだとしても聞かせてくれ」

「……」

 

 

 

そう言うってしばらく時間が空く。すると彼女はこちらに顔を向けないまま暗闇に顔をうずめてまま話し始めた。

 

 

「千冬たちは……ずっと遠ざけられてきたんスよ……普通とは違う特別だからって……特別なのは姉だけで。千冬だけは特別じゃなくてそれが嫌で、だからせめて勉強くらいで一番になって姉たちに追いつきたかったッス」

「……」

「でも、それも無理だって分かって、千冬には何にもなくて、千冬にあるのは姉にあって、姉にあるのは千冬にはないから……それが辛くて、特別じゃないのに辛い目に遭って来た事に不満が募って、そう思ってしまう自分も嫌になってッ……」

 

 

 彼女の震えた声を聞いてしまうとやはり不本意に介入しなければよかったと後悔をした。何も出来る事がない。言えることが無いと感じる。

 

 ずっと超能力が理由でひどい目に遭って来たのに自分にはそんな目にある理由はない事に納得がいかない。姉妹は特別なのに自分はそうでない事が寂しい。超能力があると言う事実に自分達以外には分かり合えない人生。そこで自分だけ特別でない事に自分が家族ではないと思ってしまう。

 

 一人ぼっちに思えてしまう。

 

 

 何にも言えないよ。こんなの……主人公のように寄り添う事も言えない。意味をなさない。

 

 

 でも、千春に頼まれた。やるだけやってみると約束をした。意味をなさなくても何か言うだけ行ってみよう。

 

 

「……ごめん、俺には千冬を救ってあげられるような事は多分言えない……でも、多分、千冬は特別だと思うよ……」

「どこがっスか?」

「……世界に特別じゃない人はいないよ。何兆分の1って言うし……千冬が何を基準に特別だと思っているかは分からないけど、そこに居るだけで特別……じゃないか?」

「……」

「あー、ごめん、綺麗事言った……こんなの意味ないよな……」

「あ、いや、別に……」

 

 逆に千冬に気を遣わせてしまった。綺麗事じゃ人間動かないよな。でも、それくらいしか言えない……

 

「……とにかく俺には千春も千夏も千秋も千冬も特別に見えたって事だ。何を抱えてたとしても、持っていたとしてもそれは一つの人を構成する要素でしかない」

「……」

「千冬は茶髪がとても綺麗だし、眼も綺麗で二重で語尾も良い感じだ。あ、口説いてるわけじゃないぞ。その点、俺なんて黒髪に黒目で平安時代だったらモテただろうなって顔だ」

「……平安時代?」

「あー、まぁ、昔は美の基準が違うって聞いたから、すまん、ちょっと笑わせようと思って……現代ならフツメンって事だ」

 

 

ギャグが外れた。気分を変える一言が湧き水のように頭に浮かんでくればいいんだろうけどな……

 

 

「つまり、俺には全員が特別に見えたから少し元気を出してほしいって事だ。姉妹でも嫉妬とかはあるなんて大前提、それを気にする必要もない。寧ろ無い方がオカシイ」

「そうっスかね……」

 

 

あんまり響いてない感じがするな。さっきよりは反応をしてくれているけど。

 

 

「何度も言うけど……俺は千冬を特別だと思ってるよ。それを一番言いたかった。騙されたと思って信じてみてくれないか?」

「……騙されたと思ってッスか?」

「ああ。それでも、自分自身の事を信じられないなら俺が信じるから。それを覚えておいてくれ。絶対に自分が特別だって思える日が来るから、未来に期待をしててくれ」

 

 

そう言うと彼女は初めて隠していた顔を出した。僅かな光で見える彼女の目元は腫れていた。未だに目尻には涙が溜まっている。

 

 

「……どうもっス……」

 

 

彼女はそう言って頭を下げた。少しだけでも元気出れば良いんだろうけど。俺の安い、中身のないような話じゃ意味なかったのかもしれない。俺の言葉じゃやっぱり動かないよな。

 

夕食でも食べてもらって、僅かな幸福感に浸ってもらうくらいしかできない。

 

「すまん……大した事言えなくて」

「いえ、そんなことないッスよ……ちょっと、元気出た気がするっス」

「本当か?」

「はい……本当っス」

「無理してないか? 何か他に言いたい事とかないか?」

「大丈夫っス、ありがとうございまス……」

「そ、そうか……なら良いんだけどさ……夕食持ってこようか?」

「……はい、お願いしまス」

「分かった。いつもより大もりで持ってくるぞ! たくさん食べてくれ」

 

そう言って部屋を出る。彼女は元気が出たと言ったが本当なのか、どうなのか。分からない。でも、本当に元気が僅かにでも湧いたのなら。嬉しい、俺には大した事が出来ない。

 

でも、これからも微力ながらも頑張ろうと思った。取りあえず夕食を持っていこう。

 

 

◆◆

 

 

 千冬は結局自分の弱さに負けてしまった。姉妹である姉たちとの関りが嫌になって部屋に閉じこもってしまった。春姉も夏姉も秋姉も千冬を気にしてくれる。でも、誰の言葉も響かなかった。

 

 どうしても、同情されているのではないかと変なフィルターを張ってしまう。もう、何が何だか分からなくなって只管に泣いてしまった。

 

 

 そこに、あの人が来た。春姉が何か言ったから来たのだとすぐにわかる。でも、話を聞いて欲しいと思った。どうしてそう思ったのかは分からない。ただ、一人では居たくなかっただけかもしれない。

 

 何を言われるのか、大人の難しい言葉で説得や励ましをしてくれるかと思ったが意外にもあの人の言葉は捻りもないような言葉だった。

 

 初めてかもしれない。姉妹以外からあそこまで熱い言葉を掛けられたのは。春姉にも夏姉も秋姉も気にかけてくれる。言葉を交わしてくれる。それは嬉しい。

 

 

 でも、あの人の言葉から感じる嬉しさは今までに感じた事の無いものだった。目の前にいる人は普通の人だから。自分と同じ普通で普通の言葉で特別だと言ってくれたから心にすっと入ったのかもしれない。

 

 嬉しかった。髪を褒めてくれて、何度も特別だと言ってくれたのが。

 

 自分でも信じられない千冬を信じると真っすぐ言ってくれたのが。

 

 凄く嬉しかった。初めて外からの愛情はこんな味なんだと知った。困惑してどんな反応をしていいのか分からなかったけど、少しだけ笑ってしまった。暗くてあの人は気が付かなかったんだろうけど。

 

 凄く、凄く、凄く、嬉しかった。

 

 

  姉妹でも何でもないのにあんなにも千冬に特別だと言ってくれるなんて、変わっている。姉たちの差にきっとこれからも悩んでしまうんだろうけど、もう一度、頑張ってみようと思えた。そう思わせてくれた。

 

 

 

 あの人は面白いだな……

 

 少しだけ、あの人の事を知りたいと思った。

 

 

 でも、その前に……心配をかけてしまった事を謝らないと。春姉はずっと気が気でなかったはず、夏姉と秋姉のことは泣かしてしまった。

 

 

 ごめんなさいと言わないといけない……千冬は体育座りを止めて腰を上げるとそのままリビングに向かった。

 

 

 

 




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