百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで   作:流石ユユシタ

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22話 クリスマスイブ

 そして、俺のふろ場での時間つぶしが開始された。

 

 フライドチキンは美味しいけど手が汚れるのはな、汚れないチキンを作りたい。豚の角煮も美味しいし、でもクリスマスだからビーフシチューとかも良いな。考えながら湯を入ったり上がったりを繰り返す。

 

 ずっとお湯に入っているのはのぼせてしまうとは言え、この繰り返しはダサいな。まぁ、そんなことはどうでもいい。

 

 今の俺は娘に美味い物を食べさせてあげてぇなと言う気持ちしかない。

 

 まさか、俺がここまで娘に入れ込むことなるとはな。最初はただ何となくで引き取るつもりだったのにな。

 

 そう言えばこの世界が百合ゲーなのすっかり忘れてた……いや、百合ゲーに近い世界と言った方が良いか。

 

 昔、初めて『響け恋心』をプレイしたときは感動したな……

 

 ――あの時、全部どうでもよかった。

 

 無気力で無感情な倦怠感を抱いていた。見かねた親友が何となくで進めてきたゲーム。話を聞くと親友も制作に一枚かんでいるらしいから、試しにやってみろと言われた。

 

 

 どうでも良かったけど、暇つぶしや娯楽になればいいと試しにプレイした。

 

 

 ボイスとかキャラデザとかストーリーとか、凄く感動した。でも、一番心に響いたのは進み続けた先に幸せがあるのだと言う事実。

 

 過去に何があっても前を向いて歩き続ければいずれ報われる。幸せになった姉妹にに感情移入をどうしようもなくしてしまった……ネットに感想書いたらたかがゲームにそこまでハマるとかどうかしてるとか、言われたな。

 

 いや、個人の感想だろ。前世の16歳で高校一年俺はそう思ったのだ。あれ? そう言えば俺って今精神年齢って幾つだ?

 

 死んだのが17歳だから……それで今は21歳だし。普通の人よりは大人か? 17+21と言う計算をするのか?

 

 いやでも、昔のこと思い出したのつい最近でそれまで普通の人生を歩んで生きてきたしな……

 

 

 まぁ、パパになるのにそんなこと関係ないから、どうでも良いか……

 

 

「お兄さん」

「うぉ!」

 

 

 過去に浸っていたらいつの間にかかなりの時間が経過していのかもしれない。千春の声が風呂場の外から聞こえてくる。スマホの時間を見ると大体一時間位経っていた。あれ? 思ったより時間がかかっていないな。

 

 

「え、選べたのか?」

「はい、選べました」

「思ったより早かったな。ちゃんと選んだのか?」

「はい。元々学校にある図書室のファッション誌をうち達読んでましたので欲しいの大体、決まってました」

「あー、そう言う事か」

 

 

やっぱり欲しかったんじゃないか。ああ、クソ、方法さえ間違えなければパパとして合格点だったのに。

 

風呂のガラス越しに千春のシルエットが見える。よく見ると千春だけなく、千夏と千秋と千冬のシルエットも僅かに見える。今一体どんな顔をしているのだろうか。

 

 

「お兄さん、ありがとうございます」

「クリスマスだからな……」

「カイト! ありがとう!」

「まぁ、クリスマスだからな……」

「魁人さん、ありがとうございまス……」

「く、クリスマスだから……」

「……ありがとうございます」

「う、うん。まぁ、クリスマスだしね」

 

 

お礼をそんなに言われると少々恥ずかしい。そう言うお礼ラッシュにまだ慣れていないんだよ…‥

 

 

「クリスマス、凄く楽しみにしていますね……」

「楽しみにしててくれ」

「はい。そうしますね」

 

 

彼女達はお礼を告げると去って行った。去り際に浮足立つような声が聞こえた。単純に嬉しいな。つまり、クリスマスプレゼントをあげると言うこと自体は正解だったと言う事だ。

 

 だが……やはり方法を間違えてしまった事は否めない。結果より過程が大事と言う言葉があるが俺は両方大事だと思う。今回は結果が良かったが過程がダメだ。

 

次回から気を付けよう……しっかりと良い大人の背中を見せなといけない。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

「にひひ、遂にオシャレが出来るぞ!」

 

 

うち達は布団の中に入っている。もう、寝る時間で部屋は暗い。だが、未だに喜びの熱が冷めずに眠気がやってこない。

 

「五月蠅いんだけど? 静かにしなさいよ……」

 

 

千秋の言葉に千夏が反応する。千夏はもう寝たいと遠回しにアピールをしている。のだが、本人も寝るなんて出来ないんだろう。先ほどから何やら布団の中でソワソワしている音が聞こえる。

 

「秋姉の気持ち、千冬も分かるっスよ……寝るどころじゃないっスよね」

「そうだ! 寝るなんて出来ない! 新品の流行りだぞ! そんなものが我が家に降臨するんだぞ!」

「たかが、服一着で大袈裟なのよ……」

 

千夏のプレゼントが待ちきれないと言う心の声が聞こえてくる。お姉ちゃんも待ちきれないよ。

 

あんまり欲とか出さない様に私的な感情を出さないようにしてきたけど、今回ばかりは声を大にして言いたい、楽しみ過ぎると。

 

 

「寝れないね……」

「そうだな!」

「こんなの寝れるわけないっス」

「……まぁ、いつもよりはね」

 

 

そんなこんなで寝るのに大分時間がかかった。千夏と千秋と千冬はクリスマスが早く来いと夢の中でも思った事だろう。

 

何故なら、うちもそう思っていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眠れない夜の日を何とかまたいだ次の日。いつもより僅かに起きる時間が遅かった。お兄さんは仕事に行っているからいない。

 

 

あまり、不規則の生活になってしまうのはいけないと思って妹達を起こす。

 

 

「はい、起きる時間だよー」

 

布団をとったり色々して何とか三人を起こす。寒いので手早く千秋を着替えさせる。歯磨き、顔洗い、お兄さんの作り置きの朝食を食べてもう一度歯磨き。

 

うち達姉妹は、朝起きたら歯磨き、朝ごはん食べても歯磨き、つまりは二度歯磨きをすると言う謎のルーティーンがある。

 

一通り朝の行動を終えると冬休みの宿題をする。答えを見ないで自分の力で問題を解くように言うと千夏と千秋はブーイングをするがやると言ったらやるのだ。

 

「めんどくさい……」

「答え見たいのよ……」

「お姉ちゃんに任せて!」

 

 

いつもの部屋で下に座布団を敷いて机の上に問題集を広げる。千冬はさらさらと脳にペンが追いついていないのではないかと言うスピードで問題を解いて行く。

 

「ほら、夏姉と秋姉も宿題をやるっスよ」

「「ぶーぶー」」

「ブーイングしてないでやるっス」

「「ブーブー」」

「はぁ……これが姉が妹にする事なんスかね……?」

 

 

千冬は再びさらさらと問題を解いて行く。千冬の頑張る姿に感化されたのか二人もとうとう問題集を開く。

 

二人共、ペンを持ちさらさらと問題を……

 

 

「二人共、机の下にある答えだして。お姉ちゃん没収するから」

「「ッ……」」

「ほら、渡して」

「「か、隠してない……」」

「渡して」

「「はい……」」

「あのね、前に千冬が言ってたけど答えを見たら意味がないんだよ? この問題集だってただじゃないんだから……1200円!? 高い……」

 

思わず値段に反応してしまった。いけない、お金にがめついなんて姉としての威厳が損なわれてしまう。しっかりと姉としてお手本となる背中を見せないといけない。

 

「コホン……うん、だからね? 頑張ろう? お姉ちゃんが手取り足取り教えるから」

「「はーい……」」

 

 

うん、流石うちの妹、何だかんだで真面目に取り組む二人。分からない場合はすかさずうちが助っ人に入る。

 

最高のルーティーンが完成する。

 

 

その最高のルーティーンを2時間ほど繰り返し、休憩に入る。千冬と千夏は学校の図書室から借りてきた料理の本を読んでいる。

 

千秋ははがきくらいのサイズの画用紙に色鉛筆で何やら絵をかいている。

 

「千秋何描いてるの?」

「えっとね、色々」

「その画用紙はどうしたの?」

「カイトに頼んだらくれた」

「そうなんだ……」

 

 

クリスマスツリーとか、サンタクロース、プレゼントボックスを鮮やかに赤や緑黄色を使って再現して、メリークリスマスと言う文字をオシャレに描く。

 

「それは……どうしてそう言うの描いてるの?」

「ん? カイトにクリスマスカードあげたくて!」

「ああ、そういうね……ああー、そういうパターンね……はいはい……」

 

 

……ズるいよ、お兄さん。勿論普段の感謝の気持ちとか勿論あるけど。ううぅ、いいなぁ……でも、お世話になってるから恨めないよ……

 

 

「勿論、千春と千夏と千冬にも作るぞ!」

「ッ……ありがとう!」

 

 

 何なの、この妹は可愛いよ。ちゃんと普段の感謝を表そうともしてる。そうだよね、言葉だけじゃなくて小さいけど千秋みたいに想いを形にするのも大事だよね……

 

 

「うちもお兄さんに描いても良いかな?」

「うん! 一緒に描こう! 画用紙沢山貰った!」

 

 

はがきサイズの画用紙を沢山机の下から取り出す千秋。何枚も重なった束から一枚をうちに渡す。

 

千秋よりは絵は上手くないけど、姉として出来るだけ負けない様にしないと。

 

 

姉は常に一番出ないといけない……

 

 

「アンタ達、何描いてるの?」

「お兄さんと千夏と千秋と千冬にクリスマスカード描いてるの」

「へぇ……」

「それなら千冬も書くっス。絵全然上手じゃないんスけど……」

 

 

本を読んでいた千夏と千冬がこちらに興味を示した。そして、千冬は自分もと千秋から画用紙を貰う。

 

千夏は僅かにどうしようか迷っているようだ。

 

「……まぁ、プレゼントも貰うしね……私にも頂戴」

「うん!」

 

 

渋々と言う感じで千夏も画用紙を貰う。色鉛筆で画用紙に描きだす。描きながら僅かに頬杖をついて愚痴のようにポツリと言葉を溢す。

 

「こんなの喜ぶわけないと思うけどね……」

「千夏、大事なのは気持ちだ! 気持ちを形にして伝えるんだ! その形はどんなものでも良いんだ!」

「急に熱いのよ……アンタ……」

 

 

 千秋の猛絶な熱さにしかめっ面になる千夏だが頬杖を止めて真面目に絵をかき始めた。そして、描き始めて数時間が経過した。描いている間誰も一言も話さずに寡黙になった。

 

 

 

 

 

 

 そうして12月24日になる。この日は休日である。だが、それなりに忙しい。

 

 クリスマスに食べる料理を作る為に朝から起きて台所で腕を動かす。ケーキの生地を焼いて、ビーフシチューを圧力鍋で作って、千秋がから揚げが食べたいと言っていたのでもも肉を取りあえずタレに漬け込んで、ビーフシチューで圧力なべを使っているから炊飯器で豚の角煮を作って……

 

 

 ごちゃごちゃしている台所を掃除して、そうしたら生クリーム泡立てて……

 

「千秋、味見するか?」

「うん!」

 

こそこそ涎を垂らしながら見ている千秋にスプーンでクリームをすくって渡す。それを千秋は頬張る。すると幸福感に溢れた笑顔満開になる。

 

 

「おいしいー!」

 

 

うん、可愛いな。その後も千秋は俺の料理姿をジッと見ていた。スタイリッシュな料理シェフな気持ちになってつもりで調理を続ける。やはり、娘の前ではカッコいい姿を見せたい。

 

「カイトそれは何をしているんだ?」

「片栗粉で鶏肉をお化粧しているんだ」

「おおー! 化粧か!」

 

スタイリッシュに受け答えをして鶏肉を油に入れていく。鶏肉が油で上がる音が台所に鳴り響いている。

 

鶏肉は生のままだとカンピロバクター菌で食中毒を引き起こしてしまう可能性がある。娘に食べさせる以上それは絶対に避けなければならない。だからと言って油で火を通しすぎると固い鶏肉を食べさせることになってしまう。

 

この匙加減が非常に難しい。

 

暫く、上げて一番大きいから揚げを一番最初に上げる、それを包丁で切って断面を見る。綺麗な白だ、赤みがない。

 

一番大きいから揚げが大丈夫なら他も大丈夫だな。

 

「……味見するか?」

「うん!」

 

 

一つ、爪楊枝に刺して千秋に渡す。

 

 

「うまぁい!」

 

あ、千春と千夏と千冬にも味見してもらうかな。今は二階に居るから千秋に持って行って貰って……小皿に三つよそってそれぞれに爪楊枝を刺す。

 

 

「これ、千春たちに持って行ってくれないか? 味見してほしいんだ」

「……分かった!」

 

 

小皿を持って千秋は部屋を出て行く。だが、階段を上がって二階に行く足跡が聞こえてこない。

 

数秒後に千秋が小皿を持って戻ってきた。数秒前にあったから揚げが全て綺麗に消えている。

 

 

「千春たちに味見させてきた!」

「ありがとう……」

 

 

絶対廊下で全部一人で食べてたんじゃないだろうか。まぁ、三人には後で食べてもらえればいいな。

 

その後も千秋に味見係をしてもらいながら調理を続けて、日が落ちる前には全ての料理が完成した。

 

 

◆◆

 

 

 

「千春、ご飯できたって! 今日の凄いぞ! 全部美味しい!」

「そうなんだ、ありがとう千秋」

「うん!」

 

 

うち達はクリスマスカードの続きを書いたり、宿題をしていた。ずっと下に居て一度も二階には上がってこなかった千秋。お兄さんの料理姿をずっと見ていたんだろう。

 

 

「うち達もクリスマスカード描けたよ」

「じゃあ、カイトにカードを渡そう!」

「そうだね」

「千冬はあんまり上手く絵が描けなかったっス……」

「気にするな! 気持ちだ!」

 

 千冬、千夏ははあまり絵が得意ではない。絵心がないわけではないと思うが千秋と比べるとかなり見劣りしてしまうかもしれない。

 

 

 はがきサイズの完成されたクリスマスカードを持って下の階に降りる。リビングに入ると既にいい匂いが鼻をくすぐる。自然と姉妹全員がごくりと生唾を飲んだ。お兄さんは台所でご飯の盛り付けをしていた。

 

 

「クリスマススペシャル出来たぞ。今日はご飯が多いから上に持っていくの手伝うからな」

 

 

あ、そうだよね。いつもうち達は四人で食べてるから……お兄さんの気遣いにうち達は少し複雑な心境になる。

 

「今日はカイトも一緒に食べないか?」

「え? あー、いや、四人で食べるといい」

 

千秋が五人で食べようと誘うがお兄さんはそれを断る。まだ、千夏が慣れていない。僅かな違和感があるとお兄さんは分かっている。だからこそ身を引いたのだと思う。

 

「うぅ、でもな……千夏、今日はみんな食べても良いだろ?」

「……そうね……」

「えっと、気を遣わなくていいんだぞ?」

「気は遣ってないです……私もそうしようと思ってましたから」

 

 

千夏はうちの後ろに隠れながらもそう言った。

 

 

「そうか……なら、そうしてもいいのか?」

「うん! 我もそうしたい!」

 

 

千秋の言葉に呼応するように千冬もうちもコクリと頷いた。お兄さんは少し嬉しそうにしながらダイニングテーブルに料理を並べ始める。

 

うち達はそんなお兄さんの近くに寄って、隠していたクリスマスカードを差し出す。

 

「これは……俺にくれるのか?」

「うん、カイトの為に作った!」

「お兄さん、いつもありがとうございます……これくらいしかできませんけど」

「魁人さんどうぞっス……」

「これ、どうぞ……」

 

 

四枚のカードをお兄さんは受け取ると噛みしめるように喜びの声を上げた。

 

 

「これはあとでラミネート加工しないとな。流石に……ありがとう。嬉しいよ。大事にする」

 

 

カードを大事そうにクリアファイルにしまってお兄さんはご飯をダイニングテーブルに運ぶ。それをうち達も手伝って全員でクリスマスイブの日に初めて夕食を食べた。

 

 少しだけ、ぎこちなさもあったけどそれも悪く思わなかった。皆でテレビに映るバラエティを見たり、既にカットしてあるケーキを食べていつもよりお腹が膨れた。

 

 

 

 

 

 その後はお風呂に入って、二階の部屋に戻っていつものように布団に入る。すると千秋は笑みを溢した。

 

「えへへ、カイト喜んでくれた」

「良かったね」

「うん。我、カイトの事大好きだから喜んでくれて本当に良かった!」

「ッ……!」

 

大好きという単語に千冬が反応したが千秋は気付かずにお兄さんの事を話し続けた。

 

「千冬だって……」

 

小声でぼそぼそと千冬が何かを言っているがそれはうちには聞こえなかった。

 




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