百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで 作:流石ユユシタ
クリスマスが終わるとすぐにお正月がある。お正月と言えばおせち料理やお餅、お年玉と言う子供が大好きなイベントの詰め合わせだ。
うち達はそんな経験は記憶にないからそんなざっくりとしたイメージしか湧かない。お正月とは一体どんなことをするのだろうか。リビングのコタツに入りながら考えていると天使の話し声が聞こえてくる。
「お正月とは餅を食べるらしいぞ!」
「醤油とかバター醤油で私は食べたいわね」
「千冬はクルミダレってのが気になるっス」
「我はおせちも気になるなぁ」
あれま、天使が会話していると思ったらうちの妹達だった。うっかりうっかり。この年で既に幻覚が見えるとは、もしかしたらうちは老眼かもしれない。
「千春はどうだ?」
「うちは皆が食べたいのが食べれることが出来ればそれでいいよ」
「ええ!? そう言うのじゃなくて我は語り合いたいんだ、正月を」
「そっか……うんまぁ、かまぼことか何気に楽しみかな」
「かまぼこ、無限に食べれると思えるようなあれか……じゅるり」
千秋が思わずよだれを垂らしそうになる。うん、欲望に素直なのはとてもいいことだね。
「そろそろ、『お前たちの令和って醜くないか』がやるからチャンネル変えて良いか?」
千秋がテレビのチャンネルを変える。最近になってうち達姉妹の活動範囲が格段に広くなった。
基本的には部屋の中であったがクリスマスを終えてからはリビングに居ることが増えた。夕食も五人で食べるし、テレビも見るようになった。
以前よりお兄さんの信頼値が上がっている。だからこその活動範囲拡大。千冬はお兄さんと会話がちょっと多い気がするけどそれもただの信頼だけだと思いたい。
千夏はまだ目が合わせられない時もあるけど、毎日一分の会話が一分三十秒に増えている。
ただ、千冬と千夏が徐々に懐き、会話が増える中で千秋だけは別格で懐き、そして会話量もべらぼうに多い。さらにさらに活動範囲もべらぼうに広い。
「お腹空いたな」
そう言って千秋は台所の方に向かって冷蔵庫を開けたり、手の届く範囲で戸棚をガサゴソとあさり始める。
「アイツのあの胆力と言うか遠慮の無さには関心するわ……」
「本当にそれは思うっス……」
「千秋の素直な所は良いところだよね」
「長女のアンタが甘やかしすぎるからああいう風になっちゃったんじゃないの?」
「良い子に育ってくれたよね」
「……もう、いいわ。その馬鹿姉脳に何を言っても私の求める答えが返ってこないのは分かったから」
千夏がはぁっとため息を吐きコタツ中に深く潜る。そして、置いてある座布団を枕のようにして寝る体制に入った。
「眠くなったんスか?」
「そうよ、眠くなったから寝る」
「今寝ると夜眠れないっスよ」
「この暖かいコタツが私を眠りに誘うから仕方ないのよ」
「いや、それでも生活のバランスが」
「おやすみー」
千夏はそう言って夢の世界に旅立ってしまう。まぁ、冬休みだしね、少しくらいは生活のバランスを崩しても問題ないかな。
「さくさくぱんだちゃんチョコあった」
「秋姉、ちょっとは遠慮した方が良いんじゃないスか?」
「カイトが遠慮しなくて良いって言うから」
千秋がお菓子の袋と牛乳の入ったコップを持ってコタツに再び入る。チョコには牛乳が合うよね。
「でも、ちょっとは遠慮ってものを……」
「カイトがしなくていいって言うからしない!」
「そんなドヤ顔で……言う事じゃ……」
千秋は封を開けてパンダチョコを口に入れていく。さくさくとした食感とチョコの甘みが美味しいんだろうな。
「甘ーい! うまい!」
「……そんなに美味しいんスか?」
「美味いぞ! 食べるか?」
「……一つ」
「あーんしてやろう」
千秋が食べてる姿を見ていると自然と何か食べたくなってしまう。将来はテレビのバラエティとかにも出れるだろうな。
「あーん」
「あ、あーん……あまい……」
「だろ、甘旨だろ!」
「まぁ……」
「こんなチョコを食べさせてくれるカイト大好き!」
「っ……大好きとかってあんまり言わない方が良いんじゃないスかね?」
「なんで?」
「ほ、ほら、勘違いさせてしまうからっスよ……」
「どう勘違いするんだ?」
「えぇ!? ああ、あの恋愛、的な?」
「んん? 恋愛? そんなことあるか?」
「か、魁人さんは男の人っスから、男の人ってそう言うに過剰に反応するって聞くし、消しゴム拾ってあげるだけで勘違いするって本に書いてあったんスよ……だから、大好きは控えた方が……」
「むぅ? 大好きだから大好きと言って問題は無いと思うぞ。カイトはそんな単純な男じゃないからな」
「い、いや、万が一……」
「そうなったら、責任取って我が結婚してやろう!」
「「ええええええ!!???」」
思わず、うちも声を上げてしまった。千冬は驚きのあまり立ち上がる。
「い、いやいや、年の差があるし! そう言うのってちゃんと順序を!」
「人の数ほど愛の形があるのにそれに基準を当てるのはダメだぞ千冬」
「いや、すごーい深い事言ってきた! い、いや結婚って金銭とか、そういう問題も」
「カイト、結構持ってるって言ってた」
「え!? あ、そうっスね……ほ、ほら、でも、流石に結婚は!」
「結婚は……冗談だぞ?」
「ええ!?」
「ふっ、この我の名演技に見事に騙されたようだな妹よ」
どうやら、冗談だったようだ。お姉ちゃんも見事に騙されてしまったよ。
「千秋凄いね、うちも騙されちゃった」
「ふふふ、もっと褒めてくれ」
「凄い」
「ふふ」
「未来のハリウッド女優だね」
「えへへ」
千秋の素直さが可愛い過ぎる。それにしても千冬は千秋の名演技に騙されたとはいえ大分、うろたえていたような……
「な、なんだ。冗談なんスか……分かりづらいっスよ……」
「妹が姉の演技を見破れるはずがないのだ!」
「……さっきから五月蠅いんだけど?」
千冬が一息ついて千秋がえっへんと胸を張る。……最近、少しづづだけど身体が成長している気がするんだよね。将来はきっとナイスバディの素晴らしい女の子にと考えていると寝ていたはずの千夏が起き上がる。うち達の声で起きてしまったようだ。千夏は座布団で寝ていたから少し髪が乱れている。
「あ、ごめんね。千夏」
「春じゃなくて、秋の声よ……」
「あ、すまん」
「ちゃんと謝りなさいよ……もう、眠気があるのか無いのか分かんない微妙な気分よ……あ、チョコある……」
「食べるだろ?」
「食べる」
千秋にチョコを渡して貰い千夏が口に放り込む。チョコの甘さで眠気が完全に吹き飛んだのである。先ほどよりきれいな二重の眼がぱっちり開いている。
「うま……」
「ちゃんとカイトにありがとう言うんだぞ」
「……分かってるわよ」
「なら良し! それにしても千夏って食いしん坊だな!」
「いや、アンタだけには言われたくないんだけど? 秋が一番の食いしん坊でしょ」
「むっ、我も千夏には言われたくない。千冬はどう思う?」
「秋姉が大ネズミで、夏姉が小ネズミなイメージっス」
「はぁ? ネズミって何よ? まぁ、今はチョコ食べるからいいけど、冬は後で覚えておきなさい?」
「ご、ごめんなさいッス夏姉」
「全部後で聞いてあげる」
そう言って千夏はチョコをわんこそばのようにパクパクと口に運んでいく。千冬、あとで千夏にチクチク言われるパターンだ。
千夏って偶にチクチクぶり返すように攻める時があるからなぁ……
「あ、千夏喰いすぎだ!」
「良いじゃない、シェアよ、シェア」
「我のお菓子なのに!」
「この机に置いた時点で姉妹でシェアの義務が発生するのよ。ほら、春もあーん」
「良いの?」
「千春と可愛い妹の千冬は食べても良いぞ、だが、千夏お前はダメだ」
「はぁ?」
千夏にあーんしてもらってチョコを食べる。美味しい。あーんがあるだけでチョコが100倍甘くなってコクが100倍になっている気がする。
「……千冬は可愛いんスかね?」
「千冬が可愛くなかったら一体何が可愛いの?」
「フォローありがとうっス。春姉」
千秋に可愛いと言われた事で自分を見つめなおす千冬。この子、毎日ちゃんと鏡見てるのかな? 可愛い以外何物でもないのに。
可愛いと言う事実をもっとしっかり自身で分かって欲しい。もっと自身に溢れていいのに。今度可愛いところをノートに纏めてあげよう。
ふふふ、きっと脳が手に追いつかねぇぜ……そして、千冬は喜んでくれるだろうなとほくそ笑みながらうち達の優雅な時間は過ぎて行った。
◆◆
「なんか、頭が痛くなってきた……」
「おい、おい、俺をボッチにさせる気か?」
「そんなつもりはない。さて、そろそろ定時だから帰る……」
「明日は休むなよー」
頭が痛い。何だか関節も痛い気がする。まさか、風邪をひいてしまったのか……くっ、大人として体調管理が出来ないなんて情けないにもほどがある。
手洗いうがいは毎日忘れずにしていると言うのに。
仕方ないな、万が一にも娘に移さない様にマスクをして、帰りにОS-1でも買って行こう。
帰りの道の業務スーパーで風邪対策グッズを購入して車を走らせる。何だか、いつもより帰りの道が遠い気がする。今日の夕ご飯はいつもより簡単な物にしても良いかな。冷凍の揚げ茄子があるからそれと肉を炒めて、買ってある味の素で味付け。あとは、茹でるだけの水餃子。
作り置きの切り干し大根と白米で……頭の中で手抜き料理を考えながら家に到着。
「た、ただいまー」
「おかえり、カイト……お腹すいた……なんか、元気ないけど大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。すぐに夕食作るからな……」
千秋が出迎えてくれて何だか、体の重しが取れたかもしれない。急いで手洗いうがいをして着替えて台所に立つ。
「お兄さん……マスクして顔赤いけど、もしかして風邪……」
「千春気にするな。それよりコタツの上片付けておいてくれ」
「う、うん……」
ある程度作るのは決まっているし、下拵えも殆どやらなくてもいい。体は怠いけど料理が出来ない程ではない。数分経てば直ぐに完成した。お皿によそって姉妹たちがそれを机に運んでくれる。
「風邪移したらいけないから、今日は俺は着替えて寝るよ……食べたお皿は水につけておいてくれ……」
俺は脱衣所で着替えて、蒸しタオルで体を拭いて、OSー1とスマホと氷枕を持って部屋に向かった。明日も仕事も朝ごはんも作らないといけない。
一晩寝ればすぐに良くなるだろうさ……
◆◆
「カイト、元気なかったな……」
「お兄さん、疲労が溜まってたんだよ……」
「そうっスよね……ご飯とか仕事とか、あれだけやってれば」
「……」
いつもとは違う弱ったお兄さんを見てそれぞれ思った事があるんだろう。コタツの上にはご飯が並んでいるが誰も手を出していない。
どうするべきか、何が出来るか、自然とそっちの方に思考が向いて行く。うち達姉妹が迷う中で始めにそれを決めたのは千秋だった。
「よし、看病しよう!」
「アンタに出来るの?」
「出来る! 冷たいタオル作る!」
「他には?」
「……おかゆ?」
「火は絶対使うなっていつも言われてるじゃない」
そう、お兄さんは絶対に火を使わない様にと釘を刺している。IHコンロはもっと大きくなったら使っていいらしい。
「じゃあ、添い寝!」
「アンタに移ったら元も子もないわ」
「……取りあえず、冷やしタオル!」
そう言って千秋はコタツから出て台所に向かい、金属のボールに氷と水を入れる。そこに脱衣所からタオルを持ってきて水に浸す。
「ちゅべたい……っ」
冷たいを思わずちゅべたいと言ってしまう千秋。手が寒さに震えながらもタオルを両手で雑巾のように絞る。それを持って二階に上がって行く。
千秋の階段の登る音が部屋に鳴り響いて暫く経つと千秋が戻ってきた
「ありがとうって言われた!」
「そっか」
「でも、風邪がうつるのが一番ダメだからもう来ないでって、俺はオーエスワン飲めば治るって言ってた。あと、寝る時はコタツの電気を忘れずに消してって言ってた」
「うん、分かった」
うちも千冬も千夏も何かをしようと思ったけど、動けなかった。その中で千秋だけは動いた。その事実にやっぱり千秋は凄いな……長女として少し情けない気持ちになる。
うちも出来る事を探さないと……
◆◆
頭がボーっとする。眠ってるんだが、起きてるんだが良く分かんねぇ。
『○○君……』
頭の中に小学生くらいの女の子が浮かんだ。顔は見えないけどそのシルエットに面影がある。ああー、これはあんまり良い思い出ない奴だ……
風邪で訳の分からない夢のような物まで見る始末。
体調管理……今後はもっとしっかりしないと。氷枕があるおかげで多少は寝心地が良い感じがするけど……
あれ? 額が急に冷たい。眼を開けると銀髪のオッドアイの少女が……
「大丈夫か……? カイト……」
「千秋。看病してくれたのか……」
「出来る範囲でだがな……」
「そうか、ありがとう……でも、うつしたら悪いからここには居ないでくれ」
「やだ、カイトが治るまでここに居る」
「そう言わないでくれ。もし、千秋が風邪ひいたら俺はもっと体調が悪くなる」
「そうなのか!?」
「うん、心配で何も手につかない」
「……そうか、じゃあ、戻る」
「そうしてくれ、あとコタツの電気は消して寝るように皆に言ってくれないか?」
「分かった!」
元気よく返事をすると千秋はドアの方に向かう。
「はやく、元気になってね! いつも、
私……ああー、そう言えば、……彼女は……
……そんな俺の前世知識よりも千秋の笑顔可愛かったな。死ぬ気で寝て、風邪を治そう。俺はそう心に決めた。
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