百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで 作:流石ユユシタ
おみくじ。特に信じてもいなければ、これからも信じるような事は無いと思う。だが、娘信じているのであれば話は違う。
「カイト、旅行に行きたい」
初詣に行って家に帰ってきた後、暫くして落ち着いた時間が取れるとおみくじで旅行に行けと千秋は出たようでそこから行きたいと俺に懇願する。
うーん、確かにおみくじにも連れていけと書いてあったが急にはな。予約とか色々あるし。行くなら良いところに行きたい。それにこの時期はどこも混んでいるだろう。
「春休みにしないか?」
「うーん……分かった!」
千秋は良い子だな。旅行は絶対に奮発していい場所にしよう。
「千秋、何処に旅行行くか今のうちに決めておこう」
「おおー、そうしよう、そうしよう!」
スマホを取り出して千秋にそれを見せる。俺が座っているソファの隣に千秋が座る。
「美味しい物食べたい!」
「そうだな、北海道のザンギとかいいな」
「ザンギって何だ?」
「北海道版から揚げみたいな感じだな。でもから揚げじゃない。そして凄く美味しい」
「じゅるり……北海道行きたい……」
「食べ歩きなんていいんじゃないか。エビ、ホタテ、いくら、豚丼、ジンギスカン、札幌ラーメン」
「ゴクリんこ……北海道にしよう」
千秋、思わず二度も唾を飲んでしまっている。余程、食べたくて仕方ないんだろう。そして、さらにぐうぅっとお腹が鳴る。
聞こえないふりをしてあげよう。
「あわわわっ……」
顔を真っ赤にしている千秋を見たらそうするしか選択はない。千秋も幼い言動を見ることが多いが一人の立派な女の子。お腹が減ってなってしまった音は恥ずかしいのは至極当然。
「ち、ちがう! 今のは、えっと……げ、げほんげほん。せ、咳だ!」
「そうか、良く分からないが何も聞こえなかったから気にしなくていいぞ」
「そ、そうかぁ、聞こえなかったなら良かったぁ……」
ほっと胸をなでおろす千秋。レディーである娘を尊重するのも父としての役割だろう。聞こえないふり、分からないふり。眼を細めて口元をへの字にして惚ける。上手く行って良かった。
「あ、北海道も良いんだが千春や千夏、千冬にも行先を聞いておこう」
「分かった! 我が聞いてくる!」
勢いよく部屋から出て行く千秋。旅行が楽しみで仕方ないと言うのが走り去る天真爛漫な姿から伝わってくる。彼女の元気のよい足音は不思議と心地よい。
そして、あと、笑顔が可愛い。全部ここに持ってかれる。結局、可愛い笑顔が良いんだ。あと、性格も可愛い。ここが重要だ。
正直、全国で一番うちの娘が可愛いんじゃないか? と思わず思ってしまう。授業参観で千秋の眩しい姿を見たら他の子が千秋の眩しさで見えないかもしれない。
「カイト! 聞いてきた。皆北海道が良いって!」
「そうかぁ、じゃあ北海道で美味しい物を食べ歩きツアーをしよう」
「わーい!」
――ぐぅぅ
再び千秋のお腹の音が聞こえて、千秋の顔は真っ赤になる。聞こえないふり、口をへの字にして目を細めて惚ける。
「あ、あうあうっ……は、はずい……」
聞こえないふり聞こえないふり。そんな可愛いお腹の音なんて放っておいて、もっと大事なお年玉をあげよう。
「ほれ、千秋。お年玉」
「え!? こ、ここでか、ああ、ありがとう……」
お年玉より乙女のプライドの方が大事らしい。そう言う所も可愛いな。
「あと、これ千春たちの分だ。渡しておいてくれ」
「う、うん……」
千秋にお金の入った可愛らしいキャラが描かれた封筒を渡す。封の所には金色のシールを張っている。千秋は受け取ると恥ずかしさに顔を紅にしながら急ぎ足で部屋を出て行った。
お腹相当空いてるんだなぁ。出店でかなり食べたと思うんだが……牛串につくね、たこ焼にエビ焼き、ポテト、クレープ。凄い食べた。一番食べてたのだ。それはもうガツガツと遠慮なしに。
千春と千夏と千冬の流石に遠慮しろよと言う視線に晒されても食べたのだ。
全く、それなのに千秋ときたら……
全く………‥食べ盛りでよろしい! 良いんだよ、子供は食べて成長するんだよ! 食べ過ぎくらいがちょうどいいんだ!
こっちも奢りがいがあるってもんだ。本当に千秋は可愛いな。一日に何回思うだと言う位、可愛い。自慢できる、何処に出しても恥ずかしくない娘だ……そんな娘がお腹を空かしているのであればすることは一つ。
俺は台所に向かった。
■
可愛い可愛い、白雪姫も嫉妬して、鏡を見れないくらい可愛い、うちの可愛い妹である千秋が顔を少し赤くしながら二階の部屋に来た。
何でもお兄さんがお年玉をくれたから届けれくれたらしい。
「お兄さんがお年玉を?」
「うん。くれるって」
「お礼言わないと……」
「我はもう言ったぞ! そして中も見た! 4000円も入ってた!」
「「「よ、四千円!?」」」
よよよ、四千円も!? 驚いて思わず目を見開いてしまう。うちだけじゃない、千夏と千冬も同様だ。
「よ、四千円って大金ッスよね……? そんなに貰っても……」
「そ、そうよ。こんなに……」
「でも、クリスマスの服の方が高いぞ」
「あ、アンタは何でそんなに何でもないような反応できるのよ!」
「我だって驚いたぞ?」
「全然、そんな風に見えないわ! 大金よ! 私達、大金をアイツから貰ったのよ!? さっきも飲み食いしたのに更に施しを貰ったのよ!? 夏から食費とか、筆記用具の補充、光熱費、全部アイツが払ってくれてるのに、ここに来て更にお年玉って!」
「おおー、千夏感謝の気持ちがあって偉いな!」
「そう言う事じゃない! いくら何でも……」
「遠慮するなってカイトは言ってたぞ?」
「だ、だけどさ……何か、引っかかるのよ……」
「だったらカイトにありがとうって言うべきだ。心に引っかかりが無くなるまで感謝を示し続けるべきだ! あとアイツって言うな! カイトか魁人さんか、お兄さんと言え!」
「……な、なによ……急に……」
千秋が千夏に真っすぐ視線を向ける。それに僅かに圧倒されて目を逸らす。千夏は以前とは比べ物にならないくらいお兄さんと距離が縮まっている。事情が事情の千夏がそこまでなれたのはお兄さんが良い人で良くしてくれるからと言う事もあるけど、千夏自身も何とか歩み寄ろうとした成果でもある。
千夏だって頑張っている。色々な所に視点を向けてお兄さんに気を遣っているときもある。それは千秋も分かっている。だから、千秋も無理に二人を仲良くさせようとはしない。
でも、真っすぐ好意を貰って、誰かに甘えて真っすぐお礼を言うことも大事だと千秋は知っている。
「すまん……千夏も色々あるのは知ってる。千冬も千春も大人の考えを持ってるのも知ってる。でも、時には頭を空っぽにしてカイトに甘えよう! そっちの方がカイトも喜ぶ、私達も絶対楽しい! 遠慮するより、甘えて感謝しよう!」
「……秋……アンタ……いつの間にそんな事言えるようになったのよ……」
「ふん、当たり前だ。我は何度も転生を繰り返しているからな!」
「意味わかんない……けど、それより前に言ってることはちょっと分かったわ」
「フフフ、そうかそうか。じゃあ、今すぐ行ってこい!」
「はいはい、分かってるわよ」
千夏が一番最初に部屋を出る。
「千冬、うち達も行こうか?」
「はいっス」
「我も行くぞ!」
部屋を出て四人で階段を下りる。降りながら千夏が千秋に話しかける。
「ねぇ、千秋、アンタさっき私って言わなかった? いつも我、我、言ってるのに」
「……言ってない」
「あれ? そうだっけ?」
千夏は気のせいかと首をかしげているけど気のせいじゃないよ。うちもそれが気になったから。
偶々、言葉の綾のように口走ってしまっただけかな?
僅かに考えてしまいそうになるがリビングの前についたので思考を彼方に追いやる。ドアを開けて中に入ると何やら甘い美味しそうな香りがする。
台所でお兄さんが何かを焼いている。
「カイト。何作ってるんだ!?」
「ホットケーキを作ってるんだ」
「ははーん、さてはお腹が空いたんだな? カイトは食いしん坊だな」
「あ、ああ、そうだな……」
お兄さんは返事をしながら目を逸らした。何か、隠してるのかなと思いつつも台所のお兄さんの元に四人で向かった。
「カイト、お年玉ありがとう! 嬉しい!」
「魁人さん、ありがとうございまス。大切に使わせてもらいまス」
「お兄さん、ありがとうございます」
「あ、ああ……そ、そんなに一斉にお礼を言われると恥ずかしいんだが……まぁ、お正月だからな」
「正月スゲー!」
恥ずかしがるお兄さんを目の端に捉えながら隣に居る千夏を見た。千夏は気まずそうに口を紡いでいる。
でも、意を決したように空気を吸い込んではいた。
「あ、あの、
千夏、一皮むけた成長の姿を見せてくれたのだがまさかの噛む。だが、そこが可愛い。きっとお兄さんもそう思っているのだろう。額を抑えて千夏を直視できていない。
千夏は噛んでしまった恥ずかしさで顔が真っ赤に、ぷるぷると震えて金髪が揺れる。うん、可愛い。
「ああ、どういたしまして……」
お兄さんもぎこちない笑みで俺を言う。そして、千秋は大爆笑。
「アハハハh! バッカでぇ! 噛んでやんの!」
――ぐぅ
「ひゃ!?」
可愛いお腹の音がなって今度は千秋の顔が真っ赤になる。千秋は何も言わずに下を向く、千夏も下を向く。静寂が支配する中で千冬は自分は何も知らないとそっぽを向く。
「さぁ、ホットケーキを食べよう」
「「は、はい……」」
優しいお兄さんのおかげで何とか、場の気まずい雰囲気が霧散する。その後はホットケーキを皆で食べた。ただ、うちと千冬、お兄さんはあまり食べずに殆ど千秋と千夏が食べた。
あんなに食べたのに……
全く、千夏と千秋は……
全く……いっぱい食べる二人が好き! 育ち盛りだからね。甘えても良いって分かったんだし、少しくらい食べても問題は無いよね。
何だか、千秋のおかげで皆、成長した気がする。今日一日を通して甘え上手の千秋を見て、あの熱い言葉を聞いて、もう少し甘えても良いと分かった気がする。
だから、今日のMVPは……千夏と千秋と千冬。
結局、全員可愛くて全員成長した気がするから全員だ。うん、新年早々、うちの妹達は可愛いい。
年越し前より可愛く見えるのだから不思議だ。
きっと、これからどんどん変わって可愛くなるんだろうなぁ。楽しみで仕方ない。
◆◆
お正月と言えば、何を思い浮かべるだろうか。カルタ、駒や凧揚げ、福笑いだろう。
「カイト、正月らしいことして遊ぼう!」
「うーん、鉄のカスタマイズできるコマとか、トランプならあるけど……カルタと普通のコマは無いんだよな。それでよければ」
「おー、じゃあみんなでトランプやろう!」
トランプって正月らしいのかな? まぁ、それはそれとして折角娘との接する機会があるんだ。
――ここは俺の偉大な背中を見せるチャンス
コタツに五人入って、二階の自室から取り出してきたトランプを出す。
「さて、何をしようか?」
「えっと、神経衰弱!」
「千冬もそれでいいっス」
「私も……」
「うちもそれが良いです」
「カイト! 本気で勝負だ!」
さてさて、ここで手を抜いて娘を勝たせると言うのも一つの手だ。だが、千秋もこういっている、さらにここでそんなことをするのは何か、カッコ悪い。
やはり、娘に見せる姿はカッコよくないと。そうすればきっと……頭の中では四人の娘が目をキラキラと輝かせているのが浮かんでくる。
『ええ! カイト凄~い! カイト本当に凄い! あ、カイトじゃなくてパパ凄い!』
『魁人さん……いや、お父さん……流石っス」
『やるじゃない……まぁ、私のパパなら当然だけど』
『うち感動したよ。パパ』
――このトランプにはパパになる必勝法がある
ここでカッコいい姿を見せてパパレベルを上げよう。
そして、神経衰弱が始まった。ルールは千冬、千秋、千夏、千春、俺と言う順番。カードの数字が揃った場合はもう一度カードをめくれる。
普通のルールだ。
だが、記憶力なら誰にも負けない自信がある。
先ずは自分の引いたカードは若干斜めにして、さらに四人がめくった所を場所法で効果的に記憶していく。場所法は世界の記憶力比べとかでも使われていると聞いたことがある。
場所と情報を関連付けて覚えることで記憶力がアップするらしい。
5はトイレ、3は下駄箱……
「「「「……」」」」
そして、必勝法を使いゲームの最終スコア。
俺、40。千春6。千夏2。千秋0、千冬6。チートを使いすぎたな。でも、これで尊敬の念を出さざるを得ないだろう。フフフ。
「カイト、大人げない……ずっと俺のターンで我は全然楽しくない」
「え!? で、でも本気でやれって」
「確かに、魁人さん……大人げないッス……」
「うん……魁人さんもう少し手加減した方が良いと思いました……」
「お兄さん、うちも流石に……やり過ぎだと思いました」
……次からは手を抜こう。娘の冷めた目に晒されて、俺は嫌われたくないからトランプで程よく勝負することを覚えた。
―