百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで 作:流石ユユシタ
「感想文どうしようか……我悩む」
「ああ、もう……無理ゲー」
うちの可愛い可愛い妹が二階の自室の机の上で頭を悩ませている。北海道から帰宅して幸せ気分なのは良い事だが、家に帰ってくるとすぐに現実に引き戻される。
千夏と千秋は冬春休みの宿題が終わっていない。冬休みの宿題には超面倒くさいものが一つある。
読書感想文である。もう春休みも終わりの季節が近づいている。そろそろ終わらせないと不味いのだ。
「ううぅ……面倒だ。読書感想文したくねぇ……原稿用紙四枚半とか過剰すぎる……」
「そうよそうよ!」
「一枚でも過剰なのに! あと、本読むのも面倒くさいし」
「そうよそうよ!」
「おうどん食べたいし」
「そうよ、そっ……え? なんでうどん?」
「お腹空いたから」
「自由過ぎよ……」
可愛い。うちが二人の事を感想文として書いたらレポート用紙軽く十枚は埋まるだろうなぁ。
「ねぇ、春手伝ってよ。読書感想文なんてちゃちゃっと終わるでしょ」
「おおー、千春が手伝ってくれれば百人力だ!」
「ううぅ、うちも是非とも手伝いたいけど……千冬が……」
「ダメっス。二人共宿題は自分でするように!」
千冬はこちらを監視するように千秋と千夏の近くに座っていた。机を四姉妹で囲んでいるがうちは手を出せない。
「無理無理、むーり! 私に読書感想文はむりー!」
「駄々こねないで欲しいっス……夏姉」
「むーりー」
千夏が駄々こねるように背中を床につけて寝転がる。それを見て千秋がハッとする。
「これは妖怪の仕業か!」
「そうよ、妖怪のせいで私は宿題が出来ないの。だから、手伝って」
「……夏姉は取りあえず本を読むっス。妖怪とか言ってる場合じゃないっスよ」
「ケチ」
「ケチで良いっス」
そう言って千冬は一冊の本を差し出す。千夏はちぇっと口をとがらせつつ本を受け取る。これ以上しても意味ないと感じているのだろう。
「うわぁ……文字の羅列ってこの世とあの世で三本の指に入るくらい嫌いなのよね……」
千夏が愚痴をこぼして本を開く。すると、千秋がうちに耳打ちをしてきた。
「実は千夏も我と同じ厨二じゃないかと思っている……」
「そうなの?」
「うん、時折厨二の片鱗を感じさせるんだ。こちら側に引き込めないか……ククク、その才を開花させてもいいだろうっと思っている」
「厨二の千夏も可愛いなぁ」
『クククク、私の真の力を目覚めさせてしまったようね』
ついでに千冬も厨二になっても問題なし。普段真面目な千冬が厨二も可愛い
『今日は風が泣いてるっス……っと千冬は語ってみるっス』
ああ、可愛い。でも、今はそれよりも
「千秋、読書感想文書かなくて良いの?」
「うっ……ねーねー、手伝って?」
うっ、この甘えにうちは弱いんだぁ……。千秋って偶にこういうあざとい所があるんだよぉ。眼をキラキラさせて上目遣いはダメだぁ
「……ちょっとだけだよ?」
「わーい!」
「ダメっス!」
手で親指と人差し指を近づけて、本当に少しだけだとアピールする。すると、千冬は腰に手をあててダメだぞっと顔をしかめる。
「えぇ、千冬ケチ!」
「ケチで良いから秋姉も宿題を」
「もういい。カイトに付きっきりで教えてもらうから」
「えぇ!? あ、そ、それは……でも、宿題は自分でやらないと」
「カイト困ったら頼って良いって言ってた!」
「……ううぅ、それなら……千冬が手伝っス……」
「え!? 良いの!?」
「……う、うん」
「え!? 何それズルい! 私にも教えてよ!」
「こ、今回だけっスよ……」
千夏もそれに便乗して千冬に寄り添う。教えてー、教えてーっと千夏と千秋に挟まれどうしてこうなったと頭を抱えながら千冬は本をもう一冊鞄から出して千秋に渡す。
「取りあえず二人共、本を読むっスよ。どっちも千冬は読んだことあるから、二人が読み終わったら色々手伝うっス……」
「「はーい」」
千冬は沢山本を読んでる子だからいくらでも感想文なんて書けるんだろうなぁ。二人は生徒のように返事をすると本を読み始めた。千冬は複雑そうな顔をして腕を組んでいた。
千夏と千秋は欠伸をしたりしながらも読み進め、読み終わると原稿用紙に仏頂面で向かい合う。千冬は最低限と言う立ち位置で手伝った。
結局、うちも手伝って手早く読書感想文は終了した。。
◆◆
春休みと言うのはあっという間に終わってしまうものだ。あと、何日だとカレンダーで数えている間に気づいたら数日しか休みが残っていない、明日が登校日だと気づき慌ててしまうのはよくあることである。
春休みとはそれだけ充実した行事と言えるだろう。
だから、終わってしまうと途端に元気がなくなり学校に行くことが苦痛になる。現在妹達も学校に向かうバスの中で気だるそうに窓の外を見たり、腕を組んで難しそうな顔をしたりしている。
今日から五年生だと言う事で勉強などが難しくなることへの不安などもあるのだろうか。
他にはもしかしなくても、クラス替えの不安はあるだろう。
四年生徒の時は二つのクラスにそれぞれ、うちと千秋、千夏と千冬と別れていた。だけど、今回は分からない。もしかしたら、三対一という構図になってもおかしくない。四姉妹である以上誰かと一緒のクラスが良いと思うのは当然だ
今後の学校生活が懸かっている。
クラスとはそう言うものだ。
バスから最寄りのバス停で降りると学校への道を歩く。桜の花びらが散って空に舞う。千夏と千秋と千冬が五年生に進学したことを祝福するように綺麗に舞う。
可憐な三人と美しい花弁。渾然一体となってまるで女神のお遊戯を絵画にしたかのようだ。
三人が美しいのは世界の事実だが、それを主軸にしてこの桜がいつもと違った面をのぞかせう。桜の花びらいい仕事する、褒めてあげよう。
さて、学校に向って行き下駄箱前に張り出されている新たなクラス表を確認する。
「っ! あ、私達全員一緒じゃない!」
「おおー!」
「こういう事もあるんスね……よかったぁ」
「そうだねぇ」
まぁ、当然だよね。何と言ってもうちが学校アンケートの自由記入欄に長文で姉妹と同じにするように頼んだからね。
これで違うクラスだったら抗議だ、抗議だ! である。
「あ、これ、秋姉が言ってた西野君じゃないっスか? 同じクラス見たいっスよ」
「良かったじゃない。仲良しの西野と一緒で」
「へぇー。そうなのか。今日って給食あるのか?」
「今日は無いっすよ」
千夏と千冬が西野が一緒だと千秋に言うが特に反応もせずに千秋は給食の方に思考が向いてしまう。
「なんだー、無いのかー。学校に来る八割の意味が消えたなー」
「これだから大ネズミは……」
「五月蠅いぞ千夏。お前も小ネズミって呼ばれてるからな」
千夏と千秋の会話をBGMにしながら下駄箱で靴を履き替えて、シューズを履いて新しい教室に向って行く。
教室に入ると席が黒板に張り出されている。窓側の列に全てうち達四人はそろっていた。千秋、千夏、うち、千冬の順番だ。
最高。
さてさて、席に着いた後はお土産を配る。隣のクラスにはうちだけでなく、千夏と千冬の元クラスメイトもいる。取りあえず、四人で分担して渡して渡して、を繰り返す。
「え? いいの?」
「ありがとー」
「サンクス」
皆、嬉しそうにオシャレクッキーを受け取る。やっぱりお兄さんの言っていた通りお土産って凄い効果だ。これだけで何か良い奴のように見えるのかもしれない。賄賂と言うわけではないが何だか物で人気を稼いでいる気分になる。
まぁ、うちの妹はそんなことをする必要がないのだけど。
「よし、お前たちにこの
千秋が男子達にお土産のクッキーを数枚手渡す。その他大勢と言った感じだが中にはあの西野がいる。
「ま、まぁ、しょうがないから貰ってやるよ」
「そうか。おーい! そこの風来坊たち! お土産やるぞー!」
「これ、お土産っス。どうぞ」
「あ、ありがとう」
「いえ、そちらの方も」
「これ、あげる。そっちのアンタとあそこにいる人にも私貰っていいかしら?」
「あ、うん」
皆、照れてるなぁ。まぁ、仕方ないよね。そんな感じで教室の隅でニヤニヤしているとポンと肩を叩かれる。
「おっすー、千春」
「久しぶり、桜さん。あ、これお土産」
「おー、サンキュ。あと、これから一年シクヨロで頼むわ」
「こちらこそよろしく」
桜さんはちょっとチャラい感じだけど親しみやすいから何も問題は無い。これから同じクラスと言うのは少し嬉しい。
「それにしても、四人一緒で良かったな」
「うん。毎回学校アンケートで長文でクラス一緒にするように頼んでたから」
「あー、そういうことか……だから、前はあんな○×アンケートでカリカリ鉛筆の音がしてたのか……」
「うん。そうだよ」
桜さんは若干の苦笑いをしていた。流石にやり過ぎたのだろうか。でも、同じクラスになったわけだしどうでもいいか。
「じゃ、俺あっちの席だからバイビー」
そう言って桜さんは自身の席に向って行く。桜さんとは近くの席が良かったけど仕方ない。
桜さんは前に男子に一人称でからかわれる時があった。女の癖に俺とか馬鹿じゃないのとか、男女男女とからかわれてたりもした。その中に西野もいた。年頃なのか女の子をからかってしまう事もあったのだろう。
それをうちや千秋が止める時もあったけど。
ただ、桜さん本人は特にどうでも良いと言った。一瞥して相手になどをしなかった。
どうしてと聞いた。一対一になった時に思わず聞いてしまった。
『自分の生き方に信念を俺は持っているからだな。俺って一人称は昔、弟たちが虐められてたから、守る為に使い始めたんだ。まぁ、弟が同じ学校に居るから弟たちに手を出したらどうなるか分かっているな見たいな不良の雰囲気って言うか、そんな感じを出したいって言うか……それは効果覿面でビクビクしてたよ、虐めてた奴はさ』
思わず、この人とんでもない人だと口に出しそうになった。素直に好感を抱いた。何だか、同じ穴の狢だと感じた。
この人とは仲良くが出来ると素直に思ったのだ。
ただ、それと同時に西野は無理だと思った。
◆◆
「北海道に行ったとはな」
「まぁな。他にもデパートに行って買い物とかな」
「ふーん」
隣で例の如く佐々木に我が家の事情を説明する。佐々木も意外と気にしてくれているのだろう。根は良い奴だと言うのは知っている。
「もう、半年以上経過したが大変な事とかあるのか?」
「そうだな……一緒にテレビを見ているときに芸能人がトンデモナイ下ネタとか言うと場が凍るな。千秋と千夏は知らないからどういう意味っと聞いてくるのはちょっと気まずい」
「あー、それ分かる。俺も両親の一緒のテレビ見てるときに、普通にテンガとかテレビで言うから気まずかった」
「あとは、そうだな……四人も年頃だからな。どこまで接していいとか、触れて良いのかとかか?」
「大変だな」
「いや、そうでもないさ。四人全員良い子だ。常に行動に配慮がある……無意識だろうけどな」
「小四で無意識な配慮って……それだけ育った環境が影響してるって事か」
……そう言えば佐々木にはこの話を……してないな。四人の生い立ちとか。と言う事は前に宮本さんと話してるときにこっそり聞いてたなコイツ。
まぁ、言いふらす奴じゃないからいいけど。
「日辻部長って頭おかしいとは思ってたけど、やっぱりおかしかったのか」
「そうだな」
特段、今更そのことをどうこう言うつもりはない。だが、四人と関わるうちに避けては通れない物ではあると思うがな。
「まぁ、死んでる人をどうのこう言うつもりはないけどさ。死んだのに影響が残るってのは怖い事だな」
「そうだな」
間違いなく彼女達の両親は彼女達に悪影響を及ぼした。だからこそ、その影響をいい影響に出来るのかどうかと言うのが大事なのだ。
俺が良い方向に導けるのかどうか……
「魁人君、お土産ありがとー」
僅かに思考の海に飛び込んでしまう一歩手前で宮本さんの声が聞こえた。
「美味しかったわ。やっぱ、こう、センスがあったわ」
「ありがとうございます」
「他の社員、男女問わずセンス、センスって言ってたわ」
「そうですか」
「魁人君って結婚したらモテるタイプなのかもね」
結婚したらモテるタイプって何だ? 別に結婚はしてはいないんだが。ただ、パパなだけで。
結婚飛ばしてパパって他にいるのか。どうでもいいか。
「っち、俺もお土産買って来ればよかった」
「お前もどっか行ったのか」
「沖縄と石川と福島と茨城かな」
「いや、それは職場になんか買ってこい」
良い奴なのに勿体ないな。もしかして、こいつも結婚したらモテるタイプかもしれない。
「あー、そうだ。魁人君、娘の写真見せてよ」
「フッ、良いですよ」
思わずほくそ笑んでしまった。自慢の娘を合法的に嫌見なく自慢できるからである。スマホに千秋の食事の写真を映し出す。
「あー、可愛い。昔を思い出すわ」
「これ、ネットにあげたらバズるんじゃね?」
宮本さんと佐々木、それぞれ反応する。どちらも褒めと言うか尊いと言う感情は持っているようだ。
「これをネットにあげたら一々ネットニュースになってしまうからな。今の所、娘達には普通の生活をして欲しいからネットにはアップしない。それに身元特定とか訳分らないことになっても困るしな」
四人ならいずれ芸能界とか入って大ブレイクをしそうだが、しばらくは平穏が良いのでないかと考える。ネットは誰が見ているのか分からないから上げられないとか理由は沢山だ。
「そうね。私も娘をネットにはあげないわね」
「ですよね」
「ふーん、そういうものか」
まぁ、これが正解とは言えないが一つの答えでもある。佐々木の言った事も答えであることに変わりはないだろうな。
「そう言えば、魁人君。運動会とかあるんじゃない」
「はい、親子バレーで活躍出来なかったのでリベンジに燃えてます」
あの時の、足をつった記憶は忘れない。今度こそ大活躍をすると心に決めているのだ。
「また、写真見せてもらっていいかしら。何だか、昔を思い出して心が躍るのよ」
「良いですよ」
「じゃ、ついでに俺も」
「仕方ないな」
「……いや、お前の宮本さんと俺の反応の差よ」
そうだな、運動会に向けて体を鍛えなおさないとな。あとは冷めても美味しいお弁当の研究とかしないとな