百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで   作:流石ユユシタ

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43話 擬人化

 体がふわふわする。只管にふわふわする。

 

 

 俺は気付いたら玄関の前に俺は立っていた。空がピンク色でシャボン玉のような物がそこら中に浮いている。何だろう、まるでヘンテコなアニメの妖精界にでも来てしまったような……

 

 だが、取りあえず目の前にある我が家に入ろう。鍵を開けて中に入る。

 

「おかえりー! カイト!」

「魁人さん、お帰りなさいっス」

「魁人さん、お帰りなさい」

「お兄さん、お帰りなさい」

 

 

家に入ると千春達が出迎えてくれた。非常に嬉しいのだが何故か服装が体操着なのはどうしてだろう。赤を基調としている半そでと短パン、動きやすそうだな。俺も昔こんな服を着ていたことがあるような気がする。

 

 

「カイト! 疲れただろう! ご飯にする? お風呂にする? それとも……我か?」

「……どこで覚えたんだ? そういうのはまだまだ……」

「ちょっと、魁人さんは私が癒すのよ!」

「違うっス! 千冬っス!」

「じゃあ、中間をとってうちが」

 

 

……なんだ、この空間は。俺は夢でも見ているんだろうか。ふわふわッとしているこの感じ、そこら中にあるピンクの雰囲気、そしてシャボン玉。これは夢だな。

 

確定演出だ。

 

 

「カイト! 我を選べ! そしたら、極上の気分になれるぞ!」

「私の方がいいですよ。魁人さん」

「千冬を選んでくれると……嬉しいっス……」

「お兄さん……」

「お、おい! 今日は我だぞ!」

「はぁ!? 私よ!」

「最近、出番のない千冬が」

「……間を取ってうちが……」

 

 

こんな夢を見てしまう自分にも責任があるのだろうか。

 

 

「なぁ! カイト! 私を選んで!」

 

 

千秋がそう言う。そう言う彼女の手にはメロンソーダが握られていた。そして、体操服にはいつの間にかタスキがかかっており、そこにはこう書かれていた。

 

『メロンソーダ擬人化』

 

 

いつもの笑顔で彼女は俺にメロンソーダをサムズアップで手渡そうとする。そして、それを邪魔する千夏……いや……

 

『レモンサワー擬人化』

 

「何言ってんのよ。魁人さんの今日の気分はレモンサワーなんだから!」

 

 

彼女にもいつの間にかタスキがかかっており、そこには千秋と同様に『レモンサワー擬人化』の文字が。そして、千夏はレモンサワーが握られた手を俺の元に伸ばす。これを取ってと言う事だろうか。

 

「ち、千冬を……」

 

 

ハッとする。千夏、いやレモンサワー擬人化の隣には千冬、いや……『巨峰ワイン擬人化』。彼女はグラスにコトコトっと一生懸命ワインを注いでそれを俺に捧げるようにする。

 

「魁人さん……、これ……」

「あ、ありがとう……」

「え? カイトはワインを選ぶの? 私じゃないの?」

「いや、千秋……じゃなかったメロンソーダ擬人化。そう言うわけじゃないんだ」

「え? か、魁人さん?」

 

そ、そんな目で俺のを見ないでくれ。千冬。じゃなくてワイン擬人化。ただでさえ、最近は……思わず悩んでしまうと

 

 

「お兄さん、うちを選んでくれるんですよね?」

「ち、千春……」

 

 

そう言う彼女の体操着にはタスキが例のようにかかっており、『ピーチチューハイ擬人化』と言う文字が。

 

「口移しで飲みますか?」

「いや、普通でいいよ……」

「そうですか。ではどうぞ、グイッと一杯」

「う、うーん」

「え? 飲んでくれますよね?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 

 

そんな淡々と言われても飲めない物は飲めない。と言うか何なんだ、この夢は、何だか姉妹間の雰囲気も殺伐してきているし、夢とは言えそんなものは見たくない。

 

これは夢だ、覚めてくれ。

 

 

「……お兄さんは誰も選ばないんですね」

「残念。コンビニで買いたて新鮮のレモンサワーなのに」

「カイト……毎日、メロンサイダー飲むって約束したのに」

「ワインは王の薬なのに」

 

 

何だか、四人の雰囲気が暗くなる、それにつられて部屋のピンクの雰囲気が消え、シャボン玉が次々と消えていく。

 

そして、ドンっと玄関の床が消えて奈落が現れる。

 

「ええああああAAA?!?」

 

俺は言葉にならない声を上げて落ちていく。下に下に。腰が浮くような気分になる。ジェットコースターに乗っている気分に少し似ている。

 

 

「うあぁっぁぁぁぁああああ!!!!」

 

 

ドンっと勢いよく背中に僅かな痛みが走る。そこでハッと意識が覚醒する。自分の姿を確認するとパジャマ姿で場所も自分の部屋。ベットから落ちたようだ。

 

時間を確認すると丁度いつもの起きる時間なのでカーテンを開けて日を浴びる。そして、夢を振り返る。

 

何という、夢だ……

 

 

「か、魁人さん?」

「ワイ、ン……じゃなかった千冬、おはよう」

「えっと、おはようございまス……ワイン?」

「ああ、すまん噛んだんだ。気にしないでくれ。それにしても今日も早起きか偉いな」

「い、いえ、別にそんな……」

 

 

どうやら、俺がベットから落ちた音を気にしてわざわざ部屋に来てくれたらしい。ありがとう。千冬は本当に偉くてすごいな。身だしなみも整っているし、眼もぱっちり開いている。本当に努力家で真っすぐな子だな。

 

「でも、頑張り過ぎは良くないから控えてくれよ」

「は、はいッス」

「よし、俺も頑張って朝ごはん作るか」

 

 

そう言って俺は僅かに背を伸ばした。千冬は背中が大丈夫かと気遣う視線をくれた。本当に優しい子だ。

 

こんなに優しい子に

 

 

……いつまでも、気づかないふりは良くないのかなぁ。

 

僅かに思ってしまったが、俺には何も言えない事を悟ってしまった。だから、それをする選択肢を俺は見ないことにした。

 

……ごめん

 

俺にはそこに踏みこむ勇気も資格もないのだ

 

 

◆◆

 

 

 

「大丈夫? 千冬?」

「大丈夫っスよ」

 

 

うち達は現在体育の授業をしている。運動会の個人徒競走の練習をしているのだ。運動会にはクラス競技と個人競技、親子競技がある。

 

クラス競技はリレー、個人競技は徒競走、この二つは走る距離は同じだ。バトンがあるかないかくらいの違いしかない。

 

トラックを一周する、それだけ。親子競技も同じ、親子で手を繋いでトラックを一周。レパートリーが少ないと感じるが五年生はそう言う競技が伝統らしい。

 

千冬は足が不調なために、練習には参加できないがちゃんと体操服に着替えて、整列して他の生徒の走る姿を見ている。無理をしないでと言いたいが千冬はやるべきことはしっかりやると言う性分なので敢えて言わない。

 

 

今は千秋と千夏がトラックを走っている。千秋がぶっちぎりだ。千夏はちょっと後ろで頑張って走っている。腕をめいいっぱいに振っている。

 

 

「相変わらず速いっスね」

「そうだね」

「夏姉はガッツがあるし」

「千冬は律儀で可愛いよ」

「どうも……」

 

千冬はちょっと苦笑いをした。褒められて恥ずかしいのかな。

 

「……本当は徒競走で一番になって魁人さんに褒めて欲しかったッス」

「お兄さんなら、頑張った事を褒めてくれると思うよ」

「確かにそうっスけど……」

 

 

過程も結果も大事。そんなことは分かり切っている。うち達は全員頑張っている言うのがお兄さん。それを言われるのは当たり前で今までならそれ満足できた。だけど、結果でも結果を出して特別に褒められたいと言う事かな?

 

 

一番になるってそんなにいい事なのかな?

 

 

千冬がお兄さんを意識しているのは知っている。だけど、それはそんなに良い事なのかと疑問に思った。お兄さんは良い人だけど、一番とか、特別とか、そんな気持ちになったことはない。

 

ママは少しあるけど。

 

 

「私ね、徒競走で一番になったらご褒美に欲しいもの買ってもらうんだ」

「へぇー。何買ってもらうの?」

「グルメスパイザー」

「へぇ」

 

 

思わず隣から聞こえてきた会話を意識する。別に千冬は物が欲しいとかじゃないらしいし。気持ちか……そう言うの欲しくなるってやっぱり成熟してきてるのかなぁ。

 

 

「おーい!」

 

 

走り終わった千秋がダッシュでこちらに向かってくる。笑顔で走れない千冬を元気づけるように。

 

「じゃじゃじゃじゃーん! 紅白マン!」

 

千秋は紅白帽子を立てて、帽子のつばが空に向かうようにする。そしてそれを頭にのせる。まるでどこぞのヒーローの様である。

 

これは、千冬の気分を上げる為にやっていると姉として推測する。

 

 

「ふっ、ちょっとだけ面白いっスよ」

「え? ホント!?」

「ちょっとだけっスけど」

「わーい!」

 

 

三人で集まっていると、肩で息をしたフラフラな千夏がこちらに向かってくる。

 

「き、キツイ……この、太陽(ライジング・サン)が、キツイ」

「お疲れっス……夏姉」

「ふ、冬、応援ありがとッ……おかげでいつも以上の力が出たわ……ぜぇぜぇ」

「いや、お礼は良いっスから、休んで欲しいッス……ほら、肩を」

「いいわ、アンタ、あ、足を、怪我、して、るから」

「千冬より重症に見えるっスよ……」

 

 

千冬はずっと応援してた。それに気づいてちゃんとお礼を言う千夏も偉い。千秋も可愛いし偉い、千冬は偉い。無限に褒めてしまいそうになるのでこの辺りで止めておこう。

 

 

「ほら、うちが肩を貸すよ」

「あ、ありがと。でも、これくらい貸りるほどじゃない」

 

千夏は自分で立った。本当に千夏は太陽が苦手だ、だけど千冬にだらしない姉としての姿を見られない様にしている。

 

「千冬、いっせーのーせぇー、やろう」

「……秋姉、負けると不機嫌になるから」

「ならないならない!」

「じゃ、じゃあ……少しだけ」

 

 

千秋、一人だけ千冬を退屈させない様に……涙が出るよ。千秋は両手をグーにしてそれを立ててカニのように合わせる。数字を言うのと同時に親指を立てる遊びを今ここでやろうと言うんだ。

 

確かに、暇つぶしと同時に無理に体を動かさないと言う最高のベストマッチ。

 

 

「ああ! も、もう一回!」

「あ、はいっス……」

 

 

「むぅ! もう一回!」

「……」

 

 

「今、わざと負けたな! お姉ちゃんには分かるんだぞ!」

「ご、ごめんっス……」

 

 

「も、もう一回!」

「やめなさい、みっともない。アンタじゃ冬に何度やっても勝てないわ」

「はぁ?」

「冬、私が相手をしてあげる」

 

そう言って千夏は両手を合わせてカニの甲羅のようにする。きっと、二人が遊んでいるのを見て自分をしたくなったと言うのと単純に千冬と接したいと言う気持ちもあり、さらに千冬への気遣い。

 

 

「ふふ、覚悟しなさい、秋は四姉妹の中でも最弱よ。同じと思って私にかかると後悔するわ」

 

 

ミステリアスにそう笑って手を出す千夏、千冬もカニの甲羅のようにした手を出す。

 

「「いっせぇーの……」」

 

そして、二人の勝負が始まる。

 

「ふ、ふーん、やるじゃない。ただこれは三回勝負よ」

「あ、はいっス」

 

 

「……三って数字が悪いのよ。五回勝負にしましょう」

「……」

 

 

「今ワザと負けたでしょ! 分かるのよ!」

「ご、ごめんっス」

 

 

負けず嫌いで素直なのが千夏のいい所である。本気で臨んでくれるから接しやすいし見ていて、一緒にいて微笑ましくなる。千冬もだんだんと笑顔が。

 

 

「じゃあ、最後はお姉ちゃんとやってみようか」

「春姉と……?」

「うん。大丈夫、一回だけだから」

「是非」

 

千冬と何かで勝負すると言う事はあまりしない。勉強くらいだろうか。でも、千冬は最近あまりうちの点数とか意識しない。

 

気にしないからわざわざ言わないけど、ちょくちょく負けてる……。姉として一番であり偉大な背中を見せないと言う意識がある。

 

テストで負け始めている以上、これは負けられない。

 

 

「「いっせぇーの……」」

 

 

そして、高度な心理戦が始まったのだ。だけど、ごめんね。

 

「あ、あれ? ま、負けた?」

「惜しかったね」

「も、もう一回、良いッスか!?」

「勿論」

 

 

この勝負には必勝法がある。それは姉として妹の様子をずっと見てきたから大体の考えていることは分かると言う事。勿論、全部ではないけれどこういうゲームならほぼ確実負けない自信がある。

 

 

「う、うーん。全然分かんないっス……」

「春は私と同じでポーカーフェイスが得意ね」

「いや、千夏ではなく我に似て得意だ」

「いや、アンタは秒でわかるわ」

 

 

――うちの姉妹は全員、負けず嫌いである。

 

 

やっぱりと言うか姉妹なので思考とか、好みとか性格が似てしまう所は多々ある、朝のアホ毛とか。こういう負けず嫌いなとことか。

 

嫌いじゃない、そう言うの。寧ろ好きだ。

 

 

「春姉強すぎっスよ……」

「お姉ちゃんだから。これくらいはね」

「もう一回だけ良いっスか!」

「いいよ」

「我も参戦する!」

「じゃあ私も」

「いいよぉ」

 

 

あ、これ体育の授業だった。すっかり忘れていた。だけど、まぁ、良いか。偶にはさぼってもね……

 

 

◆◆

 

 

 

 

 仕事場の昼休み、冷めても美味しい弁当と言う題材の本を読んでいると佐々木が俺に話しかけてきた。

 

 

「お前、何見てるんだ?」

「運動会に作っていくお弁当だ」

「また、お前はパパ活しやがって」

「……おい、その言い方止めろ」

「良い意味でパパ活しやがって」

「良い意味でって付ければ何でも言っていい訳じゃないからな」

 

 

佐々木は無視しよう。それよりも膨大の数ある料理の中から何を作るか決めないとな。

 

だが、無理して本の中から選ぶ必要もないかもしれない。定番と言うのあるのだからそれにあやかって作ればいいと言う考えもある。

から揚げ、卵焼き、アスパラのベーコン巻、たこさんウインナー。

 

 

本を眺めるだけだが、不思議と本に書かれている以外の色んな料理が頭に浮かんでくるから不思議だ。

 

インスピレーションを受けているのかも。作りたいものが色々浮かんでくる。だが、それは俺の好みとかエゴが反映している可能性もある。

 

 

何が食べたいか、四人にドラフトしてもらう方が良いだろうな。

 

 

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