百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで   作:流石ユユシタ

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56話 千夏だけに見えたモノ

 とある夏休みの日の朝。朝食を食べ終えて優雅な朝を過ごしていた。

 

「カイト、自由研究メンドクサイから、十円玉お酢に入れてピカピカにする実験でいい?」

「あーまぁ、良いのかな? いや、でもこういう時は普段できない物にチャレンジもありだぞ? アリの巣の観察実験とかどうだ?」

「一日で終わらないし、我そもそも虫嫌いだし」

「そ、そうか? ……だ、だけど折角だから色々な事に意識を向けた方が良いんじゃないか?」

「じゃあ、どの液体に十円玉入れたら一番ピカピカになるかやる」

「そ、そうか……」

 

 

 どうやら、相当夏休みの自由研究がやりたくないらしい。千秋はむすっと顔を可愛く歪めながらソファに横になる。半袖短パンでクーラーが効いた部屋は宿題するには最適な環境であると思われる。

 

 だが、それが逆に眠気を誘う要因になってしまっているのかもしれない。千秋はソファに横になるとウトウトし始める。

 

 千冬は真面目にドリルを答えを見ずに辞書使って調べたりしながら進めている。偉い! 

 

 答えがあるからついつい見てしまいそうになるのをこらえて、自身で問題を解いていく。それが意外にも難しい事なのだ。千春も千冬の隣で黙々と課題に取り組んでいる。

 

 だが、千秋はソファの上で眠りについてしまった。うん、だけれども寝る子は育つからな! 

 

 千夏は寝ていないがドリルを開いたまま筆を走らせない。何やら悩ましそうな表情をしたまま動かないのだ。

 

 もしかして、分からない問題があるのだろうか? よし、俺が教えよう。

 

「千夏、何か分からないところがあるのか?」

「……いえ、そう言うわけじゃないです」

「そうか? 何でも言ってくれていいんだぞ?」

「……」

「……?」

「……ちょっと、こっち来て貰っていいですか?」

 

千夏は席を立ちリビングのドアの方に向かって、その後に俺に手招きをする。そう言われたら別に断る理由はない。俺は一旦リビングを出た。

 

フロアはクーラーの効力が届いていないのか蒸し暑い。

 

「あの、ちょっと」

 

千夏が再度手招きをするので膝を落として目線を合わせる。すると彼女は俺の耳元で囁くように告げた。

 

「……それは、千夏だけで行きたいって事か?」

「はい」

「そうか……」

「三人が行っても辛いだけだと思うので」

「だよな……どうして……いや、理由は今はいい。本当に今日、行きたいのか?」

「はい、今日がいいんです。今日しかないと思うんです」

「……分かった。準備するよ」

「……ありがとうございます」

 

 

彼女は小さい声でそう言った。

 

 

◆◆

 

 

 

太陽の強い日差しが差し込むとある夏休みの日。俺は車を走らせる。助手席には金髪をツインテールにまとめた千夏が座っている。

 

彼女はいつもこれと言って我儘を言わない子だ。感情もあまり出さない。そんな千夏が言ったのだ。

 

『両親の墓参りに行きたいです……』

 

 

正直の言うと驚きがあった。普段の生活とゲーム知識、どちらの視点から見ても彼女は親へ対しては無頓着、無関心。怒りすらも捨てるような認識しかもっていないと思っていたからだ。

 

ゲームでは親に対して彼女が触れるような事は一切ない。感謝などない。普段の生活でも話したりする事もないし、姉妹間で話すような事もないから彼女は両親になにも抱いていないのだと俺は考えていた。

 

 

それが普通だと思うから特に何も言わなかった。面倒も見てくれない、暴力を振るって、軟禁状態にして、殺そうともしたのだ。なにも抱く必要もない。

 

俺が子供だったら絶対にそう考える。

 

だが、彼女は墓参りに行きたいと言った。驚きがありつつも俺は彼女の願いを叶えようと思った。彼女の眼には強い意志が宿っていたから。

 

 

車を走らせる。彼女の両親の墓に向かって。

 

 

俺は一応スーツで、彼女も黒を基調とした夏なのに暑苦しい畏まった服で。

 

 

「多分、ここだと思う……」

「ありがとうございます……魁人さん場所知ってたんですね」

「一応な……」

 

 

ゲームで薄らと聞いたことのある情報をもとに俺達はそこに辿り着く事が出来た。冷房を効かせていた車の外は熱くて日差しも強い。

 

「あ、こ、これは……」

 

千夏が日差しの受けてふらふらっと力が抜けたように肩を落とす。俺はすかさず日差しの傘を開いて彼女に影を作った。

 

「あ、ありがとうございます……でも、なんで日差し傘を……?」

「紫外線はお肌の天敵だからな」

「あ、ああ、そう言う事ですか……」

 

彼女に日傘を渡して駐車場を進み、沢山の墓地がある場所に辿り着いた。付近に置いてある手桶に水を入れ、一緒に柄杓を持って墓を探す。少しだけ探せばすぐに彼女の両親の墓地を発見した。

 

日辻藤間 

 

日辻謳歌

 

 

一緒の墓に入ってるんだったな。一周忌だとしても俺は特に何も思っていない、一応スーツでは来たが尊敬もなければ同情もない。

 

手も合わせる事もない。

 

 

「千夏……?」

「今日は、暑いですから……」

 

 

彼女は墓石の上からに柄杓を使って優しく水をかけた。その後、彼女は手を合わせて少しだけ目を瞑った。

 

「……それじゃあ、この辺で帰りましょう」

「そうか……」

 

 

千夏がそう言うならそれでいいと思い道具を戻して車に戻る。鍵を開けてエンジンをかける。車の中は炎天下で放置していたのもありサウナのように暑い。冷房を入れて空気を冷やす。

 

 

そのままアクセルを踏んで帰りの道を走り出す。

 

 

聞いて良いのか、どうなのか、分からないが気になっていることがある。どうして、彼女は墓参りがしたいだなんて思ったのか。あまり触れたくないはずなのにわざわざ自分から触れるなんて相応の理由があるのだろう。

 

チラリと隣を見ると彼女は窓の外をただ見ていた。その姿が凄く大人びていると感じた。何を考えているのだろう。聞いても良いのだろうか。でも、なんか聞きにくい感じがする。

 

そんな事を考えていると、隣の千夏が口を開いた。

 

 

「あの、魁人さん、ありがとうございました」

「いや、気にしなくていいさ」

「……あの、私、魁人さんに話さないといけない事があって」

「なんだ?」

「今日、どうして墓参りに行きたいって言ったか……」

「……無理に言わなくてもいいんだぞ?」

「いえ、連れてきてもらっているので、しっかりと理由の言うのが筋かなって……だから、言わせてください……」

「そうか……じゃあ、聞かせてくれ……」

 

 

彼女は語りだした。どうして、今日、一周忌の日、酷い目に遭って来たのに墓参りをしたいと言ったのか。

 

「私、今まで生きてこられたのって、ずっと春のおかげって思ってました……秋も冬のおかげでもあるんですけど……やっぱり一番は春かなって……」

「千春は良いお姉ちゃんだもんな」

「はい……。春は昔から全部一人でやろうとしたり、背負ったり、そう言う姉でした……それで一回、とんでもない事もあったんですけど……。でも、何だかんだで春はいつも背中を押してくれて、慰めてくれて、私の……憧れの人、姉です」

「そうか……」

「本当に昔から春が何でもしてくれたから春が私達姉妹を支えてるって思ってました。春が居るから全部があるって言うか。ちょっと大袈裟な気もしますけど、本気でそう思ってました」

「……」

「でも、魁人さんの出会って、その考えが少し、変わりました」

 

 

彼女はそう言った。その時、俺は嬉しかった。自分が何かを変えられていると分かったから。

 

 

「魁人さんと一緒に居て、姉妹の外にも世界があるって分かったんです。ずっと、内側にしか目が向かなかったけど、朝ごはんも、お弁当も、夜ご飯も、服も電気もお風呂も、ゲームもそれを与えてくれたのは魁人さんだったから。春じゃなかったから」

「……」

「魁人さんにもお世話になっていると分かった時に、今まで見えなかったことがどんどん見えるようになって……。今、私がここに居るのってきっと、春だけでも、魁人さんだけでも、秋や冬だけでもない。きっと、ここに私が居られる理由って、見えないところも含めて色んな人たちのおかげだなって思ったんです」

「凄いな……俺はそんな風に考えたことない」

「凄いんですかね? 私はただ、自分が面倒くさいように思います。あんなに酷いと思っていた両親までに少しだけでも感謝をしてしまうんですから……」

「それが、今日墓参りをしたいと言った理由なのか?」

「はい……。あの人たちは酷かったし、最低限以下の事しかしてくれなかったけど、それがあったから私が居る。産んでくれたからここに私が居る。あと、私千夏って名前を気に入ってるんです。姉妹に春夏秋冬に名前を付けるセンスは凄いかなって……」

「そうか……」

「世界一、大嫌いですけどね……。怒りが湧いてきます」

「それでいいと思うよ……お前は、千夏は凄い子だな……」

 

 

思わず、素が出てしまった。それほどまでに驚きがあった。俺はいつも仮面とまでは言わないが彼女達に接するときはなるべく勝手な自身のイメージだが、優しい父な感じを出している。

 

でも、今だけは驚きで自身の素を出してしまった。

 

 

「魁人さんが居たからだと思います。だから、きっと、魁人さんの方が凄いです」

「そんなことはない」

「いえ、魁人さんの方が」

「いや、千夏の方が」

「いえいえ」

「いやいや」

「いえいえいえ」

「いやいやいや」

「……じゃあ、面倒くさいので両方凄いって事で」

「そうだな」

 

 

平行線だと分かった彼女はそう言って話を切った。

 

「あの、魁人さんにお願いがあるんです」

「どうした?」

「私、料理がしてみたいんです」

「皆でか?」

「いえ、私だけ」

「それはどうしてだ?」

「春が料理覚えると全部自分でやろうとするから、だからと言って春だけ除け者はしたくないし、私だけ覚えたいんです。秋は既に料理出来るから負けたくないし、冬だって最近料理してるから……一応、姉としてのプライドもあるって言うか」

「ああ、なるほど」

「……あと、魁人さんのお手伝いもしたいから……」

「っ……そう言ってくれるのは凄く嬉しいよ」

 

 

俺は涙が出そうになった。嬉し過ぎて。

 

「あの、魁人さん、泣かないでくださいね? こっちも恥ずかしいので」

「すまん……つい」

「魁人さんって春と似てますね」

「そうか?」

「似てます」

 

俺と千春が似ているか……。もしかして、俺って意外と顔立ちがかなり整っているのではないか。

 

いや、俺は精々中の中の上位だし。それはない。性格のことを言っているんだろうけど、俺と千春は似てるのか?

 

「だから、支えたいって思うのかも……」

 

ぼそっと彼女は言った。

 

「あの、料理、沢山教えてくださいね。私だけに」

「あ、ああ、分かった……」

 

 

そう言えば、最近千冬にも似たような感じのことを言われたような気がする。何というか、その時の雰囲気と千夏の今の雰囲気がかなり似ている。まぁ、四つ子だから当然と言うのもあるが。

 

「私だけが分かるレシピとかお願いします」

「……で、出来る限りでな」

「はい」

 

特段、誰かを優遇とはあまりできない気もするんだが……。千秋も千冬も料理には興味あるだろうし、千夏までするとなるときっと千春も料理したくなるだろうし。どう収集付けようか……。後で考えよう。

 

「近くのコンビニでアイスでも買うか」

「いいんですか?」

「三人には内緒だぞ?」

「はい!」

 

 

別に、お墓参りをしたから、酷い目に遭っていたのにそういう考えてになったご褒美にアイスを上げるとか、そう言うのではない。ただ、千夏にアイスを奢りたい気分なのだ。

 

どうしても奢りたくなった。

 

ウインカーを付けて、左側にあるコンビニに寄る。店内に入ってアイスのショーケースの中を彼女は目を輝かせて眺めている。

 

俺も何か食べるかと考えていたら携帯が振動する。誰かが電話をかけてきたのだ。ええっと、自宅から……千秋かな?

 

「もしもし?」

「もしもしカイト!」

「あ、千秋かどうした?」

「どうしたじゃない! 千夏とお出かけしてるんだろ! ずるい! 我が寝てる間に!」

「いや、すまん……気持ちよく寝てるみたいだったから」

「ずるいずるい! きっと、今頃千夏だけアイスでも食べてるんだろ!」

「いや、食べてないぞ」

「ええ!? うーん、ならいいかー」

「魁人さん! この、300円のアイス食べていいですか!?」

「ああ!! やっぱり食べようとしてる!!」

「あ、すまん……お土産買ってくから」

「うーん、なら良し! あのね! 我は、あの、キャラメルのパリパリのやつね! 千春はクッキークリームで千冬は抹茶アイスだって!」

「わ、分かった。絶対買ってくからな」

 

 

そう言って通話を終了する。そう言えば千秋は寝てたから出掛けるとか何も言わずに出てきてしまったんだったな。千春と千冬には一応、出掛けるとだけ言ったけど……。千夏がどうして出かけるかは言わないでと言うから、誤魔化してここまで来てしまった。

 

家に帰ったらちゃんと説明しよう。

 

 

「魁人さん、これ!」

「じゃあ、俺はこれにしようかな」

「魁人さんシェアしましょう!」

「そうだな……」

 

 

そう言った千夏の笑顔を見たその時、俺は一年で四人と縮まった距離を僅かながらに感じ取った。

 

 

そして、薄く笑ってしまった。

 

 




一年目、完!


ここまで応援ありがとうございました!!

無事に完結できました!

今後も応援よろしくお願いします!


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