百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで   作:流石ユユシタ

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二年目
57話 二年目


 昔から、自分さえ良ければそれでいいと思っていた。

 

 そうでなくてはならないと思っていた。

 

 死にたくなかった。誰よりも健康でいたくて、誰よりも楽しくありたくて、誰よりも幸福でありたいと思っていた。

 

 ――自由でいたかった

 

 

 物心ついたころから、うちには三人の妹が居た。ほぼ、一緒の時間に生まれただけだから、特に何とも思わない。姉妹と言う認識は持っていたけど、姉の責任とか考えた事もない。

 

 

 家でいつも父はタバコを吸っていた。母もタバコを吸って白米とふりかけを用意するくらいしかしなかった。そんな中で悟った。生き抜くには、幸福を掴むには自分だけを考えないといけない。

 

 

 必死に過ごした。幼稚園では本を読んだ。知識があれば将来裕福になれるかもと思ったから、それから走った、健康でいたかったから。

 

 でも、それは満足には出来なかった。何故なら妹が居たから。いつもいつも、後ろをちょこまかとついてくる。本を読めば後ろから覗き込み、走れば一緒に走ってくる。

 

 ――鬱陶しい、邪魔。そんな認識を持っていた。

 

 ある日、うちは幼稚園の園庭を駆け抜けていた。一人で、誰よりも速く。鬱陶しい妹を置いて。たかだが生まれた順番でこうにも自分に絡まれるのが理不尽だと思っていた。

 

 ――うちは誰よりも自由でありたかったから。

 

 

 走っているときは自由だと思った。でも、後ろからついてきた。妹が。

 

 鬱陶しい……特にそう思ったのは三女の千秋だった。いつも、寡黙で黙っていて、何も言わない。何を考えているのか分からない。その癖に構って欲しいオーラを凄く出していた。

 

『何?』

『……』

 

 

 そう聞いてもいつも何でもないと首を振る。何かあるなら言えばいいのに。良く分からない。でも、彼女はいつもうちの背中に居た。必死についてきた。いつの間にか、うちよりも足が速くなっていた。

 

 だから、只管についてきた。走っても走っても振り切れない。鬱陶しい。そう思った時、千秋が転んだ。何かにつまずいたのかそれは分からない。でも、転んで足をすりむいて、少し血が出てしまった。

 

『あ、ああッ……ううぅ』

 

痛そうに瞳に涙を溜める千秋を見て、別にどうでもいいと知らんぷりも出来た。でも、その時は自然と体が動いてしまった。

 

『大丈夫……?』

 

 

手を差し伸べて水道の所まで一緒に行って、水で傷口を洗った。何故、こんなことをしているのか自分でも分からなかった。自分だけ良ければそれでいい。そうでなければならないと言う心情。将来を見越して、未来を見越して幸福を掴むなら、自分だけを考えると言う掟。

 

自由を求めているのに、面倒な姉妹と言う括りの中で今自分は妹の世話をしている

 

自ら決めたのに……その後に千夏と千冬もその場に寄ってきた。心配そうに千秋を見る二人を見て、複雑な心境になった。

 

傷口を洗った。

 

『後は、先生に診てもらった方が良いよ……』

 

ぶっきらぼうにそう言ってその場を離れる。背を向けると後ろから声が響いた。

 

 

『……あ、ありがと……お姉ちゃん……』

 

 

 

それが初めて聞いた千秋の言葉だった。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

うち達がここに来てから一年が経ってしまった。思い返せば色々な事があったが、一年を通して言えることがあれば……うちの妹達は世界一可愛いと言う事。年から年中、髪の毛、細胞一つとっても可愛さに溢れている。

 

 

「はい、注目ー。久しぶりの姉妹会議を行いますー」

 

 

二年目をスタートするのに相応しい。千夏が可愛く姉妹会議開始を宣言する。

 

二階の部屋で座布団を敷いて、机を囲んで、クーラーの効いた部屋でうち達は姉妹会議を行う。

 

 

「ええー、私、日辻千夏は今日から……長女になります!」

「千冬、我と一緒に答え合わせしよう」

「秋姉、そう言って答え写すのはダメっス」

「ちょっと、聞きなさい!」

 

 

千夏が宣言をするが二人は聞いていなく夏休みの宿題の話をしている。千夏がそんな二人に呼びかけをして視線を自身に誘導する。コホンっと咳払いをして彼女は再び宣言。

 

「いい? 今日から私が長女よ! 分かった!?」

「ええー、千夏は無理だろー」

「できるし!」

「いやいや、なぁ? 千冬もそう思うだろ?」

「え? いやー、千冬的には夏姉が姉と言う事に変わりないから……特にこれと言って何とも……」

「ええー、千春はどう思う?」

「うちは……まぁ、千夏がそうしたいって言うなら長女の称号を譲るよ……。うーん、でも大丈夫なの? 千夏お姉ちゃん?」

「適応が! 春姉の適応が早過ぎるッス!」

「任せなさい!」

 

 

千夏が胸を張る。千夏がお姉ちゃんとかうちにとって需要しかない。千夏の中で何かをしたいと言う意識が強いのかもしれない。まさか長女に成りたいだなんていうとは思わなかったけど。

 

 

この間のお兄さんとの墓参りに行ってからその意識がさらに強くなっている気がする。

 

「ふーん、じゃあ我も長女やる!」

「はぁ!? なにそれ!」

「千夏には任せておけないからな!」

「真似しないで!」

「真似じゃないもん! オマージュだもん!」

「ほぼ一緒じゃない!」

「まぁまぁ、千冬は二人共お姉ちゃんと思ってるっスから……お、落ち着くっス」

 

 

お兄さんと出会って二年目だけど、今年もほのぼのできそうで安心する。そして、やっぱりうちの妹は全員可愛い。

 

 

◆◆

 

 

「魁人さん! 私との約束ありますよね! 料理教えてください!」

「ええ!? か、魁人さん、千冬と約束したのに……」

「もう、カイト! ちゃんと我にも構ってくれ! 我、かまちょだぞ!」

 

 

リビングからキッチンは良く見える。そこではお兄さんが苦笑いしながらどうしたものかと悩ましげな表情をしていた。

 

 

うちは複雑な心境であった。一年が過ぎて、妹達をお兄さんに獲られてしまったような気分であったからだ。お兄さんにそう言う気持ちは無いと思うが、だからと言ってこれは……おのれ……お兄さんめ。

 

思わず拳を握ってしまう。

 

実際に獲られたと言うわけではないけど、世界一の妹達に囲まれているお兄さんを羨ましいと思う。

 

「今日は……千夏が夕飯を作るのを手伝ってくれ……明日は千冬で、明後日は千秋……そんな感じで行こう……」

「ええー! ブーブー! ブーイングだ!」

「魁人さん、千冬は明日より、今日が……」

「はいはい! 私が今日夕飯作るって決まったわけだから、アンタ達はソファで休んでなさい!」

 

 

千夏が千秋と千冬をえっさほいさと押してキッチンから追い出す。千秋は頬を膨らませてお兄さんを睨む。千冬はどうして? と言う視線をお兄さんに向ける。

 

「ッ……」

 

 

お兄さんはそんな二人の視線を受けて胸を抑えるが目線を逸らして、二人の視線を回避する。回避しても二人はお兄さんにレーザーポインターのように視線を注ぐ。それはお兄さんは胸を抑えながらスタイリッシュに回避する。

 

 

「むぅ」

「夏姉、急に出てくるのズルいッス……」

 

 

千夏は長女になりたいって言ってたから、色々な事が出来ないといけないと言う考えがあるはず。だからこそ料理をしようと思ったんだろうけど、千秋と千冬はずっと調理係として活動してきたわけだからそのポジションを取られて悔しいのかもしれない。

 

ここは姉としてファッショナブルにフォローしよう。

 

「千秋、やっぱり可愛いなー」

「え? 本当!?」

「うん、可愛い、千冬も可愛い。今、うちは二人に挟まれて最高の気分だよ」

「両手に華って言うんだろ! こういうの!」

「そう、千秋は賢いねー、よーしよしよし」

 

千秋の頭を撫でまわす。うちも撫でれて嬉しい、千秋も褒められて嬉しい。

 

「えへへ、そっかぁ!」

「よし、次は千冬も」

「いや、髪がぼさぼさになるから良いっス……」

「ガーン……」

「ええ……あ、いや、そんな反応されると……。ちょっとだけ、お願いするッス」

「よしよし、よーし」

「あ、ふふ……」

 

千冬もちょっと嬉しそうに笑う。こっちまで微笑ましい気分だよ。

 

「千冬は髪型気にしてるんだね」

「え、まぁ、少しだけ……イメチェンしようかなーって、ちょっと思ったり……」

「我もイメチェンしようと思ってるぞ! 銀だけと金にしようかなって! 金髪って強化形態みたいでカッコいいから!」

「そっか……二人共似合うと思うよ」

 

 

カチューシャを付けている千冬、銀髪の千秋。二人の髪型が変わっても何の問題もないくらいに可愛いけど、うちとしてはこのままの姿も残しておきたい。あとで写真を撮ろう。

 

「千春は変えないのか? ロングにしても良いと思うぞ!」

「確かに春姉似合いそう……」

「そうかな……まぁ、いつかしてみてもいいかもね。髪は直ぐには伸びないし」

「強化形態を極めれば髪を無理やり長くすることも出来るらしいぞ!」

「秋姉、ちょっと何言ってるか分からないっス」

 

 

髪を長くね……昔は長かったし、それを千冬が今使ってるカチューシャで纏めてたけど……短い方が定着してるし。変える必要はないかな、うちが変えても需要ないし。

 

その後も他愛もない話に華を咲かせた。

 

 

◆◆

 

 

 

「魁人さん、今日は何を作るんですか!」

「無難にチャーハンにしようか……」

「はい!」

 

元気よく返事をしてくれるのは非常に嬉しい。だが、先ほどの千秋と千冬の視線が胸にしこりの様に残っている。

 

「材料処理したら玉ねぎとひき肉炒めて、そこに、市販のペースト入れて、ご飯入れて、卵入れて、最後強火で少し炒めるって感じかな」

「できます!」

 

自信満々だが本当に大丈夫だろうか。包丁怖くないのだろうか。怪我とかしないだろうか。

 

「ほ、包丁も……つ、使えます!」

 

 

まな板の上に皮を剥いた玉ねぎ。そして、自身の手で包丁を握る。震えているが何とか握っている。

 

「よ、よし、ここから……猫の手で……」

「頑張れー、千夏ー」

「頑張れー、期待してないから気楽にしていいぞー」

「な、夏姉、頑張れー」

「……せ、声援ありがとー。でも、あとで秋は集合ね……」

「ええ!?」

 

リビングの方から、千春と千秋と千冬の声援が飛んでくる。本当に互いに姉妹想いだなと感じる。

 

「フードプロセッサーあるから、切るのは最低限でいいぞ」

「は、はい。そうします……」

 

 

彼女は怖がりながらも何とか、下処理を終えた。手を出したかったが千夏が自分でしたいと言うので俺はグッとこらえて見守り、偶に口を出すだけで留めるのだ。

 

千夏には目的があるらしい。

 

 

「火傷しないようにな」

「は、はい……」

 

 

温度が上がって高熱になっているフライパンを見て少し怖がる素振りを見せるが必死に炒めていく。千秋もだけど、筋が良い。手際が良いと言うか、スタイリッシュと言うか……

 

殆ど俺の教えることなど無いのでないかと思う位に彼女はスタイリッシュにチャーハンを完成させた。

 

実食!

 

 

リビングのテーブルを囲んで俺達はチャーハンを食べてみる。流石にチャーハンだけだと寂しいと思ったので冷凍食品のシューマイをプラスしている。

 

「美味しいから食べてみなさい!」

 

 

自信満々にそう告げる千夏。

 

「食べてやる! この味見係兼味王が! ……もぐもぐ、ごっくん……これは、市販のペースト……隠し味にもう一つ市販のニンニクと生姜のペーストを使っているな……」

「なっ!!」

 

 

まさかの一瞬で味を看破されて驚きを隠せない千夏。千秋は舌が肥えてるからな……。味は筒抜けだ……

 

 

「でも、美味しい!」

「そ、そう?」

「うん! すーごく美味しい!」

「あ、そ、そう……おかわりもあるわよ……」

「食べる!」

 

 

くっ、千秋にそう笑顔で言われたら喜ばないわけがない。笑顔が眩しい。

 

「凄く美味しい! 市販のペーストすげぇ!」

「ん?」

「こんな簡単に深い味出す市販のペースト凄い!」

「んん?」

「やっぱり、日々料理の調味料は進化してるんだなー」

「私を褒めなさい! ペーストじゃなくて! 私を褒めなさい! 私が斬って、炒めて味付けしたの! 私が凄いの!」

「あ、そっか……。五割くらい凄いな!」

「全部凄いの!」

「千冬は夏姉、凄いと思うっスよ……。凄く美味しくて、ビックリっス」

「うちも美味しすぎてビックリ。流石千夏お姉ちゃん」

「そ、そう? まぁ、当然って言うか、これくらい軽いって言うか」

「ペースト使ってるしな!」

「あとで秋はくすぐりの極刑の処すわ……」

「ええ!?」

 

 

ハハハっと、微笑ましくなりながら俺も一口。うん、美味しいな。

 

「千夏」

「はい?」

「凄く美味しい」

「っ……えへへ、そうですか? なら、良かったです。あと、おかわりありますよ……?」

 

 

ちょこんと首をかしげてちょっと上目遣いの千夏。ほう、可愛いじゃないか。

 

俺はチャーハンを口にどんどん入れて音を立てないように咀嚼し、飲み込む。それを繰り返し、皿を空にする。

 

 

「おかわり」

「……は、はい……えへへ、何か嬉しい」

「「むむっ……」」

「はむはむはむ……ごくりんこ……」

 

 

千夏が恥ずかしそうに笑って、千秋と千冬が再び心臓をえぐる視線をこちらに向ける。そして、俺に対抗するように千春がチャーハンを食べる。

 

そして、エレガントにお皿を千夏に出す。

 

「おかわり」

「しょ、しょうがないわね……えへへ」

「……」

 

嬉しそうに空の皿を受け取る。そして、対抗するようにこちらを決め顔で見る千春。いや、別に姉妹を取ろうとか考えてないぞ?

 

そして、千秋と千冬の視線が……心臓が……本気でえぐれそうだ……。くっ、娘の視線とはこうも、強いのか……。

 

俺は夕飯中、必死にスタイリッシュに視線を躱し続けた。

 

 

 




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