百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで   作:流石ユユシタ

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63話 林間学校

 詰め込むだけ、詰め込んだ大きなカバン。それを持ってうち達は玄関の前で待機していた。スーツ姿のお兄さんが玄関のドアを開ける。

 

 どうやら林間学校に行くには荷物がかなり多いから、今日は車で学校まで送って行ってくれるらしい。そして、そのまま仕事に行ってくれるらしい。

 

「よし、そろそろ行くぞ……」

「お、おう、分かったぞカイト……」

 

 

 お兄さん凄く萎えている。どんだけ、千秋と千夏と千冬と離れたくないのだろうか。親ばか的な感じだろうか。ただ、分かり身が深い。うちもこんなに可愛い妹達が居たら離れたくない。

 

 

 うち達は荷物を荷台に載せて、乗車する。お兄さんはエンジンをかけて車を発進させる。

 

 

「か、カイト! や、やっぱり我、行かないほうが」

「それだけはダメだ。千秋たちは色々経験をして欲しいから残るなんて論外だ」

「そ、そうか。分かったぞ。お土産話楽しみにしててくれ」

「わあった……」

 

 

お兄さん落胆が凄い。助手席に乗っている千秋が気を遣ってしまうと言う感じ。あまり見た事のない光景に何を言っていいのか分からない。

 

学校に到着すると、駐車場で降りる。いつもとは違う大きなバスがそこにはあった。

 

「じゃあ、行ってらっしゃい」

「カイト! 絶対帰ってくるからな!」

「魁人さん、千冬、沢山想い出作ってくるっス!」

「おう……」

 

魁人さんは少し、元気がなかったけど……一度、顔を振るって思考を切り替えて精一杯の笑顔を作る。

 

「楽しんで来い!」

「カイト! 分かった!」

 

 

千秋が大きな声で返事をして千冬と千夏、うちは軽く手を振ってその場で別れる。お兄さんはそのまま仕事場に向って行った。

 

「くっ、カイト! 必ず戻ってくるからな!」

「いや、そんな仰々しくしなくていいわ」

「千夏は寂しくないのか?」

「ちょっとだけ、寂しいけどさ……いや、でもそんな、一年旅に出るとかじゃないんだし」

 

 

千秋と千夏が議論を繰り広げる。千冬はちょっと寂しそうに顔を暗くして、三者三様と言った反応だ。

 

校庭が集合場所なので重い荷物を持ってそこに向かう。既にクラスメイトの一部は集まっており、先生も名簿を持って色々チェックをしている。

 

「おーい! 千秋ー! おはよー!」

「メアリー、おはよー」

 

千秋がメアリさんと朝の挨拶を交わす。すっかり仲良しだ。千夏はちょっと寂しそう。

 

ここは姉としてちゃんとフォローをしておかないといけないね。ハグを……、あ、急に距離とられた。

 

悲しい。もっと甘えて欲しいのに……。では、ちょっと悲しい顔をしていた千冬を……

 

きょ、距離とられた……うわぁぁん、お姉ちゃんグれちゃうぞ! なーんて言ったらハグさせてくれるかな。

 

絶対そんな事は言わないけど。千秋は友達、千夏と千冬はハグしようとしたら逃げる。こうなったら普通に二人と会話して取り合えず整列して出発まで待とう。

 

 

◆◆

 

 

 私の名前は北野桜。何処にでもいる普通の小学生。

 

 いま、私は人生で最悪と言っていい程の事態に見舞われている。私のバスの隣の席にあの西野が座っているからだ。

 

 いや、別に嫌いって訳じゃないけど。肘が凄い当たってくる。

 

 バスは二つの席が両サイドに。一列に四人が座れる。隣にはメアリと千秋。あの二人最近、仲いいんだよね。千春が悔しそうにそう言ってた。

 

「っち……」

 

 自分は仲良くできないからか、舌打ちをしてしまう西野。嫉妬ってわけね。私が通路側だから覗き込む感じで西野が来る。いや、興味あるのは分かるよ? 千秋は可愛いと思うし。

 

 最近、相手にもされてないから焦りとかもあるってのは分かる。いや、でもさ、肘が痛い!

 

「あのさ、ちょっと窓側に寄ってくれない?」

「あ?」

「い?」

「う? じゃなくて、バカにしてんのか?」

「乗ったくせに……まぁ、いいや、取りあえず窓側行って、肘当たって痛い」

「あっそ……」

 

不機嫌な様子だがちゃんと窓側による辺り、最低限の良心はあるって事か。底が浅いだけで。

 

「そんなに千秋が見たいなら席変わってあげてもいいよ」

「は、はぁ? そんなつもりねぇし」

「いや、お前のツンデレとか誰得? そう言うのあんまりしない方が良いよ。千秋はそう言うの嫌いだし」

「あ? んだt」

「ああー、はいはい」

 

 

私は西野言葉を遮って会話を中断した。

 

「あのね、あの子はアンタが思っているのとは真逆と言っていい子だから今のままじゃ相手にしてもらえないよ」

「……」

 

 

どうやら、先を話せと私に促しているようだ。

 

「あの子は単純とは真逆だよ。そして、意外と冷酷で理性的。あの子はね、自分にとって不必要な物を無意識に捨ててる。何かされたら怒るんじゃなくて、切り捨てるの、怒って強制させるんじゃなくて、捨てるんだよ。だから、アンタが相手にされないって言うのは……自分には必要ないって思られてるってこと」

「……それって、お前の感想だr」

「そう、俺の感想だよ。だから、どう思うかはご勝手に……」

 

 

私はそう言ってそっぽを向く。

 

 

千秋は大分難易度が高いと思うから無理だと思うけどさ。あの子は見てて本当に特殊だと思う。誰とでも仲良くしてるようで、何も考えてい無さそうなのに。

 

色んな人と話すけど、関係は浅く。誰かが話すときはぴたりと黙って話を聞く。意外と人を値踏みするように見ているときもあるし……。西野にはちょっと相性が悪いだろうね。

 

まぁ、そこまで言う程お節介はしないけど。

 

◆◆

 

 

 

「千秋ちゃん、玉ねぎ微塵切り上手ー」

「普段からしてるからなー」

 

 

林間学校イベント。カレー作り。まぁ、調理実習的な物であるが普段以上に生徒達は活気にあふれている。まぁ、千秋は普段から調理場に立ってるからね。これくらい普通だよね。

 

カレー作りは班に分かれて行うけど、他の班のカレー作りも見える。だから、うちと千夏と千冬と千秋の班は注目を集めてしまう。

 

「本当はケチャップとかで味整えるんだけど……」

 

 

ちなみにカレー班は六人制で、うち達以外にもメアリさんと桜さんが居る。二人共千秋の手際には感心している。

 

「やるね。千秋」

「当たり前だよ。千秋だもの。そう言う桜さんもかなり手際良いと思うけど」

「まぁ、俺は普段から弟がお腹空いたって言う時にホットケーキ焼いてるからな」

 

桜さんは偉いなぁ。うちはお皿とかよく割っちゃうし、塩と砂糖間違えて、醤油と昆布つゆ間違えて足を引っ張るから。素直に凄いと思う。

 

 

「俺もそれなりに頑張りまか」

 

 

桜さんはニンジンの皮をピーラーで綺麗に剥いて行く。手際が良いなぁ。

 

「ひっくッ、ヒックッ……」

 

千冬は玉ねぎを隣で泣きながら切っている。健気だね。千夏は信用できない人が包丁を使うこの場はあまり好きでないから人から距離をとっている。

 

 

「千夏、大丈夫?」

「……家だったらこんな事、ないわ……」

「そっか……家の方がいい?」

「正直……今すぐ家に帰りたい……」

「そっか……じゃあ、今日は寂しくないようにうちがハグを」

「いや、それはいいわ」

「……ぴえん」

 

 

 

そんな即答で返事をしなくてもいいのに……。うちは悲しみに打ち震えた。

 

 

◆◆

 

 

 

時間が過ぎていき、夕食を食べた後は温泉に入ることが出来る。うちと姉妹三人、そこに桜さんとメアリさんが一緒になってお風呂場の湯船に浸かる。そこで一日の疲れをいやすのだ。

 

なんやかんやであっという間。カレー作って、ちょっと自然を鑑賞して……そうこうしているうちに時間とは過ぎていく。

 

 

「ねぇ、千秋、あっちの露天風呂行きましょう!」

「む? 構わんぞ」

 

千秋とメアリさんはキーンっと去って行った。それを見て桜さんは感心したように呟く。

 

「本当に仲いいな」

「そうだね……」

 

 

千夏と千冬はあまり話さない。桜さんとは話したことがない訳じゃないけど、そこまで仲が良くないからちょっと気まずいんだろうね。特に千夏は千冬より接する機会が少ないし。

 

それを察したのか、桜さんは湯船からあがった。

 

 

「ちょっと、俺もあっちの風呂いってくる」

「……うちも行くよ。千夏と千冬、お姉ちゃんちょっと行ってくるね」

「はいっス」

「分かったわ」

 

 

うちも上がってお風呂場を歩いて行く。

 

「気遣わなくていいのに」

「それはうちのセリフ」

「そっか……」

 

二人で歩いていると千秋とメアリさんが楽し気に露天風呂で話しているのを見つけた。

 

「千秋って凄い可愛いよね……やっぱりうちの妹は世界一。何というか、肌も透明感あるし、うちは妹達がスケスケの透明人間に成らないか心配なくらい」

「……シスコンもほどほどにしときな」

 

 

桜さんは苦笑いしながらそう言った。

 

 

◆◆

 

 

「ねぇ、冬……」

「何スか?」

「二人きりって意外と珍しいわね」

「そうっスね」

 

 

夏姉と二人きりとは確かに珍しい。春姉と秋姉、四人そろってと言うのは日常だけど、二人きり。

 

気まずいとかはない。でも、新鮮な気持ちかも。

 

「丁度いいわ……。アンタに、冬に、その……相談したいことがあるの……」

「相談っスか?」

 

 

夏姉からは迷い、怯えそれらの感情が混沌のように混ざり合っていた。一呼吸、二呼吸、時間を少し置いて、呼吸を整えて夏姉は言った。周りに聞こえないように千冬の耳元で囁くように

 

 

「私……魁人さんに超能力のこと……言おうと思って、るの……」

「……え?」

 

 

思わず、呼吸が止まってしまいそうになるほど驚きが千冬を貫いた。夏姉の言うような事は予想していた。今まで一緒に居たから言うようなことは分かっているつもりだった。

 

その、つもりだったのに……

 

 

「アンタは、どう、思う? 私の考え……」

「千冬は……」

 

それはどう言って良いのか分からない。千冬には超能力はない。ここでどういったとしても他人ごとになってしまう。無責任な事になってしまう。

 

「魁人さんは、受け入れてくれるかな……」

「魁人さんは……」

 

魁人さんは……、どう言うんだろう。そんなこと……そんなこと、考えたことなかった……。

 

そっか……千冬はいつの間にか、自分の想いを成就させることを考えていた……。夏姉達の悩みとか境遇を考えていなかったんだ……。最低だ。

 

自分は沢山悩んで、はじかれ者だと勝手に思って、でも、魁人さん(依り代)を見つけたらほったらかしにしていた。

 

千冬にそれを言う資格は、無い……。

 

「私はね……受け入れてくれるんじゃないかって、思ってるの……」

「……」

「色々一緒に見て、学んで、過ごして……私はそう判断したの……。でも、私がそれを勝手にするのってどうなのかなって、思ったから……一緒に過ごしてきた冬に聞きたかった」

「秋姉と春姉には、もう、聞いたんスか……?」

「ううん。まだよ。何か、こう、言いずらくて……それにこの考えになったのつい最近だから」

「なるほど……」

 

 

勝手に渇望して、勝手に責任から逃れて、自分はなんて身勝手な存在かと思った。

 

 

「あ、でも、無理に言わなくていいわよ?」

「……千冬は」

「……?」

「何と言っていいのか……分からないっス……」

「そっか……じゃあ、しょうがないわね」

「ごめんなさい……」

「いや、謝らなくていいわよ」

「……でも、これからはッ」

「ん?」

「これからは千冬もしっかり考えるッスから! 沢山相談してほしいッスよ! 夏姉!」

「そっか……ふふ、じゃあ、頼りにしちゃおっかな?」

「任せて欲しいッス!」

 

 

 

 千冬もこれからは姉妹の事を考えて行動しよう。夏姉に悩みがあるならちゃんと相談乗れるように、同じ責任を背負えるように頑張ろう。

 

 よし、決めた!

 

 

「んー、じゃあ、話をちょっと変えましょう。あんまり重い話してもしょうがないしねー」

「何か、他にも話が?」

「恋話しましょう」

「え!?」

「いや、もう、こういう時はするしかないでしょ! ほら、アンタは好きな人とかいないの?」

「えー、す、好きな人? い、いないっすよ」

「いや、絶対居るでしょ。イニシャルだけで良いから!」

「い、いや、だから、いないっス……」

「なーんだ、つまらないの」

「そう言う夏姉はどうなんスか?」

「私はねー、うーん……居ないわね」

 

確かに夏姉にそう言った特定の人が居る感じはない。夏姉は結構男子人気も高いけど、高値の華って感じがするから他者を引き寄せる感じがしない。

 

「私はね、結構理想が高いからね。見合う人が居ないのよ」

「へぇー。そうなんスね」

「そうなの。私はね、こう紳士的で安定な感じで、包容力がある感じと言うか」

「も、もしかして、魁人さんじゃ……」

「魁人さん? ああー、確かに言われてみればそうかもね」

 

 

こ、この感じはライバルとかになりそうじゃないから良かった。安心する……かな?

 

 

「秋とか春には好きな人居るかしら?」

「どう、っスかね……いないような感じがするっスけど……」

「確かにそうね」

「春姉は千冬たちの事をずっと見ててくれるから……他に目が行かないって感じだし、秋姉は……単純に居ないって感じっスかね?」

「あー、春はそうね。でも、秋は……謎ね」

「謎?」

「意外といるかもしれないわ……。まぁ、勘だけど」

 

 

秋姉っているのかな? 好きな人……。その後も夏姉と理想の想い人に関して会話を繰り広げた。

 

 

 




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