百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで   作:流石ユユシタ

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65話 背中を押す

 早朝、俺は私服に身を包み車を走らせていた。昨晩飲んだ少量の酒の酔いはすでに消えており、二日酔いに悩まされることなくスムーズに目的地に向かうことが出来ている。

 

 昨晩の電話は少し、予想外だった。千秋が甘えん坊なのは分かっていたつもりだがわざわざ電話までかけてくるとは。甘えん坊なのは可愛いと素直に思うし、甘えてくれ程に懐いてくれているのも嬉しく思う。

 

 でも、こうやって何でもかんでも手を貸したり、思うがままにさせるのは成長の機会を奪っているような気もする。でも、放っては置けないのは事実だし、来て欲しいと言う千秋の願いを蔑ろにも出来ないも当然なのだ。

 

 結論から言えば俺は……どうするのが一番なのか分からないのだ。

 

 ――まぁ、何だかんだで林間学校の場所まで来てしまうと言う親ばか全開な行動をしてしまっているんだがな。

 

 

 

◆◆

 

 

 とある宿がある。大きすぎるわけでも無いが、小さすぎるわけでも無い。自然に囲まれた、そこそこの宿。俺は辺りを見渡しながら入り口に向って行く。流石に中まで入るのは躊躇われるのからそこで暫く待つことにする。

 

 千秋だけ昨日は電話してきたけど、千春、千夏、千冬。三人はどんな感じなのかもきになる。

 

「あ、! カイトー!」

 

 腕を組んで考え込んでいると入口の戸が開き、一目散に俺の元に体操着姿の千秋が駆け寄ってきた。肌寒くなりつつあるこの季節。赤い長袖と長ズボンのジャージ。

 

「千秋、昨日は眠れたか?」

「うん!」

「そうか……」

 

 

千秋の側には担任の教師の姿もある。一応、どうも、お世話になっております。と言う謝礼をしつつ、簡単に挨拶を互いに交わす。交わしていて分かったのはこの人は手慣れている。

 

てっきり。凄い馬鹿親でモンスターペアレントでも見るような目をしてくるんじゃないかと思っていたけどそんなことない。ごく普通に俺に対応している。一応教師、各家庭の状況はある程度知らされたり、分かっていたりするものだがこの人は何てことない感じで対応している。

 

意外と俺みたいな人は多いのか……? いや、極稀だろうな

 

 

「カイト、もう帰りたい」

「そうか……今日は一応何時まで林間学校なんだ?」

「えっと、ね……12時に朝食食べて、お昼休みしたら帰るの」

「そうか……うーん、そうか……」

「??」

 

 

今は、7時。あと、五時間。何とか頑張れないかと聞くか、それとも今すぐに四人を連れて帰るのか。

 

「千秋、あとちょっとだけ頑張れないか?」

「……え? なんで? もう、かえりたいよ、わたし……」

「そっか……でも、もうちょっとだけ頑張らないか? 俺はここに居るし、本当に嫌になったらすぐにも迎えに行く。だから……頑張れ、千秋……」

「……わかった。でも、かえりはバスじゃなくてカイトのくるまでかえる」

「分かった」

 

 

千秋は先生に手を引かれてもう一度宿に戻って行った。千秋の寂しそうな眼は忘れらないが、何だか、背中を押したほうがいい気がした。根拠は乏しいがそう思ったからそうしてしまった。

 

 

頑張れ……千秋。

 

 

 

 

千秋を送り出して暫くの間、車の中でお昼が過ぎるのを待って居た。朝ごはんを食べていないがさほど空腹ではない。一人、車内で少し考え事をする。

 

 

昨日、小野妹子と少し話をした時の事を思い出す。人それぞれ色々な事を抱えている。これから先。四人にもそう言った悩みが来るのかもしれない。その悩みの先には結婚とか……主人公と結果的に結ばれたらどうなるのだろうか。

 

この世界は……同性婚が認められているからな。愛と言う形が多彩と言える。ゲーム『響け恋心』を基準にしているこの世界は同性婚がある。ゲームでも四人と主人公がハーレムや個人間結ばれたりする世界線もあったはずだ。

 

 

だが、この世界で誰も彼もが同性婚を認めるとは限らない。千春達が誰と結ばれるかは分からないが、もし主人公と結ばれれば同性婚になる事もある。だけど、この世界には男女結婚のケースが一番多いらしい。

 

俺や俺の勤めている役所、あとはさっき話した担任の教師、みたいな人は寛容な心で認めるかもしれないが、認めない人は認めない。何処かで否定的な目をしたり、はじかれ者にしたりするかもしれない。そうなったら四人は辛いだろうな……。

 

まぁ、俺の考えすぎかもしれない。

 

ただ、俺はこの世界がゲームを基準に出来ている世界だと考えているが。ゲームでは本来なら無いもの、見えなかっもの、そう言うのがあると知っている。今見えているモノは全部良い物だが見えないところで、悪い物があるかもしれない。

 

ネットでの悪口とか、誹謗中傷とかそう言うのもある。四人には辛い思いをさせたくはないから出来るだけ排除したり、進んでよい道を示したりしたいが……あまりやり過ぎても成長を阻害してしまいそうだ。

 

……ダメだ。無限ループのように、頭の中があやとりが絡まったように、上手く行かない。

 

考え過ぎもよくないか……。先を見るのも大事だが見すぎてもダメだな。ほどほどに……いや、四人の事を考えるのにほどほどはダメだな。かなり、それなりに考えよう。

 

俺は一旦、思考で熱くなった頭を冷却した。

 

 

◆◆

 

宿屋にある。お食事処、そこで椅子に座りテーブルをうち達は囲んでいた。テーブルの上には朝ごはん。白米、味噌汁、焼き魚に海苔。

 

体操着に身を包んでいる生徒達が周りにもいる。今日で林間学校も終わりだ。始まった当初は帰りたくないと騒いでいた生徒達が多かったが、今では早く帰ってゲームがしたいとか、枕が合わなくて眠れないから帰りたいとか、

 

帰りたい、かえりたいと言っている生徒が多い。千夏と千秋、千冬も帰りたいと昨日から言っていた。

 

そして、朝起きたら千秋が居なかったからもしかして一人で帰ったのではないかと大騒ぎだったのだ。

 

でも、千秋は直ぐに見つかったからそんなに大事にならなかったけど、どうして朝いなくなっていたのか。それと千夏が問い詰める。心配だったから若干の怒っている。

 

「秋。アンタ、どこ行ってたのよ」

「入り口行ってた」

「ふーん……え? なんで入り口?」

「カイトが迎えに来てくれたから」

「え? 魁人さん迎えに来てくれたんスか?」

「うん」

 

 

千夏と千冬が返してくるだろうと思っていた答えと全然違うからか、ちょっと怒っていたのにあっけらかんとしてしまう。

 

「心配かけて、ごめん……」

「はぁ、別にいいわよ」

「次からは言って欲しいっス」

「そうだね……千秋、何かあったらお姉ちゃんに言うんだよ?」

「うん……」

 

千秋はコクリと頷いた。千秋は少し元気がない。朝ごはんも箸が進まないし、やはりと言うか、早い所帰りたいと思っているのかもしれない。昨日の夕食もあんまり食べなかったし。

 

千秋だけじゃない、いつもならお代わり一回はする千夏もあんまり食べていなかった。

 

千冬も帰りたいなぁっと愚痴をこぼしていたし……

 

 

お姉ちゃんが愛のハグをどこかでしてあげないと……

 

 

「春、変な事しなくて良いからね」

「え? どうしてそんなこというの?」

「何となく、不穏な気配を感じたから」

 

 

 

千夏は勘が鋭い。ハグをしてあげたいのに……。と少しガッカリしたがまたいつでも出来るからいいかと立ち直った。

 

 

今日はご飯を食べたらハイキングして、自由時間と言う日程。その後に帰るからしっかり朝ごはんを食べて栄養を補給しないといけない。

 

それが皆分かっているから、いつもと違う朝ごはんに寂しさを感じながら箸を動かした。

 

 

◆◆

 

 

 私の名前は北野桜。何処にでもいる普通の小学生である。私は思う、早く帰りたいと。

 可愛い弟に速く会いたい。と言うか普通に家族に会いたい。きっと、何だかんだで小学生は家に帰りたいと思っているんだろうな。

 

「おい、千秋、お前親が迎えに来たらしいな。ダサいなー」

「幼稚園生かよ」

 

 そんなことを林間学校の最後の自由時間に考えていると、私の親友の妹である千秋に絡む一部の男子。この年頃だ、どうにかして関わったり話したりしたいとか考えるんだろうけど、千秋全然相手にせずにベンチに座って黄昏ている。

 

 千秋をからかった男子は近くに居る千春の、鷹のような眼光が飛んできてビビッて退散。いつもなら、その退散する中に西野が居るけど、そもそも今回はからかう事すらしなかった。私が行きのバスで言った事が心に響いているのだろうか。

 

 まぁ、どちらにしても今までの行いでマイナス値でしか好感度はない。いや、そもそも好感度の値と言うのが千秋の中に無いだろう。好きか嫌いか、ではなく、好きか無関心。ああ言った感じの子は私の中ではあの四姉妹しか見たことが無かった。

 

 下手に踏み込むと地雷踏みそうだから、ほどほどに接しているけど、これからどうなるのかな? 何だか、あの四姉妹は全員地雷持ってそうだし、爆発したらどうなることか。

 

 そんな事を考えていると私の少し離れたところにある木から千秋をチラチラ見ている西野を発見する。何やってんの?

 

 思わず心の中で突っ込んしまう私。彼に近寄って話しかける。

 

「なにやってん?」

「うぉ! な、なんだよ。ビックリさせんな」

「いや、明らかにストーカー的な行動してるから」

「してねぇ」

 

 

あ、一応元気がない千秋を心配しているわけね。根は腐ってないけど、育ってもいない感じがする。でも、育とうとしている感じもする。

 

「千秋、元気ないから元気づけてあげればいいじゃん」

「俺。嫌われてるから……逆効果だろ」

「自覚あるんだ」

「黙れ……」

「わかった」

 

数秒黙っていると急に西野は自分語りを始めた。

 

「……俺、実はもうすぐ転校するんだ」

「へぇー……それは寂しくなる……かな? うん、まぁ、多少はなるね」

「……だから……その前に告白でもしようと考えてる」

「……へぇー。そうなんだ」

「結果はどうであれ……最後に想いを告げて此処を去りたいんだ……」

「ふぅーん。頑張って」

「……凄いドライだな。お前」

「いや、俺そんなに西野と親しくないし、寧ろ嫌いな部類に入るから。まぁ、ドライにもなるよね。今話しかけたのも、俺の親友の妹に変な事しないかなってと言う疑惑だから」

「……」

 

 

多少、言い過ぎな感じがするけど。事実だから仕方ない。

 

「まぁ、でも、バカにしたりはしないから。自分なりに頑張りなー。じゃあ、そういうことでー」

 

 

確認したいことをして、言いたいことを言った私は西野の側を去った。

 

 

◆◆

 

 

 現在の時刻、12時。そろそろ林間学校が終わる時間だ。車内で待って居ると宿の入り口でかなりの人数の生徒達が整列しているのが見受けられた。あれは最後に整列して旅館の人にお礼を言ってバスに乗りましょうねとみたいな流れになっていると勝手に予測する。

 

 だとするなら、そろそろ頑張ってきた千秋たちが帰ってくる頃だ。正直言うと、バスに乗らせて学校までとも考えたが、俺以外にも現地に迎えに来ている親御さんも居ることだし、ここから家まで五人で帰っても何も問題は無いだろう。

 

 挨拶を終えた千秋が先生にも挨拶をしてこちらにタタタッと走って向ってくる。

 

「カイト! 我、頑張ったぞ!」

「頑張ったな……偉いぞ」

「えへへ……ハンバーグ二枚の約束守ってね!」

「ああ……」

 

 

あれ? 二枚だっけ、と一瞬思ったが千秋がそう言うならそうなんだろう。千秋の頭を撫でていると、千春達もこちらに歩いてくる。

 

「ただいま……お兄さん、わざわざ来てくれたんですね」

「まぁな……。おかえり。まぁ、取りあえず乗ってくれ。色々、話ながら帰ろうじゃないか」

 

 トランクに荷物を載せて、助手席には千秋。後ろには千春、千夏、千冬が乗って、全員が居るのを確認すると車を発進させる。

 

 俺的に万遍なく全員の話を聞こうと思っていたんだが……

 

「それでね、それでね! メアリがすーごい、長いタイトルの本を持ってきてたの!」

「そ、そうか……それでちは、」

「あとねあとね! 宿の料理はイマイチだったの! カイトの方が上手だった!」

「あ、ありがとうな……えっと、ちな、」

「カイトは昨日何食べたの!」

「えーっと、焼き鳥とか、から揚げとか」

「いいなぁ!」

「う、うん。今度作ってやるからな……ちふ、」

「あー! カイト! あそこのコンビニ寄りたい! アイス食べよう!」

「あ、うん……」

 

多分、話したくてたまらないのだろう。ずっと、マシガントークが止まらない千秋。ダムが洪水したようにずっと俺に話しかけてくれるから、俺も他の三人に話を振ることが出来ない。バックミラーで千冬がフグのように頬を膨らませているのを見てしまったから、ずっとこのままは出来ないけど。

 

千秋が意図的ではないと思うけど、間髪入れず絶妙な間で会話を繰り広げるから俺も言いたいように言えない。それに不快感を感じるとかではないが後ろの千冬の視線に何とも言えない何かを感じる。

 

コンビニに寄るからそこで全員に話しかけよう。うん。

 

◆◆

 

 

家まで帰る帰り道。とあるコンビニに立ち寄ったうち達は欲しい物を決める為に商品がある戸棚を眺めていた。千秋と千冬はお兄さんと一緒にアイス売り場であーだこーだ話している。うちと千夏はお菓子売り場。

 

「全く、秋は話しすぎよ。ずっと、銀行の整理券かってくらいずっと話が次から次に」

「まぁ、それだけ話したいことがあるって事だと思うよ」

「そうね。でも、まだまだ子供ね、私くらいに大人びてないと。やっぱりこの中で誰か長女かって言ったら私ね」

「そだね……」

 

宿の中と今。明らかにテンションが違う千夏。あれだけ早く帰りたいと暗い顔で言っていたのに、今はきゃぴきゃぴしてる、可愛い。

 

「あー! こ、これ、魔装少女シークレットファイブの武器食玩……、こ、こんなところで巡り合えるなんて……よ、四百七十八円……結構するわね……」

「欲しいの?」

「う、うん……じゃなくて、別に欲しくないわ。た、ただ、秋とか冬がこういうので遊びたいんじゃないかって思うだけ」

「そっか」

 

千夏は結構、そう言うの好きだもんね。でも、恥ずかしいから言えないんだね。

 

でもね……皆気付いてるよ。一人でコッソリ……魔装少女のモノマネとかしたり、太陽に変わってお仕置きよとか言ったり、アニメエンディングのダンス踊ったりしてるの。

 

「で、でもあれよね……皆で遊べば四で割って一人、百円ちょっとだし……うん……魁人さんにお願いしてこよ……」

 

 

食玩を持ってお兄さんの方に千夏は走って行った。

 

 

アイス売り場で三人が話している。うちはふと千秋に目線を合わせる。思い出されるのは先ほどの車内での言動。

 

 

……さっきの千秋の話し方。

 

 

もしかして……わざとお兄さんがうち達に話さないようにしてた?

 

 

そんな考えが僅かに浮かんだけど、直ぐに取っ払った。多分、考え過ぎだろうし。

 

それより、うちも何か選ばないと。お兄さんが帰りに眠くならないように

 

カフェイン入りのチョコレートにでもしよっかな……

 

 


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