百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで   作:流石ユユシタ

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66話 姉妹戦争

 とある十月の平日の放課後。徐々に冬の寒さが強くなってきている今日この頃。平穏な毎日が過ぎるのだと思っていた。

 

 

「あり得ない! 本当にあり得ない!」

「いいじゃん! 別に長女なんでしょ!」

「そう言う問題じゃないの!」

「ま、まぁまぁ夏姉も秋姉も落ち着いて……」

 

 

 千夏と千秋が喧嘩のような物をしてしまい、いがみ合ってしまう。それを千冬が宥めている。

 

 どうして、こんなことになってしまったのか。うちは思わず先ほどの出来事を思い出す。そろそろ寒くなってきたのでリビングに出したコタツに入って宿題を終えた後、冷蔵庫を開けた千夏が悲鳴を上げた。

 

 この間の林間学校でコッソリと買っておいた『地域限定饅頭』が無くなっていたからだ。お兄さんはそんな事しない、千冬はそもそもあまり食べない、うちは勝手に食べるようなことないと千夏は推理した。

 

 と言うわけで千秋が勝手に食べたと決めつけて、問い詰めたら案の定千秋で喧嘩になってしまった。

 

「私はね、勝手に食べた事に怒ってるの。頂戴って言えばあげたわ」

「嘘つき! 千夏があげるわけないもん!」

「私はアンタの同じで食いしん坊じゃないもん!」

「嘘つき! この間、我のシュークリーム勝手に食べたじゃん!」

「あれは……アンタのだって知らなかったから……。食べちゃっただけだし……しかもちゃんと謝ったじゃない!」

「許してないし! だから、その饅頭でお相子ね!」

「それは違う! 私の地域限定なの! これだけでシュークリームとはわけが違うの!」

「あ、あの、二人共その辺に……もう、食べちゃったんスから……。もう、どうこう言っても……」

 

 

いつまでたっても平行線。あれやこれや互いに互いの不満経歴を暴露していく。千夏も千秋のシュークリーム食べたり、お菓子を自分のだけ他の場所に隠したりしているから千秋的にはそこも納得いっていないらしい。

 

まぁ、喧嘩と言うほどの大袈裟な物でもない。喧嘩する程仲が良いと言う言葉あるのように信頼できるから、言いたいことが言えるから喧嘩するだけである。

 

「もういい! 私は実家に帰らせてもらうわ! いいの!? こんな良いお姉ちゃんが実家に帰っても!?」

「ふん! お前こそ良いのか!? こんな可愛い妹とと離れても!」

「いいわよ!」

「え? じ、実家って何処の事言ってるんスか?」

「あっそ! じゃあね! あとで寂しいって言ってもかまってあげないから!」

「ふん!」

 

そう言ってドンドンと足音を立てて、怒っているぞアピールをしながら千夏は二階の自室に上がって行った。

 

「あ、実家って二階の自室の事言ってたんスね……」

 

 

ホッと安心したように声を上げる千冬。万が一にも千夏が家を出て行くと言いださなくて良かったと思っているようだ。優しくて可愛いなぁ、千冬。

 

 

「春姉、千冬が夏姉を説得しにいくっスから……春姉は秋姉の説得を……」

「分かったよ……千冬はいつもいつも……本当に良い子だね……。可愛いし」

「あ、どもス……春姉も可愛いと思うっスよ……前から思ってたスけど」

「いや、うちは言うてそこまでじゃないよ」

「し、姉妹だから顔大分そっくりなんスけど」

「ああー、確かに……でも、千冬はうちより可愛いよ」

「……そ、うスか……?」

「うん……」

「隣の芝生はなんとやらスかね……」

 

 

そう言って千冬は上に上がって行く。コタツの外は寒いから千夏には早く戻って来て欲しい。千冬が説得をしてくれるけど千夏が意地を張ってこなかったら二人とも冷えてしまう。だったら、うちも二階に説得に行かないと。だとするなら。

 

さて、うちは千秋の説得をしないと。千秋はムスッとしながらふて寝してる。可愛い。

 

「千秋……」

「なに?」

「千夏と仲直りできる?」

「無理」

「そんな事言わないで、お互いにつむじ見せ合いっこして仲直りしよ?」

「やだ、我悪くないもん……」

「でも、千夏の饅頭食べちゃったんでしょ?」

「だって……カイトが用意してくれたと思ったから……」

「そっか。でも、あれは千夏のだったわけだし謝らないとね。千秋も本当は悪いと思ってるでしょ?」

「……うん」

「よし、じゃあ、仲直りしよ?」

「うん……でも、千夏も前、我の勝手に食べたことあるから……千夏が先に謝ったら許す……」

「え、ええー?」

 

 

 姉妹と言うのは考えることが似てしまう時があるもので、きっと千夏も悪いなと思ってはいるけど千秋が先に謝ったらと考えてそうだ。

 

 食べ物の恨みは怖いと言うけど……まさにこの通りだなと思う。

 

 まぁ、恨んでるとかではないと思うけど。偶にこういう喧嘩は良くあるからちょっとうちは慣れている。いつも、気づいたら仲直りしてるし。こういうなんてことない事で喧嘩できるも気を許しているからだし。

 

 そこは良いなと思うけど、出来ればすぐに仲直りしてほしいなぁ……。取りあえず、千夏の説得にもいこう。

 

 

◆◆

 

 

 安定の定時で仕事を終わらせた俺。職場から出て、車を停めてある駐車場で仕事で疲れて凝り固まった肩を回していると一本の電話がかかってきた。自宅からの固定通話だ。

 

 千秋がアイス食べたいとか、お菓子お土産が欲しいとか、そう言う時によくこの時間を見はからかって電話をかけてくるからな。多分だけど、電話をかけてきている奥は千秋かなっと予想しながらスマホを耳にあてる。

 

「もしもし?」

「もしもし? 魁人さん、お疲れ様でス」

 

 まさかの千冬だった。優しそうで気遣う声が一日の疲れをいやしてくれている感じがする。

 

「あの、秋姉と夏姉が喧嘩しちゃって」

「食べ物でか?」

「はい……秋姉が間違って、夏姉の饅頭食べて、夏姉も前に秋姉のシュークリーム食べたとか言って」

「なるほど……まぁ、直ぐに仲直りはするだろうけど心配なんだな?」

「は、はい」

「分かった。帰りに甘いものでも買って行くよ。多分それで二人共ほのぼのするだろうし」

「ありがとうございまス……」

「じゃあ、いったん切るぞ? 直ぐに変えるから……」

「ああ! ちょ、ちょっとだけ、待って欲しいでス!」

「んん? どうした?」

「あ、いや、今日の……その、千冬の一日の出来事を聞いて欲しくて……」

「あ、ああー、うん……そうか……。えっと、家でも聞くぞ?」

「い、家だと……秋姉が魁人さん独占して、あまり話せないから……」

「あ、そ、そうか……なんか、ごめんな……」

「あ、いや! か、魁人さんを責めてるとかじゃないでスよ!?」

「そうか? なら良かった」

 

 

確かに千冬が言う通り、最近の千秋はやたら俺に懐いてくれている気がする。元々懐いてはくれていたけど、より一層甘えん坊になったような。元々から懐いてくれていたからあまり気にしなかったけど、思い返してみれば前とは少し違う気がする。

 

あの林間学校からか? 前より甘えん坊になったのは……

 

「……」

 

取り合えず、今千冬と話してるから。それは置いておこう。何だか、電話越しに何かを察したのか不機嫌になって頬を膨らませているのを感じる。

 

「それで学校でどんな感じだったんだ?」

「えっと、最近女の子と達の間で流行ってる、血液型診断をしました」

「それはどんなことが分かる診断なんだ?」

「相性とか……でス……」

「やっぱりそう言うのは興味持つよな。俺も今度やってみようかな」

「もう、しました……千冬と魁人さんは……その、あ、相性ばっちりでス……」

「そうか……、それは、素直に嬉しいな……」

「ち、千冬も嬉しいッス!」

 

何だか、色々と察せてしまうからどんな答えを言っていいのか分からない。千冬の可愛らしい元気な声が聞こえてきて、恥ずかしそうに微笑む姿が目に浮かぶ。

 

会話はずっと続かない、続けるわけには行かない。家に帰らないといけないし、三人も待って居る。千冬もずっと話せないのは分かっていたようで、簡潔に出来事を教えてくれた。

 

五分、いや、それよりももっと短い時間だったけど互いに充実した時間であったのは間違いがなかった。

 

◆◆

 

 

 千夏と千秋がずっとぷんぷん丸状態が続いていた。互いに同じコタツに入ってはいるけど顔を合わせずそっぽを向いている。

 千冬は苦笑いで二人の会話は橋渡しをしている。こういう三人も可愛いけど、やっぱりがやがや騒がしい方が好きだな。

 

 千夏も千秋も、もう怒ってはいない。でも、どこで引けばいいのか、いつもの事だけど引き際が分からなくなってしまっているのだ。

 

「ねぇ」

「なに?」

「そろそろ謝りなさいよ」

「千夏が先」

「……」

「……」

 

互いに睨んでいるけど、あんまり怖くない。もう互いに怒っていないから。

 

「このまま行ったら戦争だぞ。これは……良いのか? 我と戦争しても」

「上等よ」

「頂上戦争だぞ?」

「いいわよ」

 

 

ムムムっとしている二人。うちが色々仲直りするように言ったけど効果は無かった。互いに怒ってもいないのに仲直りさせられないなんて……。

 

と色々悔やんでいると玄関が開く音が聞こえる。お兄さんが帰ってきたのだ。ここはお兄さんに色々頼んでみようかな……。そんな事を考えているとお兄さんはスタイリッシュにリビングに入る。

 

「この戦争を終わらせに来た……」

 

そして、渋い声でドンっと雰囲気を強くしながら急にそんなことを言った。

 

「アハハ。カイト面白い!」

「「「……」」」

 

千秋だけはニコニコして笑う。うちと千夏と千冬は笑う事は無かった。

 

「やべ、また滑ったな……取りあえずお土産買って来たぞ」

「「ええ!?」」

 

お兄さんは片手にケーキが入っていると思われる箱を持っていた。千夏と千秋は目をキラキラささせる。ケーキとはそう言った特別な物だ。滅多に食べられない物で思ってもみないところで食べられるとその嬉しさも何倍にもなる。

 

「カイト! 開けて良い!?」

「いいぞ、ただし、何を食べるかは仲良く決めるんだ。喧嘩した瞬間にこのケーキは全部俺が食べるからな」

「分かった!」

「ねぇ、早く開けましょ!」

 

クツクツと笑いながら二人はケーキの箱を開ける。きっかけがあれば直ぐに仲直りできるとは分かっていたけど、こうもあっさり仲が良くなるとこちらも拍子抜けのような気がする。

 

「魁人さん、ありがとうございまス」

「気にするな」

 

千冬とお兄さんがコソコソ声で親指と立ててグッとマークの手をしている。何か、イチャイチャしてるように見えて複雑。でも、千冬が嬉しそうだからもっと複雑。

 

こんな風にイチャイチャしてさ。いや、別にイチャイチャって程じゃないけど。千冬にとってはお兄さんと二人きりの時間って特別なんだね。

 

「ねぇねぇ、カイト!」

「どうした?」

「今日は一緒に料理しよ! 我手伝う!」

「ありがとな……」

「我、偉い?」

「そうだな。俺は助かるし、嬉しいから……偉いって言い方が正しいのか分からないが、偉いと思う」

「えへへ、じゃあ、頭撫でて」

「あ、うん……いいぞ」

 

 

千冬とお兄さんが話しているとケーキを選び終わった千秋が二人の間に割って入る。何となく、いや、確信がある。千秋が前よりお兄さんとの関わりを多く、持とうとしている。

 

何か、林間学校で思ったのかな……? 分からないけど……

 

 

――その時は分からなくてもしょうがないと思った。だって、皆変わって行って、以前の四人一緒が変わりつつあるから。分からなくてもしょうがないと、以前のように何もかも合わせる毎日でないから。

 

変わって行くから分からなくてもしょうがないと。

 

 

でも、うちは知らなかった。千秋の本当の想いを。過去にどう思っていたのか。その無垢な笑顔の裏には何があったのか。

 

 

それを近いうちに知ることになった。

 

 

―――――

 

 

 

 







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