百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで   作:流石ユユシタ

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70話 マフラー

 十一月。某日。寒さが本格的になっている。朝、千秋と千夏が徐々に起きが悪くなってきている。

 

 今日は休日だからそんなに朝早く起きなくてもいいかもしれない。でも、お姉ちゃんとしては健康的な生活を送って欲しいから起こす。起こさないといけない。

 

 

「すぴー、すぴー」

「むにゃむにゃ」

 

 

 くっ、可愛い。こんな天使を起こすなんて大罪を犯したに等しい。だが、ここで姉としての責務をしっかりとこなさないと……。

 

 うちは寝ている二人を眠気を追い出すように二人を揺すった。

 

「起きて、二人共。もう、10時だよ」

「ううぅ……外は寒い……今はダメだ」

「私も、ダメよ……」

 

 

 本音を言うと一生眺めていても何の文句もないけど、やはり日々の生活感は崩してはいけないのだ。掛布団、毛布二枚、色々追いはぎをするようにひっぺがす。

 

「さむぃ」

「おにー」

「ごめんね。でも、流石に起きないとさ、夜眠れなくなるし」

 

 

 二人は寒さに震えながら下の階に降りて行った。うちは二人が使っていた布団などを三つ折りにして片付ける。その後にうちも再び下のリビングに戻る。部屋を出て廊下に足を踏み出す。

 

 靴下をはいているけど本当に床が冷たい。早くコタツ入りたいな、等を考えながら冬が本格化したことを感じ取った。

 

 

◆◆

 

 

 ジィーっと三人の視線がお兄さんに注がれていた。お兄さんはそんな視線に気づきながらもあまり気にしないでとある作業を進めていた。手に真っ白な毛糸を絡めながら只管に編んでいく。

 

 お兄さんは集中力が高くて、自由自在に自身でコントロールが出来る。しかも編み物も出来ると言う、毎度毎度思うけど、高スペック。一体、どんな人生を歩んできたのだろうか。うち達は知らない。お兄さんは言わない。

 

 でも、それはうち達にも言えるのだ。

 

 未だにうち達は互いの過去を知らない……だよね。

 

 

「よし、出来た。手編みマフラー」

「おおー、カイトスゲー」

「魁人さんってやっぱり器用でスね」

 

 

出来上がった綺麗な白色の手編みのマフラー。商品として売っているのではないかと思ってしまう程に仕上がっていた。首を巻いたらきっと暖かい。

 

「編み物は結構、肩に来るな……」

 

 

お兄さんは手編みマフラーを作った事によって、披露した肩を手で揉む。

 

「あ、魁人さ」

「カイト! 我が揉み揉みするぞー」

 

 

事件。千秋、千冬に横入りする。千冬が目を細めつつ、やってしまったぁっと頭を抱える。千秋はこういう割り込み行為に特攻があるからね。しょうがないね。

 

千冬がちょっと可哀そうだけど……。ここで何も言えない。千冬に過度な援助をするともろに恋をその場に露天させてしまう。千冬は隠していて自分で成就させたいと思っているのであれば見守ることも大事なのだ。

 

「ありがとなー、千秋ー」

「どういたしましてー、カイトー」

 

間延びするように、時間がゆったりと進むようにほのぼのとした空気が部屋中に充満していく。お兄さん、羨ましい。千秋のマッサージが体験できるって、前世で一体どんな得を成したの!? お兄さん!? もしかして英雄!? 

 

って問い詰めたい。

 

さてさて、そんなほのぼの空気感も千秋のマッサージが終わると同時に終わりを告げる。すると、千秋はお兄さんの手にあるマフラーに視線を落とす。欲しいと目に書いている。

 

まぁ、お兄さんは誰かに、うち達の誰かにあげる為に作っていたと言うのは余裕に予測が出来る。

 

 

「カイト、それ! 誰にあげるの!」

「え? ああ、千秋たちの誰かに使って貰おうと思って作ったんだ。一応言っておくが全員分しっかりと作るからな」

「おおー! ありがとー!」

「取りあえず、これは……」

「我! だってそのマフラー白だし! 我の髪色銀白だし! 白色のマフラーと我は、ウサギと龍くらいベストマッチ!」

「そうか……じゃ、これは千秋で」

「わーい!」

 

 

やはり、と言うべきか。なんだかんだで一番にマフラーを貰ったのは千秋だった。おねだり上手の特権と言うべきものだろう。それにしてもウサギと龍って相性ばっちりなの? 千秋にしか分からないネタみたいなものなのかな?

 

千秋は早速、それを首に巻いて見せた。

 

「どう!?」

「似合ってる」

「そうかー、今度から外出る時はこれ使う!」

「是非、使ってくれ」

 

千夏と千冬が羨ましそうな眼をしている。

 

「三人はどんな色が良い?」

「わ、私、黄色が良いです!」

「千冬は、黒がいいでス……」

「千春は?」

「うちは……ピンク、ですかね」

「よし、ちょっと待ってろ……」

 

 

お兄さんは再び、黙々と指に毛糸を絡めて、手編みのマフラーを作って行った。そのスピードは凄まじい。職人さんと言えるほどではないだろうか。

 

魁人さんって本当に女子力高い……、何か、自信無くす……っと千夏がぼそりと呟いたり、千冬がチラチラ横顔見たり、千秋がお兄さんの手編み姿をジッと見てたり。

 

そんなこんなで全員分のマフラーが完成!!

 

「うわぁ、何か……暖かいわね……エモいって奴ね」

「千夏、我の次の次の次に似合ってるぞ」

「うん、ありがとう……って、私が姉妹で一番下っ端って言いたいの!?」

 

 

「魁人さん、ありがとうございまス。これ、大切に使いまスね」

「そう言ってくれるとありがたいな……よし、折角だし、どこかに出かけるか!」

「おおー! 我、賛成!」

「よし、じゃあ、車乗ってくれ」

 

 

何だか、お兄さんが行先を言わないで出かけるって言うの珍しいな……。不意にそう思った。お兄さんが申し訳なさそうな顔をしているのもなんだか、気になった……

 

 

車に乗ってお兄さんは車を走らせた。その顔は悲しみに打ち震えていた。どうしてこうなってしまったのかと何かを後悔するが如く、お兄さんは車を運転した。そして……

 

「カイト? ここ病院だぞ?」

「魁人さん、スーパーとか行くんじゃないんですか?」

 

千秋と千夏がそう聞いた。千冬も訳分らないと言った感じで首をかしげる。お兄さんはどうしてこうなったと頭を抱えた。

 

「カイト、どこか具合が悪いのか?」

「魁人さん?」

「魁人さん、大丈夫でスか?」

「お兄さん……?」

「すまない……言おう、言おうと思ってここまで来てしまった。一週間前に言うつもりだったんだ……。ごめんな……今日は……インフルエンザの予防接種の日なんだ……」

 

 

バきりっと足元が崩れるのをうち達四人、全員が感じた……。注射……。それだけは……。

 

うち達四人が共通して嫌いなモノ、幽霊的な奴、虫、注射……。そんな、お終いだ……っと言う言葉が全員の頭によぎった。

 

「すまん。でも、行くしかないんだ」

「やだ! カイトの嘘つき! 絶対行かない!」

「私も! 断固拒否!」

「二人共……帰りにお菓子とかアイスとか買うから……それに注射したらカエルさんのシールも……それはいらないよな。流石にな……」

「千冬は行くっス! 魁人さんが健康を心配してくれての事っスから!」

「千冬……」

「うちも行きます……」

 

流行り病から守ることが一番大事。その為には予防接種。姉妹が予防接種を嫌がるなら姉であるうちが真っ先にうち込む姿を見せないと!!

 

「千春……」

「……じゃあ、我も行く……」

「ええ、皆して……じゃあ、行かない訳に行かないじゃない……」

「すまんな」

 

 

足に囚人の重い玉でも付けられているのかと思ってしまう程に、病院に足が進まなかった……。

 

 

◆◆

 

 

「ぐすん……カイトに騙されたから我はビックマックを食べる」

「ぴえん……魁人さんに注射するってずっと秘密にされてから私はてりたまバーガーを食べる」

「あ、ごめんな。ほら、チキンナゲットとかポテトもじゃんじゃん食べてくれ」

 

 

予防接種を行った後にジャンクフード店によって頑張ったご褒美をうち達は貰っていた。千秋はビックマックセット、千夏てりたまセット、千冬、マックシェイク&ポテト。

 

うち達四人の注射されたところにはハートマークのシールが貼ってあり、ジンジンと痛みが未だにある。お兄さんもうち達の事を考えての行動だったから誰も怒ったり咎めたりはしない。

 

だが、頑張ったしちょっと我儘を言っても良いかなくらいは思ってるだけだ。それにマフラーも貰ったしね……。多分、このマフラーはうち達のご機嫌をなるべく損ねないように作ってくれたんだろう。お兄さんはちょくちょくこういう計算高い感じも出してくる。

 

うち達は、ポテト食べたり、紅茶を飲んだりして怖かった注射の時間を忘れた。

 

 

◆◆

 

 

 それは、唐突だった。

 

 別に意識なんてしてなかった。

 

 でも、気付いたら貴方を追っていて。

 

 隣に居たくなって。

 

 好きと言って欲しくて、貴方を知ろうとする。でも、貴方は中々、私に教えてくれない。

 

 貴方との距離を縮めたいのに、縮められない。もっと触れたくて、手を繋ぎたいのにそれは敵わない。じれったくて、甘酸っぱい毎日も好きだけど。情熱的で燃えるような貴方に抱きしめて欲しい。

 

 

 等と言うポエムチックな事を描いてしまったぁぁぁあああ!!

 

あーーーーー! 、恥ずかしい! なんだろう、これ!?

 

 魁人さんが秋姉ばかりに気を取られるから、ちょっとムカムカして、思わずこんなことを日記帳に書いてしまった……。どどど、どうしよう……。取りあえず、これは消して……。

 

 いや、でも、この恋心を否定する感じがする。じゃあ、どこかに隠さないと。こんなの夏姉と秋姉に見られたら……

 

『あらあらあら、冬ったらこんなポエミーな事書いちゃって……お可愛いこと』

『これはこれは……我も気持ちがキュンキュンしちゃうなー』

 

 

 おもちゃ! 圧倒的おもちゃ……これは、隠そう……。

 

「ねぇ、冬。そろそろ夕食の時間……なにやってんの?」

 

 咄嗟にお腹の中に日記帳を隠した。

 

「いや、別に? 何でも無いっすよ」

「ふーん、取りあえず、おやつタイムよ」

「そ、そうっスね」

 

 

 隠したまま下に降りていく。これ、どうしよう。

 

「ねぇ、お腹痛いの?」

「え?」

「お腹抑えてるから、ダイジョブ?」

「あー、ダイジョブっス」

「そう……整腸剤あると思うから何あったら言うのよ。無理して、夕食も食べないでいいからね。もし、あれだったら私がおかず貰うし」

「最後の一言で前半の気遣いがぶっ飛んだっすね」

「冗談よ。後半はね」

 

 

心配してくれる夏姉。嬉しいけど……、今はそれどころじゃない。リビングのコタツに速やかに入る。お腹の中には日記帳がまだある。

 

「千冬? どうした? お腹痛いのか?」

「秋姉、大丈夫っスよ」

「そうか。何かあったら整腸剤あるからな。あと、もし食べないなら、おかずは我に頂戴」

「うん、食べるっスから心配しないで欲しいッス」

 

 

夏姉と秋姉は本当に魁人さんの作った夕食のおかずが好きなんだなー。千冬も好きだけど。

 

隙を見てお腹の日記をコタツの中に隠す。皆でご飯を食べ、テレビを見て、団欒をして……皆で笑いあったりするが……全然会話が頭に入って来ない。最早、日記の事ばかり考えている。

 

「あ、お風呂わいたわね」

「千夏たちが先に入ってくれ」

「おおー! お先にだ!」

「お兄さん、お先に頂きます」

 

お風呂に行って服を脱いだら絶対に日記がバレる。コタツの中に放置するのが得策だと思ったので、千冬は日記を置いて魁人さんに一言言ってから脱衣所に向かう。

 

「いやー冷えて来たわね」

「そうだなー、我的にそろそろカイトの車の窓が凍り始めると予想」

「そうねー、きっと魁人さんシート的な物を車に置くわね」

 

服を脱ぎながら二人の話に耳を傾けるが全然頭に入って来ない。春姉が時折千冬を見るけど、それを気にする余裕もない。

 

お風呂で体と髪を洗って、湯船に浸かっているときも落ち着かない。あれをリビングに居る魁人さんが見てしまったら……、恥ずかしさで一生、目が合わせられない。ただでさえ、今も合わせるの恥ずかしいのに……

 

「千冬、上がるっス!」

「え? 嘘、長風呂の冬がどうして」

「千冬、さては残り一つのパリパリアイスバーを狙っているな!」

「ちょっと、それはダメよ。あれは私のだから」

「いや、我の、我がお風呂上りに食べようと思って取ってあったやつ」

 

二人が言い争っているので無視して、お風呂を上がる。本当はゆっくり肩まで二十分くらい浸かりたかったけど……仕方ない。

 

急いで、上がり、リビングに向かってドアを開ける。そこには……日記帳を持った魁人さんが居た。

 

「あ、かか、魁人さん!」

「今日は上がるの早いな、千冬。どうした? 調子でも悪いのか?」

「そ、それより、その日記帳!」

「あ、これ千冬のなのか? コタツの中にあったんだが……」

「それ、見て……」

「見てないよ。流石にな」

 

 

か、魁人さんが紳士で助かった。危ない危ない。千冬は魁人さんからその日記帳を受け取る為に手を伸ばす。魁人さんも手を伸ばして、千冬の手に日記帳が渡った。だが、急いで動機が安定していない事もあって日記を落としてしまう。

 

そして、ポエミーな事を描いたページが開かれた。床に置いて開かれたページを魁人さんもそれをガッツリと見てしまう。

 

「……」

「ああ、ああああ! 、こここ、これは、その、」

「ごめん、つい見てしまった」

「ううぅ、これは……」

 

 

凄くハズカシイ。絶対に痛い女の子と思われたと悲しくなった。

 

「いや、その、なんだ……感想、を言っていいのか、分からないが……俺は好きだぞ? こういう感じのやつ」

「す、好き?」

「好きだ。何というか、こう、嘗ての青春を思い出すと言うか、こういう無垢な気持ちをそのまま描けるのは凄いなって。色々な気持ちがあるが、まぁ、好きだぞ。俺は」

「……そ、そうでスか……」

 

何だか、別のベクトル方向で恥ずかしくなって来た。す、好きだなんて……。まぁ、千冬のポエムだけど……。

 

「ごめんな、恥ずかしかったのに見て」

「い、いえ、好きって言ってくれて嬉しかったでスから! 寧ろ、ありがとうございまス!」

「……そうか。なら良かった」

「……また、見てくれませんか? 魁人さんにその、感想を聞きたいでス」

「おおー、是非見せてくれ。俺もなんだか懐かしい感じがして楽しいから」

「じゃあ、またお願いしまスね?」

「分かった」

 

 

凄い、慌ただしかったけどなんかプラスな方向に行って良かった。魁人さん、また見てくれるって言ってくれたし、会話する話題が一つ増えるってなんだかうれしい。でも、この間もこういう約束して秋姉とかに構いっぱなしだったから、ちょっと心配かも……。

 

 

「絶対、約束でスよ?」

「ああ、薬草だ」

「……」

「あ、詰まらなかったよな……。うん、約束だ、約束するぞ」

「お願いしまス」

 

 

魁人さんって苗字とギャグのセンス以外は完璧なんだけど。でも、そういう所も可愛いから、好きかも……。あんまり全部ちゃんとするより、ちょっと抜けてる所がある方が可愛いし。

 

千冬的に寧ろ好きって感じ……。

 

「我のアイス!」

「私の!」

 

 

二人でもう少し話したかったけど、アイスを狙って夏姉と秋姉。そして、アイスは狙っていないけど一緒に上がってきた春姉がリビングに戻ってきた。今日はここまでかなー。

 

「カイト! あのアイス我だよね!?」

「私のですよね!?」

「うーん、ジャンケンだな」

 

やっぱり、秋姉とか夏姉が来たらこうなるよね。千冬だけにはどうしても向いてくれない。千冬だけを見てくれない。

 

ちょっと悲しい。

 

でも、お風呂一人だけ早めに上がれば魁人さんと話せるから……また、一人だけ早く上がろうかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 




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