百合ゲー世界なのに男の俺がヒロイン姉妹を幸せにしてしまうまで   作:流石ユユシタ

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73話 恒例行事

 クリスマスと言うのは子供にとって最高のイベントである。その事実はどうにもこうにも揺るがない。

 

「ねぇねぇ、カイトー、見て見て! 可愛い?」

「可愛いぞ」

「魁人さん……どう、でスか?」

「可愛いぞ、似合ってる」

 

 

 千秋と千冬、そして千春が選んだクリスマスプレゼントはやはり服であった。女の子っていくらでも服が欲しいんだなー。くるくる回って自身の可愛さをアピールする千秋とちょっと恥ずかしそうにポージングをして俺に見せてくれる千冬。それを見て俺のスマホで二人を連写する千春。

 

 そして、ソファに寝転がって新しいゲームを意気揚々とプレイする千夏。ゲームを買ったのは千夏、一人だけだ。今は服を着て喜びに待っている千秋が貸して貸してと千夏に寄って行くのが頭に浮かぶ。

 

 最初は貸すのを渋る千夏だが何だかんだで千秋に貸すしか選択肢がないと言う所まで簡単に予測が出来る。千秋奈女王様みたいなものだから逆らう事が出来ないのだ。

 

 

「魁人さん、その、これ……」

 

 

 日常を感じていると千冬が一つの赤い紙袋を渡してくれた。これは、一体なんだろうか。去年みたいなクリスマスカードではない感じでないのは確かだ。

 

 

「これは……」

「く、クリスマス、プレゼント返しでス……」

「え? マジ? ありがとうな!」

 

 

 一体いつの間に!? 中を確認すると白い箱に外側が黒色、内側が金色のような配色のタンブラーグラスが入っていた。

 

「あ、ありがとう。普通に嬉しい……けど、お金……お年玉とか、偶にあげるお小遣いとかで……」

「……ッ!!」

 

二回頷く千冬。

 

「だけど、これ、いつの間に……。この間、買い物行ったときか!?」

「ッ……」

 

 

そう言えば千冬が一瞬、ほんの一瞬だけ見失って焦った時があったけど。これを買っていたのか……。やべぇ、今日から偶に飲む酒が益々美味しくなってしまう。

 

 

「ありがとう……いや、本当に嬉しい……」

「ど、どういたしまして……でも、元々魁人さんから貰ったお金でスし……」

「そんなのは関係ない。こう、何というか、プレゼントしてくれるって言うのが嬉しいだよ。今日から使わせてもらうからな」

「どうぞでス……」

 

 

千冬、自分のお小遣いなのにそれを削って俺にプレゼントをしてくれるとは……。

 

「やった……」

 

小声の嬉しそうな声が聞こえてくるけど、こっちが嬉しいよ。百倍位。

 

「むー、カイト! 我もクリスマスカード描いたぞ! ほらほら!」

「ありがとなー。今年もラミネート加工するからなー」

「うん!」

 

 

千秋だけでなく、千春と千夏もクリスマスカードくれたから安定のラミネート加工しておかないとな。

 

実際のクリスマスの日程より前倒しでプレゼントをして、同時にしてもらったがこれもこれで悪くない。パーティーはちゃんとその日にやるしな。サプライズを四人は企画してくれているから、驚くふりも練習しておかないと……。

 

 

クリスマスまで、俺は自身の演技を鍛えることに決めた。

 

 

◆◆

 

 

「あー、忙し忙し……」

「あ、えっと、うちは……」

「千春は……そうだなー。うん、カニカマ袋から出して、適当に割いておいて」

「あ、うん……お姉ちゃんの威厳が……立場が……」

 

 

私の姉である春が顔を暗くしながら、サラダの上に彩りとして使うカニカマを袋から出している。まぁ、気持ちはわかるわね。秋があまりに料理がずば抜けて出来るから、自信を無くすって言うのは。

 

私や冬も魁人さんに料理を教わって、ある程度は出来るようになっているけれども、やはり秋は別格と言うか。手際が一番いい。指示も的確だし。

 

「千夏、生クリーム泡立てておいて」

「あ、うん」

 

 

千秋は指示をしつつ、から揚げとあげている。なんと、昨日の夜に一人で仕込みをやっていたのだと言う。驚きだ。冬も秋程じゃないけど、キャベツを千切りにしたり、ミートソースに使う野菜を切ったりしてる。私と春の遥か上を行く料理センス。

 

何だろう。この長女二人を置いて行く三女と四女は。忙しい、忙しいと言う口癖をしながら千秋は作業を進めていく。

 

「冬、何か手伝う事ある?」

「だ、大丈夫ッス、ううぅ、玉ねぎが、眼に……」

 

 

大丈夫だろか。玉ねぎを切っている冬があふれ出る涙を抑えている。健気で頑張る姿を見ると何だか、こちらも頑張らないといけないと言う印象を受ける。冬は学校でも頑張り屋さんだから、男子にかなりの人気がある。

 

 

まぁ、それを言ったら秋と春もだけど。こうやって不器用ながらも頑張るから人気なんだなと思ったり。

 

 

私も頑張りますか。一応、長女を目指す者として……でも、まぁ、その前に

 

 

「春、大丈夫?」

「うち、クリスマスパーティーの準備で、カニカマ割いてる……。お姉ちゃんで、長女なのに……」

「まぁ、しょうがないわよ。アンタ、この時点で卵三個、割っちゃて落としてるんだから……」

「ぐすん……」

「もう、私も一緒にやってあげるから。元気出しなさいよ」

「うん。ありが豆板醤」

「うわ、詰まんないわね。最近、ちょくちょくそう言うのやってるけど、あんまりやらない方が良いわよ。正直、魁人さんより、面白くないし」

「え? 嘘」

「なんで、嘘つく必要があるのよ」

「ガーン……」

 

 

正直につまらない。っと言ってしまって再度落ち込んでしまったが言わない方がよかったかしら? いや、でも本当に詰まらなかったから仕方ない。なんで、ギャグを最近になって言い始めているのかは分からないが明らかに魁人さんの影響があるんだろう。

 

 

ギャグセンスも影響受けちゃて、ちょっと可哀そうだけど。変化してるって事に喜びを持っておこう。それくらいしか、今の私には出来ないのだから。

 

 

◆◆

 

 

「カイト! 今日はクリスマスだ! だから、我らがご飯を作ったんだ!」

「えー! まじか! ありがとう!」

「えへへ、頑張ったんだぞ!」

「千冬もありがとうな」

「はい……が、頑張ったのでたくさん食べてもらえると嬉しいでス……」

 

 

クリスマスの日は仕事だったのだが家に戻ると四人がクリスマス料理を作ってくれていたので迫真の演技で喜ぼうと思った。だが、普通に嬉しかったのであんまり演技の必要はない。するとすれば、サプライズを知らないと言う所だけだ。

 

 

「カイト! このから揚げ、我が作ったんだぞ!」

「おおー、美味しそうだな」

「魁人さん、このボロネーゼは千冬が」

「くっ、食べなくても分かる、美味い奴だな。匂いで分かってしまう、見た目も良い」

「お兄さん、このカニカマうちが割いたんです」

「おおー、サラダと良い感じにマッチしてるな」

「魁人さん、このカニカマは私が割きました」

「均等に割いてあって見た目が良いな」

 

 

 

よし、ちゃんと全員を褒めることが出来た。やはり、褒めて伸ばす方が絶対に良いからな。

 

「カイト。早く、手洗いうがいして一緒に食べよう!」

「そうだな」

「魁人さん、上着かけておきます」

「ありがとうな」

 

 

気遣いが凄まじい。接待、接待ゴルフって受けたことがないけど、こういう気持ちなのかもしれない。嬉しいんだよ。

 

 

手洗いとか、軽い着替えとかを終えて、腰を下ろしてコタツに入る。テーブルの上にはから揚げ、ボロネーゼ、サラダ、卵焼き、タンブラーグラスにはお酒が既に注いであった。

 

 

「四人の気持ちが嬉しいよ。ありがとう」

「「「「どういたしまして」」」」

 

 

クリスマス料理は非常においしゅうございました。おいしゅうすぎてお代わりをたくさんしてしまう位。

 

去年のクリスマスから一年が経ったと思うと、時間が過ぎるのは早いなってしみじみ思う。この後は、一年の終わりが来るから、また、狭山不動尊に初詣に行くのだろう。

 

時間がどんどん過ぎていくと、その分、別れが来るのが早くなるんじゃないかと思うと非常に寂しくなってしまう。

 

四人はそのうち人生のパートナーとか見つけるのだろうけど、こんなに可愛い四人を引き取りたいとか言った奴を、やはり、俺はそのパートナーを

 

――()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

◆◆

 

 

 

 いや、本当に時間が過ぎるのが早い。もう、初詣の日になってしまった。この間、クリスマスパーティーをして、年末番組を見て、鴨肉のそばを食べて……。過ごしていたらもう、新年、だと……?

 

 

「カイト! スマホ貸して!」

「あ、うん」

 

 

 狭山不動尊で新年のお参りをするために大人数の行列に並んでいると、待つのに飽きた千秋がスマホを所望した。カタカタ、文字を打って動画を千冬と千春と千夏と一緒に見ている。

 

 そう言えば、俺はスマホの使い方なんて四人に教えたことが無かったな。偶に四人から、貸してと言われたら貸すときもあるけどその時だって貸すだけで操作方法は教えない。でも、今四人を見ると操作が手慣れているように見えた。

 

 やはり、子供とは興味あるモノとか直ぐに覚えるのか。これを勉学と上手く絡められると良いんだが、または学習意欲が高くなる心理的方法は無いだろうか。

 

 

「猫が可愛い!」

「そうね。猫は良いわよね!」

「そうだね」

「猫ってなんでこんなに可愛いんスかね?」

 

千秋、千夏、千春、千冬が動画を見ながら猫が可愛いと言う声を上げる。確かに癒しではなるけどな。

 

「おおー、すげぇ、課金してるー」

「本当にどんだけするのよ」

「ヤバいね」

「ヤバいっすね」

 

今度はゲーム実況チャンネルを見ているようだ。四人の興味津々の姿を見ているとスマホを買ってあげた方が良いのだろうかと悩んでしまうが、どうするべきだろうか。俺としては、やはり、中学生になったらかな。

 

でも、電話とかできるのって便利だしな。買うのも真剣に検討をする時期が来ているのかもしれない。でも、そればかりに気を取られて勉学に支障が出て欲しくないし……。

 

「魁人さん、前に進まないと……」

「ッ、そうだな、すまん。千冬」

 

 

考え込んでしまっていたらいつの間にか列が前に進んでいた。千冬がさり気なく手を取って引っ張ってくれたおかげで周りの人に迷惑をかけずにすんだ。

 

 

「……」

「……」

 

 

さり気なく掴んだ手。特に何事もなく繋ぐと言うのが継続されていた。千冬の手はやはり、小さいな。それに寒さもあるのか少し冷たい。

 

離してほしいとは言えないし、別に迷惑とかでもないから何も言わないけど。千冬の気持ちが少し、分かっているからどうしていいのか分からない。現状維持で精一杯だ。

 

「あら、冬。手なんか魁人さんと繋いじゃって、可愛いじゃない」

「ッ……べ、別に、その、寒かったら……文句あるんスか?」

「い、いや、無いわよ……。そんな喧嘩腰じゃないくていいじゃない……」

 

顔が真っ赤になっているのは寒いからなのか。千冬の頬を深紅に綺麗に染まっていた。

 

「むっ、我も繋ぐ」

 

左手に千冬の手、対抗するように右手を千秋が握った。

 

「なんて、ウラヤマしい……ずるい」

「……私が繋いであげるから魁人さんを睨むんじゃないわよ」

「うん、それなら、まぁ……いいかも」

 

嫉妬の視線でこちらを見ていた千春の手を千夏が握って、ほのぼのした空間に切り替わる。

 

千秋の手も千冬の手も小さいし、冷たいな。手が冷たい人は心が暖かいって言うのは本当だろうな。だって、二人共、優しくてかわいい、気遣いも出来るしな。

 

手を繋いだり、繋がったり、動画一緒に見たりして時間を潰していると本堂に辿り着く。人が沢山いるから、なるべく早くにお祈りを済ませないといけない。

 

「これ、お賽銭だからな」

 

全員に小銭を配って、俺自身も賽銭をして祈りをする。そこまで神様とか信じないんだけど、一応、それなりの願いをしておくかな。

 

――四人の健康と幸運と、勉学と金運と、もう全部何とかしてください。

 

 

よし、これでいい。

 

「カイト、おみくじもしたい!」

「分かった」

 

 

お祈りをした後に近くに置いてあるおみくじをお金を入れて全員で引いた。おみくじとか占いとか信じないけど一種の行事として楽しむのが大事だ。

 

「おおー! カイト! 我、大吉!」

「凄いな。見て良いか?」

「うん!」

 

千秋が俺にくじ引きを渡してくれたので内容を見て見た。

 

 

恋愛……熟練度が一定に達しました。スキル恋愛特攻を獲得。

勉学……熟練度が一定に……一定に、達してません。

待ち人……もう、掴んでいる

相場……関係ない

旅行……いくべし

失せ物……見つけられる

 

「おおー、なんか良い感じだな」

「そうだろー! やはり、日頃の行いだな!」

「千冬はどうだ?」

「大吉でス……」

 

 

千冬がおみくじを開いて俺に見せてくれた。

 

恋愛……カチューシャ取って、前髪下ろしたら最強

勉学……言うことない

待ち人……分かってるよね?

相場……才能アリ

旅行……行け

失せ物……ダイジョブ

 

 

最近のおみくじとはこういうのだろうか? 去年と少し仕様が変わっている気がするのだが……。うん、まぁ、大吉だからね。良いよね

 

「良かったな。千夏はどうだ?」

「大吉です」

 

千夏も俺に見せてくれた。

 

恋愛……なんだかんだで強い

勉学……した方がいい

待ち人……灯台下暗し

相場……才能ナシ

旅行……いけ

失せ物……見つけてくれる

 

 

「いいじゃないか。千春はどうだ?」

「大吉でしたよ」

 

 

恋愛……雪解けしてるけど、咲くのはまだ

勉学……問題なし

待ち人……年上

相場……いらない

旅行……連れてってもらえ

失せ物……見つかるよ

 

 

「おおー。なんか良い感じだな」

「はい」

 

何が良いのか。言っていて良く分からないが全員大吉だからきっと良いんだろうな。そう思っておくことにしよう。

 

俺もくじを見てみるか。自身が引いたくじを広げて文字を読んでみる。

 

「どうでスか? 魁人さん」

「どうだ? カイト?」

「魁人さん、見せてください」

「お兄さん、どうですか?」

「……」

 

 

恋愛……自身の顔に拳を打ち込むかもしれない

勉学……未だに成長段階

待ち人……言う必要はない

相場……才能アリ

旅行……連れてけ

失せ物……いずれ、誰かが

 

大吉ではあるのだが、この良く分からないアドバイス的なのは何だろうか。嘘半分くらいで聞いておくのが正解だろうけど。

 

 

「魁人さんも、大吉。なんか、良かったでス」

「皆、おそろだー!」

「なんか、いいスタートきれたわね」

「そうだね」

 

 

まぁ、内容は良いのか、どうなのか分からないが全員大吉だから良しとするべきか。

 

 

「魁人さん、私、あっちのクレープが」

「我も我も!」

 

 

おみくじは引いて結果が分かったから興味は出店に向いてしまったらしい。千夏と千秋が指を指して目を輝かせている。

 

「よし、いくかー」

「「おおーー」」

「新年から食べるんスね……」

「新年からうちの妹は可愛いなー」

 

 

 

本堂を後にして、出店に俺達は歩いて行った。

 




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